突入
煉瓦造りの地下通路にカツカツと響く足音。光属性魔法のライトに照らされているのは、早足で歩く8人の姿。
その中でも痩せぎすな男性は爪を噛みながらイライラしていた。
「何故、何故この私が地下通路なぞに逃げなければならんのだ⁈私は選ばれし人間だ!何故私は殺される恐怖に怯えなければならない⁈それもこれも全て奴が原因だ!我々に逆らう青二才のガキが!巫山戯るな!」
男はカタカタ震えている。殺される恐怖以外にも様々なことに怯えている。独り言を言って紛らわそうとするのは、現実逃避に近い。
男は今まで何の問題もなかった。学校でも決して成績が悪かったわけではない。順調な人生を歩み、20を超え、親の仕事を継いで王となる。これほど最高の人生があるだろうか。何もしなくてもやることさえやれば、人生は一生安泰だ。
あとはただ同じ事をやり続け、他のことは全て他人に押し付ければ良い。そうすればなんの問題もなく寿命で死ねた。
だが男のエリート人生はここで最悪の場面を迎えてしまった。親の親の親の代から続く搾取行為により、その反発が大きくなっていることに気づいていなかった。
「こんなことで死んでたまるか!おい!貴様ら!本当にやれるのだろうな⁈」
「はい。お任せを。我々の手にかかれば、反逆者の子など、容易に始末できます」
「貴様らを私は信用して雇っているのだ!金相応の働きはしてもらうぞ!」
怒鳴り声を散らしながら歩いていく男。すると瞬間、その頰を切り裂く。頰から血が流れ始め、その場の空気を震えさせた。
男は周りの男達と後ろを振り向く。その時彼らの目に映っていたのは、自分らより下の数の人間。自分達の搾取相手であり、敵。
「180年間、よくもまあ好き勝手やってくれたな!ドーヴ!」
「エヴィロイド一族の仇、ここで取らせてもらうぞ」
「五月蝿い!貴様ら、私の首をやすやすと取らせると思うなよ!行け!」
剣を構える男二人。ドーヴは男三人と共に奥の方へと逃げていく。ジョシュア達は追いかけようとするが、目前の男が剣を振り回して邪魔をし、簡単には通さない。
すると反乱軍の片手剣使いと斧使いが男二人の前に立ちはだかる。二人とも敵と見つめ合ったまま、動かない。
数秒後、互いの刃が混じり合った。鈍い金属音と共に鍔迫り合いが始まり、一度互いに距離を置く。
「ふん。雇われ兵、つまるところの傭兵か。人を殺すことに特化した人間。だが剣筋に未だ甘さがある、と見た」
「こちとら毎日モンスター狩ってるんだ。殺人しか出来ない輩に負けたくはない!」
ジョシュアは何も言わずに横を通って奥へと進んでいく。男二人はそれを見逃した。目の前の二人を何とかしなければならないからではない。目の前の二人には、勝機すら危うく見えなくなるほどの覇気を感じたから。
目を離しては行けない。目を離した瞬間、己の首が飛んでいるかもしれない。本能がそう囁いているのだ。
だがそんなことは元から当たり前で、逃げればどうなるかなんてのも分かりきったこと。
彼らに戦う以外の選択肢など、この世に存在しない。
「さあやろうぜ。俺のアックスが錆びる前に」
「片手剣だからと甘く見たら、死ぬぞ」
二人が奮戦している中、ジョシュア達は更に奥に進む。
進んだ先に待ち構えていたのは、ボウガンを持った3人。無論、撃つぞ、などと警告することなく矢を放ってきた。
「ウィグ」
「御意」
飛んでくる矢を前にウィグは、何の躊躇もなく突っ込んでいく。が、矢が全く当たらない。背後にいるジョシュアにすら当たっていない。魔法を使っていないというのに、ジョシュアのギリギリを通る矢は通っても、当たるコースをいく矢は何故かない。その代わり、ウィグの足跡には矢の残骸が散らかっている。
単純な話、ウィグが後方にいるジョシュア達に当たる弓矢を全て剣で捌き切っているだけのこと。とはいえ矢を捌くなど、常人ではまずできない。
彼は剣技を極めている、としかいえない。言葉では表すことが難しいくらい彼は強いのだ。
「悪いが、ここは譲れん」
布陣の眼前で剣を一振りし、後ろを振り向く。すると敵3人は見事に斬られ息絶えた。
道中、トラップなどの罠がないのが怪しいと感じたウィグは盾を構え、剣も別のものに切り替える。
ジョシュア達は更に進み、遂に地下通路の最深部に辿り着いた。
しかしそこにいたのは、討つべき王だけでなく沢山の傭兵。百人規模でいるのであろう彼らは、弓とボウガンに矢を装填して待ち受けていた。
何の号令も無く、ただただ無慈悲に放たれた矢は残っていた仲間を貫き、次々と殺していく。盾で防御しようにも、隙間から大量の矢が突き刺さる。
ウィグですらジョシュアを守るのに精一杯で他の仲間達など気にする余裕はなく、最終的に残ったのは瀕死のウィグとジョシュアのみとなった。
「どうだ!これでもまだ続けるつもりか⁈」
出てきたのはドーヴと呼ばれる、現政権の王。
彼は石造りの椅子に座って踏ん反ると、グラスにワインを注いでゆっくりと飲み干す。そしてグラスをジョシュアに向かって投げつけた。
ジョシュアは瞬時にロングソードで防御し、怪我はなかった。が、状況は変わらない。
ドーヴは大きな笑い声をだして、同時に怒りの形相を出す。
「よくも・・・よくも私の人生を台無しにしかけてくれたな!私の人生は一度だけだ!私の人生は順調なのだ!貴様のような、罠に嵌められ追放された王の子などに用はない!」
「ドーヴ!自らの手を汚さずに抜け抜けとそのようなことを陛下に言うか!」
「おっと。まだ喋る元気があったのか。全く・・・。お前なんかそうだ。私の、私の人生を壊してまで何を得る⁈」
「ここは俺が生まれ、育った国だ!貴様らのやっていることは生まれた頃から知っている!」
「そんなことは百年以上前から続いていたことだ!私には関係ない!社会に入れない人間は淘汰されるだけだ!」
「己の手で変えようと思わなかったのか⁈」
「変える⁈変えるだと⁈私が順調であればどうでもいい!人生とは、他人を食い物にして生きていく!私は何の罪もない!」
ドーヴは息切れしながら、じっとジョシュアを睨みつける。だが暫くして落ち着きをとりもどし、静かな口調で話しかける。
「もういい。何か言い残すことはあるか?ジョシュア・エヴィロイドよ」
ジョシュアは何も言わずに目を閉じてその場に跪く。その格好はまるで命乞いに近いものがある。ウィグは直ぐにジョシュアに止めるよう進言したが、止めようとしない。それどころか、ウィグにすら跪くよう命令してしまった。
ウィグは困惑したが、陛下の命令であるとして直ぐに跪く。
「命乞いか?今更遅い!だが、最期くらいは聞いてやろう」
「ドーヴ。悪いな。どうやら、我々の勝ちのようだ」
「何だと⁈血迷ったか⁈いや、私は分かるぞ。時間稼ぎだな?この私が逃すと思ったら大間違いだ!この地下で貴様らは死ぬのだ!全員!矢を構えろ!」
ボウガンや弓を引く音が周囲から聞こえ始める。ドーヴはこれがジョシュア達が最期に聞く死を告げる死神のように感じ、自分を脅かす存在がいなくなると思うと、とても安心した。
これで自分は何もない。何かあっても貴族連で揉み消せば何とかなる。もう問題はない。またあのゆっくりとした生活ができる。
だが、それはある声によって完全に閉ざされた。
「アハハハハハ!」
どこからか女の笑い声が聞こえた。それは地下の空間に響き、全体に広がっていく。傭兵達は剣を手に身構えるが、どこにいるか全く分からない。
それどころか、地下の空間の性質のおかげで声の出所すら分からない。
少しすると再び声が響き始める。
「ドーヴ!貴方は言った!言ってしまった!人生とは他人を食い物にするものだと!ならば!私達は貴方を食い物にする権利が存在する!」
「どこだ!姿を現せ!」
「分かりました。お見せしましょう。ただし、貴方が見るのは私の姿ではなく、貴方の死です」
ガチャリと重い金属音が響く。その金属音の主は一人の仮面をつけた男。
両手に花などと優しいものではなく、両手には綺麗な真っ赤な花を咲かせるものを持っている。それは痛みを感じる前に敵を殺すという悪魔の兵器であり、矢で殺すより早く敵は死ぬ。
その兵器は名をXM196。付けられた名称は、ペインレスガン。
「さあ!俺にオーダーを!オーダーを寄越せ!マイマスター!」
「ビッグサル。貴方に命令します!敵は全て薙ぎ払いなさい!」
「OK!レェッツパァァリィィィィィ!」
次の投稿は3月10日を予定しています!
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