表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/15

009 「本日は晴天。絶好の洗濯物日和です」

 ――バレエ教室に通い始めてニ週間も経つと、大きく変化した美咲の環境も、だいぶ落ち着いてくる。同じ時間にレッスンする仲間の顔ぐらいはわかるようになるし、ストレッチの手順や、バーレッスンのときの足の形なんかも大方覚えた。

 そしてなにより、一番変化しておきながら一番早くに慣れたのが、

「夏休みだー!!」

 頭上を見上げ、両手を大きく広げて入道雲めがけて叫んだ真太郎に、美咲は数歩うしろから「おー」と生返事した。

「なんだよぉ、美咲、テンション低いなあ」

「おまえが高すぎなんだよ。だいいちソレ、毎日言ってんじゃねぇか」

「でも夏休みなのは事実だろ。それに、きょうは大事な決戦の日! テンションあげなきゃやってられないぜ!」

「それなんだよなぁ」と、美咲は一人嘆息した。気が重い。せっかくきょうは天気も良くて、バレエのレッスンも休み。外遊び日和なのに、自分はなぜこんなことに付き合わされているのか。

『それは俺たちから説明してやろう!』

 なぜか蝶ネクタイにタキシード姿の悪魔みさきが現れて、ふんぞり返ってそう言った。

『というのも、真太郎の妹、亜紀ちゃんが原因なんだよね!』

『その通り! 亜紀が京介と遊園地に行くらしいってのを聞いた真太郎が、美咲に尾行のお供を言いつけたんだぜ』

 そこまで聞いて美咲は、ちび美咲たちを追いはらうように左手を軽く振った。その話はもう十分だ。

「男が隠れてこそこそ親友のあとをつけるなんて、くっそだせぇ」

「美咲―? なんか言ったかー?」

「なんでもねぇよっ」

「くっそだせぇ」とは思うが、断って真太郎だけを行かせることの方が問題だ。京介が亜紀のことをどう思っているのかはわからないが、真剣に付き合っているなら美咲的には「いいことじゃねぇの」と思うし、「頑張れよっ」と応援もしてやりたい。

 そのためには、真太郎について行って、二人の仲を邪魔したがる彼をさりげなく阻止しなければならない。それが男の友情ってもんだ。

「美咲、早く行こうぜ!」

「おうっ」

 七月下旬。

 踏みしめたアスファルトはじりじり焼けただれていて、道路に蝉が喚く声が甲高く響いていた。茹だるような暑さの中で、美咲の耳には「本日は晴天。絶好の洗濯物日和です」と言っていた天気予報士の弾んだ声がこびりついて離れない。

「やっべぇ……干すの忘れてきちまった」

 厄日かもしれないと、美咲はがっくり肩を落とした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ