016 お披露目と大会
俺は、ファッションショーの如く、一人づつのお披露目と思っていたが、どうやら誰もが、恥ずかしいらしく、結局『ヨーイ。ドン!』と言わんばかりに全員が雪崩込む様に現れた。
全員体の線が、ハッキリ出るラインに防護能力は在るの?と思える程のお情け程度な革鎧しか無い。俺を戸惑わせたのは、そのシルエットにも在った。基本スタイルは、猫科のマギーを模しているので中身が誰だか判らない。通気性を考慮して、メッシュ生地が所々に採用されてるが、嫌らしさを助長して居る様にしか見えない。尻尾と耳まで在るのには、正直驚かされる。
全身真っ白いコスチュームに赤く染めた革鎧姿。真っ黒な全身に銀色に輝く鉄製の鎧が腰周りと胸元に光る。真っ赤なボディーに黒い革鎧が最小限に守っている。華やかな黄色は、陽の光り具合で山吹色にも見え、革鎧は黒く染められていた。
残りの三人は、レンジャー部隊の様に迷彩色に染められて居た。コチラは、大き目の鎧が縫い付けられ防護性が高そうだ。二種類の形に分けられたマスクの違いは、髪が出るか否かだ。目元と口元が大きく開いており、中身の顔も派手なメイクが施されている感じがする。
「さて!エイジスよ。お主なら、誰が誰だか判るかな!?」
嫌らしく爺が俺を攻め立てて来た。しかし素手の俺は白旗状態。せめて胸の高さでライラを見分けようよ思ったが、此処まで隠せるのかと思える程、見分けが付かない。確実に迷彩色の三人は『チームヴァジム』だろうが、四人の区別は難しい。
「むむむっ。悔しいですが、降参です」
俺が頭を下げると七人全員がマスクを取った。……思った通り、全員派手なメイクをしている。俺は肌の色でどうにか識別が出来たが、その変貌振りに驚かされてしまった。
「まさか、その色を君が着ているとは思わなかったよライラ。マギーも、とっても似合ってるよ。アデルも驚かされたな。クレオは鎧付けてるのか?」
「動き易さとか安全性は、チャンと在るんだよな!?秘匿性ばかりに気を取られて体を守る事を忘れていたら本末転倒だぞ」
「そこは、抜かりは無いぞ!ワシが監修したのじゃ安心せい!」
「判りました。そこは一応信用しておきます」
「一応って……ワシ最近威厳が落ちてないか……」
右往左往在ったものの、どうにか俺の安心も得られ、大会にも間に合った。後は実戦でお披露目するばかりだ。女性陣も仮面を着ける事で恥ずかしさは飛ぶだろう。
それに、皆戦士だ。魔獣を前にすれば恥ずかしさ等、消えるだろ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いよいよ来たぞ!熱い季節の到来だ~例年に増して今年は暑い日々が続きそうだ。
しか~し!暑いのは気候ばかりでは無い!このコロッセオも熱い!戦いが始まる!今日から始まった『陽の刻大会』開催一発目は、ダブルス戦による特別試合だ!!出場者は、全部で三チームだ。観客の皆!!複数の勝者が居れば、これは!と言うチームに投票してくれ」
「でわ!早速始めていこう!最初のチームは○☆△」
控え室の先で歓声が沸きあがる。観客達が盛り上っていた。俺も久し振りの試合に気分が昂ぶるのを感じていた。クレオが念入りにシャルルにメイクして貰っている
「どうした?少し緊張してるか?」
「いや、うん。多分そうなんだろうな。試合前に緊張なんて初試合振りかな」
「大丈夫、俺が居る。安心しろ」
と言い、そっとクレオの唇に唇を重ねた。
「うん。少し落ち着いた様だ。チーム戦も良い物だな」
「だな」
「私が居るのを忘れないで頂きたいですね」
「御免」
「スマヌ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さぁ~二戦目は新チームの登場だ!驚くな!!今度のチームには、先の青の刻で新星として登場した『マスク・ド・タイガー』が登場だ~パートナーは……名前を初めて見るが……どうやら!改名したらしい謎の選手と来たぞ~一体どんな試合を見せてくれるか、今からワクワクだ。紹介しよ~新生チーム『スーパーノヴァ』『マスク・ド・タイガー』&『イエローレパード』だぁ~」
もの凄い拍手と歓声の中俺とクレオが颯爽と待機室から走り出し。大きなジャンプを繰り出しながら、前方三回転をしつつ互いの軌道が交差する。『シュタッ!』と無事着地すると其れまで騒いでいた客席が『シーン』と静まり返った。
「なんだ!なんだ!私も皆さんと同じく今初めてその姿を眼にしたぞ!!アレは誰だ!?奴が!奴こそがタイガーのパートナー『イエローレパード』なのか!!全身黄色い姿にキッチリ浮かぶシルエットは正しく女性の姿だ!!なんと、タイガーの相棒は女性だった~それも飛び切りのスタイルと奇抜な衣装だ~」
場内アナウンサーの言葉に消え失せていた歓声がドッと沸く。先程より大きな拍手が鳴り響き、一部の男達は観客席で立ち上がっての狂喜乱舞だ。クレオの姿に誰もが度肝を抜かれ驚き見せている。
「奇抜な衣装とナイスなボディーが、何処まで通用するかは未定だが、対戦相手も度肝を抜く魔獣だ!!出でよ!モンスター」
登場口から重低音な響きと振動を放つ怒声を挙げながら魔獣が地響きと供にゆっくりと現れる。首が痛くなるほど上げなければ、奴の顔は見えない。それほどの巨体を持った魔獣が俺達の相手だった。奴の姿を見てクレオが言葉を漏らす。
「何故だ?Eクラスで奴が現れるなど聞いた事が無いぞ」
クレオが驚きを隠せないと同時に場内アナウンサーの声色も戸惑いを隠せて居無い
「こ、これはどうなってるんだ?コイツがEクラスの試合に出てくるわけが無い!
おい、担当者説明しろ!!」
闘技場横でオロオロとするアナウンサー。しかし観客達は知らずに歓声が更にヒートアップ。当然俺も奴が何者か知らず、臨戦態勢を取っている。審査委員とアナウンサーと担当者が話し合いを始め、魔獣を戻そうとし始めた。盛り上った観客は当然ブーイングの嵐と化す。
「クレオ不味いぞ。ここで相手の魔獣を引き返させると、幾ら俺達が派手に勝っても票は入らない。此処は奴を倒すしかない。良いか!?」
「待って頂戴!奴に火の魔術は通用しないわ危険よ」
「雷はどうだ?」
「知らない試した事なんて無いわ。ってか見た事は在るけど、奴と同種の魔獣と戦った事さえ無いのよ」
「俺と一緒なら勇気と力がアップしてるんだろ!安心しろ。俺が傍に居る」
「……判った。貴方とならやれる。きっと勝って見せる」
「良し!初っ端に雷を奴に放て!俺が目を逸らさせる」
係員が登場口を開きだした。アナウンサーもマイクを確かめながら握り締めている
そこへ、俺が三回転ジャンプをしながら奴の視界に飛び込んでいった。
『ウォォォオ~』
歓声が盛り上って拍手が最大に鳴り響いていく
試合を中断しようと決めた競技委員。しかし俺の飛び出しに観客の歓声が沸きあがり声が打ち消されてしまう。なし崩しに俺達『スーパーノヴァ』が試合を始め出した。ゴングが慌てて鳴り出し。場内アナウンサーが冷や汗を拭きながらシドロモドロに喋り出した。
「あ~観客の皆!!コレは手違いで、正統な試合じゃない!!だが、果敢にもタイガーは魔獣に背を向けなかった。両者の力の差は歴然だが、スーパーノヴァの善戦に期待しよう。この試合は結果より経過を見てくれ!!彼等は魔獣を許さない。魔獣に背を向けない!!魔獣を倒す戦士だ~!勝て!タイガー。戦え!レパード。私は中立者だが、この試合。この試合だけは声が枯れるまで彼等を応援し続けるぞ!
皆も力を貸してくれ!応援を彼等に与え続けて欲しい!!」
俺達の前に立ち塞がったのはCランクの魔獣『プロントエレファント』だ。象に似た魔獣でその大きさが途轍もない。おまけ皮が厚く、普通の剣や刃先では、奴を切り裂き事等不可能で、火も通り難い。
俺の事を羽虫の様に無視して魔術の詠唱を唱えるクレオ否、レパードへ歩み出す
「お前の相手は俺だ!無視するんじゃねぇ~」
何度も剣を振りかざし、奴の長い鼻に斬りかかるも、一向に傷一つ付かない。その間歩みを止める事無く、一歩一歩と鼻先がレパードに届く距離へと近付く。
プロントエレファントの最大の武器は、その体である。丈夫でブ厚い皮膚は生きた鎧。巨体が齎す体重は凄まじい破壊力を生み出す。だが、奴の鼻も驚異的な攻撃を生むのだ。高々と振り上げて一気に振り降ろせば、人が放つ大斧の繰り出す破壊力より数倍の力を叩きつけるだろう。
詠唱を始めた魔術師は一歩も動けないのが普通だ。もし、奴の鼻先がレパードに振り翳されれば、それだけで、大ダメージを被る。開始早々俺は、奥の手の一つを繰り出さなければ成らなくなった。