ハインドの夢
「杉田・・・起きなさい。杉田君・・・」
俺の本当の名前を呼ぶ声が聞こえる。澄んだ男の声だ。聞き覚えがある。俺よりイケメンで俺の夢に入り込んでくるあの阿保か。
目を開くと、そこは某バラエティー番組のようなセットの中。椅子が二つあって、俺は椅子には既に座っている。片方の椅子には、彼が、奴がいた。
するとなにやら陽気なbgmが流れ始める。
「やあ良い子の皆!なぜなにナ◯シコの時間だよ!」
「いやそこは徹◯の部屋じゃないのかよ。つかセットなんか完全に◯子の部屋じゃねぇか。統一しろよ」
「まあ落ち着きたまへ杉田君!今回は君の質問に答えられる範囲なら、何だって答えてあげよう!このウラルがね!」
「なんなんだ急に。何か悪いもんでも食ったか?」
「毒だ!パラメディックの奴・・・!」
「ツキヨタケ食うなし。つか共食いじゃねぇか」
「よし。まあ取り敢えず、君には幾つか知らせなければならないことがある。だからこの機会を設けさせてもらったんだ」
「知らせなければならない?俺に対して?」
「大したことではないんだけどネ」
そう言ってセットの裏からウラルがコーラとポテチを持ってきて、机の上に置いた。また今回も味がなくて食べた気すらしない夢の中の話になるんだろう。
と、思っていたのだが、いざ食べてみるとあら不思議。味があって食感もしっかり存在する。腹に入っていく感じもある。
「鑑定スキルver3.1.2。僕の場合に限るけど、夢の中でも食べれるようにさせてもらったよ」
「本当におまえって変なところで頑張るよな」
「元は君と同じような人間だからねぇ。変なところで頑張るのはお互い様さ」
ツマミを食べながらウラルの話をボチボチ聞いて色々と世間話もした。しかし、重要な情報はほぼ皆無に等しかった。なんせほとんどがウラルの愚痴ばっかりだからな。
それなりに重要な情報としては、早めに他の守護龍と合流して情報交換しなければならないことと鑑定スキルのアップデートにより、追加されたシステムがあることくらいだった。
その鑑定スキルの追加システムは、『連携発動スキル』『解析機関』の二つ。
連携発動スキルに関しては、元からウラルが密かに前verから搭載していたシステムで、俺が今まで開発してきた武器が直ぐに使える理由でもあった。俺のスキルである、『忘れ去られた智慧』『貪欲な歩兵』に固有能力『たった一人の機甲師団』が連携発動し、新スキルとして『果て無き先からの軍歌』が使えるようになっているのだ。
果て無き先からの軍歌の説明文は長かったので簡潔かつ意訳すると、俺がこれから生成するものは全て扱い方が直ぐに分かるというものだ。つまり銃を扱う時の頭痛もなくなるというわけ。とはいえ、魔術原基のおかげで頭痛もかなり軽減されているので、この部分に対しては何ら変化はない。
解析機関は、鑑定スキルならあるはずであろうどのようなものかを調べるためのシステム。今まで俺の鑑定スキルは、俺のステータスしかわからなかった。だがこれからは、科学的に解析可能な物体であれば、なんでも調べられる。
というかあって当たり前のものであるはずなのだが異世界に来て色々仕事をこなしてから手に入るという、タイミング遅れ過ぎて逆に使い所を教えて欲しいくらいだ。
それにしても解析機関というスキル名も、中々考えたもんだな。
解析機関といえば、かの有名な蒸気使いであるチャールズ・バベッジ氏が作成した階差数列を利用するデジタルとアナクロの間に位置すると言われている巨大な歯車式計算機だ。一部ではCPUの元祖とも言われている。
今こそ後世に開発されたプログラム内蔵方式、いわゆるノイマン型を利用している俺達現代人だが、バベッジの解析機関は当時の工業精度を考えると技術に対して幾分か高度だ。これもまた、ある意味では小さなオーバーテクノロジーの塊であるとも考えられるだろう。だが同時に部品の規格化という工業における大改革と技術の飛躍的向上を促した、二つの偉業を成し遂げた装置でもある。
ちなみに末の息子が一部だけ作ったらしいが、結果的に間違っていたらしい。とはいえ、バベッジが作成したオリジナルと違ってプログラマブルではなかったし、記憶領域もないので仕方なかったのかもしれないが。
どこかでかじった程度の知識ではあるが、ムーアの法則と呼ばれるコンピュータの進化を示す法則によると、進化曲線が明らかに現代のCPUよりもヤバくなっているらしい。
量子コンピュータである不可思議は恐らくバベッジが解析機関を完全に完成させた世界の技術なのかもしれない。
「さあ質問コーナーの時間だ!今回は現実時間に対して100分の1倍のロジックで時間を取ってあげよう!」
「かなり時間あるんだな。じゃあ、俺が一番気になってたことを聞くわ」
「どんとこいや!」
「俺の身体って、俺なん?」
「んー、半分正解。半分不正解かな。でも何でそれを?」
「いや、俺もラノベを見たりしてて何となく思ってたんだけどさ。似たような感じで顔付きと体格が全く違うのが疑問になっててな」
「うん。まあ君の読んでたラノベについては知らないけど、君の身体は確かに君のものじゃないことは確かだ」
「つまり誰かの身体を借りている、と?」
「それも説明するの厄介なんだよなぁ。仕方ないや。一から何とか簡潔にしてみるから、よく聞いておいてくれよ?」
と、長ったらしい説明を受けたのだが、自分で聞いておいて自分が訳分からなくなった。虚数世界への移行にラムダ粒子による波動精査やら意味不明な言葉を並べられたんだからな。WIKI先生見ても絶対に理解できねぇ。
なのでウラルにボールペンで紙に全て示してもらった。最初からこうしてもらえば良かったのではないかと考えつつ、数秒でPCのワードか何かでタイピングしてプリントれたのではないかというレベルのメモを見る。
まず俺が別人であり、ないという理由。
実は俺が転生するに当たり、現実世界と同じ身体をコピーして移行させようとすると、量子力学以上の神秘的な何かによる問題でエラーが発生し、一部が破損した状態での活動が余儀なくされる可能性があったらしい。
故にこの異世界、レーヴェリーアに存在し、現に俺として活動している身体はレーヴェリーアに存在していた人物の身体を元にしている。
更に身体の内部については骨格などの一部を除いて、全て俺の遺伝子データに置き換わっている。ではその大元の身体は一体誰なのか、という話になる。
大元の身体は、かつて古代文明で開発されたホムンクルス。名を「フィフス・レギエンス」。作成された理由に幾つか特別なものがあったらしいが、そこは割愛する。
フィフス・レギエンス、長いからフィフスにするとしよう。彼はただの兵器として扱われていた。不死隊と呼ばれる部隊の一人らしい。その不死隊の一人に入る理由として、驚異的なリジェネレーション能力が存在している。
このリジェネレーション能力は、仮に腕が吹き飛んだと仮定すると、一時的に魔術的な処置が施されその後に細胞の強制活性化により腕が元の形に再生するというもの。吹き飛んだ腕は魔力を失い消えていく。現に、これを俺は何度か見ている。つまり、今まで俺が不老不死の能力だと思っていたものは全てこのリジェネレーション能力のものであるわけだ。
病原性の感染対策については、リジェネレーション能力に予め搭載されており、そもそも感染することがないらしい。仮に体内に入ってしまった場合でもリジェネレーションにより、ナノ1秒で解体される。
ではそのフィフスの身体を遺伝子データを除き、そのまま使っているのかと言われると、そういうわけでもないらしい。
フィフスの死因は、その驚異的リジェネレーション能力による細胞疲弊。その疲弊により、寿命はたった24年ほどしかなかったらしい。姿は若々しくても、身体の内部は90代のそれに近かった。
そこでウラルは細胞再生の限界リミットを外し、細胞疲弊を完全に無くしてフィフスが死んだ24歳の若々しい姿で俺の魂をぶち込み、リジェネレーション能力として不老不死を成立させている。
では仮に俺が消し炭になり、そして肉の一片も、それこそ灰すら残さずに死んだ場合はどうなるか。これが一番気になっていたんだが、ここで本当の不老不死が発動するという。
不老不死の呪いを簡単に表現するならば、俺はレーヴェリーアに魂、身体共に常在し続けるというもの。仮に神話とかにある不死殺しの武器を使っても殺せない。
再生方法としては、外部的な干渉により身体時間を移行させることで、消える前の身体をその場で生成させるという。ウラル曰く、イメージで言うならFPS等のゲームでリスポーンする形に近いらしい。
と、ここまでウラルが答えてくれた情報を簡潔に纏めるとすると、俺は二つの意味で不老不死になっている。リジェネレーション能力による生物学的な不老不死。それと呪いによる不老不死。
つまり常に使ってるのは生物学的方法だな。
「ズラズラと書いたわけだけど、アンダースタン?」
「よく分かったよ。それと、そのフィフスについて聞きたいんだが」
「彼がどうしたんだい?」
「死体漁りした上に、改造して身体を使わせてもらってると思うと、なんか申し訳なくて」
「ああ!そのことなら安心していいよ!彼の了承と条件を得た上でやってるから!」
「ならいいんだが。で?その条件って?」
「交換」
「は?」
「君の身体、すなわち現在君の代役を務めているのは、フィフス。彼なんだよ。前世、つまり今の君の身体であるフィフス・レギエンスとしての記憶はないけど」
「・・・マジで?」
「イグザクトリー」
「待てよ?じゃあアイツはどうなったんだ?」
「アイツ?」
「ほら、あの、えー・・・名前が出てこねぇ!」
「あ、もしかしなくても君がこちらに来る決め手になった『彼女』のことかな?彼女は何の因果かは分からないけど、今フィフスの幼馴染になってるよ。いい感じみたいだネ」
「・・・」
俺は右手にレイジングブルを持ち、一発ずつ弾を装填していく。
「ねぇお願いだから無言でリボルバー構えないで?別に僕がやったわけじゃないからね?というか生霊になってストーリーぶっ壊した君が悪いんだからね?君があんなことしなけりゃ他人のストーリーまでぶち壊さなかったんだよ?」
「はあ?なんで他人のストーリーに関わっ」
「てるんだよ。言っておくけど、君がたった一つの行動を起こしただけで、全ての人々がその歯車に乗る。逆もまた然りさ。君がチョコを買ったせいで、他の人がチョコを買えなかったかもしれない。他人が石を拾わなかったから、君が転ぶかもしれない。君が知らぬ場所で君は他人と深く絡み合っているんだ」
ウラルはいつになく真剣な眼差しで俺を見つめて来る。いつもヘラヘラしている彼が、ここまで目つきを鋭くするのを俺は見たことがなかった。
俺は少し頭を冷やして、銃をしまう。
「分かってくれればいいんだ。さて。君をこれ以上夢の中に拘束するわけにゃいかないからネ。そろそろお開きとしよう」
「次はいつ会えるんだ?」
「さあ?僕が会わなきゃいけない時だけ、かな。それより!早めに残りの守護龍と合流してネ」
「残り?」
「風の守護龍にはもう会ってるじゃないか。ユキ・ファロンスト。彼女なら同じアルスの公爵だし、話すこともあるでしょ?」
「あの時の会話ってそういう意味だったのか・・・」
「・・・君ってさぁ、朴念仁って言われない?」
「鈍感過ぎる、とは友達に言われたことはあるな」
「はぁ。まあ、ここで分かったんだからいいか。じゃあ、またいつか」
「ああ。いずれ、リンボで」
「ここは辺獄じゃないんだけどネ」
そんな冗談を最後にかました俺は、そのまま暗くなっていくセットを最後にウラルを見失った。
それと同時に目がさめる。ベッドの上から古ぼけた時計を見ると、4時12分を示していた。俺は何を考えたのか部屋から出て一人グラウンドに出る。
少し寒い。年中過ごしやすいというアルス王国も朝は少し冷える。誰もいないグラウンドで一人佇んでいると、懐かしい思い出が浮かんでくる。友達と一緒に馬鹿やりあった日々。修学旅行で女子風呂を覗こうとしていた輩を俺ら5人だけで10数人を抑えて罪を未然に防いだこともあった。部活の合宿で朝飯のおかわりを取り合ったこともあった。夏休みには初日に早朝に集まって朝日が昇ると同時に点火したりして花火大会をやった。
真田、遠藤、沖田、佐々木。懐かしい名前だ。高校も一緒だった。
「感傷に浸るなんて、俺には似合わない、か。ハハハハ・・・」
「早朝から一人で何を言っているかと思えば・・・。何かあったのか?」
「伯爵!さあ、新しい朝が来ましたよ!準備運動第一ィ!」
「ん?んん?」
強引に伯爵を夏休みの準備運動に引き寄せて、俺は朝日が昇るのを見ながら身体を動かす。
さて、今日はどんな楽しいことがあるのかね!
次の投稿は6月17日を予定しています!
いつも沢山のPV・ユニークをありがとうございます!
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