018 ランカー昇格 そして・・・
またまた、独りよがりの作品に成ってしまいました。
構想はありましたが、今話で一応結末とします。
俺達の後のチームは試合を辞退したらしい。表向きは病欠だ。戦うだけ無駄と判断したんでしょうとシャルルが辛辣な批評を下す。
二チームで『陽の刻ボーナス戦』は満場一致で俺達が受賞。『カップリング賞』の賞状と供にその日の内にランクが一つ上がった。お蔭で、翌日から他の娘達と参戦が叶う。
真っ黒い井出達のライラは『ノワール・パンテーラ』真紅のマギーは『クリムゾンパンサー』純白のアデルは『ブランシュレオパルド』と其々名乗り俺とデビューを飾る。俺の周りに並ぶ四人の女豹達、大胆で奇抜な井出達に男共は喜び、女性達は、羨望の眼差しで見詰る事に成る。順次試合を終えると彼女達は、俺の宿舎へ雪崩込んで来た。
「ちょ!ちょっと!これは、あんまりだぞ。これじゃ~寝る処か一息つくスペースも無いじゃないか!皆一旦前の宿舎に帰るってのはどうだ!?」
「もう。ヴァジム様の所は追い出されてしまいましたわ。家を与えるのも男の甲斐性だそうです」
「それでもだな……」
押し掛け娘達と押し問答を繰り広げる俺に、笑みを浮かべてヘレンが追い討ちを掛けてくる
「晴れて貴方もEランカーに成ったから、保護法が緩くなったのよ。知ってた?」
「そ、そうなのか!?それよりこの有様で困ってるんだ。悪いが、部屋を追加で貸してくれないか?」
「残念ね~今貴方のお蔭で、ウチの評判も上がって余所から脱退して加えて欲しいって依頼が殺到なの。だ・か・ら・空き部屋なんて無いわ。其れより聞いてる?」
「何をだ!?今更、一つや二つ君からの話で驚かないぞ」
「アリッサが、近々貴方の元に帰って来るんだって!」
「えぇっ!何で?戻ってくるの来年じゃないのか!?」
「だって!貴方への保護法が緩んだのに離れる理由は無いでしょ」
「確かにそれはそうだが、……この状況じゃ~どうし様も無いぞ困った。そうだ!シャルル。シャルルはどうした?彼女は一体どこなんだ?」
「弐位様は朝からお出かけですよ。何か飾付けがどうとか、掃除が何とかブツブツと言ってましたね~」
俺の最大の協力者が居無い。ワザと俺を困らせている様に見える女性達だが、今夜からの寝床も無い事で、俺の頭が廻らず彼女達の策略に気付いても居なかった。
どうにか、ヘレンに無理を言って昼食だけは興行所の食堂で皆揃って食べる事ができた。娘達は、買い物してくると、揃って外出。一時の安心を得た俺は周囲の悪意と殺意の視線を受けながら、退避する様に自室へ帰る。するとシャルロットが部屋で待っていた。
「おぉ~シャルル探したぞ!大変だ。困った事が起きた。知ってるか?皆が一斉に!追い出されたってな!信じられないよ!?今夜どうしよう?」
「……落ち着いて下さい。今から出かけますよ。着替えて下さい」
「外出?着替え?何を言ってるんだ!?それより、皆の居場所確保が!」
「良いから着替えて下さい。服は用意してます。コチラを着て下さい」
「これって一張羅じゃないか!一体何処へ今から向うんだ」
「早くして下さい。表に馬車を待たせてます」
追い立てられるように着替えさせられ俺は馬車に押し込まれた。不思議な事に乗せられた馬車は、窓を遮られて外が見えない。シャルルに聞けば、外にファンが押しかけてると言い。俺を無理やり納得させる。
どれ位乗っただろう。何度か曲がり角を過ぎて馬車に揺られる。但し郊外に出た形跡は感じない。それでも、コレだけ長く街中を馬車で走った経験の無い俺は、さっぱり自分の居場所が判らなくなった。
「到着しました。先方がお待ちです。急いで下さい」
言われるままに馬車から降りると目の前には、三階建てのお屋敷だ。園芸用の庭木が植えられた庭と小さな広場が備わっている。
「どうぞ、中でお待ちです」
まるで、この屋敷に仕えているかの様に、シャルルがテキパキと指示を出す。
戸惑いながら俺は屋敷の中へ入り込み、大きな応接室へと足を踏み入れた。
「旦那様お帰りなさいませ」
「だ、旦那様!?」
後ろを振り返るが、誰も居無い。この部屋に居るのは、俺に頭を下げている女性と俺だけだ。益々訳が判らない。ただ……俺に頭を下げている女性の姿に俺は見覚えがある。
「顔を……スマナイが顔を上げてくれないか」
女性が俺の頼みでゆっくりと顔を上げる
「アリッサ……何で?此処は?えっ?ええっ??」
「貴方って……相変わらず鈍いのね」
辛辣な物言いはアリッサ本人に間違いない。確かに彼女が帰ってくると聞いたが、今日だとは聞かされていなかった。それにお帰りとはどう云う意味だ?
「あぁ~。うん。その言い方……本物だ。君は間違いなくアリッサ本人だよ。でも、コレはどう言う事だ?俺は、まだ寝てるのか?コレは夢なのか?」
俺の話をずっと聞いているアリッサが、ジッと俺を見詰ている。
「何で?君は泣いてる?俺が何か仕出かしたか?」
「ええ。貴方気付いてないの?貴方の方が私より、大粒の涙を流してるわよ」
そっと自分の頬に手を当てる。云われた通り、俺の頬に零れる涙に気付かされる
「ホンっと貴方って、鈍感でバカね」
言葉より早くアリッサが俺の胸に飛び込んできた。押し倒される勢いを俺はガッチリと受け止め、強く彼女を抱締める。
「ただいま」
「お帰り……コレ、夢じゃ無いんだよな?」
「バカっ!」
そう言って、彼女と俺は熱いキスを交わし互いに笑顔を向ける。
「そろそろ宜しいでしょうか!?」
いきなりの声に、俺は驚きアリッサは照れて俯く。声の先には、買い物に出掛けた筈の娘達全員とヘレンとシャルルが立っている。
「これはどう云う事だ。誰が説明してくれるんだ」
「貴方達の新居で、『スーパーノヴァ』の拠点よ。序に言えば、私の屋敷の傍と地下通路で繋がってるわ。ホラ!御覧なさい」
ヘレンの言葉に驚かされ、ガラス戸から庭の先に続く景色を辿れば、数十メートル先に確かにヘレンの屋敷裏が見える。
「えっ!?何だ?だって俺長い間馬車に揺られたぞ。それに、こんな屋敷買う金は何処からだ?ってか、俺以外皆知ってたのか?」
「ハイ。何度も同じ道をグルグルと回りましたから、疲れました」
と応えるのはシャルルだ。
「資金は貴方の貯金からよ。普段から、ファイトマネーの一部を私が管理してたわ。でもこの前のダブルス戦で、全額回収否、それ以上に増えてるわ」
「当然です。出なければ、あんな狭い私達全員が押掛けるなんて有得ませんわ」
「うんうん。そうだな」
「狭いのも、肌が触れ合って違った意味で良いですけどね」
「私は何処でもエイジス様と供になら……」
「あぁ~……うん。詳しく聞きたいね」
先日の一軒は結局不問とされた。ダンジョンマスターの身内が関わった事とギルドマスターへの反抗が形と向きを変えて俺に火の粉が掛かったって事だ。丸く治めたのは、アリッサとヘレンである。迷惑料としてあの日の売り上げ全額と賭けの儲け分が俺の知らない懐へ流れ込んだらしい。その代わり、事件の真相は他言無用となる。屋敷の手配に関しては、以前俺とへレンが不動産巡りをした後で、アリッサとヘレンの二人が探して決めたらしい。運良く此処の前の住人が引越しを計画してたと言うが、本当の所は妖しいものだ。地下通路は娘達の魔術によるものだった。突貫工事の為、今も本職が壁や天井の補強工事をしてるらしい。
何故此処が『スーパーノヴァ』の拠点かと言うと、俺達に施設や運動場は要らないのだ。ソレ等はヘレンの場所を借りれば済むからだ。来年度早々にヘレンは新しい団体を立ち上げる。代表はヘレンとアリッサと俺らしい。その下に俺の古巣『輝かしい闘獣士』と『スーパーノヴァ』が並列団体と成る。つまり、兄弟組織だ。であれば、施設やら何やら全部今まで通り使えるわけだが、ご存知の通り俺達の住まいが手狭で、プライベート空間の為に此処が存在する手筈と成った。押掛けるファンの目の誤魔化す為に、地下通路を使って行き来すれば、此処は静かな住まいのまま過せるって女達の腹積もりらしい。
何も知らなかったのは俺だけだって事だ。
『陽の刻大会』が終われば、俺とアリッサ。ヘレン。シャルロットとの合同結婚式が執り行われ、『白の刻大会』が終われば、ライラ・マギー・アデル・クレオの四人と結婚式を執り行う。俺の知らぬ所で、雁字搦めに事が決められているが……それも悪くない。この世界に迷い込んだ時には、戸惑いと不安しかなかった俺が、一年足らずで、人も羨む美女達と結婚するんだ。少々の事くらい眼を瞑るさ。
日本の生活に未練や残した家族に一言謝りたい気持ちも在る。だが、帰る方法や連絡手段が無い今は、どうする事もできない。それより、出来る事に専念しよう。
俺を助けてくれる人達に俺は、まだまだ何も返して居無い。この世界で俺が出来る事を、出来るだけ多く返していこう。それが、俺がこの世界に降り立った事なんだと思う。その内、俺の存在意義も判るかもしれない。その日まで、その時まで、精一杯生きていこう。ステキな女性に囲まれながら。