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天国から追い出されて不老不死  作者: ラムネ便
公爵の仕事は大変です
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事前準備2日目

 

 人があまりいない夜の街。時間は丁度日が変わった頃だ。装備品は武装用の革ジャケを除き屋敷にあったビンセントの装備品を拝借した。もちろん許可は得ている。

 友人達や伯爵が寝たのを見届けると屋敷から静かに出て渡された合鍵を使い扉をしっかり施錠する。

 玄関の鉄門をくぐると偵察バイクを再び出し跨ってエンジンをスタート。ライトで道を照らしながらアクセルを回し発進させた。


「16の夜〜借りたバイクで走り出す〜〜行く先は〜まだ分からない〜」


 うろ覚えの歌を歌いながら向かう先はギルドだ。行く理由としては簡単なクエストでいいのでシールド魔法の『雷撃装甲』と『衝撃波装甲』を試してみたかったから。名前は俺が考えた。

 あの時、某有名パーツ組換えロボットゲームと同じであるのに気づいて修練場での実験は危険過ぎると判断。ギルドで相談がてら実験もする為に行くのだ。

 雷含めほとんどのシールド魔法は物理も防げるので雷の『雷撃装甲』というのはちょっと間違っているかもしれない。が、そこはロマンなので気にしない。

 それより知りたいのは『衝撃波装甲』の方で『閃光と衝撃波を出す』為、威力を知っておきたい。夜なら閃光の威力も増す。

 バイクを走らせ12分。ギルドの前に着くと駐車してギルド内に入る。運良くミネさんもいた。


「こんばんは。ミネさん。Fランカーのハインドです」

「あら?もう来ないと思ったのに」

「いやぁ。折角登録したのに何もしないってのも考えものなんで」

「まあ貴方はEXランクですから。やらかしさえしなければギルドから外されることはありません。国境越えもあった方が楽でしょうし」

「あ、俺実は公爵になったんですけど。何か問題あります?」

「ブッ」


 飲んだ紅茶を噴き出すミネさん。公爵になった経緯も話したら何故か椅子からひっくり返ってお代わりだったはずの紅茶も再び噴き出した。

 話によると流石に公爵でハンターはいないらしいが他の爵位ではハンター稼業もいるらしいので何ら問題はなく普通の依頼を受けることが可能だという。

 EXランクは基本全ての依頼を受理可能なのでまずはEランクが受けるゴブリンの討伐依頼を受ける事にした。普通はまず金を払って失敗した際にそれを違約金として取るのだが


「貴方なら出来ると信じてます。なので前金は要りません」


 とニッコリとした笑顔で言われ受領用紙を受け取った。どっかのオペレーターを思い出したが気のせいだ。別の方向で考えれば失敗は許さないって意味にもなる。

 俺は条件を確認するとギルドから出て城門のデカイ扉を通り過ぎ渡された地図にあるゴブリンの発生している草原にバイクで向かった。

 ライトで照らされた道を走って2分ほど経った頃には依頼の草原に着いて早速ゴブリン探しを始める。

 依頼としては最近悪さをする中型ゴブリンの討伐で5匹ほどいるという。だがこんな闇夜では見えるわけもなく30分経っても見つかる様子すらない。


「しゃあない。120mm迫撃砲RTを生成!砲弾は照明弾で時限信管は100mを規定として2発!」


 120mm迫撃砲RTは牽引式にもなる迫撃砲の一種で名前の通り使用される砲弾はかなり大きい。自衛隊では迫撃砲としての用途で照明弾下で行なわれる戦闘において使われることがある。

 俺が生成した120mm専用の照明弾は160万カンデラの明るさを60秒間保てる。本来なら高さ500mで炸裂するが今回は100mで炸裂させるよう時限信管をセットした状態だ。100mで晒される160万カンデラは東京ドームと同じくらいだと聞いたことがあるが今はそのくらいが丁度いい。

 ということでまた頭痛が来て使い方を叩きこまれる。今度は6分ほどかかって頭痛が治まった。兵器によって叩きこまれる時間が違うんだろう。


「仰角よし!ファイア!」


 砲弾を砲身内に落とすと金属の響きと共に砲弾が打ち上がり炸裂。めちゃくちゃ明るい。東京ドームの照明と同じくらいってのは嘘ではないらしいな。

 しかし見つかる様子は全くない。食料は持ってきてないので朝飯前には早く済ませたいしゴブリンがいる前で実験をしたいのだ。とはいえ目標がいないのでは意味がない。

 いっそ誰もいないここで実験してみるか。


「防御は意味がないから攻撃の方だな。よし」


 雷が俺の全周囲を囲う魔法は既に作り出してある。あとは俺がやれるかどうかだ。


「弾け飛べ!衝撃波装甲!」


 ドームのような形で俺を囲う雷が形成されていきバリアからは既に雷がバチバチと火花を散らすレベルにまで出力が上がっている。

 ハッと身体を開く感じで胸を広げたら辺りは雷の閃光で真っ白になり衝撃波を身体で少しだけ感じる。

 数秒で衝撃波装甲が終わり辺りを見回すがそこには何もなかった。森が相当遠くに見えるので俺が吹き飛んだのだろうか?


「おかしいな。失敗か?」


 そう思ったとき足元をふと見てみた。そこにはバリアの干渉しない内部だけ草原の雑草と迫撃砲があって他は殆ど焼け野原レベルで跡形もなく土だけが残っていた。

 つまり俺は衝撃波で草どころか木もなぎ倒して全て破壊したらしい。


「まさか・・・こんなことがあるのか⁈」


 俺は雷があまり衝撃波を発しないと考えて最大出力で衝撃装甲をやった。だがその威力はあまりにも高すぎてゲームどころの問題じゃない。目測でも半径4kmほどあるんじゃないか?

 いや確かにあのゲームもデカイ爆発を起こしていたさ。だがそれは10mのロボットの話で俺は通常の人間サイズだ。

 だけどこれはいいかもしれない。

 この魔法があれば無双も出来る。伯爵に教えればもっと改良してくれる可能性もある。今のはイメージからの閃光・衝撃波だがこれを自動化すればもっと良くなる。


「衝撃波装甲はとりあえず良しとしよう。それよりゴブリンは・・・あ」


 森林側で伸びているのを発見した俺は走って確認する。身体はところどころが潰れかけており雷でダメージを受けている。起きる様子はないから討伐完了といったところか。

 5匹全てのゴブリンの耳をリボルバーで撃ち、剝ぎ取り迫撃砲と使わなかった照明弾を魔力化してギルドで渡された袋に耳を入れるとバイクに跨り帰路につく。


「あーあ。伯爵に武器の実験を頼まれたのに結局できなかった。ま、それもこれも俺のせいなんだがな」


 太針などを使わなかった微妙な実験だった。が収穫はデカイ。

 衝撃波装甲は雷の出せる最大出力で雨が降っていなくても衝撃波と閃光を発生。様々なものを破壊出来る。ゴブリンの死体は雷に打たれた際にできる特有のアザもあった。これは雷撃も発生させていることを示す。つまり敵は衝撃波・雷・閃光の三つの攻撃を同時に受ける事になる。

 もうここまで来るとバリアって言うより爆弾に近い物を感じるなぁ。しかもここは魔法の世界だ。ひとえに雷といっても魔法と自然の雷とは全く違う。威力も差異がある。少なくとも分かるのは雷だけは自然法則を若干無視できるという箇所か。前は空気抵抗かと考えたがそんな比ではない。


「衝撃波装甲はその辺りに注意して使えば色々使えそうだな。もう一方の雷撃装甲は誰かが襲ってこないと分からない。これは修練場でも出来るな」


 そんなことを考えていたらいつの間にか、あの巨大な扉を開けてもらいギルド前に立っていた。

 袋を出しギルドの扉を開けてミネさんに成果を報告しようと思ったときだ。何やら凄く騒がしい。


「本当なんだって!でっかい光がやってきて吹き飛ばされたんだ!信じてくれよ!」

「何言ってんだよ。どうせゴーストかなんかに驚いただけだろ」

「本当なんだ!俺たちのチームがオークを討伐してたらオークの群れ諸共衝撃波に吹き飛ばされちまったんだ」

「俺なんか気づいたらオークの山に埋もれてたんだがヤバかったぜ。いざ出てみると積もりに積もったオークの山があるわけだが外側にいた奴らの身体が板金みたいに凹んでやがった。原型をとどめてなかったぜ」

「確かに凄かったわ。あの荒らされた森林も吹き飛んでたしね。あんなものを放てるモンスターでもいるのかしら?」

「大変ですな。ギルド長。どうします?」

「うむ。ベルゲ君。あそこの草原に入れるランカーを2ランク上げておいてくれ。別のギルドにもハンター達は注意するよう警告のための書類を各国のギルドに・・・」


 もうなんか明らかにやばい。衝撃波、デカイ光、吹き飛ばされた森林。完全に衝撃波装甲の関連ワードだ。

 だからといってここで話せる訳もなく俺はミネさんに討伐完了と報告し報酬を受け取ると軽く負傷人が出たかどうか聞いてみた。現状では出ていないと言われたので安心した。

 だがこの魔法は俺だけが扱えるようじゃあ駄目だ。雷魔法を使える伯爵にも教えなければ。


「うし!帰りますかぁ!」


 バイクに跨りエンジンをスタートさせ俺を照らす朝日に目を少しやられながら屋敷へと帰ることにした。

 一方、伯爵は伯爵でちょっと面倒な事に直面していた。


「お願いします!彼の。公爵の騎士団に入りたいんです!」

「いや騎士団といっても本人がいないと無理なんだが・・・」

「いつ帰って来るんですか⁈」

「分からんよ。依頼で新しい魔法を試して来るとだけ言ってギルドに向かってしまったからな」

「クッ!公爵の力になりたいのに・・・」


 そのときだ。ロビーにあのバイクとやらの音が聞こえた。ハインドが帰って来たのだろう。

 私がいつもここにいるのを知っているから必ずロビーに来る。ここはハインドに任せよう・・・と言いたいところだが彼が本当にやりたいのかどうかは私が見極める必要がある。

 私と同じ体質の人間が居なくなってしまっては困るしこんな奴が騎士団に入るなど信用ならない。ただのご機嫌とりで入れるほど騎士団が甘くないのは知っている。

 何故なら私も一度は目指し、敗れ去った道なのだからな。


「伯爵!ただいま帰りました!早速で悪いんですが魔法の安定化と略式を可能にする道具か何かありませんか?」

「悪いが今客人が来ていてな」

「あ、気づかずにすいません。部屋で待ってますね」


 ハインドはロビーを通りすぎて自分の部屋に戻ったくれた。

 次はコイツの見極めだな。どんな経歴を持ち出されようと私は厳しい目で見るからな。覚悟するがいい。


「今のは使用人ですか?」

「まあそんなところだ。だが君を公爵に合わせるには君が本当に信用のある人間かどうか。調べさせてもらう。何か身分を証明出来るものがあれば出してくれ」

「分かりました!これ、ハンターログです!」


 彼が私に差し出したのは一つの小さな金属製のタグ。これには私でも解体できない特殊な魔法が刻まれているから簡単には書き換えできない。が、もしかしたら別人の可能性もあるから後でギルドに問い合わせてみるか。


「名前はコレン・シュロ。ランクSか。これが本当と仮定すると君はその腕で食っていける。騎士団に入る必要などないと思うのだが?」

「ハンターは親の意向でやっていたに過ぎません。俺の考えはいつだって騎士団に入り活躍することです」

「だとしてもハンターをしていた方が楽だと思うがな。私は」

「身体が鈍ることを想定して対モンスター戦を常にやることを打診しようと考えています。ハンターだからこその考えが生かせると」

「・・・」


 まさかここまで喰い下がるとは・・・私の考えた以上のメンタルの持ち主だな。だが本当に騎士団に入りたいなら経歴だけでは生きていけない。

 人を殺すこともある。下手に入れて生きていけるとは思えない。


「・・・分かってますよ。人を殺すことがあるくらい。何度も殺されかけて嫌というほど仲間を・・・殺してきましたから」


 仲間殺しか。そうは言ってもこいつが死ねばランクSの枠が一つ増えるわけだからな。寝首を狙われてもおかしくない。


「・・・伯爵殿。俺の実力は信用して下さい。嫌なら身辺調査をしてもらって構いませんし信用ならないなら公爵に伝えなくても大丈夫です。では」


 紅茶も飲まずに帰っていった彼を見届けた私は少しだけ同情してしまっているのに気づいた。

 似ているのだ。かつて魔法を使えず騎士団に入ることが叶わなかったがこうして領主として伯爵という地位を確立した私と。

 彼はランクSで入れば確かに即戦力となるだろうが何故他の公爵が騎士団に入れないか?別に考えるまでもない。彼の実力を示すものがなかったからだ。

 騎士団に入るにはハンターになり実力を示すしかない。彼の鍛錬の傷跡は隠していたが見えるものは見える。だが彼は騎士団に入れなかった。前公爵の騎士団は全て他の騎士団に吸収され入るには新しい公爵であるハインドを頼るしかない。


「待て」


 何故私が彼を止めたのかは分からない。だがこれだけは分かった。


「私と・・・戦え。そして示せ。お前がハインドの腕となるに相応しいか」


 昔の自分に彼をを重ね合わせしまった。

 ゴーレムの悔しさなど魔法を使えないだけで騎士団に入れず下等生物のように扱われ、騙され、挙句には他人に成果を奪われるのに比べたら何ともない。

 ようやく自分だけが使える魔法を見つけても認められず報われたのはごくわずか。


「待って下さい!なんで俺が伯爵と戦わなきゃいけないんですか⁈まさか俺、何か気に障ることでもしてしまったと⁈」

「・・・昔話をしてやろう」


 ある貧乏な村に産まれた男がいた。そいつは魔法が使えなかった。だが彼は諦めずに騎士団を目指し王都に出た。例え雑用係であろうと構わない。そう思ったが魔法を使えないならば入れるつもりはないと門前払いを喰らった。

 それからというもの彼は魔法をとにかく研究した。それを何と言われようと何をされようと。そして自分のような奴らだけが使える魔法を生み出した。

 だが認めたのは一部だけ。ほとんどがまるで彼をゴミのように見下し成果を奪った。

 だがある日、運命の女が現れた。そいつは奴らの成果としたものを私に返して私は相応の地位を得た。だが騎士団に入れなかった。


「・・・今度は途中で止めたりはせん。騎士団に入れるレベルのお前と戦い、昔の男に終止符を打つ。負ければそれまで。勝っても変わらない」

「な、何を・・・」

「昔の私に終止符を。殺す気でこい」

「そんな・・・」

「初対面の人を殺せないか?なら私はお前を殺す気でいく」

「・・・クソッ!」


 コレンは背中の大剣を抜いて水属性のエンチャントをするが伯爵の持つナイフは自分が全く知らない魔法がエンチャントされている。

 コレンは公式なランクSのハンターだ。今まで狩ってきたモンスターや殺してきた裏切り者は数知れない。

 しかし伯爵は比べものにならないほど強いと感じる。


「得体の知れない魔法・・・それも伯爵の成果なんでしょう。私は貴方の昔話を理解したつもりですがどうやら認識が甘かったようです!」

「お前が勝ったら騎士団の意向を公爵に伝える。負ければ帰ってもらう。それだけだ」


 双方が武器を構えた瞬間、ロビーからは使用人達が気絶するほどの殺気が舞い込んできた。

 2人ではない。殺気を出していたのはたった一人の少女。その少女は鎧に身を包み背中に弓矢を装備している。


「何をしてるの?貴方達は・・・」

「ロア⁈」

「え?」


 ロア・グロムメント。ギルドでの偽名はアリス・クランシー。

 グロムメント家の一人娘である。

いつもPV・ユニーク、ありがとうございます!

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