001 プロローグ
別話作品を放り出したまま、新作を書いてしまいました。
今回は完結に向いたいと思っております。途中で更新が遅れる事も予想されますが
1人でも多くの方が楽しんでくれたら幸いです。
ご指摘・ご指導お待ちしております。
工藤英司は四十路を前にした親父である。現在、妻と娘とは別居中だ。原因は彼が二年前にリストラで職を失った事が切っ掛けだ。そして現在彼は新たな仕事探しをしながら深夜のコンビニでバイトをしつつ一人暮らしをしていた。
珍しく早番だったこの日、彼は弁当とビールを買って自宅へ帰る為、自転車を転がしていた。
「アレ?こんな時間で街中で霧?……おいおい段々と濃くなって行くじゃないか」
異常気象が叫ばれる昨今ではあるが、日が暮れたこの時間帯且つ、住宅街で霧が発生する等珍しい事である。驚いた工藤は漕いでいたペダルを止め変わり行く町並みを呆けて眺めていた。
「イカン!車のヘッドライトも見え難い。このままだと事故に遭うかもしれないな。急いで帰ろうっと」
危険を感じて彼は自転車に跨がらず押して家路へと向う。時間と供に霧は濃くなっていき、遂には辺り一面が街灯の明かりで真っ白く反射するほどへと成ってしまった。
「うは~マジでヤバイなコレ。このままだと道を間違えそうだ」
時折見える誰かの家の壁の影を確認しながら記憶にしたがって彼は家路へと向うが
ある時異変に気付いた。
「んっ?車の音がしない……それに何だか生暖かい気がするぞ……アスファルトの反響も無いな……一体どうなってるんだ?」
疑問が不安に変わった頃、目の前に今までとは違う光を感じ、やがて霧が晴れてくるのが判った。
「助かった……まさか近所で迷子だナンテ笑い話にも成らんからな~」
霧が晴れホッと一安心した工藤。完全に霧が晴れ上がった時に眼にした光景に彼は唖然としてしまう。
「ど、何処だ此処は?」
目の前に広がるのは住み慣れた住宅街では無く、草木が生い茂る見知らぬ森だ。
霧の中、家路に向っていたはずの工藤英司は、いつの間にか見知らぬ森を彷徨う。
慌ててポケットにあったスマホを取り出すも電波は不通だ。おまけに奇妙な鳥の声と獣らしき呻り声が何処からと響き一層彼は恐怖に打ち拉がれた。
戸惑いと不安に苛まされて5分。このまま、この位置に居るのは危険と感じ移動を試みる。やがて、彼は少し草木が開けた小川の畔を見つけ落ち付く事にした。
乾いた喉を潤す為、小川を覗き込み更なる驚きを得た。水面に映る己の顔は若りしき頃の自分の姿だ。
夢と思いたくなる思いだが、これは現実だと知った時、彼の脳裏に浮かぶのは失っていた夢の数々だ。
そこへ恐怖が訪れた。大猪が彼の前に現れる。街中でこんな獣が居るはずも無い。
彼は此処が迷い込んだ異世界と踏ん切りを付け、対峙する大猪を牽制し始める。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アナウンスと供に歓声が湧き上がる。此処はカサレス王国、バーナード領のパルディーニ街にあるコロッセオだ。今俺は見知らぬ同業者達と供に複数のゴブリンナイトと対峙していた。
コロッセオはダンジョンの一部だ。但し、その様相は普通のダンジョンとは違う。ダンジョンでありながら地上に露出した所謂オープンテラス的様式の闘技場なのだ。 敷地の大きさは競馬場程も在る。今は板壁でその大半を随分小さく囲っていた。頭上には、青空と白い雲が浮かんでいる。原理は理解できないが、コロッセオの周囲は見えない壁、所謂バリアー的なモノで覆われた空間。なので、魔獣が外に飛び出す事は無い。其れ処か、魔法を施せば中で戦う者達は死ぬ事さえ無いのだ。
俺が、戦える理由が在った。魔獣との戦いが、ゲームによく似た様式だからだ。武器に伝わる肉を斬る感覚は在るものの、血飛沫は飛び散らず肉片がグロテスクな様を見せる事は無い。奴等が朽ち果てれば、ガラス細工が砕ける様に肉片や血飛沫は小さな欠片となって消えるのみだ。だから……俺は戦える。そして今こうして、初めて大勢の観客の前で新人『闘獣士』として立つことが出来るのだ。
「さぁ~今年も始まったぞぉ~!青の刻大会。今日から開催だ!最初の一発目は、恒例の新人戦からスタートだ。今年は、何人生き残れるか皆予想してくれ~」
この場内アナウンサーは観客を煽るのが巧いと思った。実際の所、魔法さえ施せばコロッセオ(ダンジョン内)で人は死ぬ事は無い。大きな傷を負うが生命を失う事は無い。それでも心に大きな傷、恐怖は芽吹く。普段の練習の厳しさに耐えられず辞める者も後を絶たない。『闘獣士』と言う選手生命が絶たれれば、其れは死と同じ意味を成す。集まった観客も其れを知っている。だから場内アナウンサーは敢えて『生き残り』と告げたのだ。……そして俺のスタートは此処から始まる。挫折や立ち止まる事は許されない。俺がこの世界で生きていくにはコレしか無い……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「何なんだ!?突然見知らぬ土地で若返るなんて在り得ない!俺は、俺は仕事を終えて唯家に帰ってただけなんだぞ……なのになんで?こんな場所で迷わなければ成らないんだ??」
半年前、濃霧に巻き込まれ異世界へと飛ばされた俺が最初に驚いた事は、自分の身体が若返った事だ。次に驚いたのは超人的な力を持った身体に成っていた事だ。垂直とびで約1M以上も飛び、鋼の様な拳は大木おも貫く。握力は拳大の石を粉々に崩し、獣様に森を駆ける事が出来た。驚きと不安と喜びが交わった瞬間だった。
子供の頃に描いたヒーローやゲームの主人公キャラになった高揚感が俺を包んだ。だが、それも一時の間だけだった。調子付いた俺は、この世界の獣と戦う。結果は辛勝。驚異的な身体能力を手に入れたにも関わらずだ。フィールドでの戦いは正に生命のやり取りなのだ。死ぬか生きるか。獣も生きる為必死なのだ。都会生まれで都会育ちの俺には、そんな命のやり取りなんか経験が無い。動物が目の前で死ぬ事さえ無かった。血腥い戦い・グロテスクな血飛沫・血眼な視線に耐え切れなかった。胃袋を空にするほど吐きながら、どうにか獣を倒した時には、精魂尽き果ててしまった。
「何だよ……冒険なんて夢物語じゃん……こんなのやってられるか……」
その後、森を彷徨い続けた俺は一台の馬車に拾われた。そして俺の運命を左右する一人の少女と出会えたのだ。
年の頃は十三~四歳だろうか働き先のコンビによく来る女子中学生に似た感じだ。但しコチラは、碧い瞳に金髪白人。着ている服は煌びやかな外人少女。少しばかり外人娘の割りに胸が寂しい気はするが、彼女が流暢な日本語で語り掛けて来たのには驚いた。
「貴方……もしかして日本人?」
「えっ?判るのか?此処は何処で?俺は何でこんなトコに着たんだ?どうやったら帰れるんだ?頼む教えてくれ!」
「慌てないで!先ずは、自己紹介からするわね。私の名は『アリッサ・バレン』貴方の名は?」
「工藤英司だ。矢継ぎ早に質問して悪かった。貴方も俺と同じで中身は……オバサンなのかい?」
「しっ、失礼ね!!私は正真正銘見た目通りの乙女よ!!」
「そ、そうか。それは大変失礼な言い方をしてしまった。お嬢さん許して欲しい」
「……良いわ。一度だけその失礼な態度を許してあげる。……っで、さっきの質問に幾つか答えてあげるわね」
「有難い。助かるよ」
「まず、私と貴方の違いから言うわ。私は日本での暮らしの記憶を持ったまま、この世界で生まれ育った存在『転生者』よ。そして貴方は『転移者』だと思うわ」
「『転生者』……『転移者』……否!待ってくれ。その言葉の違いは何となく理解できる!しかし私のこの身体は明らかに違うのだ。こう見えても私はホンの半日前まで四十路前の中年オヤジだったのだよ。それが此処へ来た途端、十代の頃に若返ってるんだ」
「それは、私にも理解できないわ。でも貴方は間違いなく『転移者』それも特異なタイプなんだと思うわ。次に此処はセンター大陸のカサレスって王国よ。つまり王政政治って事ね。そして貴方が迷い込んだ理由は判らないは……何か覚えてる?」
「王政政治……っあぁ、私が気付いた時には町に濃い霧が発生したんだ。長い間、移り住んだ町だけど、あんな霧は初めてだったよ」
「ふ~ん。じゃその霧が関係しているのは確かね……理由は不明だけど。そして、貴方が帰れる方法は……解らないわ。実際帰った人も居るかもしれないけど、其れを知る手掛りは無いのよ。だから最後の質問も私には答えられないの」
「そうか。そうだよね。……っん?君の言い方だと、この世界には私みたいな『転移者』?ってのは居るのかい?」
「ええ。過去の文献から現在に至るまで幾つかの例があるの。世界各国から、迷って来ているらしいわ。最近『転移者』の数は減ってるけど。『転生者』ならこの国にも、私以外に数人は居るわ。そして私達は、この世界を『異世界ド・ワール』って呼んでるわ」
「そっか……少しでも同郷者が居るのは精神的にも救われるよ。ね!アリッサさん君達は、その人達と連絡は常に取ってるの?」
「いいえ。この世界では無理だわ。だって、通信手段が確立されてないの。何年に一度の割合でしか手紙は出してないのよ。皆この世界で生きるのに必死だしね」
「あぁ~そうか!帰れないなら、私もここで仕事を探さないといけないのか」
「そう。私が懸念する問題はソコ。工藤さん貴方魔法は使えるの?」
「魔法だって!?」
その後、アリッサ・バレンにこの世界の理を知らされる。この世界の生き物全てが『魔素』と言う空気に似た因子を体内に宿している。その魔素が『魔法』を引き起こすキーらしいのだが、全ての生産から生活に至るまで、大なり小なり全て魔法で行う為に、科学の進歩が極端に御座なりだと言う事。公共機関は少なく、保護制度も無い。最悪奴隷制度まで存在すると言う。『転移者』の殆どは、その魔素を保有が極端に少なく生活にも支障を来す有様。そんな輩の生活基盤は『冒険者』が一般的らしいのだが、ここでも『転移者』は苦しめられる。そう、俺と同じく血腥い戦いに精神が付いていけないのだ。
「思った通りね。残された方法は一つよ。ダンジョンで戦うしかないわ。そして、お金を儲けたら奴隷を買って転職を勧めるわ」
「おいおい!アリッサ嬢。私の話を聞いていたかい?私は身体能力は高いケド戦う気力は無いのだよ」
「大丈夫よ。ダンジョンはフィールドみたいな戦いに成らないわ。どっちかって言うと、ゲームみたいなものよ血飛沫が飛んだり生臭い事には成らないわ。魔獣は、ガラス細工の様に砕けて死ぬだけなの。だから貴方でも多分戦える。って言うか聞く限りの能力なら短期間で有名に成れるわ」
彼女の意味不明は言葉に一抹の不安を抱きながらも俺は彼女アリッサ以外頼れる者は無く彼女の言葉に縋り『パルディーニ』と言う街へ連れて行って貰った。
次回は 明日更新予定です。