天界追放の日
拙い書き方ですが、よろしくお願いします。
感想、レビューをお願いします
時間は夜の7時頃。普通の家庭ならば夕食の時間に近い。
光る繁華街の中で大学受験を控えた中二病が未だに治っていない高校生、杉田啓は学校帰りの途中でスーパーに寄って今日の晩御飯の買い出しをしていた。
「やはりこの時間はセールをやっていて夜の帝王高校生である俺に相応しい。さて今日は何にしようか?」
様々なものが棚に乗せられこんな時間でもバイトに勤しんでる人達を見ると心中では優越感を感じられる。
だが俺自身もバイトをしており優越感どころか劣等感を感じることもある。だからこそ今、俺はここで優越感に浸る。
そして俺はとある重要なことを思い出した。
宿題だ。実はここ最近面倒くさくてやっていなかった。早急に帰らなければならない。
しかし惣菜品のセールまであと3分。既に百戦錬磨の主婦の方々が待ち構えている時刻だ。
よし。決めた。宿題は明日学校で実行する。最悪あの脂ギッシュな先公にバレなければ問題ない。
『惣菜品のセールを開始します。どうぞ惣菜コーナーへお越しください!』
このアナウンスと同時に戦闘の火蓋が切って落とされた。
取り合いに勝利しなければ今回の副食は、ほうれん草のごま和えと冷食の唐揚げだけになってしまう。それだけは避けたい。
戦士達が蔓延る中へ暴れ狂う龍のように入ってきたのは俺の最大の天敵。 どこかのデカイオッさんだ。
俺は成人男性並みの体格だが、奴はジムに通っているのか身長190cmを超えるムキムキマッチョ。
結果は言うまでもなく敗退。
しかも今回はムキムキマッチョどころか他の主婦にまで押し切られフィールドから追い出された。
「クソ・・・惣菜の一品もあれば夕食が豪華になったというのに!俺の貴重なディナーを失ってしまった。仕方ない。今日はキャベツとラー油、その他諸々買って帰るか」
レジのバーコードを読み取る音やレジの担当を増やすよう連絡する内線通話の声が響いている中へ流れ込み財布を用意しているとき、さらに俺はそこで失態を犯したことに気づいた。
ポイントカードを忘れたのだ。
あと数ポイントで200円割引だったというのに情けない。
いつもなら電子マネーのTOMATOと一緒に入れてあるはずだったが、昨日ポイントカードの整理をしている際に机の上に置きっぱなしにしていた。
今回の買い物は色々と失態続きで嫌になった俺は自転車のペダルをいつもより強く漕ぐ。
「ほっほっほっほっ」
なんか毎回思うのだが息継ぎがサンタっぽく感じてしまう。友人にはそんなことはないと言われたが毎度毎度そう思って仕方ない。
そんなしょうもない考えをしていたらちょっとバランスを崩して転びそうになった。が、何とか復帰させアパートに辿り着いた。
自転車に鍵をかけて古びたドアを開くとそこには誰もいない殺風景な部屋。
親は共働きで海外にいる。それに実家からは遠いので独り暮らしだ。
「駄目だぁ〜。今日は疲れた!夕飯なしでシャワー浴びて寝るか?いや、メシとシャワーは絶対済ませるべきだ。俺の腹が暴れてやがる」
昨日から作り置きしておいたカレーを冷食の唐揚げと簡単なサラダを仲間にして口の中にかきこんでいく。
数分で食べ終わり食器を洗って片付けたら次はシャワーだ。シャワー室にある着替えを乱暴に洗濯機の上に投げると服を脱いで温水を調整する。
今日一日の呪いをこの聖水が浄化してくれる。これが毎日の楽しみでもあった。
すべて済ませたらあとは敷きっぱなしの布団に包まるだけ。電気を消すと眠りについた。
で、久しぶりに夢を見た。
「す、すいませーん?聞こえませんか?」
響く女性の声に反応して俺は起きた。そこは真っ暗な空間。なのに俺だけはハッキリと見える。
そうか。ここは夢の中なのか。
というかこんなに夢の中とハッキリ認識したことはない。
はっ⁈もしかすると俺の予想していた第四次ラグナロクが発動するのかもしれない!
寝てる場合ではない!早くオーディーンに連絡をとり俺の黄金の右手を使うよう進言しなければ!
「あの・・・すいません?聞こえませんか?」
「誰だ貴様は!」
「え、えっとですね。私は幽霊のな」
「オーディーン!オーディーン!通じないなんてありえない!まさか奴もロキにやられたか!仕方ない。かくなる上は俺の黄金の右手で第四次ラグナロクを封じるしかない!」
「話を聞いてください!」
ウザったらしく叫ぶので振り向くとそこには超絶美少女の幽霊がいた。
どうやら彼女は今俺が住んでいる部屋にいたらしいが事故死してしまった地縛霊の奈々という名前の大学生だという。
しかし奴は俺の素晴らしい脳内設定劇を横から介入したおかげで見事に粉砕してくれた。
絶対に許さん。
しかもそんな迷惑をかけた上で彼女はとんでもない提案をしてきた。
俺に肉体をくれないかという無理難題。
無論俺は断ったが・・・
「これ以上ここにいると悪霊になっちゃうの。だけど貴方が肉体を渡してくれれば悪霊にならないし、私は新しい人生を組むこともできて一石二鳥!いえ、アパートの住人も助かるから一石三鳥なの!」
「ふざけるでない愚民。俺にメリットなど一つもないではないか」
「でも私が悪霊化したらアパートの皆が死んじゃうかもよ?だからお願い!」
「だぁかぁら!メリットがない!特に俺!」
「じゃあ貴方はアパートの住人が死んでもいいというの⁈確かに私のせいだけどお願い!皆に災厄が降りかからない為にも!」
奈々の顔に嘘はない。
確かに俺一人の人生で多人数の人生が狂わないというならば自分の人生全てを彼女に渡した方が良い方向に向かうのは決定的。
例え俺という存在が消えたところで恐らく肉体は保持されたままだ。
世界には、この世には記録されない。俺の魂だけに刻まれる伝説。
俺だけに許された帰還報告。
やべ、ちょっとかっこいいかも。
こうなったらいくしかねぇな!
「ふん。いいだろう。俺の肉体などくれてやる」
「ほ、本当⁈じゃあ遠慮なく!」
奈々が俺に飛び込んできたところで俺の夢は意識と共にブラックアウトした。
次に俺の目が覚めたのは空の上っぽいところ。
目の前には人の列が大量に出来ていて様々な人が黙って歩いている。
列に倣って俺もゆっくり歩き始めたが横入りは良くないと思って最後尾に並びついていくことにした。
なんか分からんけど歩いている人は皆、同じような死人の顔をしている。
中にはかなりの高齢なんだろうに若者たちと同じ速さで歩いていたりちょっとおかしい。
多分ここが天国ってやつか。さっきの夢よりもハッキリし過ぎてる。
更に不思議なのは雲の上だというのにしっかりと歩いている点が挙げられるだろう。
誰かに話しかけようとしても反応もない。
触れることも出来ない。
ただ延々と歩き続けているだけなのだ。
「はいはい。君はこっちだよ」
男性の声と共に俺は背中に強い衝撃を受けて雲の上から吹き飛ばされた。
そのまま落下していき風を感じながら派手に地面に打ち付けられ背中をさすっていたら痛みが消えていき、見上げると10人の巨人が豪華な服や装飾を着た状態で俺を見下げていた。
殆どが髭を生やしていて中には眼帯をつけている巨人もいる。
もしかして彼らが神様なのか?
「我々は神ではない」
「我々に意志はない」
「我々に慈悲はない」
「我々は神の代理人」
「我々は神の判決を言い渡す者」
要するに彼ら巨人は神様などという高尚な存在ではなく俺のような特異な魂をなんとかする、いわゆる下僕のような存在みたいだ。
しかもさっきの俺の考えがあっさり読まれてる事から考察すると無駄な抵抗はよした方がいい。
まぁ俺が足掻いたところで勝ち目はないのは目に見えてるし。
というか神の判決ってことは・・・俺消される?
マジかよ勘弁してくれよ!
まだオーディーンとの話が済んでねぇし中二病の小説がもうそろそろ脳汁設定トリップ出来るというのに!
「杉田啓に罪状を言い渡す」
巨人から言われた罪状は
1.生命でないものに肉体を明け渡したこと
2.神の作り出したシナリオを壊したこと
3.産まれる筈だった生命を無下にしたこと
以上3つだ。
うん。ある程度は覚悟してたけどシナリオってなに?
まさかとはおもうけど俺は神の掌の上で踊らせられていた役者にしかすぎないというのか?
だとしたらこれは問題だ!今すぐにでも遠征軍を雇わなければならん!
厨二マックスの考えを見透かされていたのを忘れて考えていると巨人たちが口を開き始める。
「神は絶対であり死という概念はない」
「生物は皆全員が脇役であり主役などない」
この世に主役などない?
そういや生命を持つ者達は一概に脇役であり主役など存在しないのがこの世界だとか言ってた小説家がいたな。
「人間なんて自分自身を主役と思い込めばだれしも主役になれる。だが高い知能を持つ生命は同時にイメージを食わなければ生きていけない脆弱な機械に過ぎない。それらは全て試練と宿命だ」
この言葉は俺が一番好きなラノベの魔導師が言っていた言葉でもある。巨人達が言ってることが俺の見解通りなら多分同じ意味を示しているんだろう。
だからといって人間じゃなくなった俺にこんな悟りを開いたところでどうでもいい。
それよりも罰だ。こんなところでただ突っ立ってるだけじゃ覚悟も甘くなる。頼むから早めに言い渡してくれ。
そう頭の中で巨人達に訴えると口を開いて紙を出した。なんか汚そう。
「処罰を言い渡す」
俺は正座して生唾を飲み込む。
「罪人。杉田 啓は天界永久追放とす。以上」
て、天界、永久追放・・・だと⁈
なんじゃそりゃ?そこは普通ヤバイことした魂だから完全に消し去るんじゃないの?もっと弱い生物にしたりして輪廻転生させたり地獄に800万年収容とか封印じゃないのか?
めちゃくちゃ苦しい罰を与えられるのかと思って損したぜ。
「いやいや。十分かなりな処罰だと思うけど?」
その声に気付いた時には既に巨人たちは消えてしまい、変な服を着ている髪が白い人に出会った。
そいつは赤くて分厚い本を右手に持ち気持ち悪いほどニコニコしている。
正直に言うと俺が考えている最大の気持ち悪さがある。
要するにグレープ100パーセントジュースならぬ気持ち悪さ100パーセント人だ。
「ねぇ?さっきから神の御使いに気持ち悪さ100パーセントとか言うのやめてくんない?」
白髪の変態紳士は頭に血管を浮かせながら言ってきた。
なんだこいつは清々しい顔しやがってよ!俺に力があればその鼻をねじきりたいんだよイケメン!
「イケメン?僕が?照れるじゃないかやめてくれよ!」
「ああ。お前の口も速攻で潰してやれたらな!つーか心を読むな!」
「すまないね。こればっかりは仕方ないんだ。それでいきなり話を始める感じになったけど準備はいいかい?」
「どうぞどうぞ。勝手にしろ」
「そう?ならいいんだけど」
彼の名前はウラル。神の御使いという役職に務めているらしく今回の俺の処罰に関しての執行人なんだと。
色々天界について説明してもらったがウラルから天界永久追放についての説明を受けた時には正直ビックリした。
天界から追い出される。すなわち俺は魂と肉体を大地に縛り付けられ輪廻転生どころか地獄にすら行けない。
結論から言うと俺は別の世界で不老不死をやらされ二度と転生させてやらんぞという意味。
不老不死に関してかなり優位ではないのかと考えたが、恋人を作ってはいけないということでもあった。
畜生!俺はいつ脱童貞出来んだよ⁈
嫁さん貰って可愛がりたいよ!
でもそれすら叶わないんだと!
あの大学既卒者みたいな女狐め。俺は絶対に許さないからな!
「はいはい。愚痴は終わり。でも罰だけじゃないから安心して」
「は?」
「神様は君に対して客観的評価に基づき新しい能力を授けてくれるらしいよ。やったね!」
「で?その神様の客観的評価ってのはどんなのなんだ?」
ウラルが評価に関して簡潔に説明してくれた内容によると
俺は神のシナリオを滅茶苦茶にして約8億の生命を産まれない事にした。
だが現存する生命を守りきる為にメリットなどが一切なくとも自らの人生を捧げ、悪霊による慢性的なトラブルを未然に防ぎ解決した
これは俺に勇敢な決断力があることを示しており別の世界での活動も支障なく行えると推測。故に天界永久追放とする。
こんな感じだった。
何を勘違いしたかは知らないが俺は情けない事に格好良さそうという意味のわからない理由でこちらに来ている。なので俺に決断力なんてない。
まあ勘違いしているうちがまだいい。なんせ別の世界に送り込んで貰えるらしいからな。
「てなわけで君を別の世界に送り込むんだけど」
「ちょい待ち。元の世界は行けんのか?」
「無理だね。君はあの世界で罪を犯した。帰れるわけないだろう?」
そりゃそうだ。あの世界でやらかしたというのに俺が帰れるわけがない。それに不老不死の俺は現代社会に溶け込むなど不可能に近い。
次にウラルは俺が行く世界について幾つか教えてくれた。
俺が行くのはレーヴェリーアとよばれる魔法が科学の代わりに発達しているファンタジックな世界。武器は大剣とかの古い武器が多くてモンスターもいる。
王様もいたりして3大陸、大国8、小国20で構成されているんだと。
武器も自分に合った物を使うので特別な職業がある訳ではない。特別な職業といえば王族や貴族などの高位に位置する者達や騎士などの名誉兵とかのみであり、あとは普通のギルドマスターとかの平民。
奴隷もいるらしいが計28ヶ国の内12ヶ国では奴隷廃止条約が締結されているので下手に奴隷に関連している事を口に出してはならない。
その他に様々な注意点を説明してもらい最後に俺が授かる固有能力とスキルが書かれた紙を渡された。
「あのすんません。真っ白なんですが?」
「当たり前じゃないか。これから君が考えて能力を創り出すんだから」
マジか。となると俺は神をも殺す力とか魔王をぶち殺す能力とか書いてもいいのか!
「あ、言っておくけど変に強すぎる、君の世界で言うチート能力ってのは禁止ね。ある程度の強すぎは許容してあげるけど世界を書き換えるとかにしたらまず転生の件は無くなったと思ってね」
「それを早く言えよ!」
「ごめんごめん。時間制限はないからゆっくり考えていいよ。ちなみに固有能力は一つ。固有スキル3つまでね」
そのイケメン顔にクレームを突きつけても変わりはしないし・・・取り敢えず渡された羽根ペンでゆっくり考える事にするか。
まず能力だな。能力が決まらないとスキルも決まらない。
能力といえば螺◯丸とか忍術系がいいのか?いや待てよ。そんなアサシンみたいな目立たないのは嫌だな。
もっとこう・・・爆発力がある能力にしたいな。何でも爆発物に変える能力とか?どこの荒◯先生シリーズだよ。
ファンタジーで爆発かぁ・・・ゲ◯トかな?
そうだ!◯ートがあるじゃないか!
俺は羽根ペンで勢いよく紙に能力を書いていく。そして同時に使えそうなスキルも作成していきあまり強すぎないよう調整しながら消したり追加したりしてウラルに提出した。
「ふぅん。能力名が『たった一人の機甲師団』ねぇ。意外とスキルも纏まってるじゃないか」
「ならこれで?」
「うん。大丈夫だよ。大丈夫だけどこの『現代の西部劇』って・・・」
「ロマンです」
「そうかぁ。ロマンかぁ」
納得しない顔で頷いているウラルは先程の紙を英語と思われる文字でサインし、俺の顔に貼り付ける。すると紙の内容が頭の中に入って使い方が段々分かってきた。
「能力とスキルはこれで良し。後は君が困らないようにする鑑定スキルだね。といっても初期レベルだと君自身のステータス確認と使える物を出すくらいかな」
「鑑定スキルってステータスしか分からないのか?」
「レベルによるね。最後に君の服を変えてあげるよ。これは神の慈悲じゃなくて僕からの餞別だから遠慮なく言ってね」
俺はウラルに服を寝巻きから好きな西部劇の服装に変えてもらった。
皮の厚いジャケットに赤いスカーフ。全体的に茶色い服装でブーツには西部劇御用達の拍車もつけてもらい完全に某金属の歯車を冠するゲームにいる猫のコードネームを持つキャラとほぼ同じになった。
服装は何かしら力が付いているわけではないが着用しているだけで何だか強くなった気がしてならない。
「君に届ける慈悲もこれで終わり。あとは次の人生を楽しむしかないね。不老不死なりに頑張って生きてね」
「俺はもう死ねないんだよな?」
「まあね・・・。じゃあ。頑張って!」
俺はウラルの言葉と同時に雲の上から滑り落ちていく。風を感じ光を浴びながらパラシュートなしで降下していくのは気持ちが良かった。が、流石に地面が来ると怖いものがある。
「お、おい!ちょっとまっ」
地面が揺れて森の中で鳥たちが騒ぎ出す。その森の真ん中に小さなクレーターが1つ出来た。
クレーターの真ん中には跪くような座り方をした杉田が顔をあげる。その姿はまるでター◯ネータである。
「・・・鶏肉食いてぇ」
不老不死の男、杉田が異世界に転生された彼が最初に言い放った言葉はしょうもない空腹を感じている時に生じるものだった・・・。
いつもPV・ユニーク、ありがとうございます!
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