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天国から追い出されて不老不死  作者: ラムネ便
公爵の仕事は大変です
18/91

後片付け

 光。それは雲の上でもなんでもない、窓から差してくる朝の太陽。瞼を閉じていても、それは入り込んでくる。

 ウラルと話したあの場所から、意識を失った俺が寝ていたのは見覚えのあるベッドの上。少々小汚いが、フカフカで隣には何人かの兵士も寝ている。


「・・・戻ってきたのか」


 ベッドから降りて窓から見える景色を眺めながら伸びをする。どこからか骨がパキパキと鳴っているが、昔からあまり気にしてない。


 ベッドに横になってたってことは誰かが運んでくれていたみたいだな。戦闘していたのは昼過ぎだったから俺は半日くらい寝ちまったのか。

 ベッドに運んでくれた奴を探して礼を言っておかないといけないな。


「このバカ弟子がァァ!」


「師匠ォォ!」


 外で訓練している風景が見えたので階段を降りて兵舎の出入り口近くで見ていると、魔法と魔法の激しいぶつかり合いがみえた。

 他の兵士達はというと、何故か賭博をしていた。多分どちらが勝つかという賭けなんだろうな。


 ただ、注意しなければならない点が幾つかあるみたいだな。賭博は・・・まあ許してやるとして、模擬戦にしては暴れすぎだ。激し過ぎて兵舎の何箇所かが、少しずつ壊れていってる。


 流石に止めないと。だって明らかにヤバイ魔法を発動してるんだもの。もうこれはアレだな。流派○方不敗だ。二人の言動も完全に師弟関係みたいだし。

 それよりも、あのジイさんはいつの間にいたんだろうか。いや、まずは止めさせないとまずいな。ちょうど今、俺の右に設置されていた兵舎の武器庫が吹っ飛んだ。


「行くぞバカ弟子!」


「俺は今度こそアンタを超えてみせる!」


 弟子は槍に炎魔法を纏わせ、常人では扱えない程の大きさにまで魔力を使って槍を巨大化。それに伴い纏わせている炎も先ほどよりも全体的に強化していく。

 師匠は土魔法で巨大な腕を作り出し、硬化魔法で簡単には崩れなくした。


「総力魔法!スワロー・スピアー!」


「全力で来るがいい!貴様の全てをぶつけるのだ!」


「とあぁぁ!」


 弟子が駆け出しスワロー・スピアーを師匠の土の腕に特攻していく。

 そのときの弟子は、まるでツバメが炎を抱きながら躊躇を捨て、その一撃に全てを賭けるかのような姿だった。


 ぶつかり合う瞬間、全身の力を一点に集中させ雄叫びをあげながら、今度は魔力をガンガン流し込んでいく弟子。対して師匠も声を上げてその一撃を受け止め、土の壁である巨大な腕を維持する。


 しかしその余波は、兵舎に甚大な被害を起こし、武器庫どころか食糧庫やら何やらまで様々なものを吹き飛ばしていく。


「だからおまえはアホなのだぁ!」


「クッ!だが俺はまだやれる!アンタを倒すまで俺は倒れない!倒れる訳にはいかないんだっ!」


「ならば、ここでワシが引導を渡してくれようぞ!」


「双方止め!」


 その声に気付いたのか、戦闘をやめる二人。

 周りで賭博をしていた兵士達も立ち上がり、声の主に敬礼する。

 声の主は兵士長。近くにいた俺は、手を後ろに組んでゆっくりと歩いていき兵士達の前に立つ。


「リビングデッドが片付いたからといって調子にのる暇があるかッ!賭博に関しては何も言わないが、戦闘のせいで傷ついた兵舎の被害をどうするつもりなんだッ!このバカどもッ!」


 黙り込む兵士達。だがここでしっかり言っておかなければ、いつまたやらかすか、分かったもんじゃない。


 修繕費も無料ではない。日本ではない、この国の制度は知らないが、いくら国が受けもっている街とはいえ修繕費程度だろう、と侮ることは許されない。


 仮に全額出して貰えるのであれば、どれだけ国家が裕福なのか、そしてどれだけ貧富の格差が広いのかがよく分かる。

 せいぜい出して貰えるのは数割の補助金程度だ。


「若いクセに調子のりやがって・・・」


「ほう?そんなことを俺に向かって言うか」


「ああ言うさ!お前みたいなぽっと出の奴に言われたかねぇんだよ!こちとらお前より長く生きてんだよ!」


「・・・なら出て行け」


「は?」


「出て行け。お前のような奴は士気を下げるだけだ。俺のことを信用出来ないならば部隊から直ぐに出ろ」


「このクソガキ!」


 40代くらいの兵士は他の兵士達の制止を振り切り、水魔法を俺に放った。しかしそれは俺の雷撃装甲を貫通することなど出来ずに消失する。

 憤りしか出さない兵士に対して、制止させようとする兵士達はまともな方だ。


「もういい!俺はこんな部隊やめてやる!後悔するのはお前だからな!」


 備品を叩きつけてその場から離れていく兵士。このような流れで言うことはない。もし本当にやめたいと思うのならば、奴についていくはずなのだから。

 だが奴以外、誰一人抜けることはなかった。一人一人の目を見たが、その目に迷いは一切ない。


「お前らの判断は正しい。大切なのはこの街だ。自分自身だけの為に働くわけじゃない。だがやり過ぎは気をつけろよ」


「ハッ!」


「よし。じゃあまずは片付けから始めるぞ」


 さっきの戦闘でバラバラになった瓦礫を部隊全員で集め始め、運搬には兵舎の倉庫で眠っていた猫車を活用。そして兵士達と汗をかきながらの作業。作業中に話しかけてみると中々面白い人達ばかりだった。


 美味い酒を知っている中年のおっさん、賭け事において強運を持つ若者兵士達、太り気味でありながら汗をかくと一瞬でイケメンに早変わりする変わり者。


 懐かしい。こんなクラスメイトがよくいた。馬鹿やって、試験日に勉強できる奴の家で猛勉強して、帰り際に買い食いして帰る。当たり前のような友人は、もういないと思い込んでいた。

 だが転生した先でも同じような人達は沢山いた。

 こういう人生も、悪くないかもしれないな。


「あー!ちょ、コレ!公爵様!」


「どうした!ゴキブリでもいたか⁈」


「ゴキブリもいましたけど!それより見てください!このブレスレット!」


 倉庫から這い出てきたのは埃だらけで倉庫から予備のスコップを探していた兵士と何匹かのゴキブリ。

 ゴキブリは無視して、兵士が持っていたのは豪華な装飾が施されたブレスレット。宝石をふんだんに使ってはいるが、誰のものか全く分からない。更に言わせてもらえば、これが本当の宝石を使っているかどうかすら怪しい。


 とりあえず預けておいて、後日鑑定出来そうな場所で鑑定してくれと頼んでおいた。

 鑑定スキルがあるにはあるが、使えるのは未だに俺のステータスだけで他の鑑定品とかに対しては全く使えない。


「アーーーッ!」


「ゴキブリがいるぞ!誰か呼んで来い!」


「うるせぇ!ならここで吹き飛ばしちまえばいいんだよ!行け!バーニング・チキン!」


「「コケーッ‼︎」」


「出し過ぎだ馬鹿野郎!集めた瓦礫が吹っ飛ぶ!」


「やめろ!離せ!俺はこの世から駆逐するんだ!一匹残らず!」


 外の方にゴキブリが行ったか。

 なんか物騒な魔法使ってそうだけどチキンとか言ってるから大丈夫だろ。


 と、思った瞬間に派手な爆発が起きた。

 何人かの兵士達と様子を見に行くと、そこにはゴキブリの羽の欠片と爆発に巻き込まれた二人。そしてホカホカのチキンが5個ほど置かれていた。

 仕方ないので医務室に運び出し、散らかった瓦礫をもう一度集めなおす。

 何をしでかしたかは知らないが、あとで聞き出させてもらおうじゃないか。チキンの理由を主に。


「兵士長!この錆びたやつ、どうします?」


「ああ。そのナイフは処分していいぞ。もう誰も使わないだろうし。欲しいか?」


「要らないですけど、研ぎ直してフリーマーケットにでも出せばどうです?」


「それがいいな。そのナイフ、研ぎ直せるか?」


「出来ます。やっておきますね」


 どうやらこの街では錆びたナイフですら、研ぎ直してフリーマーケットに出しているようだ。俺が元いた世界に見習ってほしいものだな!大量生産大量消費の時代は古い!これからはなんでも直して使うべきだ!


 ん?待てよ?ナイフ?何か大切な事を忘れているような・・・気がする。思い出せ!俺の頭!


『出来るだけ持って帰ってきてくれないか?』


 思い出した!伯爵のナイフだ!持ち帰らないとガッカリするから・・・アレ?俺、そういやどこやったっけ?


 一旦整理しよう。

 俺は奴らを一網打尽にするために誘導雷を発生させたかった。だから共鳴用の避雷針としてナイフを地面に突き刺して高出力の電力で使用した。

 次にレイデールと戦闘になって、そのまま気絶して、いつの間にかシラルの街に、誰かに運び込まれていた。


「ぁああああ!ヤバイ!あのまんまだ!早く回収しないと伯爵に合わす顔がない!」


「公爵様。どちらへ?」


「兵士長!廃村に武器を忘れた!持って帰ってくるまで指示を頼む!」


「承知しました」


 久しぶりにカワサキのKLX250を再生成。跨ってアクセルを思い切り回し、エンジンフルスロットルで回転させ廃村まで全速力で走らせる。


 別に回収される心配があるわけじゃないけど、万が一、誰かに回収されていては困る。伯爵に仕方ないという言葉を使わせてはならない!


 頼むぜエンジンちゃん!廃村まで距離はたいしてないけど急がないと分からないんだ!

 フルスロットルだろうとお前ならできる!やれると信じている!廃村まで持ってくれ!


「行っけぇぇ!」


 一方、廃村ではコレンがシラルの住民に頼まれた家具の運び出しや、その護衛を手伝っていた。

 老人から子供まで、運び出せるような人材は全員駆り出された上での引越しのようなものであり、コレン自身も重い荷物などは一緒に家から出すのを手伝っている。


「この辺りでいいですか?」


「はい。そこにお願いします。あとは私達がなんとかして持って帰りますので」


 こんな時にアイテムボックスがあればいいのだが、残念なことに冒険者ギルドから脱退した人間はアイテムボックスを返納しなければならないのだ。


 ハインドはEXランクという規格外な存在故、国とギルドの両方が身分を保証してくれるという高待遇だが、通常のハンターや冒険者は騎士団に入る際には、ほとんどが脱退してしまう。これはギルドマスターが止めた理由の一つだ。

 実際は脱退しなくても大丈夫ではあるが、冒険者ギルドとしての身分証明書より、国が発行する身分証明書の方が信用度は断然有利で保険に二つ共持っていても、怪しまれるのがオチだったりする。


 コレンの場合、脱退して騎士団に入ったので返納義務はもちろんのこと、冒険者ギルド所属の人間としての身分証明書も破棄される。

 代わりに騎士団名簿に登録すれば、身分証明書を直ちに発行してもらえるのだ。


「公爵様の武器も全部回収したし、問題はないよな。それにしても・・・」


 コレンが向いた先には大量に破壊された木々があった。

 その先にある、今まで見えなかった墓場はところどころ穴だらけの墓石だらけで破損しているものもあり、どれだけ激戦だったかが伺える。


「公爵様も派手にやったな。相手が相手だったとペンデュラム公爵が仰っていたが・・・」


「そこをどけぇぇ!」


 その叫び声と共に謎の轟音が迫る。

 コレンの頭上をすり抜け、横滑りしながら着地してきたのKLXに乗ったハインドだった。

 エンジンからは煙が出始め、ハインド自身は冷や汗をかいている。


「あっぶねぇ!エンジンブローかよ!後輪が滑り始めていたからやばかったな・・・。つかあの状況からジャンプ出来た俺がこえーよ」


「公爵様!」


「コレン?なんでここにいる?」


「町長から頼まれ、住民の搬出護衛を行っていました!武器の回収も完了済みです!」


「武器の回収に関して、俺は命じてないが?」


「搬出護衛の休憩時間に回収しました!公爵様はあのとき出血していましたので、回復に時間がかかると判断しました」


 コレンがだんだん犬に見えてきた。

 ここまで状況判断して搬出護衛を引き受けた上で、武器回収までやってくれる、その心意気がいい。そうじゃなかったら騎士団から外してる。


 しかし、コレンが渡してくれたナイフとレミントンは、幾つか破損している箇所があり直ぐには使えなそうだった。

 レミントンは魔力充填で何度でも修理して使うことが出来るが、ナイフの内二本は無事なものの、一本は何かの弾みで曲がってしまった。ドワーフの事はよくわからないが、仮に武器作りの職人だとするなら、彼らですら苦労して作るのだから時間がかかるのだろう。


 今回の戦果としては、弾薬とレミントン、ナイフ一本を失った。が、代わりに誰かがレイデールを倒してくれた。結果オーライだな。


「搬出は全員分、俺がやるよ。リヤカーだけじゃキツイだろうし」


「公爵様がですか⁈いえ、全員は流石に・・・」


「そうだな。リヤカーだったらな」


 久しぶりにトラック系統を生成してみるか。家財だから、それなりに積載量がある物にしなければ重量過多になり輸送すらできない。

 米軍トラックもいいが、今回は安心と信頼の日本製が好ましい。だが今まで俺が生成してきた73式小型トラックでは積載量がない。

 ならアイツが要るな。震災の被害を受けた車両で唯一稼働し自衛隊最強の足となっているアイツ。


「安心と信頼の自衛隊!そして我らが某有名日本自動車企業が作り出した最強の輸送車!73式大型トラック。またの名を3トン半トラック!」




いつもPV・ユニーク、ありがとうございます!

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