006 大敵
新星賞を受賞して個室を与えられた俺は、アリッサと一時の間別れる事に成る。ヘレンに聞いても彼女の居場所を教えてくれる事は無かった。代わりに俺の傍にシャルロットと言う名の女性が傍に居る。アリッサが残した置き土産だ。アリッサとは思いも寄らぬ関係に発展している。所謂男と女の関係だ。正直俺はその関係に発展した事に驚いたが、心と身体が馴染んだ事で、互いに必要な存在と成ってしまったのだ。……だからこそ、彼女がシャルロットと言う女性を俺の傍に置いて行った事が更に俺を悩ませた。個室を与えられたが、そこは興行所の宿舎だ。格別室内が広い訳ではない。当然ベッドを二つ置くスペース等在る筈も無い。だからと言って、どちらかが床に転がって寝る訳にも行かず俺は、こうして彼女と供に同じベッドで寝ているのだ。
「だんにゃざま、いががでございまじゅが?」
朝っぱらから何を咥えてお前は喋ってるんだ。それに毛布の中では小さな声が更に聞こえ難いぞ。等と俺が思うとシャルロットは俺の腰周りから胸元へと這いずり上がり、豊満な胸をコレでもかと押し付けながら挨拶してきた。
「今朝も朝食は朝練の後で宜しいですか?」
「ああ。そうしてくれると有難い」
「でわ、昨夜配給された品で朝食をお作りしてお待ち申し上げます」
シャロットは、そう言って裸体に素早くメイド服を着込んでいく。(あの早業は俺でも見分けられない。スゴ技だ!)
シャルロットと宿舎で同居する羽目になった当初、俺はアリッサに操を立てる。ヘレン曰く、彼女を配置したのは俺の浮気防止と健康維持が目的なのよ。此処では重婚も二股も当人同士が承諾すれば、嫉妬にも成らないわ。抵抗するだけ無駄よ。十分楽しみなさい。但し漏れ聞こえる音だけは注意してね!と釘を刺された。結果、俺はまたしても女性に押し倒される事になる。『据え膳喰わぬは男の恥』なのだが、これで二連敗と成った計算だ。せめて、本業である闘獣士では勝ちを獲ろうと奮起する俺は、今の所無敗だ。物議も出した俺の仮面スタイルも観衆から次第に指示を得ている様子で、最近は闘獣士ギルドも俺に文句は言って来ない。そして最近の俺はもっぱらタイマン勝負が殆どだ。相手もサーベルライガーヘッドやレッドベアーキングと云った中型で素早い動きの猛獣タイプの魔獣がお決まりだ。
「さぁ~今夜も始まったぞ!夜の部の開幕だ~。本日のメインイベントは『仮面のタイガー』の登場だ。対する魔獣は過去に三度闘獣士を血祭りに挙げた『暴獣レッドベアークィーン』だぁ!両者供現在無敗の好カードの対戦だ。勝利賭けは、まだまだ受付中だぞ!皆フルって参加してくれ~」
闘獣士の収入は観戦チケットの売り上げと賭けの一部が配当される。胴元である領主が売り上げの半分。1/4がダンジョンマスターへ1/8が興行師へ残りが教会とギルドへ配布される。闘獣士は個人であれば、興行師と同額配当。専属なら興行師から支給され所属大部屋闘獣士は、それより遥かに少なくなる。但し生活から全てに措いて所属興行師払いとなるから、力の弱い闘獣士や金の計算が苦手な者の多くは、専属ないし所属となるモノが多い。
俺は今の所ヘレンが運営する『輝かしい闘獣士』と言う名の屋号を持つ団体に属する所の準専属闘獣士て言う肩書きだ。独立前や専属意志が在る興行師に力認められた闘獣士って事だ。
試合は年間を通して四回。『青の刻』『緑の刻』『赤の刻』『白の刻』の時季に限られる。期間は其々十五日間。対戦はランク毎に設定してある魔獣の中からランダムに対戦が決まる。そして無事魔獣を倒し勝ち残った中から観衆の投票結果で、次の年のランキングが決定するのだ。時折ボーナス試合が設定されており集団なら勝ち残った者達から、同じく観衆の投票。そして個人戦なら買った時点で無条件にランクがその場で上がる仕組みだ。
俺は『青の刻』の『新人戦』で投票で選ばれた。つまり、あの試合はボーナス試合だった訳だ。へレンが急いで俺を仕上げた理由はソコに在った。
アリッサ俺の下を去ってからスケジュールから飯の支度そして夜伽までの全てを行っているのは、彼女の置き土産シャルロットなのだが、陰日向なく俺を支えているのにヘレンも挙げられる。否、俺とアリッサの理解者で協力者でもあるヘレンを俺は足蹴に出来ないほど多大な恩を受けている。彼女も俺に好意を寄せている。鈍感な俺でもソレは理解している。それ処か興行所の連中皆が周知も事らしい。だが、彼女も俺も或るライン異常の接点は持たない。俺達は雇い主と飼い犬の関係だからだ。アウトローの世界でも最低限のマナーや暗黙のルールは存在している。俺達が其のルールを侵せば、興行所は一気に崩壊。彼女はこの世界で成功は望めなくなる。だから、今の俺が彼女に報いる方法は金をより多く勝ち取る事だけだ。……そう!俺がえランクとなり自由契約を得るまでの間だ。しかし、その時にはアリッサが俺の下に帰ってくるだろう。二人の間では、既に取り決めが交わされているのだろうか?今の俺にはシャルロットまでも居るのだ。まぁ~男として『据え膳喰わぬは』の三連敗だけは避けたいものだ。
馬鹿な考えはさて置き、ヘレンに多額の資金を送り込むには俺の勝利方法が左右される。闘獣士の戦いに『賭け』が存在するが、単に勝敗の有無だけでは配当が少ない。より、ハイリスク・ハイリターンな掛け率は『派手な倒し方』や『決めポーズの数』だ。より、スリリングで派手なショーを観客は望んでいる。制限時間いっぱいまで死闘を繰り広げ、時に劣勢を打ち負かす大逆転な勝利を観衆は求めている。その辺は正に俺が楽しんでいたUSAプロレスやメキシカンスタイルに通じるモノが在ると感じていた。だからこそ、俺はこの世界では馴染の無いマスク姿で参戦しているのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「エイジス様。出番までお時間が御座います。如何為さいますか?」
最近の俺は試合前になると気持ちが苛ぶっている。高揚感と苛立ちを履き違えると思わぬ失敗を招きかねない。それは、訓練でダンジョンに潜った時に経験済みだ。あの時、回収魔法を掛けていなければ、俺は間違いなく死んでいた。それ以来慎重を記す為、試合会場にまでシャルロットは足を踏み入れていた。俺の高ぶりを抑える為だ。スポーツ選手の間では性欲は抑えるべきだと言う意見が多い。しかし血が濃く量が多い俺には丁度良いリフレッシュ効果が望めた。
「スマンな。何時も君をモノの様に扱ってしまって」
「いいえ、それも織り込み済みで御座います。それに……試合の晩は、何時も以上に可愛がって頂いております。御気に為さらず、御抱き下さいませ」
そう語ると、何時もの水色のメイド服のミニスカートをたくし挙げて、俺にツンと尻を持ち上げて来見せるのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さぁ~賭けの締め切りだ~いよいよ本日のメインイベント『暴獣クィーン』VS『仮面のタイガー』の登場だ~」
ドラムロールが闘技場に鳴り響き登場口から勢い良く俺は駆け出して登場する。夜のステージは、スポットライトと花火が打ち上げられるのだ。それに煽られて観客は色めき立つ。身体能力を生かして常人を越える高さまで飛び上がると難度C以上の前方回転と三回捻りを加えたジャンプで颯爽と闘技場の中央に降り立つ
「でた~!人間離れした跳躍と獣を凌駕する独特の華麗な登場で現れたのは『輝かしい闘獣士』所属の新進気鋭の猛者『マスク・ド・タイガー』だ~」
タイミングよくドラムロールと音楽が止むと、今度はおどろおどろしい重低音の伴奏で反対側の登場口に光が集まる。姿が見える前から怒り狂った呻り声を放つは、今夜の対戦相手だ。
「対するわ三人の闘獣士を血祭りに挙げた魔獣暴君!暴獣クィーン。レッドベアークィーンの登場だ~」
「今はクィーンは警戒して四足状態だが、奴が怒り狂えば仁王立ち!二人の身長差は、有に2Mを越えているぞ!!其の大柄な体格に反して素早き動きがこれまでの闘獣士を葬り去った訳だが、対する仮面のタイガーも人間離れした素早さと超人的な跳躍が武器だ!!」
場内アナウンサーが叫んでいる通り、今夜の相手は大柄の割りに素早い動きが難関だ。俺はコイツの仲間にダンジョンで殺されかけた。そしてソイツより遥かに凶暴な奴を目の前に迎えている。勝算はあるのか?等とアナウンサーは叫んでいるが、今の俺はあの時の俺とは違う。頭に血が昇った馬鹿じゃ無い。物の様に扱ってしまったシャルロットのお蔭で、俺の頭と腰はスッキリ軽く快調だ。負ける事等有得ない。俺が目指すのは弩派手でブッ太い勝ち方のみ!大金をヘレンに届けて、さっきの罪滅ぼしで優しくシャルロットに小鳥の囀りを鳴かせるのだ。
『カーン!』
試合開始の鐘がコロッセオに響くと、両者に金を賭けた亡者達が、狂った様に声援を張り上げる。異常な雰囲気に暴獣クィーンが煽られ試合早々仁王立ちスタイルになった。
「しめた!絶好の見せ場到来だ」
俺は奴の仁王立ちと供に仕掛ける。奴の背丈以上に飛び跳ねる。但し視線は外さない。奴の裏を掻いて後ろでは無く左横に立つ。案の定、暴獣クィーンは時計回りで後ろへ振り返る。つまり、この瞬間俺は奴の真後ろに居るのだ。今夜俺の手に在るのは、鋼の棍棒だ。無用心に後姿を見せる相手に俺は思いっきり足払いを仕掛けた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「もう!タイガーったら出だしから全開で攻める積りかしら」
「いいえ。タイガー様は今宵も綿密な策略で臨んでいるようです」
「それって、試合前に貴方が適度にリフレッシュしたって事かしら?」
「ハイ。当然です。それが、私に課せられた役目で御座いますから」
「まぁ~しゃしゃと言うわね。私の立場を知ってて語るなんて憎たらしいわ」
「ハイ。あの方が自由契約になれば、アリッサ様がお戻りに成られ、貴方様も大手を振ってタイガー様に言い寄る事が出来ます。ですが、今この時だけは其れが許されるのは、私のみ。ですから短い時間の間だけでも私は全力であの方の全てを受け止めます」
「ふ~ん。やっぱりアリッサと二人で貴方を選んで正解だったわ。……でも一度心を許した彼が、彼女や私が登場した位で、貴方を下に措くかしら?」
「そ、それは……私には計り知れません」
大人の女二人が人目を憚って、闘技場とは別の戦いを繰り広げる。但しコチラはアチラと違って対峙する両者の頬が少しばかり赤く染め上げて居た。
次話は明日 午前中に予定しています




