魔法使用許可
C4を大量に道端にばら撒いてきた翌日。机の上で寝ていた俺は起きてから色々と問題があったことに気づき、絶賛焦り中だ。
まずはC4なのだが、それぞれを起爆できるよう別の無線信管にすれば良かったものを全てが全て俺の手元にあるスイッチ一つで起爆するようにしてしまった。C4が勿体無いが、一度起爆させてから再度ばら撒く必要がある。
次に生成しながら使い方を覚えるという離れ業をやってのけたレミントンM870ショットガンとトンプソン機関銃についてだ。
レミントンM870は使い勝手が良さそうなのだが、リロードの観点から使えるのは暇がある時のみ。
トンプソン機関銃、通称シカゴ・タイプライターに関してだが、普通ならアサルトライフルを使った方が敵を倒すのは早い。何故トンプソン機関銃などにしたのか?
早い話、ただの浪漫で生成した。だからと言って今更変えるわけにもいかないのだ。
だが幸いドラム弾倉が扱えないM1シリーズではないから弾薬を大量生成しておけば困ることはないだろう。
机の上にトンプソンを置きっぱにして、席を立つ。未だに寝言を言ったりしている兵士達を後にして兵舎から外に出ると、綺麗な朝焼けがそこにあった。
日本と同じ太陽。どこから見ても太陽の光は地面と俺を照らしてくれる。それが、例え異世界であっても。
「さあ!やるか!まずはC4の起爆からだ」
C4の起爆無線を持ち西門の近くにいる兵士達を退避させる。
「みぃぃぃなさぁぁぁん!あぁぁさでぇぇすよぉぉぉ!起きろぉぉぉ!」
デカイ掛け声と同時に全部で十数キログラムを超える量のC4爆薬が一斉に大きな音を立てながら地面を抉り、土埃を出していく。これに驚かない訳もなく住民達と兵士達がこぞって出てきた。無論、その後怒られたが。
色々と片付けた俺はリビングデッドの活動時間を調べたいので兵士長や兵士達に任意聴取を行ったところ、中々面白いことが判明した。
なんとも不思議なものだが、リビングデッドは光魔法により機能しているという。これは魔力を感じた数十人の兵士から聞いた話で信頼性は高い。
その上で俺が考えたのは『ソーラーゾンビ論』である。つまりソーラーカー的な感じで自分で魔力を生成できるのだ。
ドラ○エ然り神話然り、この世界でもリビングデッドは自分で魔力生成は不可能。なのに昼間しか活動不可という条件。
仮にソーラーゾンビ論は間違っていれども近いものはあるだろう。
「考察はここまでにして仕掛けをしないとな。今回は無線信管を使うとして地雷は他の人が危ないから・・・」
再び大量のC4を生成して信管を刺しては回し刺しては回しを繰り返し、道端にばら撒いていく。今度は廃村側から街まで計4回分のC4を設置した。勿論、忘れずに無線機も4つ。
あと地雷の代わりと言ってはなんだが指向性地雷のクレイモアを準備した。
廃村の半分の道まで兵士一人に案内してもらいワイヤートラップで起爆するタイプを設置。指向性だから向こう側にしか飛ばない。
条約?知らんな。
「よし。これで時間稼ぎは出来るだろ。んじゃ、帰ろうか」
「このまま向かわれないのですか?」
「んーそれでも良いんだけどよ。お前ら耐えられる?俺が帰って来るまで」
「いや・・・それは・・・」
「つまりそういう訳だ。今日の昼間。リビングデッドを減らしながら進んでいく。どこから生まれるのか見ないといけないしな」
このまま行って欲しそうな顔をしていたが、俺は背中を叩いてノリだけで帰らせる。
ただ、流石に黙っているわけにもいかない。一度町長の家に行って作戦内容や緊急時のマニュアルなどの確認をして、いくつか疑問点がある箇所を質問して潰していくことにした。
「失礼します。ハインドです」
「ハインド公爵様でしたか。どうぞ。お上り下さい」
コーヒーを貰って席に着くと作戦内容を簡単に口頭で報告。疑問点などを聞いてしっかり説明した上で納得させた。俺の質問は兵士達が魔法を使えないのかという点だった。
だがこれは単純な理由で町長の上の連中に当たる男爵が、特に広範囲の攻撃用魔法の使用禁止を命じているからだった。町長にも理由は分からないらしい。
この後、幾つかの質疑応答を繰り返し疑問点などもなくなった俺は兵舎に戻り昼食をもらった。
食べた後は櫓で伯爵に貰った干し肉をかじりながらクレイモアの爆破を待つ。
そして、10分も満たない内に奴らがトラップに引っかかった。
「お、いい爆発だな。クレイモアエリアは3つあるからまだ来ないか?いや・・・来るか」
櫓では見えないクレイモアエリアなのだが、既に2つめのエリアの起爆を確認した。
予想以上に進軍速度が速い。残るC4を爆破したら食い止めは出来るだろうが、コレンだけで対応しきれるかが問題だ。
いや、今回は正門からの襲撃はない。西門にコレンを集中させても問題はない。
「おいおい。おかしくね?」
3つ目のクレイモアが爆発した。ここから先は櫓からC4エリアが見える。
・・・メチャクチャいた。それは前回の比ではない。クレイモアで幾つかは削り切れたんだろうが、それでも奴らの数が減ることはない。
リビングデッドに近いC4を起爆させると、大体が吹っ飛んだ。が、後続が多すぎてヤバイ。
「こりゃ呑気にC4爆発してる暇はないな」
櫓から降りるとコレンに西門の対応と町長から前に教えられていた兵士達の広範囲魔法の使用禁止の解除。それとC4の無線起爆装置の使い方を即席で教えた。
コレンは覚えが早くて嬉しい。櫓で爆破スイッチを押させても問題はなかった。まあ大切なのはタイミングとC4の順番なんだけど。
街の一番広い場所に移動し、スーパーハインドを再生成。弾薬は再装填させてあるのでコックピットに乗り込み、地図を確認。全ての準備を終わらせ空へと飛び立つ。
赤外線カメラからもうリビングデッドがどれだけ来ているのかなど、見なくてもわかる。それ以前に今更見ている暇はない。元凶を何とかしなければならない。
俺はスーパーハインドのスピードを限界まで引き上げ高速で廃村まで向かった。
「・・・公爵様は行かれたか。あとは我々の仕事。どこまで保てる?」
「兵士は百数名です。最低でも頑張れば1日持ちます。兵士長」
「ふっ・・・我々も衰退したものだな。800を超えていた兵士が今では100だ。対応仕切れるとは思えん。正門の連中も、アテにならんしな」
C4エリアの最後の爆薬が爆発した。
コレンが櫓で無線装置を捨てると、霧のように消え去る。
そしてロングソードを二刀流にして西門前に降り立った。櫓はかなりデカイのだが、そこから躊躇せず降りられるのは、ハンターで培った技術なのだ。
「最後の爆薬を使いました。もう、時間稼ぎになる仕掛けはありません」
「広範囲魔法を使いたいところだな・・・しかし許可が下りてないか」
「ええ。ハインド公爵から許可が下りています」
「なんと!・・・承知した。コレン騎士団長候補。野郎共!破壊の許可が下りた!広範囲魔法の使用を許す!本来の役割を果たす時が来たぞ!」
兵士長の言葉に兵士達がざわつき始める。
兵士が使用する広範囲魔法の使用許可は、男爵以上の権限を持つものが行う。
この街では町長よりも上の存在がおり、その者からは魔法の許可など下りていなかった。
更にシラルの街は元々『魔導師の隠れ家』の異名を持っており、上級魔導師レベルの兵士がウジャウジャいる。なので上の連中にとってあまりいい顔はしないのが現状なのだ。
近接戦闘が得意でなかったのは、これらが理由であった。
「それならやってやる!俺の魔導師一族の土の実力を見せてやる!」
「なにを偉そうに!俺の家系の水こそが最強だ!」
「いいぜぇ・・・これを機に暴れてやる。召喚士の全てを見せてやろう」
「アハハハ!やる!やれる!燃やしつくす!」
「光魔法を使えるのか!おお神よ!私はこの時を待ち望んでいたのです!」
兵士達が色々と言っている間に大量のリビングデッドが西門前に迫る。しかし兵士達の顔に恐怖などなかった。
特に先頭に躍り出てきた5人は、コレンから見れば恐怖というよりも、それは飢えた狼。巨大な、食べ応えのありそうな餌を何年かぶりに見る目と同じだった。
「神よ・・・許し給え。ホーリーライン!」
「さあ行け。我が愛しきブラックワイバーン達よ」
「ウォータークラッシャァァァ!」
「土属性魔法。第二の試練。”巨人の土剣”」
「魔法が使えればお前らなんか怖かねぇんだよ!行け!バーニング・チキン!」
「コケーッ!」
昨日までボロボロだった兵士とは打って変わり、魔力を気にせずガンガン撃ち込んでいくその姿は狂戦士そのものに近い。
光魔法の光線を上空から照射し、ワイバーンで群を荒らし、水の巨大ハンマーの水圧で潰す。例え運良く回避しても土属性の巨大な土の剣と炎を纏う列をなして襲う火の鶏によるC4並みの爆発で殆どが消されていく。
他の兵士達もかなり強力な魔法を駆使して殲滅していく中、なぜ彼らに魔法の使用許可が下りていなかったのか、コレンはすぐに悟った。
「これは・・・強すぎる」
強すぎて周囲の森まで破壊し始めていたからだ。
現在、街の被害はない。が、上級魔導師レベルの兵士が何人もいると、魔法を無効化するモンスターならばともかくリビングデッドという的のような存在は簡単に排除できる。
しかしその強さ故、危険視されたのだ。特に街の被害的な意味で。
「すげぇ!爆発した鶏がよく焼けたチキンになってるぜ!」
「流石はグィネヴィア一族!手品師みたいだ!」
そんな感じで兵士たちが暴れに暴れている頃、ハインドは廃村に到着。ヘリから飛び降りて墜落寸前で魔力化すると、既に腐りかけた身体が目前に迫っていた。
「よし。着陸成功。それにしてもいい場所に来たな」
周囲は切り開いているが、住宅は無く周りは畑や墓ばかりだ。ただ流石に本拠地とだけであってリビングデッドの数は洒落にならなかった。
白目を剥きながら襲いかかる奴らに対し、ハインドはコックピットギリギリに詰め込んでいたレミントンを取り出すと眼前で頭部を吹き飛ばす。血や頭部の一部が飛び散り、ハインド自身のジャケットには返り血がべっとりとつく。
だがハインドは不思議と怖くなかった。手のひらには黒くなりかけた血が見えているというのに。
「・・・変わっちまったよ。俺が俺じゃないみたいだ」
呟いている間に四方を囲まれる。しかしハインドは慌てることなく伯爵の試作武器であるナイフを三箇所、地面に投げつけた。
「出力調整。電圧低下。電流上昇。3500MJ!」
ハインドの体から発せられた蒼く走る雷は三箇所のナイフに流れ囲っていたリビングデッドの群衆を誘導雷が駆け巡る。コンマ数秒もしない内に感電し、身体は雷のアザと高温の熱に侵されバタバタと彼らは倒れていく。
黒こげになったヒト型の何かを踏みしめて前進していくとボロマントを羽織った謎の人物がいた。レミントンを投げ捨て肩のトンプソンに手をかける。
「頼むから避けるなよ」
「ハハハ・・・避けるなといわれて回避しない輩が・・・どこにいる?」
早撃ち並みの素早さで構えるとトンプソンのトリガーを引き、大量の弾丸を放つ。
しかし敵の動きは異常なほど速く、上手く追い詰めたとしても弾道が読まれ、常人ならば回避など不可能な条件下で回避されていく。
それはまるでハインドの心が読まれているかのようだ。
「ふむ・・・その程度か?」
「・・・お前何なんだ?」
「私か?私には何もない。全て遠い過去に捨ててきた。さて。続けようか」
「チッ!」
トンプソンから再び大量の弾が飛んでいく。だがそれらは再び回避され、弾薬だけが無駄に消費されていく。ドラム型弾倉を5回ほど変えたところでハインドは既に精神的にキツくなっていた。
「・・・面妖な武器を使うのだな。貴様は」
「羨ましいか?やらんぞ?」
「そうか。その油断が命取りだったな」
黒い霧になった奴はいつの間にか俺の目の前にいた。こんなのはスチムソンさんと戦闘訓練をしたとき以来だ。しかし奴は反応が遅れた俺に触れた瞬間、何故か一度距離を置き始めた。
ボロマントで顔は見えないが焦りを見せる。
「貴様・・・そのような業をどこで・・・。虐殺をしたか?それとも呪いか?いや、違う。それは強すぎる。私には強すぎる命の光だ。影もより濃く感じた。私より業を繰り返した人間がいるとは・・・」
「おいボロマント。何を言っている?」
「そうかそうか・・・私を超える業。何をすればこうなるかは判らんが、私とお前は同じのようだ」
「は?」
「いいだろう・・・私の名はレイデール。ルーメル国の元お抱え占い師。お前と同じ、死ぬることが出来ない臆病者だ」
いつもPV・ユニーク、ありがとうございます!
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