正々堂々?
闘技大会本戦二日目第三回戦に勝ち進んだ選手は8名。その選手紹介が舞台で行われていた。
「一回戦二回戦共に圧倒的な力を見せつけた我らミカトレアの王子!ルドルフ!」
「その力は真なり、精霊の化身。ファング!」
「ドルドフスの騎士団長。その力は本物だ。フォルター!」
「大会の歴史上異例中の異例。双子の妖精。ゲミニー!」
「その目に映るは種族の繁栄か。砂漠の民。サリール!」
「不屈の魂。不死身の肉体。イポモニ!」
「美しいは彼女の為にある言葉。ホーザ」
「大会のダークホースになれるか。精霊の使い。洋平!」
8名は舞台の上で物凄い歓声に包まれていた。俺もそれに圧倒されっぱなしで周りを見る余裕など全くなかった。順当に勝ち上がったルドルフと古代魔術師に勝ったファングとの対決は楽しみだ。ファングの人気はうなぎのぼりで上昇している。自身の巨大な体を使った。打撃技のオンパレード。巨大な体から繰り出される拳は男共の憧れの的になっている。もちろん子供人気も絶大だ。今では一人で歩いていると子供に囲まれてすぐにすべり台にならざるを得なくなっている。そして普通に妖精のゲミニー。大きさを自在に変えることができ普通に空を飛んでいる。そして姿も消せる。さすがにそれをやられると誰も勝てないので空を飛ぶのと姿を消すのを禁止にしている。それでも人型の魔術師が二人同時に相手するようなものなのでファングと同じ規格外である。何が目的で参加したのか不明だ。そして俺の対戦相手のホーザ。水の魔術で作ったムチを使う。今俺の隣に立って居る綺麗なお姉さんだ。
「洋平さん。本日はよろしくお願い致します。」
「は、はひ。よろしくお願いします。」
ホーザの方から急に声をかけられ思わず声が裏返ってしまう。
「それにしても洋平さん凄い人気ですね。」
「あーこれは人気というより恨みかな。」
「噂では洋平さんは倒した女の子を食べちゃうんですってね。」
「え?まさか!そんな事は!」
「私も食べられちゃうのかしら。」
「いやいや。そんな事は。誰かが有りもしない事を言ってるだけでしょう。」
「うふふ」
何を考えてるかわからない人だ。でもここまで勝ち上がって来るのだから実力は間違いない。気を引き締めてかからなければ。その前にルドルフとファングの戦いは楽しみだ。舞台での紹介が終わりみんな観客席へと戻って行く。ルドルフとファングはすぐに試合なのでそのまま控室に待機だ。俺はファングに遠慮せずぶっ飛ばせと激励の声をかけた。それを聞いたルドルフはさらに気合いが入ったのか。体が赤く光ろうとしていたのでそそくさと退散した。席に戻るとリンセとセリーヌが居た。リンセにはなんと声をかけていいかわからなかったが、リンセの方から近寄ってきて遠慮がちに服の袖を握ってきたのでそのままにして試合に注目する。物凄い歓声と共にルドルフとファングの二人が出てきた。キャッチーマンの紹介を受けついに試合が始まった。
先制したのはファングだ。巨体に見合わず素早い動きで最短距離でルドルフへと拳を打ち付ける。ルドルフはその場で腰を入れてお互いの拳がぶつかり合う。初撃は互角だったらしい。お互いに離れ。また激しい拳の打ち合いになる。お互いに一歩も引かずに常に前に出ている。横から回ったり背後を取ったりなど全くしない。お互いの力をぶつけ合うだけの試合だ。だが拳と拳が触れ合う度にこちらまで衝撃が伝わってきそうだ。ファングが右手を振り下ろす。だがそれはフェイントで本命は左のアッパーだ。ルドルフに直撃したかと思ったがルドルフはこの拳に乗り空中へと飛ばされる。ファングは落下してくるルドルフに向けて腰だめに力をためている。ルドルフは空中でも体制を崩さずに落下そ速度を生かしそのままファングへと落ちていく。その時からルドルフの体が赤く光り出してきた。お互い全力の拳がぶつかり合う。その衝撃は観客まで届き、驚きの声を皆あげている。拳と拳がぶつかり合い。少しの間を置いてファングの右腕がぼろぼろと壊れ落ちる。その瞬間に勝負は決したようだ。ファングは崩れ落ちた右腕を見て、その後左腕を差し出しルドルフと握手する。そこでキャッチーマンがルドルフの勝利を宣言する。会場は総立ちとなり惜しみない拍手を送っている。俺は控室に戻る二人を見て俺も控室へと急ぐ。ファングの腕を元通りにする為だ。
「二人共お疲れ。」
「マケテシマイマシタ」
「十分だろ。腕を戻すから戻って来い。」
ファングは何も言わずにポケットドラゴンの中へ入り腕をつけてやる。少し落ち込んでいるようなので俺はそっとしておく。
「洋平も負けるなよ。」
「これだけいい試合を見せてもらったら頑張らない訳にはいかないだろ。」
ルドルフと軽く会話をしながら客席へと戻る。ルドルフに色々な人から声をかけられそれに答えていると次の試合が始まった。ドルドフス騎士団団長フォルターと妖精のゲミニーだ。試合はすぐに終わった。ゲミニーが火と水の魔術を同時に使ったのだ。フォルターは土魔術でなんとか身を守っていたのだが、ゲミニーが少し力を入れると土魔術で作り出した壁ごと吹き飛び場外へと落ちた。次の試合は砂漠の民サリールと不死身のイポモニだ。この試合は長かった。イポモニは何もしていない。サリールは土魔術と火魔術で攻撃していくがイポモニは何もせずそれを受け止め平気な顔をしている。イポモニはついにはしゃがみ込み相手の疲弊を待っていた。サリールが土魔術で作り出した剣で斬りつけてもイポモニの体には傷一つつかない。そしてサリールが疲弊したのを見計らいイポモニはゆっくりと立ち上がりサリールを抱き上げて場外へと放り投げた。今までの戦いを俺は見ていなかったが、どうやら今までも同じように勝ってきたようで皆飽き飽きした顔をしていた。確かにこの試合は見どころが無い。みんなサリールを応援していたようだがそれも虚しく終わった。俺はその試合を観てから控室へと向かう。ホーザは既に控室に居てたわいもない話をしながらボディチェックを受ける。そしてしばらくしてから舞台へと上がる。
キャッチーマンがお互いの紹介を終え、開始を告げる鐘が鳴る。
勝負は一瞬で決まった。ホーザが自分の周りに大量の水を展開し、さらに水のムチを作り上げる。水のムチの射程はかなり遠距離まで届くと思われた。Sランクを相手にしているのだから俺も気を抜けないと思い、アブソリュートゼロを発動し周囲を凍らせる。ホーザのムチや周りを漂う水まで凍らせる予定だったのだが、ホーザも凍ってしまった。俺はいつホーザが氷を破り向かって来るか見ていたがなかなか出て来ず、キャッチーマンを見ても首を傾げているだけだったので恐る恐る近づいてもホーザは美しい姿のまま動こうとはしない。俺は二つの丘を一突きしてみるが反応しなかったのでそのまま彼女を持ち上げ優しく場外へ置いた。キャッチーマンが俺の勝利を宣言し、そして魔術を解除するとホーザがびしょ濡れで息を切らせていた。体を震わせていたので優しく抱き上げそのまま控室まで運ぶ。観客からは大ブーイングが巻き起こっていたがもう慣れたものだった。後で聞いた話によるとホーザは目では見えない水を使い全身を覆い水の鎧を纏っていたそうだ。目に見えない水というのがホーザの切り札らしく、俺はそれを無視して全部凍らせてしまったのでホーザは自分の首を自分で絞める結果になってしまった。その日の試合はそれで終わりだ。勝ち残っているのはルドルフ。ゲミニー。イポモニと俺の四人だ。明日は不死身のイポモニとの対戦だ。俺は明日の作戦を練りながら眠りについた。
「本戦準決勝第二試合!不死身のイポモニ対精霊の使い洋平!」
翌日も同じように始まる前に舞台へ上がり紹介を受ける。今日は一人づつインタビューをされる形式になっていた。ルドルフは相変わらず人気抜群である。ゲミニーも妖精であり大人気というか神聖なる扱いを受けている。イポモニは特に何も言わなかった。俺は「昨日は柔らかかったです」と言うと会場からまたブーイングが巻き起こる。ルドルフはゲミニー相手に不戦勝で勝ち上がった。試合前に話をしていたら、急にゲミニーが帰って行ったらしい。どうやらゲミニーの片割れの火魔術を使う方がルドルフの体に入りルドルフに吸収されたらしい。これだとルドルフが悪者の様な聞こえがするがゲミニー自らルドルフの中に臨んで力を与えたらしい。決勝前に強くするなよと俺は軽く批判してみたが、力が溢れて来ると言って笑い返してきた。そんな事があって今日の二試合目と言いながらも一試合目である。観客のボルテージは最高潮だ。開始の鐘が鳴り準決勝戦が始まった。
「うっし!じゃあ手始めにウォーターバレット拡散!」
俺の手から100をも超える水の弾が打ち出されイポモニを襲うがまるで効いていないようだ。イポモニはその場に座り込みまた昨日と同じ体勢になる。会場からはブーイングが巻き起こる。
「全く。まぁいいや。俺はここで一気に観客を味方につけるぜ。アイスプリズン!ダブル!」
座り込んでいるイポモニの周りに氷の柱を建てまくり、氷の檻がイポモニを閉じ込める。今回の俺の作戦は寒くなって動けなくなってしまえ大作戦だ。氷の柱は徐々に溶け冷気がゆっくりとイポモニを襲って行く。観客からは少しばかり俺を応援する声が聞こえてきた。向こうが盛り上げないなら俺が一人で盛り上げるまでだ。
「よし。これでしばらくは動けないだろう。行くぜ!アイスメイク!!」
舞台の中央から巨大な氷の柱が徐々に伸びていく。観客はそれに釘付けだ。その氷の柱は3メートル程の高さになるとそこから斜めに複数に伸びていく。そして伸びた氷は徐々に曲がり枝を形成する。そこからさらに複数の枝を作り氷の葉をこれでもかと言う位に作る。これで氷の木の完成だ。観客に向けて深々とお辞儀をすると大歓声が巻き起こり洋平コールが始まった。
「観客を味方につけた俺にもう敵は居ない!食らえ!芸術は爆発だアタック!」
イポモニのアイスプリズンを解除する。するとイポモニは火魔術を使って暖を取っていたようだ。自ら醜態をさらしたそこへ氷の木から10000を超える氷の葉が向かっていく。最初の一撃を全力で当て、イポモニの頬をかすめさせる。イポモニの頬から赤い血が流れ表情が変わる。それを見て俺は一気に氷の葉をイポモニに向かって投げつける。イポモニも危険を感じたのか炎の壁を作り防御するが、氷の葉はそれをたやすく貫き攻撃する。10000を超える葉が無くなると今度は枝の槍が飛んでいく。一撃の威力は先程とは比べものにならないだろう。当たれば貫通するだろう。俺は死なない程度に急所をわざと外しながら1000を超える枝の槍を投げる。見事に枝の槍を耐え抜いたイポモニは肩で息をしている。そこへ最後に幹の柱が落ちていく。イポモニは寸前で飛び上がりそれを躱す。
「その体制じゃ避けられないだろ!アイススフィア!」
宙に浮いた状態のイポモニを氷の球体に閉じ込める。そのまま氷の球体を転がして場外へ落そうと近づいたときイポモニは氷の球体を壊し飛び出してきた。
「はぁはぁはぁ・・・。お前は一体・・・何者だ・・・」
「ようやく喋ったか。俺は愛の戦士!誰にも負けん!」
「そのふざけた魔術とバカげた精神力はなんだ・・・」
「俺は至って真面目に戦っている!水ならどうだ!ウォータースフィア!」
「ちょ!人の話をごぼごぼごぼごぼ・・・」
水の球体に押し込めそのまま場外へと放り投げる。そこでキャッチーマンが俺の勝利を宣言する。イポモニはぐったりとして動かなくなっていた。




