013 連携
『陽の刻』一発目に設けられている試合に向け、俺は新たな訓練を始める事になった。『連携』経験した事の無い体験だ。元々格闘経験が無く、スポーツも長年行って無い俺には、他者と供に動く発想が無いからだ『良く言えば、全てを吸収出きる。悪く言えば、何も知らない』なのだ。
女性陣にコスチュームを着せる会合が終わった日から、ダークエルフの『クレオ』が同居を始めた。連携を取るのに、『互いの心を通じ合う必要がある』が彼女の言い分。翌朝『輝かしい闘獣士』興行所で、騒動が在ったのは予想通り。中には、俺と同じく異種族を見たのは、初って連中も多かった。『魅了』が得意のグラマーなダークエルフと来れば、今まで好意的だった連中の中に敵意を向ける奴も現れる程だ。
「へ~、練習だけ見ても、運動量と言いセンスと言いシングルでの戦いは、私を越えてるわね。コレだったらエイジスの動きを如何こうするより、私がバックアップする形が早くて効率が良さそうね」
「そうなのか?実戦・経験どちらもクレオが俺の数段上だからな、その辺の戦術は任せるよ。それより、俺の直すべき所が在ればドンドン指摘してくれ」
「じゃ~今夜から、遠慮せずに貴方を攻め立てるわ。シャルルに聞いたわよ。見た目と違って、ハードでデンジャラスなんですって!?……あぁ~夜が待ち遠しい」
俺を、からかい供取れる挑発をするクレオの声で、数人の涙を流す輩が目に留まるのを流しつつ、汗をシャルルに拭いてもらうと更に啜り声が運動場に響く。
「貴方って……周りを苛めてるの!?それとも天然?」
クレオが呆れて俺を見つめる。それも含めて貴方なのね。と言い放つと彼女は部屋へ帰って行く。どうやら、コレで朝錬は終わりらしい。俺達も後に続いて帰る事にした。シャルロットとクレオの関係は良好だ。二人並ぶと笑い声が耐えない。人付き合いが苦手なのかと想っていたが、どうやらクレオが苦手なのはライラだけらしい。取り合えず此処は宿舎。痴話喧嘩は避けてと願っていたのは、取り越し苦労に済んで良かった。
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「確認は取れたか?」
「ハイ。間違いなく『陽の刻』一番に開催されるとの事です」
「でわ、向うへと手筈を進めておけ」
「判りました。あの件も合わせて進行させます」
「うむっ。判った。コチラも根回しを固めておく」
「クククッ。これで、クソ爺の悔しがる顔が楽しみだ。抜かり無い様にしろ。巧く事が運べば、一気に老いボレを長の座から引きずり卸してやる」
町の一角で不穏な動きを見せる男達が居る。己の野望の為、何を起こそうとしているのだろう。だが、奴等以外この事を知るものは今は居無い。
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「貴方から観て二人の息はどう?」
「素人の私から見てもエイジス様の動きは相変わらずキレが宜しい様です。残念ですが、クレオの動きもエイジス様の動きに段々と合って来ていると思われます。……口惜しい!ですが、全てアリッサ様・エイジス様と貴方様の未来の為。恙無く、次点の仕上げに向っていると思われます」
「そう!?なら、良いわ。彼が巧く昇格すれば、予定より半年近くアリッサが帰って来れるわ。試合の仕上げは二人に任せ、私達は不動産を回りましょう」
「シャルル!当分の間、夜は彼女を優先させるのよ。良いわね!」
「グッ!……仕方有りません……」
「所で、確保する場所は如何程をお考えなのですか?」
「実は、アリッサの案を取り入れようと思うの。それなら、『陽の刻』中にでも可能だわ。それに、私の所との接点を失わず世間にも防ぎを入れられそうよ」
「それは、良いお考えですね。是非実行出来ます様微力を尽くします」
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此処は、ダンジョン中階層。俺とクレオそれにライラが加わった三人で、訓練を重ねていた。一つは、試合に向けて、一つは回復者が居る事で長く潜れる。そして出来れば、クレオとライラの仲を治めたいと思ったからだ。
「ファースト・ギア!(高速行動)」
「レンジ・サンダー!(範囲雷撃)」
「……」
「さっきから、俺が出る幕が無いな。二人とも頼もしいけど、魔力は足りるのか?
全然知らないけど、魔素切れでイキナリ倒れたり、気を失うってナシにしてくれよ!?」
「エイジス殿は魔素や魔法に詳しくないと聞いていたが、初級魔術師レベルの知識は持ち合わせてるのだな。確かに魔術を使い過ぎると体内の魔素が枯渇し、体力低下が起こるのが一般的だ。但し、私達はエルフの血が流れている。その様な心配は要らない」
「たとえ!魔素が切れても、倒れるほどダークエルフは華奢ではないぞ!万一にも魔素が枯れても、この槍で倒すのみ!」
「私とて!成り立てのの魔術師では有りません。自分の魔素保有量と消費率は把握済みです。回復量を考えながら、このエルジュの木で拵えた弓と矢で、魔獣の核を簡単に射抜いて御覧に見せますわ!」
中階層エリアに入ってから、ライラとクレオの魔術の息が合い俺の出る幕が無かった。何だかんだと言っても魔獣相手だと手を取り合うんだと思っていたのだが、どうやら互いに競い合ってっただけらしい……本当に困ったものだ。
「ご心配なら、次は武術で、魔獣を倒して見せよう」
「うむ。私も望む所です」
二人の競い合いが加熱していく。間の悪い事に、被害者となる鳥類型の魔獣ガルルーダが、現れた。
「スラッシュ・ランス」
「フラッド・アロー」
ガルルーダとはDランクの魔獣だ。中型の魔獣だ。日本で言えば、大鷲の二倍程の大きさで、鋭い爪と嘴からの攻撃が、冒険者や闘獣士を苦しめる。難敵の一つとされていた。
「…おいおい、幾らボルテージが上がってるとは言え、奴を瞬殺なんて有り得ないぞ。二人ともランカー偽造してないか?」
「ふふふっ。倒した私自身驚いております。確かにこの身は高揚感で全身に力が漲っている様です。弓スキル『フラッド・アロー』に水魔術が加算されるなんて私初めて撃てました」
「私の『スラッシュ・ランス』の攻撃も何時もより威力が在った様に思える。クリーンヒットだけでは、アソコまで斬撃が在るとは驚きだ」
「これは……やはり、エイジス殿の影響と考えて良いのか!?」
「うむ。新たな発見やもしれん」
二人が変な方向で話が盛り上ってる中、握り締めている剣を見つめて俺は考えてしまう。今までの戦いの中で、力任せに倒してきた俺。果たしてこの二人と組み手をしたら勝てるのだろうか?彼女等が放った技……そう。プロレスでもボクシングでも決め手になる技を一流選手は多く持って居る。中にはオリジナルの技さえ存在していた。俺には何も無い……。
更に奥まで討伐を繰り返し、俺達は連携を深めた。判った事は、ライラとクレオは完全に仲が悪いわけでは無い。と言う事だ。何かの切っ掛けが在れば、二人がイガミ合う事や競い合う事も減るだろう。但し、その切っ掛けが何かである。
それより、今回の訓練で思い知らされたのは、俺の決め手『フィニッシュ技』が無い事だ。コレばかりは戦闘経験の浅い俺では習得等まだ、先なのかもしれない。と、思い込まされる所で訓練を終える。
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ライラとクレオの中を取り持つ切っ掛けが、シャルルの策略で開花してしまった。結果的には、俺に取っても諸手を挙げて歓喜する事なんだが正直、身が持たない
恥らうライラに煽るクレオ。白と黒が嫌らしく重なる時、思春期の俺の体は否応無く反応してしまう。例え身体が若造でも、精神は彼女達より遥かに年上の俺だが、コレでは身も体もタジタジだ。いつの間にか二人は互いに協力し合って、俺を攻め立てていく。気がつけば、夜が明ける程に時間は過ぎていた。翌朝、隣近所に部屋を構える連中から痛い視線の憎悪の篭った感情が、俺に剥き出しで襲い掛かった事は、ずっと忘れられないだろう。