乱戦
「防備を固めろ!王立騎士団を通すな!」
「奴等め!これだから王立騎士団は信用ならなかったんだ!」
下層からの流入もはや止められない。ならば中層からせめて政府機関に行く道を阻もうとするのは分かる。だがあまりバリケードの効果がない。何せ俺が渡した特製C4はあれだけじゃない。もっと大量にある。
もともと下層から中層、中層から政府機関と突破しなければならない故に必要以上の爆薬を全員に持たせた。
その総重量、実に100kg。だが特製C4自体、本来のC4とさほど爆破力に差はない。では何が特製だというのか?
それは通常の爆破信管ではなく、小さな爆破魔法でC4ごと爆破できるようにした専用信管を使っている点だ。いちいち起爆装置について教えていたらキリがないし、C4を準備していた時点でファローズには疑われてた。
「それにしてもまあ・・・綺麗な地上の花火だこと」
バリケードに数個が投げ込まれ騎士団ごと木っ端微塵になっていく様は、まさに現代兵器でしか見られないものだ。
よし。とりあえずC4爆薬を投げ込んでる部隊に合流してファローズを探さないとな。ジョシュアに怒られちゃたまったもんじゃない。
「さあ行くぜ!俺のトーラス・レイジングブル!500S&Wの威力を見せてやる!」
壁から降り、衝撃波装甲の爆発を利用して地上に降り立つ。
下層から中層へ向かうのに扉を使う必要はない。壁を越えればいい話しだ。
「よっ!ほっ!」
壁を越えた先に広がっていたのは予想通りの展開だ。火の手が各地に回り、反乱軍やら騎士団やらが戦いあっている。
「御手伝いと行きますか」
俺はポケットにしまっていたバンダナを頭に巻いて壁から飛び降りる。着地した瞬間に目の前にいた騎士団員の足を撃ち、周囲にいた奴らごと突っ走りながら戦闘不能に持ち込ませた。
当たり前だが、バカデカイ発射音5発分を見逃すわけがない。別の騎士団が俺を囲い始め、槍を向ける。だが流石の俺も次は容赦などしない。
足を撃つのではなく、今度は確実に殺しにかかった。心臓、頭部、腹部。硝煙と共に強力な500S&W弾が回転力を持って敵を貫いていく。だがトーラス・レイジングブルの弾は尽きない。撃った瞬間から弾は既にリロードされている。
それもこれも全て俺のバンダナ、通称『スネーク・バンダナ』のおかげだ。まあどう見ても無限ナンタラにとしか言えないのは気にしない。
「奴から殺せ!奇妙な武器を持っているぞ!」
「自分から死にに来たか!ご苦労なこった!」
バンダナを装着している俺に、死角はない。弾のリロードだけじゃない。銃のライフリングや撃鉄を削れるごとに修復している。故にバレルが熱くなろうと変形も起こさない。変形を起こす前に修復しているからだ。
ジリジリと近づいてくる騎士団。俺の傍には大量の死体があるのだから、警戒してくるのは当たり前か。
「リボル騎士団!覚悟ォッ!」
「王立騎士団か!応戦しろ!」
俺の前に現れたのは白銀馬が刺繍されたマントを羽織った騎士団。ざっと20人ほどで構成されているのが分かる。
「ビッグサル。話は陛下から聞いている。今こそアレを!」
「・・・EMPか!」
「既に各部隊には通告してある。さあ!」
「了解した!」
空中浮遊するあのECMを肩辺りに出し、EMPの起動準備に入った。
『EMPノ起動シークエンスヲ開始。効果半径ヲ80kmニセット』
「EMP、起動開始!」
『EMP、起動』
起動したその瞬間、エヴィロイドから魔法が消え去った。魔法が使えなくなったことに驚く団員もいれば、魔法を出そうとして必死になる団員もいた。
これなら魔法が使えようと使えまいと関係ない。
と、その時偶然にも水魔法を出した団員が、その場で魔法の暴発を起こし、自爆した。
驚いた騎士団はEMPに向かって弓矢を放ち始めるが、EMPを貫くどころか弾き返していく。
このEMPは反重力システムを導入している。被弾する場所で戦闘することを前提に設計したから、おそらくこれが被弾率を下げるためのものなんだろう。
「こんな、こんなことがあってたまるか!」
「残念だったな。これが俺の力だ!」
ふと思い出した俺は、中層の壁から先にある政府機関のシールドを見た。シールドは不規則に激しい点滅を繰り返し、最終的に石鹸の泡のように破れながら消えていく。
「シールドが・・・シールドが消えていく」
「馬鹿な!あのシールドが破れるなどありえん!こんなのはハッタリだ!」
「ビッグサル。ここは私達が」
「分かった。ファローズは?」
「ファローズ様は扉の付近で戦闘している。早く行け」
「頼まれた!」
王立騎士団が戦ってる隙を縫って、俺は奥の方に突き進んでいく。時に援護しつつ、時に援護されつつ、ファローズを捜す。
特に戦火が激しい場所に行き、探してみるが姿が全く見えない。
「一体どこに・・・いた!」
彼女は体術で、自分より大きな敵を組み伏せていた。
そこに何人も襲いかかってきたので、俺はリボルバーでの精密射撃でファローズ以外を撃ち抜く。普通ならまずできない芸当だが、スキルのおかげで出来るようになった。
銃口から出る煙をフッと消すと、ファローズが近づいてきた。
「ビッグサル!兄様は⁈」
「ファローズ様。ジョシュア様から言伝を承っています」
「知ってる。兄様は多分、貴方に私には来るなと仰った。大体予測はつきます」
「では」
「私はいつ、どんな状況でも兄様に従ってきた。でもウィグや他の人達だけで、独裁政権を陥落させるのはできないと踏んでます」
「・・・どうしても、行くと?」
「ビッグサル。貴方は兄様の命令に従った。しかし私は貴方を打ち倒して、兄様を助けに行ってしまった。筋書きはこれでいいでしょう」
「いいでしょう。ならこのビッグサル。ファローズ様について行きます」
「こんな馬鹿な愚妹に、ついてくる必要などありません」
「いえ、私がジョシュア様から仰せつかったのは一つ。ファローズ様を、生きて帰らせることです」
ファローズは政府機関がある建物に目を向ける。一瞬、何かに葛藤しているかのように頭を下げて手が震える。
しかし直ぐに手の震えは止まり、空を見て深呼吸しつ一息つく。
「ビッグサル。貴方に質問します。貴方の力をもってすれば、彼らを倒せますか?」
「・・・はい」
「ならビッグサル。ファローズ・エヴィロイドとして貴方に命令します」
彼女は目を見開き、静かに俺の目を見た。
「彼らを打ち倒し、私を生きて帰しなさい」
「承知!」
ファローズはC4を投げると、すぐさま爆破。政府機関へと続く扉をこじ開けた。これでもう何も道を阻むものはなくなった。
残っているとするなら政府機関にいる兵士達などしかいない。シールド魔法もEMPで既に消え去っている。そして同時に彼女を縛る変な責任感も完全に消え去った。
この瞬間から彼女、ファローズ・エヴィロイドは誕生した。
彼女に迷いはもう何一つ、なかった。
「やっぱ血は争えないってか」
似ている。やっぱり似ている。演説しているときのジョシュアと話し方がとても似ている。
それと俺は嘘をついた。俺はジョシュアに、自分の目前に連れてくるな。そして生きて帰らせろ、と言われている。
・・・悪いなジョシュア。人間は殻を破る為に成長する。ファローズはお前が考えているよりよっぽど成長しているようだ。
だから、俺は何も言わない。彼女の勇気ある決断を否定したりしない。俺は彼女の判断を尊重し、必ず生きて帰らせる。それが俺の、反乱軍協力者ビッグサルとしての最後の仕事だ。
次の投稿は3月8日を予定しています!
いつも沢山のPV・ユニークをありがとうございます!
感想・レビュー・ブックマークを是非!お願いします!




