009 ヘレンの講義
闘獣士の活躍の場はコロッセオだ。そしてコロッセオでの戦い(試合)は年に4回季節の替わり毎に十五日間前後行われる。つまり、それ以外は雑学や訓練、休日として過ごす事が多い。(偶にイベント参加も在る様だけどね)
「輝かしい闘獣士」で、最大最強のヘレンがエイジスの肩を持つ手前、彼とシャルロットの関係を妬ましく思うより羨ましく思う比率が最近増えだした。結果以前はむさ苦しい感が在った興行所もチラホラと女性の影が目に付く。何しろヘレンが『特に相手を囲うことは禁じて居無い』と公言したことが切っ掛けで、シャルロットの時折漏れ聞こえする悩ましい声に行動を起こしたと言えよう。
あるコーチからは風紀が乱れるなんて硬い小言も聞こえるが、エイジス以上のランカー達がパートーナーと自室で生活を始め出した事で、長年したのランクに燻っていた輩が最近頓に練習を励み昇格を目指すものが増えてきたのだ。
「あらあら、貴方とシャルルに感化されて同棲する者が増えだしたのよ!貴方知ってた?」
「そ、そうなのか!やたら見知らぬ女性の影を観る様になったから俺も練習用のマスクが片時も手放せなくなったと感じていたんだ」
「……貴方って時々、凄く鈍感な時が在るわよね」
「そ、そうか?……で?オーナーとしては、どうなんだ?風紀が乱れて俺に注意でもしに来たか?」
「ふふっ。私はソンナ野暮な女では無いわ。それに最近では下のランクで燻ってた連中がヤル気を出したってコーチ連中が嬉しい悲鳴を挙げてるわ」
「俺としては自室以外でマスクを外せないのは問題だが、皆が精を出して上を目指すなら協力しよう」
「所で、今日は今から何の予定?」
「雑学の授業だ。高ランクの魔獣の習性やら、昇格試験の対策やららしい。あぁ~後、マネージメントの課外授業も在るって話だ」
「そう。なら……授業が終わったら私のところに来て!課外授業は貴方には不要よ代わりにシャルロットに受けさせると良いわ」
「おいおい!シャルルは闘獣士では無いぞ。幾らオーナーだからと言って横暴はどうだろうか?思うぞ」
「良いのよ!彼女は役目の一つに貴方のマネージメントも含むんだから。コーチには私から話を通しておくわ。それより、貴方には在って欲しい人達が居るのよ」
相変わらず、コッチの意見を無視するヘレン。先日三人お揃いの指輪を渡した時は乙女の様に喜んで、人目も憚らず俺に抱きつこうとして慌てて停めた物だ。それが舌先乾くと何時もの彼女に戻っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「じゃ~悪いけど、マネージメントの講義を受けておいてくれ」
「判りました。やっと私の力が発揮できそうですね。頑張って壱語一句漏らさず学んで来ます」
「頼むね。俺は誰かと面談らしいから、後宜しく」
「ハイ。畏まりました。良い人材をお待ちしております」
「人材?待ってる??何のコッチャ?」
「来たわね!遅かったのね」
「悪い。シャルルにお願いしてきた所だ。トコロで、別れ際アイツは俺が誰に会うか知ってた素振りだったが、今度は何を企んでるんだ?」
「相変わらず人聞きの悪い物言いね。貴方が不利に成る事なんて画策しないわよ」
「ねぇ~所で貴方。今自分が属しているクラスって理解してる?」
「ん!?Fランクだろ」
「それはランクでしょ。私が言ってるのはクラスよ!」
「……じゃ~準専属?」
「……貴方もしかして、雑学の講座寝てるの?」
「い、否!ちゃんと、時々……希に……ほら!此処最近ポカポカ陽気で気持ち良いじゃんか!……スマン」
「良いわ。じゃ~教えてあげる。貴方のクラスは『シングルクラス』よ。そして、独立すればそれ以外のランクも視野に入れないとイケナイの」
「ふ~ん。……なんで?」
「独立すれば色々と経費が掛かるのよ。でも所属クラスが一つだけだと年間戦える回数は限られるわ。まぁ~貴方なら高ランクも目指せるけど、来年Eランク昇格して直に独立したら興行所は即火の車よ」
「俺とシャルルとアリッサの三人なら問題ないだろう!?」
「貴方が万が一怪我を負ったら?シャルルかアリッサのどっちかが病気かお産でもしたら?もしかして、貴方アリッサの財産を充てにしてる?」
「おいおい、今でさえ肩身の狭いマスオさん状態なんだ。独立してまでも、女性の財布を充てにはしないぞ!」
「でしょ!だから、今の内に別のクラスの事も考えないとイケナイのよ」
「なるほど、流石!経営者。十分理解できた。で!俺に適切なクラスって何だ?」
「やっぱり、そこから説明しないといけないのね。良い!さっきも言ったけど貴方はシングルクラス。他に在るのは、『ダブルス』『トリプル』『カルテッド』『パーティー』『クラウン』の五つが他に在るわ。読んで字の如し、其々のクラスは参加するメンバーの数よ。つまり貴方は今ソロで戦うからシングル。二人ならダブル。
三人、四人、七人、七人x三チームの二十一人までのクラスが存在するわ。正直個人経営の興行所ならカルテッドつまり四人の闘獣士を構える位が効率が良いわ」
「でも、Eランクでそこまで、構えては軌道に乗る前に倒産は確実よ。だから今の内にダブルのクラスを受けれる戦闘用のパートーナーを考えておくべきなの。そしたら、独立後直に、シングルとダブルで二倍の戦闘に参加できるでしょ!」
「ちょっと待った!現在シングルでFランクの俺が最速でEランクを目指してるんだよな。それだのにダブルってクラスでGランクを今から始めるのか?」
「それは大丈夫よカルテッドまでは、リーダーのランクが重視されるの。他のメンバーは一つ下のFランクでも認められるのよ。つまり、リーダーの貴方がEランクなら他のメンバーはFランクでもEランク登録が可能って訳ね」
「アレ?ここのメンバーにはGランクも居るよな。俺だってそうだったし。俺が独立した時にGランクのメンバーが居たらダメなのか?」
「Gランクは言わばお荷物メンバーなのよ。収入より支出が大きいのファイトマネーもGとFとでは差があるのよEなら其の差はもっと広がるわ。だから船出したばかりの興行所にはGランカーはお勧めしないわ。貴方がEランカーに成るって言うのが今回の話のミソよ。貴方がEなら他のFランカーの三人もダブルやトリプル・カルテッドもEランカーとして戦える。実績を重ねれば、シングルクラスも一つ上のランクが認められる。だから貴方に必要な仲間はFクラスの闘獣士って訳。ちゃんと理解できた!?」
「……Eランクになった俺と一緒にチーム戦を重ねたら実績次第で個人戦が一つ格上げする!って事だよな!?」
「そう!正解よ。まったく……ちゃんと講義を聴いていれば、こんな無駄な時間必要なかったのに、あぁ~マズイ!時間が押してる。急いで出かけるわよ!付いて来なさい」
その後、行き先を質問したり何で今の時期?等と質問したかったが、こんな時のヘレンはアリッサ並に怖い事が多い。触らぬ神……なのだ。
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ドタバタとヘレンの後に着いた先は、俺達の『輝かしい闘獣士』より広大な土地の運動場を三つも在った、とてつもなくデカイ興行所だ。デレデレのへレンが終始緊張した態度で立派な応接室に通され、今俺の横に座っている。やがて一人の老人が、先ほど応接室に案内してくれた女性と供に現れる
「ヴァジム様。約束の時間を過ぎました事、先ずはお詫び致します。今回は多大なご好意のご提案誠に有り難う御座います」
「うむ。良い良い。綺麗な女性は男を痺れさせるほど待たせる方が特じゃぞ」
「恐縮で御座います」
「ふむ。……間近で観ると、さほど力は感じないがまぁ~転移者にアリがちな話じゃな。マスクスタイルはアチラの世界からの案なのか?」
「えっ!あっ~ハイ。そうです (ヘレン!この老人は誰なんだよ?)」
「あ~ゴホゴホッ!(馬鹿!入会式や新星賞の授賞式でお会いしたでしょ!GMよ!GMのヴァジム様よ。粗相のない様にしてよね)」
「あぁ~!思い出した!あの以上に強い気を放ってたご老体か~」
「馬鹿!声に出てるわよ。黙りなさい!死にたいの!?」
「おほほほっ。これもまた転移者の成せる業じゃ。気にする出ない」
「そう!ワシが現闘獣士を束ねるギルドの長ヴァジムじゃ若いのヨロシクな」