初めての森
ギャアギャアと何かの動物の鳴き声がひしめく中に派手に降り立った不老不死の男こと杉田は森の中で周囲を見渡していた。
後ろに振り向いた瞬間見つけたのは鶏みたいな変な鳥。トサカなど鶏に形状は似ているが青い綺麗な羽を持ち飛べそうなくらい胸筋肉が発達している。そして何より・・・
「で、デカイ」
そう。洒落にならないほどデカイ。
大きさは俺を通り越す位だからざっと3mくらいあるんじゃないか?
確かに胸肉は脂肪が少なくて美味そうだけど俺が戦って勝機があるかと言われれば、まずない。
あの足で蹴飛ばされてみろ。腕が骨折程度ならまだしも肋骨でも狙われた日には絶対死ぬ。いや俺は死なないけど。
幸運なことにその鳥は何か気づいて俺がいる方向とは逆向きに走り出しその場から消え去っていった。
よし。これで安心して鑑定スキルが使える。
俺は鑑定スキルを発動する為に何となく頭の中で
『鑑定スキル作動』と呼びかけたら目の前にゲーム画面みたいなメニューが表示された。
まずは固有能力の確認だ。ウラルを信用してないわけじゃないが変更されてたら嫌だからな。
固有能力 『たった一人の機甲師団』
詳細
戦車や自走式榴弾砲。更には攻撃ヘリまで陸軍系に所属、或いは使用されてきた備品なら何でも新品で魔力生成出来る能力。軍用機ならば民生品ですら生成可能だが、食料などは一切生成不可。
召喚と違い生成なので作り出したあとは形状を保っていられる。なお、使わなかったり使った銃や弾薬などは魔力化して収納可能。ただし形状を記憶する魔力なので統合・再利用は不可。
メンテナンスは魔力の補充による部品の新品化により修理可能。
燃料は基本的に搭乗者の魔力から吸い取ってでしか起動出来ない。しかしこの機能は、寒冷地でも燃料が魔力なので凍結する心配が一切ないという利点を生み出す。
弾薬、兵器共に元いた世界に準じており扱える弾薬はそれぞれ生成され選択も可。排出後薬莢は魔霧として消える。自分に戻る事はない。
変化なし。大丈夫そうだ。
俺自身微妙だと考えていたものの以外と使えるからな。現代兵器ってのは。
元々ミリオタなんて柄じゃないんだが中学の頃に狂ったようなミリオタがいたからそいつと連絡とりあってたせいで伝染しちまった。今という状況では奴に感謝しなきゃな。
さて。次は固有スキルの確認といこうか。
固有スキル
詳細
・貪欲な歩兵
歩兵の中でも最高峰の技術を駆使するスキル。跳弾させて敵を倒すことや銃の素早いリロード、狙撃銃の有効最大飛距離を800mから2kmに延長する、正しい持ち方による精度上昇、ミサイルの攻撃力上昇、歩兵兵器の技術向上など利点は沢山ある。弓にも使える。勿論だが初期だとせいぜい教科書どおりくらいでしか不可能。人外染みた戦い方も出来るが、このスキルの利点はあらゆる種類の銃などの歩兵兵装や体力などを短期間で上達させることなので過信してはいけない。ただし近接戦闘での戦闘力などがガタ落ちするハイリスクハイリターンな常時発動スキル。
・抹消迷彩
迷彩服を着た状態でなくても俺が戦場だと思えば気配を消して不意をつくことが出来るスキル。魔力を使用しないので感知するのは至難の技である。熟練の魔導士ならば見破れるが精神が落ちついていれば十二分に隠れられる。逆もまた然り。
狙撃意外にも役に立つ任意発動スキル。
・現代の西部劇
ガンプレイが出来る。但しリボルバーのみ。
それだけ。常時発動スキル。
こんな感じだな。
いきなり初期段階から銃を使えるようにはしたけどコレじゃあウラルに怒られると思って近接戦は一切出来ないようにしてみた。
ちょっと後悔してます。はい。
「スキルも能力も確認した。次は武器の生成だな。何を出すか迷うな」
いくら緩やかな斜面といえども木が林立している山奥。
普通ならサブマシンガンだがモンスターに有効なのか?サブマシンガンっていやぁ相手を制圧して無力化したりする為に使われることが多いけど小径弾なんぞであの鶏が倒せる気がしない。MP5なら9×19mm。MP7なら4.6×30mm。
どちらにしろ効率的に殺す事は無理だ。
というかこんな狭くて泥臭い場所なら拳銃でいい気がしてきた。マグナムでも撃って怯ませた方が早いし、そもそも俺のスキル『現代の西部劇』の役目はこれにある。
「リボルバー銃でガンプレイといえば初代コルトSAAだが俺は最新式大好き人間。銃はレイジング・ブルModel500。弾薬は500S&W弾60発分で生成!」
メニューに生成開始の文字が表示され粒子のような光がレイジング・ブルを生成していき、その横には既に500S&W弾が60発分ポンと置いてあった。どうやら弾薬はかなりの速さで生成出来るが銃本体は時間がかかるようだ。生成されたレイジング・ブルを握りしめた瞬間、使い方が全て頭の中に叩きこまれ4分ほど頭痛が続いた。
頭痛が治まり使い方が全部わかったところで弾倉に500S&W弾を詰め込んでいく。
「目標はあの木。弾は6発。やれるよな!」
森にシングルアクションで放たれた銃弾6発の音が鳴り響く。
木は貫通していないものの命中精度は悪くなかった。この後ダブルアクションで素早く早撃ちしてみたが案外命中精度はいいようだ。
もうここまできたら欲をだして・・・いいよな?
「レイジング・ブルを生成!」
レイジング・ブルをもう1つ生成して二丁拳銃にしてみた。
一応左手での使い方もさっき叩きこまれたから大丈夫だとは思うんだけどさ。やっぱ怖い。
500S&W弾を二丁持ちだぜ?正気じゃないとしか言えない。だがそれをスキルでこなせるかもしれないんだ!色んな意味で人外なめんじゃねぇぞ!
一応リロードはしておくが、ついてきたキーでハンマーをロックをしておく。
俺はまず撃つ前にスキルを使いガンプレイをしてみた。今までやった事すらないというのに最初からプロのように出来る。調子に乗って更にリボルバーを高速回転させてみたが落ちる様子はない。
よし。やるぞ俺は!やってやるんだよ!
「12発だ。いいか?今度は12発だ!」
出来たぁぁぁ!
そんでもって今更だけど俺の声が若干変わってる!これはいける!いけるぞ!これで撃てれば最高じゃないか!
再びリボルバーを高速回転させ、上手く革ジャケットのポケットにリボルバーを入れてから誰もいないはずの森の先に言い放つ。
「邪魔が入った!また会お・・・う⁈」
そう。誰もいないはずだった。
そこには俺の知ってる狼よりも大きい謎の狼が唸りながら近づいてくる。しかも一匹じゃない。三匹、いや四匹いる。
二丁ともロックを外してレイジング・ブルの銃口を向けたが正直なところ、勝てる気がしない。
スピードローダーでも生成しておけばなんとかなっただろうか。いや、どっちにしろ無理だな。うん。
「お疲れ様でしたぁーーっ!」
俺は斜面を一気に駆け下りると狼も同じように走って俺を追跡する。
先に駆け出した俺にアドバンテージがあるとはいえ、相手は自分よりも大きい狼。逃げ切れるとは一切考えていない。だからといって何か思惑があるのかと聞かれればノープラン。
ただただ、走り続けるしかなかった。
狼はというと四匹全員が同時に俺を追いかけてきていた。
狩りに慣れているのか典型的なチームワークで取り囲みつつ気づけば逃げ場を絞られ最後尾で追いかけている狼が狩れる位置にまで持ってかれていた。
「こんなところで食われてたまるかよ!」
俺は半ば自棄になりとんでもないことを口走ってしまっていた。
「FGM148ジャベリンとマルヒトを装填状態で生成!どちらも2発分だ!」
装填状態で生成されていく悪魔の兵器。
FGM148ジャベリンはアメリカで開発・配備されている新型の歩兵携帯式多目的ミサイルである。一般的には歩兵携帯用の対戦車ミサイルということで知られている。
マルヒトは日本で開発された同様の対戦車ミサイル。民生品を使い経費が安いし威力もまあまあ。それでも軽量化していて反動が少ない。
「こんがり焼けた肉にでもなっちまえ!」
急に立ち止まり先に生成されたFGM148を構えると無意識に操作していつの間にかダイレクトアタックモードになっている。だが狼は止まらない。
俺はロックオンすると躊躇することなく追いかけてきた最後尾の狼に向かって対戦車ミサイルをぶっ放した。
成形炸薬弾はHEAT弾とも呼ばれその威力はトップアタックモードならば戦車すら破壊できる。装甲車程度でもあっさり破壊できる軟目標向きの兵器でもある。
そんなものを至近距離で撃てばどうなるか?
「うぉぉぉ⁈」
爆風で吹き飛ばされ大火傷は確実である。
狼は吹き飛び杉田も生成した残りのミサイルと共に山の下にまで転がり落ちていく。
狼達も爆風に巻き込まれ離散。山の中腹では大きな爆発で地面が更にえぐれていた。
「いつつ・・・ここは?」
俺は吹き飛ばされたあと、気絶していたらしい。目が覚めた時は生成したミサイルと共に運良く山を下っていた。
顔に火傷を負ったはずだがいつの間にか治り大丈夫そうだ。
それより不思議なのはジャベリンの信管だ。なぜ至近距離で爆発した?今考えれば至近距離では爆発しないよう信管が内蔵されているはずだが何故か爆発した。それとも至近距離とはいえないとミサイルが判断したのか?
今更どうでもいいか。
「そういえば対戦車ミサイル出したけど魔力はどれだけ残ってるんだ?」
鑑定スキルを発動して確認したところ残魔力は4分の3以上はあった。あれだけ強力な兵器を出してながら魔力が残ったのだから俺には相応の潜在魔力がある・・・多分。
俺は起き上がって近くにあった綺麗な川に移動して一休みすることにした。
これからどうするか考えなくては。
「あー久しぶりの水だ。喉乾いてたから助かった。顔の火傷も大丈夫みた・・・あれ?顔が変わってる?」
川の水面に映る俺の顔はいつの間にか綺麗になっていた。今までの俺と比べたら分からないほど顔が変わっている。声が少し変わったのもそれが理由か。
「なんか・・・似ている気がする。どっかのアニメのボスに」
髪の色は白髪で少しボサボサ気味。顔はすっきりしている方で目は少し細め。見方によっては少しキザな性格をしてそうだが違う。ただ身長は全く変わっていないみたいだ。
それよりも何もしないのはまずい。不老不死と言えども腹は減るし喉も渇く。
鑑定スキルのメニューから軍用水筒を二つ生成し水を汲んでしっかりキャップを閉めると同時に自衛隊の偵察用バイクも生成した。
「自衛隊偵察バイク。川◯重工業製のKLX250を軍用にしたタイプだっけ。確か速度は時速130前後で燃費は・・・」
確認したところ残魔力で連続3日分走らせることができるようだ。
鑑定スキルを閉じてKLXに跨ると使い方がまたもや叩き込まれた。さすがの俺でも毎度この頭痛は苦しい。今度から新しい武器を出す時は注意しよう。
そう決心した俺はジャベリンとマルヒトを魔力化して収納するとKLXのエンジンをスタートさせ道無き道の草原を走り出した。
いつも沢山のPV・ユニークをありがとうございます!
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