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ニィは、機会を狙っていた。

隙あらば、この村を____そう、マルワ村を、抜け出そうと考えていた。

「ああ、そう、それが一番良い。出来れば王都へ行ってみたい……他の村でも国でもいい、行ってみたい。けれど、きっと無理だろうから、せめて森の中で死にたいな」

ニィが思いついたのはネガティヴ思考もいいところの、暗い考えだった。が、しかし、これは悲しいかな、現実的でもあった。マルワ村は王都を囲む大きな森の、丁度中央付近に存在する、王都に最も近い村でありながら最も王都より隔絶された村であるのだから。マルワ村に残る身分差別は、これのせいもあるのではと考えられている。

《森》__あまりの深さ故に。 あまりの暗さ故に。あまりの恐ろしさ故に。名は付けられなかった。ルーロニ王国で《森》といえばこの森のことを指す。そこには悍ましき魔物も出現するという。実際、この森に安易に踏み入れる者で、帰って来られる者は、数える程に少ない。しかし、この森は《王都》を囲っている。ただでさえ小さなルーロニ王国の、最大の都市であり、王族、官僚たちから庶民まで、広い世代の住む__最早、王都こそがルーロニ国といってもいい(近隣の村の人々には失礼だが)場所である。一応、森には王都の宮廷魔術師達が切り拓いた、四つの東西南北に分かれた安全な道があるが、そこを大人しく通る血の気が薄い若者ばかりが存在するのでは無い。森は、血気盛んな若者には、抗えぬ誘惑をする。森に惹かれたら、そこでその者の命運は終わったといってもいい。

話が逸れてしまった____とかく、ニィのいるマルワ村から出るには、この森を抜けなければいけない。その可能性を考えてみると、

「無理」

ニィは特別魔法が使える訳ではない(使えたらとっくに使っている)し、武術には秀でていない。だって奴隷だから。武術なんて習えるわけもなく__また、誰かと争ったこともなく。だって奴隷だから。そんなニィが、例え上手くタイミングを見計らって、村から逃げても、森を抜けられる可能性なんてない。良くて餓死。悪くて魔物に頂かれる。

王都は憧れの場所。村の中でも村長ぐらいしか行ったことが無いそうだ。ここは隔絶されているし、魔術師が切り拓いたという四つの安全な道は、生憎マルワ村にはかすりもしていない。身の安全を考えながら森を抜け王都に行こうとするのは、至難を極め、長くて、一月かかる。行ってみたかったけれど、無理。大体、ニィは、どちらの方向が王都かも知らないのだ。どう考えたって絶命する未来しか見えない。

「____でも、この村で死ぬより、ずっとマシだわ」

ニィはこの村が嫌いだ。

弟が、大切な弟は、この村に殺されたから。だからずっと今まで生き抜いてきた。文字だって必死になって覚えた。

奴隷は、奴隷という言葉の意味さえ知らないから、現在の状況に甘んじることが出来る。仲間が殺されたって、それが当然と受け入れることが出来る。

けれど、ニィには、知識がある。負けず嫌いで、常人を遥かに上回る努力で、しがみつくように得た、知識が、モラルが、ある。

異様に背の高いニィとは違い、栄養状態相応に小さな身体だった弟は、まだ、まだ10歳だったのに、そのひかりを「過労」という形で失った。

ニィにはそれは、仕方ないと受け入れることなど出来なかった。

いつか、いつか、報いてやると、絶対にこの村になんらかの形で復讐してやろうと、ニィはその大人しい外見に反して燃え上がる焔を内に宿していた。その為には、奴隷作業など苦ではない。とにかく生きなければ。生きて、報いなければ。弟の生を踏みにじってはならない______。

けれど、それも、もう限界だった。

弟の為に生きなければ、死にそうなのに、姉さんは生きてだなんて、姉さんは村を出てなんて言って、いなくなってしまった弟の為にも死んではならない、けれどもう生きてはいられない。だって奴隷だから。ああもう、こんな村なんて嫌い。


ニィは、村の者たちの大部分が狩りに出掛けた時を見計らって、村の外へ、森へ入っていった。

森の王と出会うまで、もう少し。


一話が短くてすみませんー!

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