適正魔法試験
俺は現在、アルス王国領土内にある魔法の場と呼ばれる場所にあの受付嬢のミネさんに連れられ適正魔法試験の説明を受けている。
ただでさえEXランクと断定されてしまい、いくらFランクから始めると言えども何をされるか分かったもんじゃない。が、ミネさんは誰かに言いふらすような人じゃないと信じようと思う。
「ギルド登録の際、冒険者の皆様に使用魔法の属性を調べさせて頂いています。これはパーティを組むときに使えるので是非ご活用ください」
ミネさんは小さなギルド員専用アイテムボックスから6冊のカラフルな少し分厚い本を出してきた。多分あれが魔導書なのかもしれないな。
何人も使っているのか殆どの魔導書に汚れが目立っている。
ああいうの見ると綺麗にしたくなるんだよなぁ。一人暮らしの性で。
「では始めますね。この『見習い魔導書』を一属性ずつ渡しますので使える魔法の属性を確認しましょう」
「これを持ってどうすれば?」
「この魔導書を片方の手で持って片方の手を出すだけで大丈夫です。本来魔法とはイメージが大切ですが見習い魔導書には既にイメージが書き込まれています。魔力も勝手に小さく流れますから安心して下さい。EXランクの力、期待してますよ」
まず渡されたのは赤い魔導書。色からして完全に火属性だということが分かる。
俺は適当なページを開いて右手で持ち左手を出した。が、何も起こらず。
次に水色の魔導書。水属性の魔導書だ。同様に左手を出したが何も起こらず。
次に茶色、緑色と続けたが何も起こらなかった。
あれ?俺まさか詰んだ?
「今のところ火、水、土、風と全部使えてませんね。ある意味凄いかも」
「何かあるんですか?」
「ええ。普通なら魔法は殆どの人が全属性を扱うことができます。ただ属性の得手不得手はありますが・・・使えない、というのは初めてです」
これは俺が魔法使えないってことだよな。要するに兵器生成しか能がないってことか。
いやいや待てよ。もしかしたら他の属性が使えるかもしれないじゃないか!
ラノベ的展開で考えて!
「仕方ありません。闇と光の適正魔法でもやってみましょうか」
ミネさんに紫と白色の魔導書を渡されたが、いくら手を出しても光・闇魔法の欠片すら出てくる様子がない。
どうやら俺は火、水、風、土、加えて今失敗した闇、光の全てが全く使えないらしい。さっきミネさんの言っていたたとえに沿うならば火が一番よく使えて光があまり使えない、といった感じなのだろう。
もうなんか泣きたいです。
「ここまでくると領主様と同類という事になりますね。中々珍しいです」
「領主様?」
「そういえばハインドさんは別大陸から来た人でしたよね。この大陸はアルスを含む3つの王国と7の小国に分かれていて王国は領土が広いので5人の領主様によって統括されています。そして私達の勤めている冒険者ギルドはウェスター伯爵の領土に建てられています」
「で、そのウェスター伯爵様と同類とは?」
「ウェスター伯爵はですね。魔法の才が無かったんですよ」
ミネさんの昔話を簡潔にするとウェスター伯爵は俺と同じように生まれつき殆どの基礎魔法が全て使えなかった。
どんなに勉強しようとも、どんなに訓練しようとも魔法使いの欠片もない。ただ魔法がどのような仕組みか解明している魔法使い以上に魔法に精通していた。
仲間もどんどん増え始めて学校の授業で魔法の仕組みを教えたりアドバイスしたりと今は引っ張りだこ状態。
「そんな彼が最近見つけたんですよ。自分にも使える新しい魔術基礎の属性『雷』を」
「雷ですか?」
「はい。ですがこの雷属性は様々な魔術基礎の属性と違い異質なものです。使うにはそれなりの技術が必要不可決です」
「そうなるともしかしなくても・・・」
「行く必要があります。領主様のところへ」
俺達は一旦魔法の場からギルドに帰り、領主への面会許可を得ると領主がいるという屋敷まで俺のトラックで向かった。
ミネさんはトラックを見て何かじっと黙っていたけど多分始めてだからだよな。なんか解体してみたいとかボソっと聞こえたけど気のせいだ。
乗り合い馬車を通り越しながら走って18分。辿り着いたのはとても大きな屋敷。やはり伯爵の屋敷となればここまで大きくなるだろう。
鉄製の門から入り扉を開けるミネさん。
そこにはマントを着け茶髪オールバックをしたダンディーなおじさんが本を読みながら浮いている景色が広がっていた。
おじさんは俺達に気づくとマントと本を消して和かな顔でこちらに来た。
「ようこそ我が屋敷へ。私はこの屋敷の主人であり伯爵のウェスター・グロムメントだ。ウェスター伯爵と呼んでくれ」
「ウェスター領主様。いきなりで申し訳ありません。こちらのふろ・・・Fランクの冒険者様が全ての魔法を使えないので」
「ああ、言わなくてもよい。話はなんとなく分かっている。ミネ。馬車は出す。君はギルドに帰りたまえ。そこの君。名前は?」
「ハインドです」
「ではハインド君。こちらへ。ビンセント!彼を客間に案内してあげなさい」
「は。かしこまりました」
ミネさんはお辞儀をして帰っていった。
俺は執事に連れられて豪華な装飾が施されている客間へと案内され、ソファに座ると香りからしてレモンティーらしき飲み物が机の上に二つ出された。というかレモンティーだった。
「その紅茶は別の領主から頂いた高級品でね。大量に余っていたから使用人に配布したのだが未だに残っていたから客人用にしておいたのだよ」
背後を振り向くとドアに寄りかかりティーカップを持ち優雅な顔で香りを楽しんでいる伯爵の姿があった。
中々かっこいいんだよね。ああいう服と飲み方を一度でいいからしてみたいんだけど俺には合わなさそうだな。
そんなことを考えていたら伯爵はティーカップを持って机の上に置き巨大な絵が飾られている側のソファに座る。
俺を見て少し笑う伯爵。いきなり手から電気を起こし始め胸ポケットの金属製の太い針を取り出すと俺から見て右側にあったダーツ板へと突き刺した。太い針は見事にど真ん中を貫いていた。
すげぇなこのおっさん。
「見ての通りだ。制御すればこんな事も出来てしまう。中々面白いだろう?」
「はあ・・・」
得意げに話す伯爵。
確かに普通の魔法では到底不可能な動きではあった。風魔法なども考えてはみたけど、あんなに精密すぎる針の挙動は雷以外では出来ない。
これが雷属性の力か。
「私はこの魔術を使えば魔術大砲より強力な技となると考えている!君はどうかね⁈」
「へ?え、まあいいと思いますよ。レールガンみたいで」
「何?『レールガン』だと?」
「俺のいた国では魔法があまり発達していなくて別の技術が進化しているんですよ。それで伯爵が今出した技と同じようなものが『レールガン』というんです」
「では今日からこの技の名前は『レールガン』に決定だ!だが別大陸でも魔法しか使えないはずなのだがなぁ。んん?」
伯爵がめちゃくちゃ俺に顔を近づけてきた。
凄い目を輝かせているが俺は絶対に何も言わないからな。
俺の世界の軍事力を陸戦系のみとはいえども是非見せつけたい。だがそんなことをすればどうなるか分かったもんじゃない!
またミネさんみたいなことにならないためにも!
俺は緊張に打ち勝ちトボけることに成功した。
「ま、余計な詮索は嫌いな方だ。これ以上は何も聞かんよ。それより本題に移ろうか。君が本当に雷を使えるかどうか。まずは術式解放からやってみるかね」
術式解放。それはミネさんが車内で教えてくれた魔法を使いやすくする為の方法の一つ。
この世に生まれる生物の全てが全てとはいかないものの骸骨を除くヒト型をしている生物は全て自然に刻まれた遺伝的な術式が組み込まれている。
魔法が得意ではないのは術式が眠ったままであるから。
なので術式を叩き起こして魔法を使えるようにするという、まさに荒療治。
だが術式が眠ったままでもちいさな魔法くらいは出せるらしいのでやはり俺は雷以外の全属性が使えない。雷も未だに分からんけどな。
「術式解放といっても軽く私の魔法を送り込むだけだ。安心したまえ。では始めるとするか」
伯爵が何やらブツブツと詠唱し始めて終わった瞬間に身体が軽く感じた。これが術式解放か。中々面白いんだな。
いやちょっと待ってくんない?伯爵?なんでそんなに俺を見上げてるんです?っていうか身体が浮いてやがる!しかも制御出来ない⁈
全く動けない!嘘だろ⁈こんなことは今まで無かったのに!
「は、ハインド君?」
返事をしたいのに返事出来ない!声が出ないし身体も完全に動かない。伯爵も執事さんもビックリして身体が固まってるじゃないか!早く動かさないとって制御出来ねぇ!
いや・・・これは制御出来ないんじゃない。
誰かに乗っ取られたのか?まさかとは思ったけどそんなことが可能に・・・まて、ちょっと待ってくれ。俺の声じゃない。誰だ?
『あーあ。やっちゃったか』
ウラル?ウラルか!
『あ、ハインド君。何やってんの?そんなところで。君の身体なんだから早く戻りなよ』
戻れたら苦労しないんだよ!お前がやってんだろうが!早く戻せよ!
『いや、君の身体は君自身だ。僕が出来るはずがない。言ってしまえば其の姿こそが君だ』
これが・・・俺⁈不老不死だけじゃないのか⁈
『君に課せられたのは不老不死だけじゃないよ。言ってなかった?』
聞いてない!
『あら。忘れてたか。じゃあ今言うからちゃんと聞いてね。君は神にある一つの条件を課せられたんだ。それは「世界崩壊の阻止」というものだ』
なんだよそれ⁈
『ほら?この世界は君達の言葉でいうイレギュラーって奴が発生するんだ。でもそれを神がいちいち対処していたら別の世界を見れなくなる。だからそれを対処して破壊する為に君の身体を不老不死と守護龍にしたのさ。そろそろ身体と精神が慣れてくる頃合だし僕はお暇させて頂くよ』
おい!このバカウラル!
「ちょっと待てよ!」
俺が身体の制御を取り戻すと自然に声が出た。身体も光らずに元通りになっている。
伯爵はポカンとしたまま俺を見ていた。
そりゃあんな光景を見せられて正気でいられる方がもっとおかしい。だけど何でだろう。伯爵の目が更に輝きを増している気がするんだよ。
いきなり手をがっと掴まれてビックリした俺は完全に固まった。
「術式解放してあんな面白いのを見たのは初めてだ!どうかねハインド君!ギルドもいいが暫く屋敷で私と色々雷属性を研究しようではないか!」
頼まれたら断れないこの性格と厨二的な雷かっこいいという謎の決断と雷属性を使いこなせるようになるまで、の3つを材料に俺は屋敷の見習い執事兼、伯爵の雷属性研究員として屋敷に入る事になった。
ちなみに数分後、ミネさんの連絡により俺が不老不死であることがバラされた。人体実験上等!
いつもPV・ユニーク、ありがとうございます!
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