【SF】きえたマシーン
対戦型ゲーム機、あっちむいてホイ! 2台作った。むかいあわせて試してみよう。それっ! わああ、止まらない~。
拙著『ぬくもりバナナ ショートショート』所収の一編です。
わたしは、ゲームメーカー下請け会社の社長。社員はわたしひとり。
ひそかにゲーム機を開発した。それは、『あっちむいてホイ! マシーン』だ。
よくゲームセンターに、対戦型腕相撲マシーンってあるでしょう。あれに、動く頭部をつけたような形体だ。人型になっているのは胸から上だけで、下はキャスターつきの四角い箱だ。腕は左右ある。右利き用・左利き用を選択できるようになっているのだ。対戦中あいているほうの手は、時々あたまをかいたり耳をいじったりする。ちょっとした趣向だ。
二台つくった。同じマシーンがあると、わたしはいつも、やってみたくなることがある。それは機械どうしの対戦だ。むかし同機種のオセロゲームを対戦させたことがある。どうなることかとわくわくしたが、結果は双方勝ったり負けたりの繰り返しだった。この、『あっちむいてホイ! マシーン』はどうなるだろう。楽しみだ。やってみよう。
マシーンをむかいあわせにして。
スイッチ・オン!
『さいしょはグー! さいとうけん!(古っ)』
って、これは著者の冗談。
もとへ。
『さいしょはグー! あっちむいてホイ! ジャンケン、ポン! あっちむいてホイ! ジャンケン、ポン! ……』
なかなか勝負がつかないな。よーし、ツー・アクションにレベルアップだ。
『……ジャンケン、ポン! あっちむいてホイホイ! ジャンケン、ポン! あいこでしょ。あっちむいてホイホイ! ジャンケン、ポン! ……』
レベルアップしても変わらない。いつまでたっても互角の戦いだ。つまらない。とめよう。スイッチ・オフ! あれ、とまらない。どうしたんだ。オフ! オフ! オフ! だめだ。スイッチをいくら強くたたいても、ぜんぜん反応しない。接触不良だろうか。双方ともとまらない。戦い続けている。こうしてみていると、まるで二台が意地になっているようだ。やれやれ。コンセントからプラグを引き抜くしかないな。
おっと危ない。耳もとにすごい風圧。あいているほうの腕をふりまわしてきた。二台ともだ。よけいなことはするな、とでも言っているようだ。こんなふうにプログラミングした覚えはないぞ。完全にイカレてしまったようだ。まったくもう、こんな鋼鉄のパンチを喰らったらたいへんだ。制御室へ行って主電源を落とすしかないのか。
あっ、とまった。二台同時に。休戦したのか? みつめあっているぞ。……わっ、握手した。そしてもういっぽうの手で肩をたたきあっている。お互いの健闘をたたえているかのようだ。あれ、握手しながら体を引き寄せている。顔を互い違いにかたむけ……徐々に近づいて……わああ、キスしたぞお! こ、こいつら、男女かあ?
よし、いまだ。プラグを引っこ抜いて──ぎゃああ! 痛てててて。あごにパンチを喰らった。めまいがする。キスしながら腕をふりまわすなんて、器用なやつだ。しかたがない。別室の主電源を切りに行くか。それにしても変なマシーンだ。
試作室内すべての電源を落としたので真っ暗だ。懐中電灯で照らしながら歩く。……あれ、もぬけのからだ。二台ともいなくなっている。いったいどこへいったんだ?
部屋中をたんねんに探す。しかしどこにも見当たらない。ここにはいないようだ。
工場内を隈なく探したがどこにもいない。あとは屋外しかない。
それにしても供給電力もなしに動くなんて……とても信じられない。
工場を出ると、聞こえてきた。キャスターつきのボストンバッグを転がすような音が。
あっ、いた。
月明かりのもと。
ゆるいのぼり坂の砂利道。
手に手を取って歩く、マシーン二台の、いや、ふたりの、うしろ姿。