011 契約
夢にまで見た、異世界の異世界たる住人。それも世界を跨いで、絶世の美女と認識される複数の美人を前にして、俺は贅沢な悩みに直面している。
「本人達を前に不躾だと思うけど、エイジス貴方は一体誰を選ぶの?」
どうにか、俺への怒りを抑えたへレンが、本当に不躾質問を俺にぶつけて来る。
ゲームや小説の中で尤も親しみと馴染み深くじっくりと語り合いと思える四つの種族の選りすぐりを前に俺が選ぶ事等できる筈も無い。答えに困り俺がマゴマゴとしていると選ばれる側のダークエルフのクレオが手を上げてきた。
「私達は十分に貴公の話を聞いて理解している。それは現在貴公の周囲に存在女性方を含んでの事だ。我々は貴公の人となりよりも先に秘められた力と後世に託せる力を第一に考えている」
彼女の発言は御尤もだと思う。但しGMが言ったような力が俺に本当に在るかは、今の俺には判断は付かないが、少なくてもこの女性達は俺との関係を承諾している。それは戦前日本の親が決めた相手に黙って従うのとはわけが違う。彼女達には彼女達の策略の思いが込められた行動だと認識していた。
「現在傍に居られないアリッサ殿。かの方は、貴公の力を見る前に思いを寄せられていると聞く。それは、そちらにいらっしゃるヘレン殿も同等だろう。そして現在貴公のお世話をしているシャルロット殿もまた、違った意味で同じだと我々四人は解釈している」
クレオの言葉に横に並ぶ美女達も頷いていた。
「我等は、アリッサ殿とヘレン殿を第壱位。シャルロット殿を第弐位。そして我等四名を第参位として迎え入れてはくれぬだろうか?」
(えっと……壱位とか弐位って何?……あぁ~後忘れてた!さっきの自己紹介で在ったワールドってのも序に教えて!?) と俺はヘレンを見詰る。
(アッチで言う本妻・側室・御妾さんって事よ。一番二番三番って事。コッチでは参位えっと御妾までが、正式妻として広く認知されてるの。それとワールドはアッチで言えば、ハーフ以上ね。判りやすく言えば……雑種よ)
(雑種って、相手は人だぞ!?エライ!物言いだな。っと妾まで奥さんって言い張れるのも凄いトコだな)等とアイコンタクトでヘレンと会話し続け理解を深める。
「あ~それって、この国では大切な事なんですか?」
「お主の世界では、人種は確か人族のみだが、肌色で争った過去が在るの!?此処では毛色での争いは過去から見ても一度も無い。代わりに現在も種族間の優劣を付けたがる風習と言うか習性が一部の間に存在する。一般社会には何の効力や判断材料にも無りゃ~せんがな。実際獣人族には、思想すら存在しておらん。拘って居るのは、一部の人間とエルフ達じゃ。それでも、親族的には妻の直系は後々親戚筋の間では、大きな影響力を及ぼすだろう」
「成程。皆さんのお気持ちは、納得は出来ませんが、理解はしました。ですが、私自身も想像と把握していませんが、私が運良くEランカーと成って独立した際、皆さんと供に暮らせるだけの家と稼ぎが持てるのか不安なんですが、其の事はご理解されてます?」
「それは、ワシに策がある。クレオと供に『陽の刻』初日にダブルス・クラスで、ボーナス試合に参加じゃ。それに受賞すれば、お主は『陽の刻』初日でEランカーに昇格じゃ。翌日からEランクの試合に出れるぞい」
「それって!八百長!?否!デキレースって事ですか?」
「それは違うぞ!試合に手心は一切加えん。本来シングルクラス以外のクラスに出場するグループは、信頼関係有ってのものじゃ。互いの背を守り、阿吽の呼吸を基に魔獣と対峙するものじゃ。唯、今回は見合いを行って互いの利害関係が先行する即席グループと言う訳じゃ。普通ならそんなグループは成立せんし、認められん。ソコに『黙認』と言う荒業で、ワシがGOサインを出すだけじゃ。因みに、相方がクレオなのは彼女だけがFランカーだからじゃ。戦いにはクレオがリーダーとしてお主が協力する形じゃな」
「失礼な発言をしましてお詫びします。ですが、それでも問題は解決しません。私の収入や家の問題があります」
「そこは、当分の間娘達には通い妻をさせれば良い。例えお主がEランカーに成っても、ヘレンと今年度の契約は終えておる。独立は出来ないのじゃ。だが、陽の刻以降お主は、他の者とダブルス戦やEランカーとして参戦すれば、自ずと資金は溜まるじゃろう。構える場所は、じっくり半年も時間を掛ければ見付かる筈じゃ」
「成程!流石、年の功。深く考えられてますね」
「ふぉふぉふぉっ。して……今更じゃが、お主は誰を選ぶのじゃ?」
悪戯っぽく笑みを浮かべながらヴァジム様の発言で『フリダシ』に戻った訳だが、女性陣からの痛い視線がヴァジム様を襲い、結局なし崩しで全員が来年には俺の所に揃って来る事になった。
「集ったのも煽ったのもワシじゃが、雅か全員が決意するとは流石に読みが甘かった……綺麗処が一気に居なくなると淋しいの」
「ヴァジム様がイケナイのですよ。はぁ~困りましたわ。アリッサになんて報告したら……」
移籍が確定した女性陣等に、第壱位と祭られ逆上せていたヘレン。計画が大きくなった事に気づき頭を抱えている。同盟を組んでいるアリッサと、ある程度の話は纏めていたのだろうが、此処まで大所帯は想定外なのだろう。当の俺も少々困惑気味だ。夢に見たハーレム状態が予想外な形で、異世界で叶うからだ。但し、気を緩めたり、不義を働けば、血の雨は覚悟しなければ成らない。皆、俺と同等か上位ランカーの戦う女性達なのだから。
一段落し、お茶を楽しんでいると俺は、フッと気付いてしまった。
「不味い!マズイですよ!!」
「行き成りどうしたのじゃ!?」
「クレオと参戦した後で、俺と彼女が一緒に居れば、俺の素性が世間にバレます」
落とし穴に今頃、気付かされる。普段何食わぬ顔で街を歩けるのは、仮面と素顔の二つを持って居るからだ。そこへクレオと参戦すれば、自ずと傍に居る俺の素性もバレてしまう。そうなれば、日常的にマスク着用に成ってしまう。
俺の言葉にその場に居たもの全員が考え込む。しかし、時間を費やしても答えは出なかった。対策案は宿題として、一旦その場を解散する。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「『……って事に成ったわ……許して頂戴』これで、アリッサへの報告は終わりっと。でも、正体がバレずに済む方法って何が在るかしら?困ったわ」
内密に連絡を取り合っていたヘレンは、報告書を纏め彼女に送りつける。エイジスが最後に言った問題は難題だ。最悪、彼が外出する際にマスクが常用に成ってしまう。やっと大手を振ってシャルロットと同じ様にデートが楽しめると思ったのに、トンだ落とし穴だと今更ながら、ヘレンも悩んでいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「でわ、アリッサ様が承諾する前に、それだけの数が一気に増える訳ですね」
「そうなるな……すまないね」
「……私が弐位ですか……ウフッ♪」
(俺の話は聞こえてないのか)
「イケマセン!大事な事を忘れてました。……いえ、良いですね。返って好都合かもしれません。後は……一度皆さんとお会いした後でも……フムフム」
(俺の存在すらも消えてるな。まぁ~シャルルの機嫌が悪い訳で無ければ良いか)