遺志
73式大型トラックを走らせ、40分ほどかけてアルスまで帰還し、伯爵の屋敷まで帰って来れた俺達。到着時刻は11時29分。
コレンは全く寝足りない様子だったのでベッドにぶち込んできた。
ビンセントに到着したときから買ってきたコーヒ豆を荷台から運び出すよう頼んでおいてある。
ついでに焙煎と抽出もお願いした。そろそろできる頃だろう。
次はあのリリスとかいう分からない奴だ。正直運転中だったから適当なこと言ってすませたが、流石に何もしないわけにはいかない。
面接くらいはしないと、どんなやつか把握出来ないからな。
「さて。リリス・グィネヴィアだったか。何故俺の騎士団に志望したか、説明してくれ」
「面白そうだからに決まってんだろ」
ニヤリと笑うリリス。
「あの街にいても面白くねぇからな。折角魔法を使えるっつうのに兵士になってから制限だ。これ以上はゴメンだぜ」
「で、出身は?」
「あの街・・・とでも言いたいところだが、俺は物心覚えた頃にはユーロンの魔導師学校の孤児寮にいたからな。本当の出身ってのは分からない」
「ユーロン?」
「この大陸にある三大国の一つだぜ?アルス、アレックドール、ユーロン。知らねぇのか?」
「ちょっと色々あってその辺は・・・」
「別に俺ぁ他人の事情を詮索するほど神経太くねぇ。逆に俺はデリケートだから扱いには気をつけてくれよなぁ」
笑いながらそんなことを話すリリス。性格はかなり明るい。忠誠心は薄そうだが。
そういえば、コレンが車内で言ってたな。奴は獣人族。しかし俺が想像した動物の人型形態というより擬人化に近い。
黒色の髪、緑の瞳、イヌ科の耳。身体は俺より身長が高く身体つきはそれなりに良い。
服装に関しては、皮系の装備だけで武器すら持っていない。やけに貧しく見えるのは仕方ないな。
ただ、奴の魔力はかなり高いらしい。寝る前にコレンが自分より魔力が高く、そこらの上級魔導師よりも強いとまで評価していた。
更に、彼が爆発魔法の一種であり、オリジナルの火属性魔法、『バーニング・チキン』を開発した張本人だという。
「でぇ?どうすんだよ。俺を入れんの?」
「十分戦力になる。是非とも頼みたい」
「そんじゃあ契約成立だなぁ。ついでに会いたい奴がいるんだが」
「会いたい奴?」
「公爵様の後ろにいる、そのハーフエルフだ。いつになっても可愛いなぁ。ロアお嬢さん」
後ろを振り向くと腕組みをしてリリスを見つめているロアがいた。
話を聞いたところ、あの時から回復したらしく、色々やってしまった非礼を詫びると言ってきた。
しかし実際には精霊などの不安定な要素が固まって起こってしまったわけなので気にするなと、それだけは伝えた。
リリスの面接も終わらせたので俺は伯爵の元に報告と謝罪をしに行くことにした。
どうやら向こう側は色々あるようなので。
「アンタなんで此処にいんのよ⁈」
「何って、そりゃお前、ここに来た理由なんざ一つしなねぇだろうに。契約だ契約」
「ハインド公爵様の配下に入るってことくらい理解できるわよ!でもアンタ、私を振ってまで自由に生きたいとかなんとか・・・」
「心変わりってやつだぜな」
「ユーロン国立魔導師学校を卒業して何処に行ったか探していたのよ!このバカ!」
なんだか甘ったるいラブコメの香りが漂ってきたので、ロビーから退散し、急いで伯爵の研究室に向かった。
「ハインド・ウォッカ!ただいま帰還しました!」
「遅かったな!私を待たせるとはいい度胸だ!」
「大変だったんですよ⁈老人は若返るしリビングデッドは出てくるし爆薬は設定をミスるし・・・」
「そんなこともあるだろうさ。では報告を聞かせてくれ。特に若返ったところを重点的に!」
今回の任務の報告としては、試作武器は残念ながらナイフ以外は使用出来なかったこと、ナイフが一本何かの弾みで曲がってしまったことなどを話した。
ナイフに関しては、曲がった一本の修復に取り掛かるとして、修理代は俺が出すことにした。使って壊して、それで詫びも無しとくると無礼にも程がある。
若返りについては生贄を用意しなければならないのは旧式の魔法らしいので話はすぐ終わった。
「ああ、そういえばロアの件を話してなかったな。ジュリア!」
「お呼びですか?旦那様」
「ロアの説明をよろしく頼む。私はナイフの修理に取り掛かるのでな」
「分かりましたわ。ではハインド公爵様。こちらへどうぞ」
ジュリアさんに案内されたのは、煌びやかな宝石が埋め込まれた道具が、壁中に装飾されている部屋だった。
「ここは私の仕事部屋なの。ここなら防音もしっかりだから、安心して」
「ありがとうございます。で、ロアの件は」
「最終的な結果としては、失敗だったわ」
ロアの精霊は、16年間の歳月で既に癒着している状態だったの。もし精霊を無理に取り出そうとしたら、娘の魂まで抜いてしまう。だから精霊はそのままにしたわ。危ないもの。
その代わりといってはなんだけど、旦那様が術式解放したわ。精霊の魔力ばかり使うとロアの身体が危険すぎるのよ。
でも術式解放したおかげで、ロアは自分の魔法と精霊の魔法の二つを両立することが出来るようになったわ。これで彼女の身が危なくなる可能性は低くなった。
「こんな感じよ」
「教えていただいて、ありがとうございます」
「別にいいのよ。気になさらないで」
ここまで聞くと、ロアの方が主人公みたいになってきたな。精霊があまり使えない属性以外は全部使えるとかただのチート臭しか漂わない。
俺の存在がどんどん薄くなるだけじゃねぇか!今度テコ入れでもしてみるかな。
「あら、もうこんな時間。お昼、食べてないわよね?」
「はい。準備でき次第、コレンを叩き起こして食べに行きます。お話、ありがとうございました」
「いいのよ。気にしないで」
俺とジュリアさんは部屋を出て、鍵をかける。
そしてジュリアさんはそのままどこかに行ってしまった。
俺は自分の部屋に戻り、ベッドに寝転がる。
「そういえば、鑑定スキル使ってないな。エナクトがくれたテクノロジーのスキルを見てみるか。鑑定スキル起動!」
目の前に鑑定スキルの画面のようなものが表示され、現在の武器などの状況が表示された。
破損、或いは使用不可の状態にあるのは、レミントンM870、KLXの二つ。そういえば修理するのを忘れてたな。なんとかしておかないと。
スキル確認欄を開くと、俺が初期に手に入れていたスキルともう一つ、覚醒で追加されたスキルが表示されている。タッチしてみると詳細が出てきた。
「名前は・・・【忘れ去られた智恵】?名前かっこよすぎるだろ!効果は・・・」
・忘れ去られた智恵
あらゆる世界に存在していた、或いは存在する機械工学技術を結集させたスキル。なお、プログラミングを含む。
技術と技術を併せることにより、新たな技術を生み出すことも可能。
開発は書かれた設計書、仕様書に許可の印を押す事により可能。使用される魔力の計算可。
「・・・中々難しそうなんだけどな」
すると鑑定スキルの欄に出てきたのは、無数の技術の説明欄だった。
その中には、明らかにヤバイものから玩具を作り出すような技術まで、その説明に相応しいものが沢山ある。
「この量は・・・」
スライドしていって俺の目に止まったのは、フィクション兵器といえば当たり前の陽電子砲の設計図だ。
どうやら幾つかの技術は既に設計図として存在していて、その設計図付きの技術と別の技術を掛け合わせることで同じ用途の設計図を開発可能なようだ。怖いな。
ちなみに陽電子砲を実現したのは500年後に宇宙進出に成功した人類。しかもこのときには更に科学が発展しているらしい。
「説明欄によると・・・」
・陽電子砲
正の電荷を持ち、周囲の電荷と反応することにより対消滅が発生。核爆発を起こし、対象物を破壊する兵器。
WW2の原爆の数十倍の放射線を発し、高電力を必要とする時代遅れの老兵器だが射程距、破壊力は高い。
「時代遅れの老兵器って・・・俺の世界じゃバケモノだぞ。あと放射線はヤバイ。陽電子砲は止めるべきだな」
そう思って閉じようとすると、その下に派生兵器と書かれたものがあった。
どうせ同じようなものだろうと考えて開くと、そこには、陽電子砲と似て非なる荷電粒子砲という兵器の設計図。
・タングステンイオン荷電粒子砲
圧縮物質にタングステン金属粒子を採用した荷電粒子砲。
破壊力は陽電子砲に劣るが射程距離・精度・省エネルギーの点において優秀。また、30秒間に15連射が可能。
加速時に発生するγ線は全て格納容器に封入され、発射時に放たれるのは電磁波と熱線のみとなる。
また、封入された不安定なγ線は格納容器内で陽子線により安定核に転換される。
減衰速度調整可。
「タングステンイオン荷電粒子砲・・・か」
これから先、どんな任務が来るかなんて想像もつかない。敵兵が大量に押し込んでくるなんて可能性も否めない。それに非常事態に武器が現代兵器だけというのも何だか心許ないものだ。
現代兵器が必ずしも通用するとは限らない。
やるなら、今だ。
「でもなんか捻りのない名前なんだよなぁ」
とりあえず設計図の画面に許可の印を押すと、魔力の計算が始まる。
その間に、幾つかの設定欄が出てきた。見てみるとバレルの形から粒子砲自体の形も選べるようになっていた。
まずバレルはいわゆる、ダブルバレルタイプを選択した。よくアニメででてくるレールガンみたいな形で、発射時は上下に開く。
形としては、ダブルバレルを長めにしてトリガーを後方に。照準器は扱いやすい光学照準器を採用してみた。
「ここから先改造は幾らでも出来るし。まあこんなもんだろ」
設計を終わらせ、最後に残るは名前設定欄。何も兵器に名前なんかいらないだろ、とは思うが、そこはそれ。
愛着が湧くようなものだと考えればいい。
「名前・・・レーゲンベルグだな。バラの名前だったけか?まあいいや。かっこよければ問題なし!」
レーゲンベルグで名前を設定し、魔力計算の結果を見てみると・・・洒落にならなかった。
実は二丁作りたくて計算させたのだが、その魔力量というのが70万KN。
「ちょいまち、KNってなんだ?」
調べてみるとKNというのは、エナクトが考えた魔力の単位らしい。
ついでに開いている鑑定スキルで俺の現存する魔力は1800万KN。粒子砲だけでこれは流石にデカイな・・・。
魔力の貯蓄を考えなければならなくなるなんて思いもよらなかった。今まで自炊とかには慣れていたから金の貯蓄は得意なんだがな。
「なんて恐れていたら出来るわけがない!レーゲンベルグ、開発開始!ポチッとな」
開発開始の文字と同時に完了まで14時間と表示された。
やることはやったので鑑定スキルを閉じてコレンを叩き起こしに行き、その足で昼食を食べにダイニングへと向かった。
次の投稿は12月10日です。
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