010 面接?見合い?
どこぞの遊園地かと思える程の広大な土地と施設と屋敷は、生きた伝説と唄われる闘獣士ギルドマスター・ヴァジムが、主とする屋敷だった。
「いや~こう見えても中身は四十路手前のオヤジさんですよ」
「ワシと比べれば約半分じゃ。世間では十六~七で通しておるのじゃろ!?若い者は元気で居れば良い」
「恐縮です。ご質問の件ですが、仰られる通りです。私の世界では、武術を見せる興行が数多あります。其の内の幾つかを掛け合わせ、コチラで見栄えが取れる様にアレンジしました。因みにマスクは、国下で有名な選手のを真似た品です」
「はははっ。ほんに、お主の国は面白いの~機会があれば訪れたいものじゃ」
「所で、私は何も聴かされぬまま此処へ付いて参った次第なのですが……」
と、GMに語りかけながらチラッと横で直立不動の姿勢を崩さないヘレンに視線を向ける。
白髪で埋め尽くされた頭の老人ヴァジムが、俺の問いに笑いながら応えてくれた
「お主を溺愛する余、泣き付く者が居っての。是非ワシの所の弟子を一人譲ってくれと、頼み込まれての。まぁ~座りながら、ゆっくり話そうか」
ヴァジムの所でも『転移者保護法』の話を聞かされた。此処数十年、表立っての『転移者』の報告や情報は無いらしいが、別に無いからと言って保護法が停止する事は無いらしい。彼もまた保護法に則って俺に援助してくれると言う事だ。
「有り難う御座います。正直受けた恩を何処まで返せるか判りませんし、自分に皆さんが思いを寄せる程の力が在るか疑問は在りますが、彼女達の献身的な温情には十分に応え返したいと思っております。……改めてお願い致します。どうか、私にお力をお貸し下さい」
「造作も無い事よ。して、貸した力何れの後ワシにどう返すつもりじゃ?」
「何をお望みに?」
「娘達の幸せと、ワシとの勝負……では、どうじゃ?」
「……失望為されない様、精致します」
「まぁ~次点と受け取っておこう」
「アヤツ達を連れてまいれ」
GMとの会話する中、終始ソファーの後ろで、一点を見詰不動の姿勢を取っていた屈強の男性が、奥へ指示を出す。すると数人の人影が俺の前に現れた。
色白の佳人。耳の人と同じ位置だが、形と長さが人目で違う事が判る。今まで、街中や興行所では、お目に掛かった事の無い人種。想像を描いた事は在るが、この世界には存在して居無いと諦めていた。自ら輝きを放っている?と思える程の綺麗なプラチナブロンドのストレートの長髪。透通る様な、綺麗な白い肌。細身とガリガリの瀬戸際を絶妙に維持する体躯。そして全てを見透かすような視線を放つ翡翠色の瞳。日本男子なら一度は夢見た人種『エルフの女性』
頭から顔そして、つま先へと繋がる様に同じ模様の毛並み。畏まった姿勢に対し頭部上では、ピコピコっと可愛い耳が動いている。思わず撫でたいと衝動に駆られてしまう。肩幅と腰幅は細くも無く太くも無い。キュンと引き締まったお尻は程良い肉厚。ソレ等を綺麗な曲線が繋ぐ体は正に女豹。張りの在る長い足は、俊敏さを生み出すのに最適では?と思える程の造けいだ。ユラリユラリと揺れる長い尻尾を併せ持つ。『獣人猫科の少女』
忠誠心と屈強な精神力と相反する愛らしさを感じさせる姿は『獣人猫科の少女』とは、違った色合いで決して劣ら能力を持つのだろう。多くの『転移者』が心を、最も開く人種かもしれない。彼女も同じく頭部から足先まで、流れるように毛並みが連なっている。持久力が自慢と言わんばかりに全身から醸し出す雰囲気は、背中を任せられる仲間となるだろう。『獣人イヌ科の女性』
『白の佳人』に対し『黒の麗人』の言葉が頭に浮かんでしまう。エルフとは、何もかもが対照的だが一目見て、同属異種と思えてしまう。コチラは純プラチナの輝きを放つ長髪に均整の取れた顔立ち。グレー色が際立つ瞳からは、妖艶な色を感じさせる。暴力的な胸から張りの在る腰つきは全男性を惑わせるのに十分な力だろう。カモシカの様な長い手足を従えた姿は生きた彫刻と思える程だ。エルフと同じく、日本男子の憧れの一人『ダークエルフのお姉さん』
「わはははっ。言葉を失って居るな」
老人ヴァジムの呼びかけで、初めて自分が目の前の女性達に心奪われて居る事を気付かされ、思わず赤面になってしまう。
「正直、驚きに耐えません。彼女達と同族の方々を街で見掛ける事は無かったので、この世界では存在しない方々と思っておりました。やっぱり住んでらっしゃるのですね。今までの境遇で自分は異世界に飛ばされたと認識して居りましたが、これでハッキリと自分が異世界に舞い込んだと実感しています」
「チッ!……これだから日本男子は!」
傍にへレンが居るのを忘れ、つい言葉にしてしまい、彼女の不評を買ってしまう。後の事を考えると恐怖以外何者でも無いが、其れを差し引いても十分にお釣が貰えるほどの瞬間だった。ヘレンやシャルロットそれにアリッサの三人も十二分に佳人と言える程の美しさを放っている。シャルロットは正統な西洋美人。アリッサは東洋と西洋が調和良く入り混じった日本人好みの美少女。ヘレンは東洋系の色が濃い西洋崩れの佳人。三人とも日本に居たら芸能界デビュー等果さず、何処かのアホな資産家の嫁に成ってしまうだろうと思える程、俺とは釣り合いの取れない美女で常日頃『美女と凡人』と思っていた。
「先ずは各々から自己紹介と簡単な能力をして貰おうかの」
ヘレンと俺の痴話喧嘩が始まる前にヴァジムが音頭を採り、エルフの美女が一歩前に歩み出てきた。
「名前はライラ。森の住人エルフの民、ハーフです。Eランカーです。年は78歳人に例えると18です。回復と補助魔術での援護が主です。水魔術での攻撃参加も出来ます。それと弓はコチラの訓練所では、三指に入ります」
白人の佳人がそう伝えると一歩下がり、代わりに猫科の少女が前に出る。
「名前は、マギー。ランクはF。獣人・大型猫科に属しますが、混じりすぎて種族的にはワールドです。年は十五。短剣と投擲で足止めかく乱を得意とします。風魔術は、威嚇程度です」
「名前は、アデル。同じくワールドでFです。剣と盾で前衛全般でFランク。土魔術で足止めを良く使います。歳は19歳です」
「クレオよ。Dランクよ。歳は人間で言えば22歳。攻撃魔術特に火と複合魔術の雷を持ってるわ。最も得意なのは、チャーム(魅了)よ。槍での直接攻撃も好きよ。種族は見た目通りのダークエルフ。三代前が純血種だから、このメンツの中では一番種族属性は高いと思うわ」
最後のクレオはそう自己紹介をすると、一瞬エルフのライラの方に視線を送った気がした。これも日本でお馴染の種族的に中が悪いのか?と勘繰ってしまう。
「っと以上が、ワシが推薦するFランカーの者達じゃ。どうじゃ!勧めるだけあって、皆綺麗じゃろう!?お主の国元だけじゃなくこの世界でも彼女等は絶世の美人扱いじゃぞ!まぁ~ヘレン嬢も人族では、トップクラスじゃがな」
其の意見には俺も異論無しで同意する。しかしGMヴァジムの紹介に少し疑問を抱いた俺は彼に質問をしてみた。
「一つ聞いても良いですか!?」
「なんじゃ?」
「これだけ、広く多くの運動場と施設を構えるコチラでは、数多くの訓練生やランカーが所属していると容易に思えます。……何故に俺に紹介する方々が女性ばかり、それに適齢期な女性なのですか?」
「おろ!?お主……ソッチの気も在るのか!?」
一瞬言葉に詰まる。コッチの世界にも居るんだと瞬時に頭が、ヴァジムの言葉を解釈し、慌てて答える。
「滅相も御座いません。そう言う方は、私の国にも居りますが私は至ってノーマルで、目の保養になる美女をご紹介頂いたのは感謝の極みです。ですが……それでも疑問は拭えません」
「話に聞いた通り唐変木な男じゃな。オマケに自信が無いと言うか己の価値を判っておらん様じゃ。コレ!ヘレン。その辺お主は教えておらんのか!?」
「お言葉ですが、其の件に関しましては、私と彼の関係は、今だ雇い主と雇われ者で御座います。その辺はアリッサの役目ですが、現在傍に居りますのは、彼女が手配したシャルロットと名を持つ者でだけで、御座います。故に本人の認識が低う御座います」
「……そうじゃったな。怒鳴って悪かった。許せ」
「でわ!ワシから伝え教えよう。エイジス。お主は『転移者』それも知る限りで、特異な男じゃ。幾ら異界から訪れた者でもお主ほど、短期で力を発揮した者は居らぬのじゃ。此処に居る者・お主に関わった者・この世界に君臨し国を治める者達全てが、後世の事を考えておる。だからと言って、変人・奇人や粗暴で乱暴者を誰もが望んでいる訳では無い。情に厚く、人としての節度と心根を持ち常識人を誰もが求めて居るのじゃ。つまりお主は十分にソレ等を兼ね備え、計り知れない力を秘めておる訳じゃ」
「それって……種馬ですか!?」
「っん!?……わはははっ!腹が、腹が痛い!そうじゃ!実に、実に的を獲た言葉じゃ!ほんにお主の国は得がたい国じゃ!種馬。種馬とはよく言った言葉じゃ」
壺に入って笑い転げる爺を横目で見詰る俺。活躍の場を与えられ、金を稼ぎこの世界で生きていけそうになった安堵感を得たが、雅か自分が種馬の様に子種を求められているとは思いもしなかった。アリッサ達ばかりか、目の前の女性達も俺との関係を切望してい居る!?これは、男冥利に尽きるのか!?それとも人としての尊厳を失うのか……悩み処の分かれ道だ。