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天国から追い出されて不老不死  作者: ラムネ便
休暇はのんびり過ごしたい
24/92

のんびり休暇 3

メリークリスマス!

もう遅いか・・・。

 

「貴様、どうやってこの屋敷に侵入した?」


「いや、俺は客人」


「嘘はいけないなぁ嘘は。早く吐いた方が身のためだぜ?ウチの団長、気が短いから」


 コレンはロングソードの刃先を完全に首元に付けて、いつであろうと切断できる構えを示す。


 彼の良いところは有り余る忠誠心。それのおかげで様々な誘惑を退けてきた。その裏表のない性格のせいか、周りに集まってくる人間に碌なのが居なかったのも確かだ。

 そしてその忠誠心に惹かれ、ハインドがコレンを雇った。

 しかし、その忠誠心故に忠誠を誓った相手に対し危険が及ぶと断定した場合、即行で殺すことを厭わない。


 ある意味、ヤンデレに近い一面を持つ。


「全く。最近の若い奴らは血の気が多い」


「あ?お前も十分若いじゃねぇか」


「ハーフエルフを舐めてくれるなよガキども。こちとら99歳なんだよ。テメェらよりちっとは修羅場を通ってる。だから・・・こんなこともあろうかと用意しておいたのさ!」


 エーキルがポケットから出して投げたのは魔法陣が描かれた小石。


「クラック!」


 合言葉と同時に指を鳴らすと小石が爆発。光属性の閃光が発生した。

 目がくらむような閃光が発生している間にエーキルは廊下を一目散に走り出し、その道中にトラップ用の小石をばら撒く。


 しかし閃光をものともしない二人。人間であるコレンならともかく、獣人族のグィネヴィアは獣人族故の聴覚がある。彼の指示に従いコレンは目を閉じた状態でも行動できるのだ。


 とはいえ会ったばかりのこの二人。普通なら合うはずもないコンビネーションなのだが、それを見事に可能にしている。

 これはひとえに互いに評価しあうその姿勢にあるのだ。


「1m飛び越えろ!次は右右左!」


「トラップ程度なら回避可能。だが・・・」


「止まれ!何か来るぜ!団長!」


 床に置かれていたのは古風な茶碗。しかしその中からは、異質な魔力を放っている。


 コレンも、グィネヴィアも茶碗を見ることなく直ぐにバックステップし後退した。茶碗を直感的に『覗いてはならない』と判断したからである。


「範囲内に入ったな。覗いてはくれなかったが折角だ。ちょぃと痛い目に遭って貰おうか」


 エーキルが指を鳴らすと茶碗の魔法が発動する。

 直後にコレンとグィネヴィアが感じたのは、途轍もない脱力感。それはまるで、自分から魔力を吸い出されているかのようなもの。

 茶碗はというと、水のようなものが半分くらい湧き出るように溜まっていた。


 天井に靴を脱いで張り付いていたエーキルが茶碗を見ると驚いた様子になった。


「おいおい。茶碗の魔法でこんだけ搾り取れるとか。お前らやべぇな」


「クソッ!立てねぇ!」


「魔力を持っていかれた・・・⁈」


「魔力を吸い尽くされて未だに意識があるとかバケモノだな。そんなお前らにいいことを教えてやるよ。これは古代文明の儀式で使われたとされる『神水茶碗』ってやつだ。吸い出した魔力を水にしてしまうのさ。おもしろいだろ?」


「ああ。面白いな。ならその茶碗をぶっ壊したらどうなるんだ?」


「そりゃあ壊れたら全部元通り・・・」


 背後にはニヤリと笑うハインドとマグノリア。


「マグノリア!タイプ3!信管、ゼロレンジ!」


「いえっさー!ボクのショットガンを見せてあげるよ!」


 マグノリアが腕を前に突き出すと、その横から謎の空間に繋がるゲートが開きモスバーグM500ショットガンが出てくる。


 嫌な予感がしたのか、エーキルは茶碗を放って距離を置いた。同時にマグノリアのM500から12ゲージ弾が放たれ茶碗は破損。当たらなかった流れ弾はマグノリアの操作でコレン達に直撃する前に消滅した。


「いい判断だ。タイプ3も覚えている。試験は合格だ。よくやった。マグノリア」


「えへへ。ボク、ご主人の為なら何でも頑張れるよ?」


「じゃあ次は数Ⅲを頑張ろうな!」


「うん!」


「人工妖精恐るべし・・・!だが研究が進むというものだ!」


 この後、魔力が戻されたコレンとグィネヴィアは俺からエーキルが本当に客人であると説明し、謝罪させた。

 彼が一泊だけ泊まっていく予定なのはマグノリアの紹介を伯爵にしていた際に聞いていた。

 人工妖精の研究家の端くれとも聞いていたので、人工妖精のことを聞きに行こうとしたらコレン達が戦闘していた。


 これが今までの顛末だ。勘違いも甚だしいとエーキル伯爵に怒られたが、マグノリアという研究資料があったので許して貰えた。


 時は過ぎて夕食も済ませ、箱の中に入っていたマグノリア用のベッドもしっかり組み立ててあげて屋敷で初めての睡眠を見届ける。

 そして、エーキル伯爵との打ち合わせの時間、夜10時が来た。


「失礼する」


「エーキル伯爵」


「ハインド公爵様。このような時間を割いていただき、ありがとうございます」


「さほど気にする必要はない。で、用とは?」


「失礼ながら私、これでも研究家の端くれ。回りくどい話は抜きで、単刀直入にお聞きします。公爵様の身体の刻印・・・その魔術原基を創り出したのは公爵様ですか?」


「いや。これはかつての占い師が施したものだ。俺も効果が全くわからない。コレンはこれを呪いだとか言っていたが・・・」


「とんでもない!公爵様!その魔術原基は呪いではありません!正真正銘、我々研究家が目指している魔術原基です!」


「正真正銘?」


「いいですか公爵様。公爵様に刻まれているその魔術原基は公爵様の魔力の使用に対し、高度効率化を自動的に調整する、というものです。今現在も進化しています・・・!」


「つまり?」


「その魔術原基さえあれば、ほんのちょっと、それも探知魔法が感知できないレベルの微弱な魔力で古代文明の究極魔法を使うことができるようになります!まあ、今の時点では理論上の話ですがね」


 魔術原基。どうやらそれは俺を蝕む呪いなどではなく、俺の魔力の効率化を図るものらしい。

 この身体の魔術原基がどうなるか、これからの楽しみがまた一つ、増えたのであった。


次の投稿は12月29日を予定しています!

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