本選組み合わせ決定
選手紹介が終わり、参加選手はみんな控室に戻って行く。突如現れたゴーレムだったが会場は混乱するどころか歓声に包まれた。セリーヌの力は偉大だ。
「まぁそんなに落ち込むなって・・・」
「はぁ・・・。なんでよりによってファングなんだよ。俺は?ハロルドだって同じAランクだろうが。」
「ハロルドは結構有名だしな。洋平はこれからだろ。」
「あぁ。ここからスタートだ。」
控室に戻りルドルフに軽く慰められる。ここからが本当の勝負なんだ。負けるわけにはいかない。闘技大会のルールは例年なら一対一の試合を永遠行なっていたのだが、今回は参加者が多すぎる為、予選を行うらしい。その予選も実績で免除される人が居る。注目選手紹介で紹介された人達だ。紹介された選手は16名。それに予選を勝ち上がった人の16名を加えてのトーナメント戦だ。つまり3000人を16人に絞る予選が4日かけて行われる。闘技大会は一日で終わらず、4日の予選、一日休息を挟んでの本戦の一回戦と二回戦を同じ日に、この時点で6日目。ベスト8が出揃う。そこから一日一試合。優勝するまで9日。その間モチベーションを維持しなければいけない。本戦までは五日もある。こんな所で本気を出すのも疲れるだけだ。予選は約200人による勝ち残りを16回行う。一日4回の試合がある。俺の順番は16番目。この順番は抽選で決められた。今日も4試合ある。俺は試合の感じを掴む為に観客席へと向かう。ルドルフとリンセは予選免除なので席が用意されている。俺もそこにくっついていく。そこには見知った顔が大勢居た。
「よーへー。予選がんばるにゃ。」
「セリーヌ・・・あとで覚えとけよ。」
「よーへーを少しでも疲れさせて封炎剣をごにょごにょ・・・」
「心の声が漏れてるぞ。」
俺が予選をやるはめになったのもセリーヌのせいなんじゃないかと俺は思った。その場にはセリーヌとクリスト。それにハロルドやセクター。ライラまで顔を連ねていた。みんなと会話しながら予選一回戦を観る。会場の盛り上がりが半端じゃない。200人の選手が入場する。大会の規定として特別に認められた魔道具以外禁止になっている。その特別ってのがルドルフだ。小手が無いと試合どころでは無い。武器の使用も禁止。己の肉体のみで戦わなければならない。魔術は使えるが結界があり普通の人ではうまく使う事が出来ない。古代魔術師クラスなら問題は無いだろうが。試合開始の鐘が鳴り選手達が舞台のあちこちで激しい戦いをしている。気絶したり舞台から落ちたら失格だ。殺しても失格になる。ルールがありそのルールに乗っ取って戦うからこそ面白い。スポーツマンシップだ。200人による戦いは見どころが沢山ある。何人か無双をしていてそこに後ろから蹴飛ばされて場外に落とされたり、何人かで共闘して戦っている人も居る。そして人が徐々に減って行きついに一人が勝ち残った。華奢な体をしている美しい女性だ。戦う動作の一つ一つが洗練されている。
「にゃ。僕の勝ちなのにゃ。」
「はぁ・・・負けましたよ。」
セリーヌとクリストが何か話していてクリストが何かをセリーヌに手渡した。
「二人何をしてるんだ?」
「誰が勝つか賭けているのにゃ。」
「それはいいのか?」
「にゃ?観てる人みんな賭けているのにゃ。」
どうやら会場で賭けも行われているらしい。セリーヌとクリストは個人的にやっていたらしいが、セクターから紙を渡されそれを見ると次の試合に参加する選手の名前と顔がずらっと並んでいる。なるほどいい商売だ。200分の1に当たれば100倍になって返って来る。上限は銀貨一枚まで、当たれば銀貨が金貨に変わる。一試合に賭けれるのは10人まで、これは同元がぼろ儲けする仕組みだな。俺も次の試合に賭けてみたが見事に外れてしまった。賭ける事により試合を観るのが何倍にも楽しく見える。これがギャンブルの魅力なのか。
一日目の4試合が終わり、皆で会場を後にする。ロイさん達の店は相変わらずの長蛇の列が出来ている。あとで覗きに行こう。みんなで楽しい夕食を取り各々宿に戻る。リンセはセリーヌが連れて帰った。リンセは変わった。前までは子供のような無邪気さがあったが今では時折冷静な目を見せる。セリーヌの教育が素晴らしいに違いない。夕食後、俺はセクターとルドルフ、クリストに西区に行こうと誘われたが断った。俺は真っ直ぐにロイさん達の店に向かう。長蛇の列の裏から回り込み、懐かしい顔を見てほっこりする。
「盛況ですね。」
「おーーー。洋平。助かった!手伝ってくれ!」
「へ?」
「もうガチャガチャ無くなりそうだ!」
「マジか!!」
話を聞くと俺が作り置きした分は既に売り切れており、ロイ、バーン、ハクの三人で何とか時間をかけて同じクオリティの物を作って対応しているらしい。夜になっても列が途切れず、みんなほとんど眠れていないらしい。
「わかりました。試合までまだ二日余裕があるので手伝います。」
俺は早速ポケットドラゴンを取り出し、ガチャガチャを量産していく。今までに何回も作ってきてコツを掴んだ。以前は丸い石から掘って作っていたが今では上を下を分けて作る事で高速化出来ている。ほぼ完成している物を作り出すことが出来ている。2秒に一個作り上げる。一分で30個一時間で1800個一日で43200個。俺は一睡もせずにガチャガチャを作り続けた。一日目が終わり。二日目が終わる。三日目の終わりでようやく列の終わりが見えてきた。中身も心配になったがどうやら他の屋台や店で補充しているようだ。四日目にさしかかり俺の試合の時間も近くになっていた時。ようやく長かった列は終わりを告げた。それでも人は常に居る。俺はふらふらになりながらも闘技大会へと向かう。選手控室に入ると大勢の人が居てまた長蛇の列を思い出し軽く唸る。予選15回戦は終わったようだ。次の試合までは約一時間の休憩が毎回挟まれる。その間に選手達はボディチェックを受ける。俺も例外では無く手持ちのポケットドラゴンを預ける。その他にもマジックバッグなど荷物をほとんど預けた。身軽になるが一睡もしていないのでふらふらする。周りの人が何か言っているようだがもう何も聞こえない。ボディチェックを終えた選手から次々に舞台に上がっていく。俺も舞台に上がり周りを見渡す。屈強な男ばかり見える。すると可愛い女の子が見えた。女の子は俺に近づくと思いっきり俺を殴り飛ばした。
「いってぇ・・・何すんだ!このが・・・あぁセリーヌとリンセか」
「何をぼけっとしてるのにゃ!シャキッとするにゃ!」
「あ、あぁそうだなすまない。」
「よっへかつ。ずっといっしょ。よっへまけない。」
「あぁ俺がこんなとこで負けたらリンセと戦えないな。それじゃ約束が守れないもんな」
「ん!」
「あぁ。もう大丈夫だ。安心して見てろ。」
「まったく。よーへーに賭けてるから負けるんじゃないのにゃ」
「あーはいはい。どうせそんな事だろうと思ったぜ。」
「じゃあもうそろそろ始まるのにゃ。頑張るのにゃ」
俺は舞台の端で立ち上がりスッキリとした頭で周りを見渡す。屈強な男達が全員俺を凝視している。
「あいつ4勇者のセリーヌ様の知り合いなのか。」
「リンセたん可愛い。」
「あいつよろよろして警戒してなかったが、もしかして・・・」
「あぁセリーヌ様も可愛いよなぁ。」
「よし。みんなであいつを先に潰すぞ!」
ふむ。リンセとセリーヌの事を言ったやつ。顔は覚えたからな。ぶっ潰す。
「それでは予選16回戦始め!!」
司会のキャッチーマンの声と共に開戦を告げる鐘が鳴る。だが全員が俺の方を見て他の人と戦おうとしていない。
「あー1対200か。まぁ楽勝だろ。かかってこい!全員まとめて相手してやるぜ!!」
「舐めた口ききやがって!うぉぉぉ!!」
男達が俺に襲い掛かって来る。俺は今舞台の端に居る。さすがにここじゃ万が一もある。俺は大きく飛び上がり舞台の中央を目指す。
「何!?結界のある中で飛びやがった。」
「まさかホントにセリーヌ様の・・・」
「おうおう。みんな怖い顔してらぁ。よっし挨拶代わりだ。アイスウォール!」
俺は空中で巨大な氷の壁を出す舞台を覆い尽くす程の巨大な壁だ。それが他の参加者の頭上に落ちて来る。逃げ場はない。
「結界の中であれほどの魔術が使えるのか!」
「お前は一体何者だ!」
「俺は愛の戦士!誰にも負けん!」
そのまま巨大な壁と共に落下し、舞台の中央に降り立つ。何人かは壁の一撃を耐えて起き上がっているが、呆気に取られて攻撃してこない。
「くそっ・・・勝てる気が・・・」
「俺の門出に華を添えてくれて感謝する。アクアリングボルテックス!」
俺を中心に水の渦が巻き起こり他の選手を次々に呑み込む。その渦の輪がどんどん広がり選手を全員舞台の外へ放り出す。俺はそこで拳を高々と突き上げる。
「そこまで!なんという事でしょう!この結界の中素晴らしい身体能力と魔術を見せてくれた洋平選手の勝利です!」
キャッチーマンの声が響き渡り一瞬の間ののち大歓声が沸き起こる。
「長きに渡る予選も終わり、明日一日の休憩を挟み、いよいよ本戦の開始となります!観客の皆さんも十分に休み、本戦へ向かいましょう!」
俺は無事に予選を通過した。昨日までガチャガチャを作り続けて正直限界だ。明日はゆっくり休む事にしよう。明日はシード選手の抽選が行われる。予選を勝ち抜いた選手は自動的に偶数を振り分けられる。シード選手が抽選を行い奇数を決める。シード選手同士戦い合う事は一回戦ではありえないと言うわけだ。俺は宿に戻り明日の抽選を気にかけながら眠りについた。
翌日、深い眠りについていた俺は部屋の扉を蹴破られる音で目が覚める。
「洋平!抽選の結果を見に来ないとはどうゆうことだ!」
「王子が扉を壊すなよ。」
「大丈夫だ。洋平のせいにするから。そんなことよりもほらお前の為にもらって来てやったぞ。」
「はいはい。どーもありが・・・」
ルドルフが抽選の結果を書いた本戦の組み合わせ表を見て、俺は思考が止まる。
1・ルドルフ・ランクAミカトレア第5王子
2・ミネルバ・ランクB美少女武闘家
3・ホクム・ランクA北獣団リーダー
4・オルドル・ランクC13歳の天才武術家
5・ファング・ランク―(推定S)アイアンゴーレム
6・テイブル・ランクA双剣使い
7・ガーディニア・ランクS盲目の古代魔術師
8・ガウハル・ランクA孤高の狼
9・アダーラ・ランクSエルフの魔術師
10・ズイ・ランクB9歳の奇才
11・セクター・ランクAウィンストハイムギルドマスター
12・フォルター・ランクSドルドフス騎士団団長
13・インジュリー・ランクSかつて死神と呼ばれた男
14・ビルニーク・ランクB蜥蜴に育てられた男
15・ガルナーク・ランクCミカトレア第3王子
16・ゲミニー・ランク―(推定S)双子の妖精
17・グオワン・ランクB怠惰の王
18・サリール・ランクS砂漠の民の末裔
19・シャガル・ランクAエルフの天才剣士
20・ライラ・ランクAウィンストハイムの看板娘
21・バル・ランクA真面目になった貴族
22・タミーマ・ランクC母は強し
23・イポモニ・ランクA不死身の肉体
24・インフラント・ランクA失恋の天才
25・ハロルド・ランクA熱血漢
26・アンベロス・ランクA蛇男
27・ホーザ・ランクS綺麗な華にはトゲがある。
28・アゴゴ・ランクA元盗賊
29・ウィルゴー・ランクS南の古代魔術師
30・キクノス・ランクS美しき踊り子
31・リンセ・ランク―(推定S)可愛いは正義
32・洋平・ランクA精霊の使い
一回戦リンセ・・・。勝ってもランクS確定かよ。つかセクター!ライラ!バルまで・・・どうなってんだこりゃ。ランクSがごろごろ・・・ほとんど居ないって話じゃないのかよ。古代魔術師まで居るとか・・・。予選の試合ちゃんと見ておけばよかったな。
「あぁ・・・頭が痛い。」
「洋平!決勝で待ってるぜ!」
俺はホントに優勝出来るのだろうか・・・
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。




