雨天
朝から雨に見舞われたアルス王国。俺の部屋の窓から見える景色として色んな人が雨具を付けながら忙しなく働いているのが見えた。
伯爵の屋敷では雨の日、基本的な仕事が終わり次第基本的に魔法の練習を積極的に行うように使用人達に推奨している。なので屋根つきの広い体育館のような場所では魔法が飛び交うので注意が必要だ。
俺はそこで使用人達の中でも魔法が特に上手いスチムソンさんによって訓練されている。
『水よ!今こそ腸を食い破る剣となれ!ウォータースラッシャー!』
スチムソンさんの出した水の剣は常に水が溢れ出し敵を模した木やワラなど簡単に切り裂いてしまう。
これはどっちかというとウォーターカッターに近いんじゃないかな。
「と、こんな感じだ。魔法というのはイメージが必要になる。だがハインド君は素晴らしい魔法の才能を持っていると聞いている。教える必要はないだろうがちょっとやってみてくれないか?」
「はい」
とりあえず一昨日使った土壇場の雷神術はやらない方が絶対にいいよな。つか本当によく使えたもんだよ。
零型の『円雷』は人間が生死を彷徨うレベルの電撃だったしⅠ型の『雷神降臨』はシールド魔法を貫通して死人が普通に10人以上出てしまったらしいしⅡ型の『轟雷』に至っては会議室を半壊させてしまうほどの破壊力だった。
『轟雷』は何故か物理的破壊要素があるみたいだから伯爵が雷の破壊力について研究がある程度進むまで雷神術使用禁止令をくらった。
威力を小さく。プラズマみたいな感じのイメージで何かないか・・・ああ。アレでいいか。名前は初級雷魔法でいいや。そのまんまだけど。
「初級雷魔法『プラズマボール』」
両手から雷が出るのをイメージして体の真ん中にプラズマ球のようなものを生み出すとスチムソンさんはじっと見て何かを思いついたように手を叩いた。すると武器倉庫から普通の市場とかの武器屋で売っていそうなショートソードを出して地面に刺した。
「伯爵から雷魔法は金属を伝わりやすいと聞いたことがある。ちょっと飛ばしてみてくれ」
「はあ・・・」
刺さっている剣に向けてプラズマボールを飛ばしてみたが俺から離れた途端に消えてしまった。
雷魔法は常に魔力を供給しなければならないみたいだ。要するにカ◯ハメハみたいに球を維持するのは不可能。意外と使い勝手が悪いな。
だけど雷神術の『円雷』は波状だったけど問題なく使えるから範囲攻撃にも有利なんだろう。あと伯爵が出した『レールガン』を考えると金属を吹き飛ばすっていう利点が存在する。
「そうかそうか。そういう感じか。ありがとうハインド君。じゃあ次は・・・」
このあと4時間スチムソンさんによる魔法の出力の練習やイメージトレーニングを繰り返し行いイメージしなくても無意識に出来るようにまで上達した。まあ守護龍ならこのくらいできなきゃまず駄目だよな。
昼食を済ませて次のトレーニングは実戦形式。誰が相手になるのかと思えばスチムソンさんだという。
周囲に結界が張られ使用人の友人からは何故か激励され模擬戦が始まる。
まあ少し手加減するくらいが丁度いいかな。そんな感覚で10分間やってみた。
「凄いなハインド君。俺の訓練メニューを受けて未だに生きているとは」
「いやっ・・・本当に死にそうなんで勘弁を!」
前言撤回。舐めちゃいけないわこの人。雷魔法が暴走時でなくても無意識に使えるようにはなっているがスチムソンさんの風魔法をシールドを張ってなんとかやり過ごしたかと思えば蹴りが飛んできたり光魔法で目眩しされて闇魔法で思いっきり殴られたりメチャクチャ痛い。
俺は反撃したくてもリボルバー銃なんか使ったら反則だしスキル『貪欲な歩兵』のデメリットで近接戦闘は全く出来ない。
ぶっちゃけ殴られっぱなしで不老不死でなければ死んでる。通りで皆が怖がるわけだ。
「お前は確かに異質の魔法を使える。だが本気を出さなければ死ぬぞ?お前は近接戦闘をやらないのか?」
「生憎、スキルのせいで使えないんですよね!」
「そうか。なら遠距離戦は出来るのか?」
「な⁈何故それを⁈」
「いや何故って・・・普通考えればそうなる。だろ?皆」
皆が頷いているところを見ると本当みたいだ。つまり俺のような人間のスキル持ちもいるってことになるんだよな。
後衛だからなんか嫌味を言われそうだけど。
「遠距離が出来るなら弓を貸そうか?それともボウガンか?」
「いえいえ。コイツです」
素早くリボルバーを二丁取り出しガンプレイを披露する俺。見慣れない武器でもガンプレイを見せたら拍手が湧いた。
今回シングルアクションではやらない。ダブルアクションの早撃ちで勝負させて貰う。
いくらスチムソンさんが細身で素早くとも弾を先へ先へと撃ちまくって弾幕を張れば勝てなくはない。ただあの腰に刺さっている軽量直剣を抜かないのは多分まだ本気じゃないからだ。
「12発」
「何?」
「俺の武器は12発が限界だ」
「12・・・か。覚えておこう」
スピードローダーも準備してある。
生成する時にそのまま銃弾をリロードすればいいのだがそれだと何発リロードするか考えなければならない。この戦いでは不利すぎる。だから今回はやらない。
「先に来てくださいよ」
「そうか」
瞬きした時には蹴りが既に眼前にあった。防衛本能で蹴りを擦りながら回避してS&W弾を足に向けて撃ち込んだ。はずだった。
「はあ⁈」
「どうした?あと11発。頑張って俺に当てろ」
先に読まれて回避されているのか⁈
いや、そんなことは考えるな。とにかく撃ち込め。話はそれからだ。
一度距離をおいたのだからアドバンテージは俺にある。
「ここで決める!」
所構わず隙を見つけては弾を撃ち込んでいくものの当たる様子がない。あんな動きが人間に出来るのか⁈
いや・・・あれは違う。強化魔法だ。若干だけど魔法が常に滲み出ている。回避出来てるのは強化魔法のおかげだな。だけど魔力切れは待ってる余裕がない。
俺は素早くスピードローダーを使い二丁とも再装填すると再び早撃ちを始め接近する余裕を与えない。
4回ほど繰り返した頃だろうか。終わらないいたちごっこに俺は我慢切れしてスキルを発動する。
「ん?消えた?」
おそらく俺が一番使えるであろう任意発動スキル『抹消迷彩』は精神と気力の状態によってステルスになれるチート気味なスキル。これを発動した状況下でやるのは当たり前のアレだ。
「なっ⁈四方八方から飛んでくるだと⁈」
王国に来るまでに練習してきた跳弾技術だ。
木であっても跳弾出来るまでになり今となっては直感だけで可能になった。
そんなあまりに奇怪な動きをする弾に回避する暇もなくとうとうダメージを受け始める。
だがこのままとはいかなかった。スチムソンさんは軽量直剣を抜いて弾丸が腕を貫いているにも関わらず動きを止めた。
「ヤバイ!ハインド!逃げろ!」
「あれはマズイ!ハインド!」
「ハインド君!回避して!」
「ハインドさん!」
結界の外から友人達に退避勧告されステルスのまま跳弾を止めて距離を置いた。だが彼の攻撃はそんなことは通さなかったのだ。
『凍てつく水。たぎる炎。止まぬ風。精霊達は恐れおののき我が剣に忠誠を誓う。壁を超え、規則を破り、現界するは禁断の技。全てを破壊しろ。属性融合魔法アーク・ウィル!』
冗談にならなかった。戦闘用の結界がいとも容易く破壊され友人達は無事だったが、気づけば俺は左腕を思い切り斬られていた。
落ちた左腕は光となり再び俺の元へと戻るがもう戦いたくない。
あんなものを見せられた上でまた同じ戦法でやれといわれても勝てない。やるなら雷神術でも使わなければ殺される。
俺は死なないが今まで感じたことがない恐怖を植え付けられた。
「ははは・・・あれで立っていられるのか。俺も・・・弱くなったもんだ・・・な」
勝利はした。だがこの恐怖だけは消えない。それにこれで勝てたのは不老不死である点と守護龍としてウラルが桁外れの魔力を俺に備え付けていたからだ。試合に勝って勝負に負けた。この言葉だけがずっと俺の脳内に残った。
その後スチムソンさんは回復魔法を受けて俺は審判のルールを教えて貰い他の人達の審判をしていた。
いつの間にか恐怖は消えていた。これもスキルのおかげなんだろうか。でも忘れない。俺がこれから生きなければならない世界はこんなにも恐ろしいことを。
「おい!何辛気臭い顔をしている!雷魔法の使い手よ!」
怒鳴るような声で俺を呼んだのは伯爵だった。伯爵は訓練の終了を命令して軽い間食をしようと皆を誘って酒を飲んだり談笑したり楽しそうだが俺だけ暗い気持ちのままだ。
そこに酒樽をかついでグラスを二つ持ったスチムソンさんがいた。
「ハインド。暗い顔をするな。お前は俺に勝利した。それ以下でもそれ以上でもないんだ」
「俺は勝っちゃいませんよ。こんな身体だから勝てた。それだけです」
「ここは技術を研鑽する場だ。勝ち負けはそんなに重要じゃない。いいか?まずは落ち着け。自分以外は全て超えるべき壁だと考えろ。魔力が低くても使い方が上手い奴はいくらでもいる」
「でも・・・」
「よし。この話は無しだ。酒飲め!」
「ガボッ⁈」
酒樽ごと酒を飲まされ酔いが早くも回ってきた。なんだ。深く考える必要はなかったんだ。恐怖もまた酒を美味くさせるものだ。
数分後、飲み比べ大会が催され伯爵が吐いたのは使用人達しか知らない。
俺は酒樽のは5つで限界でした。
いつもPV・ユニーク、ありがとうございます!
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