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天国から追い出されて不老不死  作者: ラムネ便
公爵の仕事は大変です
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シラルの街

 

 襲撃を受けてから修理し、飛び続けて約12分。俺達はシラルの街の正門前上空に辿り着いていた。コレンのナビがなければ絶対につかなかったな。

 降下ポイントに誰もいないことを赤外線モニターで確認すると少しずつ高度を下げていき、ゆっくり着陸する。


 普通なら人がいる場所で着陸してはいけないのだが、そもそもヘリコプターはこちらの世界で普通のものではない未知の物体だ。何かしなくともハンターや旅人はビビって引き下がるから問題はない。


「コレン!降りたら荷物を頼む。横に引けばドアは開く。あと悪いが俺の分も・・・」

「承知しました!門番との話はお願いしますね」

「任せとけ」


 門番の兵士はスーパーハインドに気を取られていたので俺が脛を軽く蹴ってやると我に返って焦り始める。新兵なのかもしれないが容赦はしない。ついでに軽くビンタしてやったら落ち着いてくれた。


「も、申し訳ありません。貴方がハインド公爵ですね。一応勲章の確認をしたいのですが・・・」



 公爵を証明する勲章を見せると彼は申し訳ありませんと言うと兵士長らしき人物に取り次ぐ。すると正門の前にいる兵士達は一糸乱れることなく綺麗に整列し道を開けた。

 そのあとコレンは大量の荷物を全て持ってきてくれたので俺はスーパーハインドを指を鳴らして消し、シラルの街へと入っていく。

 街全体としては露店が少なくて家屋の店が多い。王都ほどではないが賑やかで子供達も走り回っている良い街だ。


 しばらくぶらぶらと歩きながら露店を覗いていると剣を携えた兵士が走って俺に近づいてきた。多分町長の使い走りだな。今回の問題は街の危機みたいなもんだし。


「ハインド公爵様。遠路はるばる、ありがとうございます。町長から今回の事案について話があります。ご案内しますので」

「了解した。では行こうか」

「ハッ」


 歩く兵士のあとを追いつつ、奥の方にある店もチラチラ見ていると王都よりいいものが沢山売っている。

 野菜や果実などの生鮮品が特に多めで干し肉のような保存食は意外と少ない。菓子類はなくはないのだが砂糖の塊みたいなものが多く元の世界で見たような菓子は無論、ある訳がない。

 露店も比較的フリーマーケットに近い形態だ。食器とか中古品らしきものが多くて物々交換なんて人も見受けられる。日本のような先進国みたいな場所と違って生活に困った人がいたら助け合える街なのだろう。


 店がある区域を抜けると住宅が増えていき、その奥にはいかにも小金持ちっぽい人がいそうな三階建ての家があった。

 兵士がノックすると少し細身の男性が出てきて何やら話し兵士が一礼して去っていく。そのあとに男性は俺達を家に入れた。


 コレンが玄関先で荷物を降ろしてる間に俺は用意されていた上履きに履き替えてリビングのような広い部屋に進んで行く。そこからはカチャカチャと食器の音が聞こえていた。


「申し訳ありませんねぇ。何せ一人暮らしなもんですから準備が甘くなってしまいまして・・・」

「貴方が町長の?」

「はい。あぁ、コーヒーの砂糖はどうしましょうか?」

「俺はブラックで。コレンはどうする?」

「じゃあ角砂糖を二つ・・・」


 窮屈な戦闘ヘリのコックピットから降りて初めてのコーヒーは暖かくて美味しい。元の世界でもコーヒーはあったけど、ここでもコーヒー豆は生産されてるみたいだ。


 ウェスター伯爵には悪いけど俺は比較的コーヒー派。なのでコーヒーの味が恋しくなってきていた時にコレは効く。仕事が終わったら大量買いして帰ろう。ちなみにブラックである理由は簡単。かっこつけてるだけだからだ!でも酸味が効いて砂糖なしでもイケる。これが日本にあったらすぐ売り切れてるだろう。



「ふぅ・・・美味しいコーヒーをありがとうございます。では俺から自己紹介をしましょうか。アルス王国公爵、ウォッカ・ハインドです。こちらは騎士団長候補のコレン」

「よろしくお願いします」

「私は町長のギルマン・アベクです。お気軽にギルマンとお呼び下さい。では今回の事案について私から説明を・・・」


 今回のリビングデッドの問題は街全体で対処出来るほどの軽い問題ではなくなってしまいました。つい4ヶ月ほど前、謎の光によりリビングデッドが数を増していき応戦してくれた自警団は壊滅寸前。報酬が安い故に受け付けてくれるハンターは消え、王都から派遣されている兵士の皆さんも奮闘してはいるのですが疲れが溜まってきています。


 これ以上は兵士の皆さんの士気が下がり、犯罪の増加を免れません。幸いまだ事件は起きていませんが・・・。

 町長としてもハンターや冒険者を雇うことで何とかしたいのですが予算は少なく、町民に当てがうのが精一杯なのです。


「なので今回は公爵様に助けを求めることにしたのです・・・」

「それはそれは・・・心中お察しします」

「ありがとうございます・・・」

「ではリビングデッドが発生している場所などがお分かりになるなら話して頂けるといいのですが?」

「それなら自警団の調査により判明しております。この街の西門から真っ直ぐ行ったところに廃村があります。ここから光が出ていましたので・・・」

「よぉし全てを焼き尽くすぞ。コレン!廃村までの露払いは任せる!」

「お任せください!」

「お、お待ちください。まだお願いがございまして・・・」

「お願い?」


 ギルマン曰くシラルの街には廃村から移住してきた人達もいるらしい。しかし荷物が多くては移住すら出来ないので家屋もそのままに大切な備品などは置いてきて後で少しずつこちらに持ち帰っているのだという。


 しかし全員が全員終わっているわけもなくリビングデッドが現れてからは自分の家の財が大丈夫なのかどうか不安がる人も数多くいる。いざという時の備えも廃村にある世帯も確認されていた。


 つまり公爵任命後、初めての任務は家屋の破壊を最小限に抑えつつ、リビングデッドを完全に殲滅しなければならない条件付き高難易度クエストというわけだ。しかも自身のスキルのせいで近接戦は、ほぼ不可に近い。


 バイ◯ハザー◯でこんな条件を課せられた暁には即行でコントローラーをテレビにダイレクトアタックさせるだろうな。絶対に。

 唯一の救いは自分が不老不死故にゲーム的に言えば体力上限無しチートと弾薬無限チートを使っている状態に等しい、という点だけか。


「分かりました。何とかやってはみます。家屋の破損も無しとはいきませんが」

「家屋は仕方ありません。家屋内を傷つけないで頂けるだけでありがたいのですが・・・」

「了解です。ではこれから廃村へ向かうので地図を」


 自警団により作成された廃村の地図を貰いコレンに預け、いざ出発しようかとした時だ。扉越しからでも聞こえる女性の悲鳴が聞こえた。

 俺とコレンが直ぐに外に出ると、正門と西門にいた兵士達が遠くから見たとはいえ、かなりの量のリビングデッドと交戦中だった。


 町長によると、リビングデッドが西門から来ることは多々あったが正門からの襲撃は今回が初めてらしい。一応避難用に東門が作られているというが扉は小さく人一人入るくらいが限界らしく、まともに避難が出来るわけがない。

 兵士達が何とか止めている間に行かなければ!


「コレン!お前は正門を守れ!俺は西門の防衛に回る!」

「承知しました!お気をつけて!」

「おう!あと荷物くれ!」


 ハインドはコレンから伯爵の武器からレイジングブルまで入ったバッグと革ジャケットを投げて貰い、身につけながら西門へと走っていく。

 正門へ走り出したコレンはハインドよりも先に到着した。


「さて・・・リビングデッドなんていつ以来かな?まあいいや。公爵の為に狩らせてもらうだけさ。今回は何分で殲滅出来るか、楽しみだ」


 腰に4本下げているロングソードを取り出したコレンは、一本だけを右手に持って兵士達に加勢。盾無しでリビングデッドを容易く倒していく。

 そんなコレンを見た兵士達は士気を徐々に上げていき、次々と襲いかかる敵を前に奮戦を始めた。

 一方ハインドは


「ただのチャイル◯プレイじゃんかよぉぉぉ!」


 ゲーム外では初めての気持ち悪いリビングデッドに半泣きでレイジングブルを頭部に撃ち込みまくっていた。

 側から見れば役に立たない弱腰公爵に見える。でもなんだかんだ弱音を吐きながらさり気なく押し返しているので強いのか弱いのか分からない。


「監視兵部隊より全兵士に通達!西門に第二波が攻め込んで来るぞ!各個撃破を優先するんだ!」

「これ以上来るのかよっ!」

「無理に決まってんだろうが!」

「正門の部隊はまだなのか⁈」

「もうたくさんだ!俺はここで降りる!」


 何人かの兵士が武器を投げ捨て兵士長の警告も聞かずに逃げていくその姿はブラック企業から逃げ出す社員に匹敵していた。

 いつ終わるかも分からないリビングデッドの山とその量に気圧され謎の恐怖と極度の疲労により冷静な判断も出来ず闇雲に突っ込んでく兵士もいれば隅でガタガタ震える兵士もいた。


 兵士長も警告しか出来ないわけではない。敵前逃亡は軍法会議ものだからだ。しかし敵前逃亡の問題以前に兵士長自身も疲弊し、頑張っても兵士に警告するくらいしか気力がない。


 それに兵士に警告する暇があるならば一体でも多くのリビングデッドを倒さなければならない。板挟みの状態で如何に統率を取るかが重要になってくる。その中を潜り抜けてきた兵士長はベテランだが、所詮は人間。疲労には勝てない。


「せめて・・・一手で逆転出来る魔法を使えれば何とかなったものを・・・!」


 一手で逆転出来る魔法は幾つも存在する。しかしそれらは指向性の無さと破壊力故にここで放つことは出来ない。

 その代わり一手で逆転出来る物理兵器ならばその場に存在していた。否、いくらでも生成できる奴がそこにいた!


「一手で逆転か・・・いいぜ。やったるわ!マルヒトとFGM148を再生成!ダイレクトアタックモード!」


 ハインドはこの前生成しておいたHEAT弾頭の対戦車ミサイルを再生成。戦っている兵士達を掻き分けて門の一番前に立つと第二波とされるリビングデッドの集団に一発ずつ撃ち込んだ。

 威力の高さはハインドが一番知っている。第二波を完全に倒しきることなど造作もなかった。


「第二波撃破!あとはお前らだけだな」


 レイジングブルを取り出しスピードローダーで再装填。兵士達の頭にマグナム弾が当たらないよう気をつけながらの射撃だがハインドにしてみればそんなことは問題ではない。


 このあとハインドが防衛に回った西門の部隊は第二波撃破のおかげもあり何とか残りのリビングデッドを殲滅。

 正門の部隊はコレンによる華麗な剣捌きとそれに感化され士気が上がった兵士により殲滅完了。西門部隊の援護とまではいかなかったが戦果は正門部隊が高かった。


 しかしその夜の兵舎はハインド公爵とコレン騎士団長候補を含めての反省会どころか、会社で終わらない残業をする親父に近い状態へと成り果てた。


「今回も厳しかったな・・・」

「・・・もう嫌だ」

「きっとまた来るけど。そんときはまた頑張ろうぜ・・・」

「誰か・・・誰か・・・」


 兵士達から漂うのは低いテンションだけではなく何とか元気な俺達にまで来るストレスの塊。

 顔もやつれ、覇気など微塵も感じない。食事が喉を通らない兵士もいるみたいで雰囲気は最悪と言わざるをえない。

 簡易診療室に入ってみると怪我をした兵士よりも精神が壊れかけた兵士が沢山いる。


「これが現実・・・か。ラノベみたいに上手くいくわけがないよな」

「ハインド公爵。兵士長がお呼びです」

「了解した。コレン。そういや今日ロングソード4本しか・・・」

「問題はありませんでしたが?」


 おいおいマジで言ってるのか?

 いくら元ランクSのハンターとはいえロングソード4本だけ。新調したらしいが使用した形跡があるのは少しだけ持ち手が汚れている一本のみ。

 コレン。お前の方がなんかチート染みてる感じがするわ。

 ・・・最後の言葉は心の中にしまっておくことにしよう。コレンが敵じゃなくて良かった。そういう小学生並みの感想しか出来ない。


 診療室から出るとそこには頭に包帯を巻いて眼帯をした貫禄ある兵士が一人、そこに立っていた。


「お見苦しいところを見せて申し訳ありません。公爵様。こちらへ」

「お前が兵士長か?」

「はい。ケリー・コルセンです。立ち話も何ですので兵士長室までどうぞ・・・」


 兵士長室・・・といっても小さな一般兵士用の個室に机と羽ペンを持ち込んだだけの質素な部屋だった。

 それこそ大量の武器がありそうだが、あるのは質素な剣3本に木の盾1つ。物資は届いていると本人は言ってるいるが、食料以外の物資は滞っているのだろう。


「この度はありがとうございます。我々だけでは対処など不可能でした」

「ああ、気にすんな。どうせ一人でやれっていう命令来てるし」

「お一人で、ですか⁈正気ですか⁈ならせめて道中の護衛に何人かお付けしますが・・・」

「他の公爵から来た。俺はなったばかりだがら試験的な意味合いも含めてるんだろうけどな」

「・・・承知しました。では我々は明日、街の防衛に戦力を回します」

「俺は代わりにコレンを置いていく。コレン。道中の露払いはなしだ。この街を守ってやってくれ」

「はっ!」


 コレンの勢いのいい返事を聞いたあと、俺は兵士達について色々と聞いてみた。

 正門を守っている部隊は王都からの派遣兵で実力もあり、1ヶ月に一回の頻度で交代している。

 一方村側の西門部隊は村からの男達やケリー兵士長が雇っているらしく給金も高いとは言えない。


 本来なら正門部隊のような実力派遣兵を西門に配置すべきなのだが、派遣する役職の人から危険性が低いところに配置するよう言われており何も出来ないのが現状だそう。


「まあ。なんやかんやで我々もしぶとく生き残ってます。行くのであれば我々に気にせず、行って下さい」

「・・・分かった。ところで夜なのにリビングデッドは来ないのか?」

「ええ。何故かは不明ですが昼の間にしか奴らは来ないのです」

「公爵。今のうちに罠を仕掛けましょう。時間稼ぎにはなります」

「そうだな。だが兵士達は動かすな。俺がやる」


 コレンを残して西門に向かう途中、俺は兎に角必要な爆薬と銃を構なく来る頭痛に耐えながら生成し続けた。


 15分かけ鼻血を出しながらもなんとか生成した銃と弾薬はトンプソン機関銃、レミントンM870。爆薬は軍用としてはポピュラーなC4プラスティック爆薬をまとめたM5A1。

 まずトンプソン機関銃とレミントンM870は背中に掛けておく。

 C4爆薬は無線式で起爆するために対応している無線と小型爆弾のセットも生成。周波数を統一させてすぐ起爆出来るように調整する。


「あとは西門のリビングデッドが来る場所にC4をばら撒くだけだな。俺が引っかからないようにしないと・・・。地雷だと危険性が高かったから起爆させるなら手動の方がいいだろ」


 M5A1を60個ほど奴らの通り道にばら撒いてきた俺は兵舎に戻りトンプソンとレミントンがしっかり動作するかの確認をしたあと、弾薬を大量生産しレイジングブルのメンテナンスをして明日に備えた。


いつもPV・ユニーク、ありがとうございます!

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