懐かしのあの場所へ
闘技場が出来てから俺はひたすらのんびりしていた。たまにみんなと闘技大会に向けて特訓したりするが、正直ルドルフにもリンセにもクリストにも勝てない。だってみんな強いんだもん。朝起きて誰かと特訓。昼食を食べてお昼寝。夕食を食べて創造して寝る。これの繰り返しだ。しかし困った事にリンセが俺から離れない。俺の創造している時もじっと見ている。邪魔する訳でも無いからいいのだが、出来上がった物をリンセにあげるとリンセはとびきりの笑顔を見せてくれる。これがなんともまた可愛い。ルドルフとクリストは西区に行って楽しんでるようだが、俺はリンセと一緒なので想像すらできやしない。セリーヌはクリストと一緒に封炎剣を調べたり城の図書館に行ったり王と話したりしている。どうやらルドルフとリンセの加護の事についても調べているらしい。ファングは外にあまり出せていないのでほとんどポケットドラゴンの中だ。
「そうだ。旅に出よう。」
突然閃く物があった。闘技大会までは後十日もあるし、逆に言うとリンセと居られるのも後十日程だ。楽しまないとな。
「あークリスト。」
「なんだ?」
「ちょっとリンセと旅に出て来る。」
「ちょっと待て!俺も行く!直ぐに準備するから待ってろ!」
「よしリンセ。屋根をぶち抜いて飛び上がれ!」
「ん!」
リンセは俺の言う通りクリストの家の屋根をぶち抜いて空へと飛びあがった。
「二、三日で帰るからなー。みんなによろしく!」
「俺も連れてけー!」
クリストが下で喚いているが無視だ。
「よっへ。どっち?」
「んっと南だ!あっち!」
「ん!」
俺が指さすとリンセは凄い速度で飛んでいく。途中で人気の無い所を見計らい森の中へ降りた。森の中に川が流れており。なんともリフレッシュ出来そうな場所だ。そこでファングを解き放つ。
「オヨビデスカマスター」
「いや特に用事は無いが。たまにはゆっくり外の空気でもと思ってな。」
「アリガトウゴザイマス」
「リンセもゆっくりしろよ。」
「にゃ!」
リンセはすぐに川に飛び込んで行った。服を着たままでいいのかと不安に思う。この場で服を脱がれたら逆に困るが。リンセは川底から綺麗な石を集めているみたいだ。川はそこそこ澄んでいるいるのでリンセの動きがはっきりわかる。俺はファングと一緒に薪を拾って来て火を付ける。そこへ両手いっぱいに石を抱えたリンセがやって来る。
「こっちに来て服を乾かそう・・・。ん?」
リンセの服は川から上がったら水滴が垂れていたが焚火に近づくころには既に服は乾いているような感じがした。髪が艶っとしている位か。
「かわく!」
「リンセ服濡れないのか?」
「ん!かわく!」
リンセは頭の髪飾りを取って俺に渡してくる。青い宝石がはまっていて見事な装飾が施されている。髪飾りだが小さい槍のような装飾もある。まず間違いなくこれも古代兵器と見ていいだろう。俺はその髪飾りをすぐにリンセに返す。
「綺麗だな。」
「ん。きれい。」
「おっしゃ。魚でも取るか。」
「ん!」
リンセはまたすぐ川に飛び込んで行った。俺も川に入ろうとしたら川から次々と魚が飛び出して俺の足元に集まって来る。
「類まれな才能か。一緒に居れば戦闘面でも頼りになる。移動手段としても活躍出来る。だが・・・」
俺は魚を次々と串に刺していく。リンセは止めないといつまでも取って来そうなので10匹程で止めておいた。それをたき火の側に置きファングとリンセと囲んで焼けるのを待つ。
「なぁリンセ?」
「ん?」
「俺と一緒に来たいか?」
「ん~・・・」
あれ?今までと反応が違う。
「どした?」
「よっへ。勝つ!ずっといっしょ!」
「あぁ・・・。俺に勝てばずっと一緒だ。だけど負けないぞ。」
「にゃ~」
何かリンセの心にも変化が生まれたのかもしれない。今までこんなに沢山の人と話す機会なんて無かっただろうし。最近はセリーヌの所にも自ら行って話をしている。俺としてはちょっと寂しい気持ちになった。そのまま魚を頬張り二人で食べる。ファングは俺の出す石をずっと食べている。お腹が膨れたらその場所にポケットドラゴンで即席の家を建て、そのまま夜を明かす。
翌朝。家をしまってからすぐに大空へと飛び立つ。そのまま南へ南へ。
「お。見えてきたぞ。リンセあそこに降りろ。」
「ん!」
リンセは俺の指定した場所にゆっくりと降り立った。
「懐かしいな。」
リンセと共に来た場所は俺の最初の冒険の始まりとなったウィンストハイム城下町だ。そしてギルド前。もうすでに俺とリンセが空から飛んできているのを見て人だかかりが出来ている。
「ファング!遊んで来い!!」
俺はファングと解き放つ。するとすぐに子供達が寄り添って来て囲まれる。そして騒ぎをききつけてギルドから人がぞろぞろと出て来る。
「なんだなんだ。騒々しい。空から人が降ってきたってどこのどいつだ。」
「よう。親父。」
「なんだ馬鹿息子か。また騒ぎを起こしに来たのか・・・って洋平!!!」
ギルドから懐かしいセクターが姿を現した。
「懐かしいな。」
「懐かしいもクソもあるか!たまには顔を見せに戻って来いよ!今までどこに行ってた!何をしてきた!全部話せ!」
「お前ら姉弟はどうしてこうも一気に喋るのかね。ここに寄ったのはついでだ。まぁ親父に顔も見に来たのも用事の一つだけどな。」
「姐さんはお前を探しにミカトレアまで行ったんだぞ?会えたか?」
「あぁなんとかなってかセリーヌが来なかったら今頃死んでたな。」
「何!?それはどうゆうことだ!?全部話せ!」
「あまりゆっくりはしてられないんだよな。またすぐミカトレアまで戻らないといけないし。闘技大会の事は知ってるか?」
「あぁ何日か前に知らせが来た。どうやらものすごい景品らしいじゃねぇか。」
「闘技大会に俺も後ろのリンセも出場する。だからすぐに帰らないと行けないんだ。修行もしないとな。」
「何!?洋平が闘技大会に出るだと!う~む・・・。ライラ!」
セクターが声を張り上げて呼ぶと人ごみの中から懐かしいライラが出てきた。
「お久しぶりです。洋平様。」
「ひ、久しぶり・・・。」
別れる時に逆鱗に触れた気がしたので若干引き攣っている。
「俺はこれからミカトレアに向かう!ライラも来い!」
「えぇ!そんな!仕事はどうするんですか!?」
「暇だろ?洋平が居なくなって毎日、心に穴が開いたような顔をしてるぞ。ライラの為でもあるんだ。」
「確かに今は仕事はそんなに忙しくはないですけど・・・」
ライラがもじもじしている。可愛い。
「じゃあ決まりだ。すぐに準備しろ!」
「は、はい!」
二人のやり取りを見て今後の展開が予想付いた。
「リンセ。走るぞ!」
「にゃ!」
俺は二人を置いて走り出す。
「おい!待てどこへ行く!俺も一緒に連れてけ!」
ほらやっぱりこうなるんだ。俺はファングをちらりと見てアイコンタクトをする。それだけで俺とファングには通じ合う物がある。走り始めて数分で目的の場所に着いた。
「ロイさん!」
「おっと。これはこれは洋平じゃないか。久しぶりだな。どうしたんだ?」
「セクターに追われてるんで手短に話します。ミカトレアの闘技大会があるのは知ってますね?」
「あ、あぁ。」
「そこでガチャガチャを売ってください。今回の大会は過去最大級の規模が予想されるんで必ず儲かります。ここにとりあえず2000個は用意しました。」
「お、おう。俺も行きたいのは山々なんだが、あれは出店料が結構かかってなぁ。」
「それくらいなら俺が店作るんで問題無いです。」
「わかったわかった。そんなに焦るなって。とりあえずお前の言いたい事は5人でガチャガチャの中に入れる物を沢山持ってってミカトレアに来いって事だな。」
「さすが。話が早くて助かります。では先を急ぐので失礼。あ、あとあっちでガチャガチャは沢山準備しておきますね。とりあえずその十倍は用意します。」
「十倍って・・・20000個か!売るの大変そうだけど楽しそうだな!わかった!必ず行くよ!」
最後のロイの言葉を聞く前に俺とリンセは走り出した。ギルドの近くですべり台になっているファングを見つけた。
「ファング行くぞ!」
「ハイ。マスター。」
「そうはさせん!俺も一緒に連れてけ!」
そこへ立ち塞がるセクターとライラ。二人共もう準備万端な感じだ。もしかして行くのはもう既に決めてたんじゃないのか。
「水の精霊よ。我が創造に力を借したまえ。アイスメイク!」
周囲の温度が急に冷える。そして誰も居ない場所に突如として大きなすべり台が現れる。それに注意を取られたのか。セクターとライラが固まっている。その隙にこっそりとファングに近寄りファングを仕舞う。
(よし。いいぞ。リンセ。静かに飛べ。)
しかしリンセが反応しない。リンセもすべり台を見て呆気に取られている様だ。それもそうだろう。高さ10メートル程もなり八方にすべり台が備わっている。これは俺でも滑りたい。
「リンセ!飛べ!」
「にゃ!にゃにゃ~」
「おい!待て!俺も飛びたい!」
「じゃあな!闘技大会で待ってるぜ。」
俺とリンセは大空へと飛び出した。下で見送るライラは笑顔で手を振ってくれていた。
そろそろ闘技大会が始まりますよっと




