012 計画
数日後、再びヴァシム邸に向う。今度はシャルロットも一緒だ。結局俺は答えが出ないままだった。当然シャルルも同じ結果だ。ヘレン一人が鼻歌交じりに、大きな手荷物を持って屋敷に向っていた。彼女の暴走が無ければ良いのだが、と俺は祈るばかりである。
「幾日振りのお集まり、皆さん御変わりはございませんですか?早速ですが、先日の会合の宿題に関してですが、何か案は御在りでしょか?」
ヴァジムは今回アドバイザー的立ち位置だ。と宣言し輪になる席から早々に外れた場所で悠々自適にお茶を嗜んでいく。(まぁ~俺の問題に大御所が頭を捻るのも恐縮するしな、ソコで俺が苦しむのを観て楽しんで下さいよ)
俺と女性陣で囲むと自然と注目がヘレンに向けられ、司会進行役となる。しかし、彼女の問い掛けに応えることの出来るものは誰一人居無い。そこへシャルロットが動き出した。
「此処は順当にエイジス様に日常的にマスク着用をお願いしましょうか!?」
「ダメよ!貴方ズルイわ!先日貴方は素顔のエイジスと誰からも邪魔される事無く街中をデートしたでしょ。私も其れを楽しみたいもの。其の案は却下よ」
「でわ、他にどの様な案が御座いましょうか?」
ダメ出しをしたヘレンに代案を求めるようにシャルルが問い詰める。他の女性陣は黙って見守るほかは無い。それは、ある意味シャルロットの案かヘレンの代安が即決定に成る事を暗示している様に俺には思えてならない。考えを搾り出すかのようにへレンが俺に問い掛けて来る。
「所で、エイジス。貴方先日プロレスの話をしたじゃない。アレって確か元は漫画よね!?」
「そうだ!俺が生まれる前後の頃だった記憶が在るぞ」
「ふ~ん。漫画ね~……他にどんなのが流行ったの?別にジャンルは問わないわ」
「そうだな……漫画やアニメ・TVの定番と言えば……ロボット・宇宙人・変身モノって所か……っん!!変身モノ!?そうか!其の手が在ったか!否、でもこの世界に在るのか?調べてみるか!」
俺に一人盛り上っていると、シャルロットが慌てて待った!を架けた。我に返るとシャルルの他にライラ・アデル・マギー・クレオがポヵ~ンっと口を開いた様に俺を見詰ていた。唯一人へレンだけが、してやったりと自慢げな笑みを浮かべている
「おいおい、其の顔だと既に解決策は出来てるのか?」
俺の言葉に一同は、ヘレンのほうを振り返る。
「そうよ!完全な解決方法且つ話題性に興行収入アップも夢ではない方法よ」
大言に女性陣一同が唾を飲み込む。注目が集まる中へレンは徐に立ち上がり、俺達に少し待つ様に指示を出すと、一人別室へあの荷物を持って向った。
数分後、ドアの向うからヘレンの声が響く。
「解決策はコレよ!」
出てきた姿は、ピンク色の全身タイツ。首元で切り返しとなっており、頭は同色のタイガーマスク。要所には、金属や皮製の部分鎧が仕込まれ、足元はヒールを履いている。正しくその姿は戦隊シリーズに出てくるモモ○ンジャーバリの姿だ。
コレには輪の外で優雅にお茶を飲んでいたヴァジムを噴き零す始末である。
「何と言うか……本当にエイジス殿の国元では、この様な者達が御居でか!?」
「わ、私が其の格好をするの?」
「えぇっっつ!!」
「カッコいい!」
「……私は裏方ですので……」
「伸縮性素材とチャックって在ったんだな。それが、在るかが悩んだんだよ」
「ハイ。ソコが一番の難点でしたわ」
「いいぞ!コレは受ける!!ヘレンでかした」
敢て蚊帳の外で見守っていたヴァジムが目を輝かせて思いっきり乗り気になっている。反対に女性陣はおもいっきり引いた視線を投げ掛けていた。
「っん?皆どうした??これ程の解決策は他に在るまい。話題性。秘匿性。独自性どれを取っても、オリジナルの極みでは無いか!其の上女性特有のボディーラインが強調されており、男性客の視線を虜にするでは無いか!素晴らしいぞ」
「ソコで御座います。親方様!余にも体の線が際立ちすぎるのです」
「あら!私別に体の線が出て困る事は無いわよ」
ライラとクレオが違う件で、今日も火花を散らし始めた。(やっぱりこの二人中が悪い?)
「大丈夫です。体の線は如何様にも詰め物で変化が付けれるのです」
ヘレンがそう言って、徐に胸元の防具の内側へパットをギュウギュウと詰め始める
すると、それまで推定Cカップがあっと言う間にEカップに変身だ。これにはライラも目が釘付けとなる。
「今はこうして、防具の中に詰めましたけど、本品では薄い生地タイツの方に縫い付ければ、ズレる事も飛び出す事も在りませんわ」
「夢のような衣装」
(ライラの目に輝きが放たれている)
「ですが、欠点も御座います。装着時間が長いと中が蒸れてしまう恐れが在りますの。そこをどうにかしないと、柔肌が大変な事に……」
「なら、所々にメッシュ生地を使って通気性を増せば?」
俺の一言で解決策が生まれ、あれよあれよと話が進む。いつの間にかヴァジム様も会合に加わり、熱き論争が繰り広がれて行く。
「これは、一大センセーショナルを生み出すぞ!促進物も大いに売れるやもしれん。むむむっ……悔しいのぉ~ウチの女性陣にも着せたかった……」
断腸の想いで苦虫を咬むヴァジム様。雅かこんな事で生きた伝説者が地団駄を踏むとは思いもしなかった。
「えっと……俺の案じゃ無いんで強くは言えないんですが、デザインが被らなければ、何処の興行所でも使って良いんじゃないですか」
余の落胆振りを見るのに耐え切れず、思わず言葉にしてしまい慌ててヘレンを見詰る。そう今回の案は俺では無く彼女だ。彼女の許可無く、俺が口に出したのはマズイのだ。慌てて、彼女の許可を取ろうと目線を向けてしまった。
「ごめんなさい。実はこの考えは私では無いのです……アリッサなのよ。案もデザインも素材集めも全て彼女一人が行ったの。私は単に彼女に代わってプレゼンしたに過ぎないわ。だから、許可は彼女でないと……」
アリッサ。離れていても俺の事を考えて居てくれた。有難い。本当に有難い。俺は彼女の思いに強く抱締めたい衝動に駆られる。しかし、彼女は俺の傍には居無い。淋しさと悲しさが込上げてきた。アリッサの名が出た事で、この場に静寂が広がる。ソコへ突如一羽の鳥が舞い込んできた。青い羽が綺麗な鳥だ。足に何やら括りつけられて居る。迷わずその鳥は、ヘレンの肩へ停まると可愛い鳴声を鳴らす。
「ドリー!」
ヘレンは、どうやら小鳥を知っている様子だ。足に括られた紙切れを広げると彼女に笑顔が迸る。
「アリッサです。アリッサからメッセージが届きました。来月のエイジス達のお披露目が済んだ後、順次他の娘達と供に他の興行所でも衣装を使用しても構わないと書いております」
『おぉぉお~』
沈みかけていた室内に歓喜が湧く。爺が年甲斐も無く泣いている様に見える。俺もホッと一安心だ。
「アリッサ様……一体何処で、コチラを覗いているのでしょうか?」
シャルルからボソっと小声が漏れ聞こえる(確かに!あれ?もしかして俺の普段の行動も駄々漏れ状態か?怖い……)
「じゃ~後は『マスク・ド・タイガー』みたいなネーミングだけだな!」
こうして、難題だった素顔の露呈は、アリッサの案で解決方向へ向う事になった。