プレゼント
ここはどこだ?俺は・・・確か森で轟雷を使って・・・どこから分かんないけど、血が流れて目の前が歪んで・・・。
「ーーーーー。ーーー」
「ーーー。ーーー」
人の声が聞こえる。それも大勢の声だ。俺は死んだのか?いや、間違えた。死なないんだった。
ということはここは天国ではないわけだ。絶対。
ではここはどこなのか?何となく分かるのは何かに座ってうつ伏せになっている状態にいることだけ。声からしてコレンでも、ましてや兵士達でもない。
暫くするとガラガラと聞き覚えのある音が聞こえてきた。人がドアから入ってきた音だ。それもスライド式の。横からはキュッキュッとリノリウムの床を走る音が聞こえる。
高いチャイム音が鳴り響き、革靴で床を歩く音が響く。
「よぉし。席に着けぇ。今日から測量の問題に入る。数Ⅰの12ページを開いて。先ずは宿題の問題をここで解いてもらう」
「せんせぇ!杉田君が寝ています!」
「おい。誰か起こしてやれ。授業についていけなくなっちまうぞ」
「それはそれでいーんじゃね?」
俺を笑う声がどっと周りから同時に聞こえた。しかし杉田君と俺を呼ぶ奴は教室には居なかった気がする。声も俺が知っている奴らがいない。
それに俺は寒がりではなかった。教室でクーラーがガンガン吹かれてるってことは夏場。その中で長袖のワイシャツを着ている。もしも今、この場て寝ている俺が当時の俺ならば嬉々としてクーラーに当たっていたはず。
急に視界が開けた。俺の意思で顔を上げたわけではない。勝手に上がった。
そこに広がる景色は既視感があった。数学の鬼教師。一番後ろの席に座っている俺。こちらを向きながら笑う見たことのない友人達。何もかもが昔の状態に近い。
だけどそれは、あくまでも近いだけだ。俺が知っている友人達は俺を起こすときにわざわざクラッカーを鳴らしたり、爆弾の音をセットしたスマホを用意してきていた。
「あーすいません。最近寝不足で」
「しっかり寝ないと中間で点数取れなくなるぞ!しっかりしなさい!」
「さーせん」
「では始める。測量の問題は一見難しいように見えるが・・・」
今度は勝手に手が動き始めた。聞く気なんて全くないはずなのに、黒板を見ながらノートの白紙を色鮮やかなボールペンやシャーペンで蹂躙していく。授業中、誰かが冗談を言う様子もなく黙々と手を動かし続けていた。先生もクラスメイトも、そして俺も。
暫くすると先生が解説と宿題に出していたとする問題を一人ずつ解かせていく。だが問題数的に俺に当たることはなかった。その後に間違えた問題の解説が始まる。これは変わらない。
いつの間にか時間は過ぎ去り、チャイムが鳴る。号令をかけた後、何人かのクラスメイトが鞄を持って移動する。俺は再び寝始める。
だんだん変な気持ちになっていく気がした。自分は最初から夢を見ていたんじゃないのかと。
そういや昔、こんな話を誰かから聞いたことがあったな。ある男の夢の話だ。
男はある日、蝶になって空を優雅に舞う夢を見た。起きてみたら、それは人間の、自分の姿だった。男は思った。自分が蝶になった夢を見ているのか?それとも自分になった夢を蝶が見ているのか?
ああ駄目だ。こんなことを考えるな。余計あのことが全て夢だと思っちまう。
いや、そんはずはない。今までのことが全部夢?魔法も、リビングデッドも、コレンのことも?
ありえない!俺は不老不死だ!天国にも地獄にも行けない人間だ!
「俺は認めん!認めんぞ!全てが夢だったなんて絶対に認めない!」
声に出た。もう決定だ。今までのことは全て夢だったんだ。全部。何もかも・・・。
「あはははは・・・変な夢だったなぁ」
涙を流して目を閉じた俺は・・・何故かそのまま開けなくなった。
は⁈ヤバイヤバイ!なんだこれ⁈どうなってんだこれ⁈
「イテェッ⁈」
ロッカーの角にぶつかったのか、あまりの痛みに我慢しきれず呻く。
すると急に痛みがなくなった。ゆっくりと目を開けると、そこに広がっていたのは夕陽に照らされた雲の上に寝ていた。目の前には両腕をTのように広げて俺に近づいてくる、見覚えのあるイケメンがいた。
「ねぇねぇ今どんな気持ち?今までのことが全部夢だと思ってどんな気持ち?ねぇねぇ今どんな気」
「死ね」
「おほぅ!」
すかさずリボルバーで奴の眉間にマグナム弾を撃ち込んだ。
しかし思い切りよく吹き飛んだというのにまだ生きているみたいなので、立ち上がってもう1発お見舞いした。
「ねぇねぇ今どんな気持ち?俺にマグナム撃たれてどんな気持ち?」
「凄く・・・大きいです」
「ならとことん喜ばせてやるよ」
リロードして何発も撃ち込んでいくが、傷が瞬時に治っていくので弾の無駄にしか思わない。
まあ、とりあえず108発は撃ち込んでやった。煩悩よ。消え去れ。
「108発も撃ったね⁈親父にも撃たれたことないのに!」
「撃って何故悪い!だいたいお前の所為だろうが!精神病みかけたわ!」
「いいじゃないか。減るもんじゃあるまいし」
「良くない!つかあれは一体何なんだ?」
「ん?あれは『君が壊した世界が修復されたあとに出た君』だよ。つまるところの代役ってわけ。君が見ていた世界が今君の役割を果たしている彼の目線なんだ。勝手に同期しかけたから強制的に切り離したけど」
「じゃあ転生と不老不死は夢じゃないんだな?」
「夢っていうか罰だよ」
笑い無しの真顔で言われて何故かほっとしてしまった。でも助かった気もする。
今までのことが全部夢じゃなくて良かった。
それと俺の代役が意外と頑張ってくれていたのは感謝するべき点だな。ありがとう。今日からお前と俺で『杉田 啓』だ。
・・・ん?待てよ?ってことはだ。俺の代役は俺が歩んできた人生とは若干違うってことだよな。
まさかとは思うけど俺、親が・・・
「よく短時間でそこまで行き着くもんだよ。そう。君の親と代役君の親は違う。似たような人生と容姿、両親を持っていてもストーリーや遺伝子上では全く違う」
「俺の血縁者はゼロってことか・・・」
「君の遺伝子は残さなくても常に存在し続けるけどね。なんならさ。作ればいいんじゃないの?」
「作れば?」
「うん・・・まあ、アレだよ。アレ。規定的に言えないから言葉にはしないけど」
規定的に言えない・・・?何を言っているんだこいつは。
遺伝子、血縁者、親・・・は⁈
「まさかこづ」
「シャラップ!これ以上は言わない!」
口を強制的に抑えて俺の言おうとした言葉を飲み込ませるウラル。流石に下ネタなので言えるわけもなく、やめておいた。だがそれ以前にパートナー自体の確保がまず無理だろうよ。
仮にウラルの言ったことを『人◯の森』で例えるなら、人魚の肉を食って偶然にも不老不死になった男と普通の女が結ばれたとしたら結果はどうなるか?ということを聞いている事と同じだ。
女は老い、男は若いまま。結局自分より先に周りが次々と死んでいく。そこには情け容赦などない『時』という存在がある。『時』は誰の干渉も受けない。誰にも止める事は出来ない。無慈悲に親しき人を奪っていく。
通常の人間から見れば一つの生命の終わり。いずれは灰になり、骨壷に入るのが運命。それは絶対に変わらない。
だが不老不死はどうか?
人の域を超え、普通の精神なら死ぬことを望む。だから様々な作品で殺してほしいと嘆願する人物が溢れている。
今のところ俺は死にたくないけどな!
「いきなりだけどさ。悔いのない人生って存在すると思う?ハインド君」
「なんだよ。藪から棒に」
「僕も好き好んでこの仕事をしてる訳なんだけどさ。実は僕も元は人間でね。悔いのない人生を送ろうって思ってた時期があった」
「へぇ・・・」
「あ、信用してないな?その顔!」
「ダイジョブヨー。シンライシテルアルヨー」
「エセ中国人かっ!まあいいや。で、昔読んだ異世界転生の小説を読んで感化しちゃったんだ」
「馬鹿だな」
「馬鹿だったよ。『前世では何もできなかったから悔いのない人生を送るんだ!』っていう主人公がいて無双する話だった。好きだったし評価が低くても気にしなかった。でも・・・」
「でも?」
「気づいたんだ。悔いのない人生って存在するのかなって。それを目標に生きる主人公は悔いのない人生を送れるのかなって」
「・・・生きるうえで最も偉大な栄光は、決して転ばないことにあるのではない。転ぶたびに起き上がり続けることにある」
「南アフリカ共和国政治家、ネルソン・マンデラの言葉だね」
「んだよ。知ってるのか」
「これでも文系最強王者だったからね。確かに悔いのない人生を送ったら、それは人生なんて言わない。人生はいつだって後悔の連続。乗り越えなきゃ強くなれない」
「だな」
「と、いうわけで僕の悩みは解決しました!ハインド君にベストアンサーを差し上げます!」
「知恵袋かよ」
「ベストアンサーのお礼として、真能力の覚醒を行います!ついでにチップ150枚追加!」
ウラルが指をパチンと鳴らすと俺の背後に巨大な扉が現れた。それこそRPGで出てきそうな、ギガンテスとかが出入り可能な大きさだ。
ゆっくりと扉が開き始め、とてつもない光が周辺を照らしていく。光を避けようとして正面を向くとウラルがサングラスをかけていたのでぶんどって装着。本人はラピュ◯王みたいに呻いてるけど気にしてはいけない。
「目がァァーーッ!」
気にしてはいけない。大事なことなので二回言わせてもらった。
サングラスを通して見えたのは光り輝く扉から出てきた現代風の戦闘服のような格好を纏った男。顔にバイクゴーグルを付け、かなり大型の西洋人といったところ。身体は常に帯電し、歩くたびに何か人間ではない音が聞こえた。
近づいてくると同時に、その人間らしからぬ音は大きくなっていく。その音はまるでモーターの駆動音。動きは人間に近いが、明らかに、全く違う何かだということだけは理解した。
「・・・新しい。新しいな。お前は誰なんだ?」
「俺は杉・・・ハインド・ウォッカだ。よろしくな」
「・・・なんだその手は」
「握手だろ」
「個体メモリーに記録無し。学習記録保存。記録名『握手』」
待て待て。なんだこいつは?学習記録?個体メモリー?言動が人間じゃないだろ。いや駆動音してる時点で人間じゃないけどさぁ。
アンドロイドか?いや、それにしては言葉が流暢すぎる。俺のいた世界だってスマホのアンドロイドはいたが、リアルなヒューマン型アンドロイドなんか見たことがない。もしかしたらサイボーグなんて可能性もある。
どっちにしたって見たことがなければ行き過ぎたテクノロジーにしか見えないが。
「彼は元、雷の守護龍。通称はエナクト」
復活したウラルが彼を紹介するように間に割って話してきた。彼はまだメモリーに記録しているのか動く様子はない。
ちなみにウラルはやけにニッコリしながら紹介してくるので多分サングラスのことを恨んでいる。俺はシラを切ることにした。
「通称?」
「彼の本当の名前はENEACT-1450。自立式AIを積んだ、いわゆるアンドロイドってやつだよ。レーヴェリーアでは珍しい存在だね」
「レーヴェリーアでオーバーテクノロジーが進んでいたのか⁈」
「まさか。彼は奇跡の産物だよ。アンドロイドって名前では言うけど、誰かがかっこつけで型番を入れて、精霊を人形に入れてみて自我を持つゴーレムを作ってみたらそうなっただけの話さ。別に他意があって出来たわけじゃない」
「だったらあいつからなんでモーター音が?奴はゴーレムなんだろ?機械人形じゃない」
「・・・そこに関しては神様しか知らない。僕はあくまでもストーリーに沿うように助言と宣告することぐらいしか出来ないんだ。ただ、神様が与えた能力は異質だと思ったよ」
「異質?」
「前に能力覚醒の内容について教えたよね。オーパーツって」
「・・・まさかとは思うが、テクノロジーか?」
「察しがいい君なら流石に分かるよね。そう。神様は並行世界に存在する古代から人類史が存続しているかどうかすら不明な時代まで、彼にオーバーテクノロジーの全てを与えたのさ。その結果、彼は自身の身体を機械化した」
オーパーツとしてのロストテクノロジーだけじゃなく存在しているのかどうかすら、あやふやなオーバーテクノロジーも含まれているとかヤバすぎやしないか?
よくもまあ今までエナクトが使わずに済んだもんだよな。
「記録管理、終了。自己の証明から開始する。私の名前はエナクト。レーヴェリーアの元雷の守護龍である。私は貴殿に技術・・ケイ・・・するヒツヨウが・・・ヨッテ・・・チニ・・・カ・・・スル・・・」
あとからだんだん声が掠れて聞こえなくなっていくエナクト。いきなりゴーグルが割れて下に落ちると、その素顔が見えた。人間のような人工皮膚みたいなものに覆われた奥には水色に光る目。まるで映画のシュワちゃんそのものに近い。
エナクトが腕を上げ俺の頭に触れた瞬間、帯電している雷が向かってきた。いきなりだったので反応出来なかったが、俺が帯電し始めただけで攻撃性は一切ない。
だが安心したのも束の間。帯電しなくなったエナクトはそのまま膝から崩れ落ち、人工皮膚が剥がれていく。
「サイシュ・・・モクヒ・・・カン・・・リョ・・・ウ」
跪く形で完全停止したエナクト。俺が触れると光となって青空に登っていく。ウラルは手帳を出して何かを書くと、千切って空へと放り投げる。すると光は紙に集まって、どこかへと飛んで行った。
「これで覚醒は終わり。鑑定スキルに詳細を載っけといたから読んでおいてね」
「なあ!エナクトはどうなったんだ?」
「エナクトは魂になって同じ名前の人に転生する準備に入っただけさ。今の紙はその申請書だよ」
「・・・俺もああなるのか?」
「君はならないね。能力もそのままだよ」
「そうか・・・分かった」
エナクトが消えた青空を眺めていると、吸い込まれるような感覚に襲われた。ウラルの方を向くと奴は手を振って見送るように笑う。
吸い込まれる感覚に身を任せ、目を閉じ、気持ちを落ち着かせた俺は、眠りについた。
「さて・・・仕事も終わったことだし。あとは君だけかな」
ウラルが振り返ると、そこには学生服を着た女性がいた。手帳に転生扱いの印を押された書類が浮かび上がり、再び千切って紙を出すと希望する世界や性別などが書かれていた。
「・・・本当にいいんですか?」
「もちろんさぁ!と、言っても君の場合は通常の転生だから、ここでの会話も残らないし、彼と出会うのは彼が不老不死扱いになるまでの過去に行く必要があるけどね」
「いいんです。私は・・・初恋の人に逢えるなら」
「よし。では君の時代を教える。君の生まれる時代はハインドく・・・杉田君が不老不死になる時代のおよそ350年前だ。では、良い人生を!」
女性は穴から落ちていき、ウラルをそれをしっかりと見届ける。
書類をもう一度見ると、そこには女性にとって賭けになるようなことが書いてあった。
「・・・出会えるかどうか。それはストーリーでも分岐点なんだねぇ。まあ、神様はどうするか決まってるらしいけど。さ、焼きおにぎり食べよ」
いつもPV・ユニーク、ありがとうございます!
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