捨てられた人
「アレックドール?」
「この国の隣に位置する国だ。私はそこで占い師として、国の命運を占っていた」
およそ130年前。私はまだ孤児だった頃があった。まともな戦闘技術も、ましてや占いなど知る事など出来なかった。
だが私はある日、謎の閃光に包まれた日から生まれ変わった。人の心を読み、未来を透視し、過去を覗くことが出来るようになっていった。
それから15年後。占い師として私はアレックドールの左大臣の推薦で王族専属占い師として入った。
王族を敵視している貴族の企み。敵国間者の告発。腹心の貴族による汚点の排除。更には国がどのように傾いていき消滅するかまで見据え、80年もの間、王族に専属占い師として助言を与え続けた。
国を想い、王族を助け続けた私は既に王族に護られているのだと驕っていた。
だが人というのは変わっていくものだ。私は王族の汚点を知る者として殺された。それも王族に魅入らせた80年この国を騙した最悪の間者として。
故に私は保険を作っていた。死後、リビングデッドとして蘇るよう時限で設定しておいたのだ。
アレックドールは今、おそらく私が残した数年分の予言書に依存しているだろう。だがそんなものは直ぐに消える。崩壊が間もなく始まる。
「・・・じゃあお前は何のために」
「私はただ、生きたい、と願っただけだ。老いぼれようと、生きる屍になろうと、自分のやり方で間違いを修正する為に」
「ならアレックドールを直接やればいいだけの話だ!シラルの街を攻撃する必要はない!」
「アレはただの実験だ。私の悲願は既に達成している。見るがいい」
ガラガラだった声が一瞬にして澄んだ声になり、ボロマントのフードを脱いだ時、俺は目を疑った。そこには彼の若かりし頃であろう姿があった。
80年すぎてしまえば人間ならばかなりの高齢者の筈だというのにあいつは老いを知らないように若返っている。
俺は若返る前の姿を知っている訳ではないが顔、筋肉、容姿まで何もかもが最初からこの姿であったかのようにそこに存在している。
ウラルがわざわざ俺に排除を命令するのも分からなくはない。若返りの魔法なんて厄介なものは、自然の理から完全に逸脱しているしな。
「これが私だ。自然状態下で魔力生成が可能なリビングデッドを作成し、2年かけて生み出した若返りの魔法!いや、正しくは呪いの類か」
「呪い?」
「この魔法には幾つか欠点が存在する。まず生贄とて死体が大量に必要だ。次に自身が『業』を背負わなければならない。私の『業』は死体への冒涜。そしてシラルに向かわせたリビングデッドによる殺人」
「自分で業を背負った気分でいるのかよ?酔いすぎだな!」
「ならお前はどうなんだ⁈若返りの呪いよりも強い呪いに侵され、強い光と闇よりも深い影を持ち合わせた永遠の命を手に入れている!否!お前自身が歩く呪いだ!お前の業は私よりも深い!」
「っ。それが・・・どうしたってんだよ!」
俺が此方の世界に来る前にウラルの言われた意味。それが今更ながら分かった気がした。
俺一人の行動のせいで、修正はされたのだろうが、俺がいた世界の何もかもが狂ってしまった。
業が深い、か。当たり前だ。俺は人を殺すどころか、様々な生物を完全に『生まれなかったことにした』んだからな。
だがそれがなんだ。俺は偶然とはいえ、新しい尽きることのない人生を与えられた。そしてそこら辺にいる転生した男子高校生に課せられたのは、この世界の崩壊阻止という目的。
正直に言おう。俺はこれほど面白いことを知らない。ハマった。やりたいことをやらなければ損になる!だからまだここにいる。
「ほう。つまるところ、元の生活に戻りたい・・・とは思わない訳だな」
「な⁈」
「生憎、私の読心能力はずば抜けている。なら試してやろう」
レイデールは目を数秒閉じる。そのあと何も知らないはずのやつは俺の趣味を言い始めた。
「ふむ。料理が好きなようだな。更に、なんだこれは・・・ほう。これはゲームというのか。なるほど。そしてそのゲームとやらの内容は・・・」
何だろうか。もうあの言葉しか出てこない気がしてきた。まあ普通に好きなんだけどさ。
「『とき◯モ3』が好きなようだな。内容は・・・なんだと⁈恋愛だと!」
「何か悪いか⁈」
「・・・私が最も忌み嫌うものだ。もうお前の心を読む気になれなくなった。決着をつけさせて貰うぞ」
非リアの怨念とは本っ当に怖いものだ。かくいう俺も彼女なんかいないから分からなくもない。だが同情している暇もない。
トンプソンの弾倉を替えてすかさず奴の身体に撃ち込む。土煙やら何やらで見えなくなるまで追撃の手を休めなかった。だがこれが仇になった。
煙で見えなくなった場所から急に水と炎の球が高速で飛んでくる。瞬発的に回避に成功はしたが、次は360度から様々な属性の攻撃魔法が中心にいる俺に向かってきた。
勘で回避したり雷のシールド魔法を使い防御をしてはいるが、威力の軽減にしかならない。跳弾が使えるような場所ではないので使うことすら出来ない。
しかも相手は速すぎて見えないときた。面倒なことになったな。
「ならここで実験といかせてもらうぜ!雷撃装甲!展開!」
ドーム型に蒼く展開された雷撃装甲はぶつかる魔法の数々を打ち消してくれた。
この雷撃装甲が雷のシールド魔法と違う点は、衝撃波装甲と同様に魔力をこちらの方が消費することと雷撃装甲なら消費する分、攻撃を防いでくれるという2点だ。
どちらかというと衝撃波装甲の待機状態を雷撃装甲として転用している形に近い。
勿論、この状態で戦えば衝撃波装甲として飛ばすこともできるし、まだ試してないけど維持しながらの移動も問題ないはず。攻撃は最大の防御というわけだな!
「っしゃあ!どっからでもこい!」
今の声を聞いたのか、攻撃頻度が高くなり何もない空間から何かが出てくるようにポンポンと発動してはこちらに撃ち込む。
だが雷撃装甲を貫くことはない。当たってから消滅するまで攻撃魔法が貫通した様子は全くなかった。このまま防御し続ければ行けるはず。
だが問題は既に発生していた!
不安になって鑑定スキルを呼び出し残魔力量を確認すると・・・半分を切っていたのだ!
雷撃装甲の展開で奪われる魔力量は守護龍化した今なら大した問題じゃない。
しかし雷撃装甲に当たる魔法の数々は確実に俺の魔力を削り取り、防げる限界を超えさせようとしている。流石はイレギュラー。強い。
だけどこのままじゃ分が悪い。何か考えないと本当に魔力切れするな・・・。
いっそのことやるか。
「こうなったら仕方がない。いいぜ。この際魔力の全部くれてやるよ。雷神術Ⅱ型!轟雷!」
領主戦の際に伯爵の出番を全て奪うほどの広域攻撃魔法『雷神術』。前回は雷神術の連続使用のせいで倒れたが、今回もそうなりそうだ。
全ての魔力を出し切ってでも奴を倒す。不死身なら殺す事は出来ないだろうし時間稼ぎくらいにはなる。
「そこかぁ⁈」
一瞬だけ人影を確認した俺は雷撃装甲を解除し、轟雷を発動。雷は衝撃波と共にランダムに落ちて何かに当たった音がした。
そして両手に垂れてきた血を最後に目の前が歪み、俺はその場に倒れこんだ。
「まさか最後に必中の魔法を使ってくるとは。貴様は確かに俺を倒せなかった。だが・・・」
レイデールが言いかけた瞬間、背後から首にロングソードの刃を突きつけられる。
突きつけていたのはアルス王国公爵、ギルドーザーだった。
「その魔力。第一席のギルドーザーか」
「流石は元お抱え占い師。だが他にもいるんだな。これが」
森の奥から現れたのは沢山の鳥を使役しているベリア。墓の近くからはユキ。空には火龍に乗ったペンデュラム。廃村の外側には結界を張っているノルゴル。
アルス王国の公爵5人が辺境の廃村の解決に向かった一人の公爵の為だけに来ていたのだ。
「レイヴン・シスターズにシャットアウター。結界職人、希世の召喚士。そして獅子皇子。私に逃げ場はないということか」
「そういうことよ。諦めて連行されなさい」
「従わないなら・・・その首を切るだけ・・・」
「だ、そうだ。外にはノルゴル。空にはペンデュラムがいる。逃がさんぞ」
「・・・捕まえられるなら捕まえみるがいい。その時間が私にあるならば・・・な」
ギルドーザーは気づいた。レイデール自身は既に魔力が全くない。今立っていられるのは残っていた生命エネルギーを出しているからだと。
彼を捕まえることは出来ない。その前に灰になってしまう。慌てて魔力譲渡を行おうとベリアが近づき肩に触れた瞬間、割れた石のように腕ごと剥がれ落ちてしまった。
もう完全に手遅れだった。レイデールは気力だけで立っている状態に等しく、死は目前に迫っている。
しかし彼の顔に張り付いていたものは恐怖などではなく、笑い。最後まで遊んだ子どもが友人にまた明日、といって帰るときのような笑い。或いは、役割を果たした。漸く逝ける。そんな雰囲気の笑いでもあった。
「連れて帰れず残念か?アルスの面々よ。私の残骸をどう使おうと貴様らの勝手だが、無下に扱うことは許さんぞ」
「別に要らん。なら畑にでも撒いてやらぁ。作物が良く育つ。感謝しろよ」
ギルドーザーの答えに少しだけ笑うと倒れているハインドの前に立ち、その場に跪く。背中に何かの紙を置き、再び立ち上がると紙はゆっくりとハインドの身体の中に沈んでいった。
「・・・命。それは一際だからこそ美しい。常に強く光り続け、暗い影を持つ業深き者よ。貴殿に幸あれ・・・」
その言葉を最後にレイデールは老いた姿になり完全に消え去った。
ギルドーザーはロングソードを収めるとハインドを担ぎ、ペンデュラムを下に降ろさせる。火龍に死体のようにぐでんとしたハインドを火龍はペンデュラムの指示に従ってシラルの街へと向かった。
「ノルゴル。もういいぞ。解除してくれ」
《了解》
通話魔法を使い、ノルゴルに結界を解除させると結界外にいた馬がやってきてギルドーザーに擦り寄る。撫でてやって背中に跨り、ハァッと一声かけると馬は全速力で廃村の森の奥に消える。
ノルゴルとユキ、ベリアは魔方陣を描いて中心に立ち、魔力を流すと光と共に帰っていった。
その頃、上空では・・・。
「それにしても無理をするもんっすね。魔力を全部使ってまで敵を倒すなんて。こんな真似は俺には出来ないっす」
この人は俺達アルス王国公爵の中でもかなり異質な存在なりそうっす。
この任務はハインドさんの席に座っていた別の貴族が挙兵してまで失敗して、その報告書を成功として提出した任務。いくら馬鹿な貴族でも挙兵して失敗する例は少ないっす。
そんな任務を一人で、しかも挙兵せずに成功させたのだからこの人は凄い人っす。
「あ、もうすぐっすよ!ハインドさん!起きて下さいっす!」
「・・・」
「まだダメみたいっす」
火龍を街の中心部に着陸させ、ハインドをコレンに預けたペンデュラム。周囲の兵士達は火龍に驚いたりしつつも擦り寄られて仲良くなっていた。
町長の家に行って作成が成功したことを伝えると再び火龍に跨り、惜しまれつつ大空へと共に飛んでいく。
一方ハインドは未だにノびたままで意識が無く、伸びたままだった。兵士達によって兵舎に運び込まれた彼はベッドへと移され意識が回復するまでに1日を要した。
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