最高の援軍
黒い煙を見ながら俺とリンセは何も言わずに警戒している。空を覆っていた煙はいつの間にか消え地上に全て集まり蠢いている。
「よっへ・・・」
「あぁもう大丈夫だ。気をつけろ。何をしてくるかわからんからな。」
「ん!」
俺はカイネバルにもらった毒をようやく取り除く事が出来た。これでまた戦う事が出来る。この黒い煙の正体がなんであれ、ここで始末しないと町まで被害に合う危険がある。一度体勢を立て直したい気持ちもあるが、やはりこの黒い煙から目を離すのはよくは無いだろう。もうすでに日は落ち辺りは暗闇に満ちている。わずかに残った闘技場の灯りだけが辺りを照らす。その中、急に煙が一か所に集まって行く。
「気をつけろ!」
「ん!」
煙は徐々に人の形を成してきている。そしてその姿が徐々に形成される。美しい白い長髪襟の立った黒いコート。裏地の白が目を引く。全体的な印象は貴族。黒い服に裏地の白と髪の色が見事に調和し一言で表すなら美しいの一言に尽きる。そして顔も気持ち悪い程白いが整っているこれまた美しい男性の顔である。
「ほう。二人共美しい。どうだ。我と共に来ぬか?」
「・・・」
「ふむ。自己紹介がまだだったな。我はアルキュリオス。吸血王とも呼ばれていたな。もっとも我は王になどなれる資格はないのだがな。」
「アルキュリオス・・・」
その名を聞いて頭の中の情報を探す。吸血鬼の初代王ドラキュラ。ドラキュラの沢山の息子の中の一人アルカード。アルカードは父殺しで吸血鬼界から追放された、ヒューマンと吸血鬼の混血の王子。アルカードの息子、アルキュリオス。覚醒遺伝で吸血鬼本来の持つ力を100%以上に引き出し、力と知恵でクォーターながらも吸血鬼界を再び束ねたと言う伝説の吸血鬼。
「我を知っている顔だな。ますます興味深い。」
「手下の武器に自らの魂を封印されたか、もしくは望んで封印したか。そして膨大な魔力を受け復活したって感じか。」
「ほう。素晴らしい。見事な回答だ。褒めてやろう。お主が美しい魔力の持ち主だな。我と共に歩め。我の側でその美しい魔力を存分に開放しろ。」
「断ったら?」
「知れた事よ。」
アルキュリオスが手のひらをこちらに向けた瞬間。恐怖に包まれた。
「リンセ!飛べ!」
「ん!」
リンセが俺を掴み空へと飛びあがる。次の瞬間。アルキュリオスの手のひらから黒い炎が飛び出し。後ろの闘技場の壁をも吹き飛ばした。
「ふむ。よい判断だ。まだ我も力の加減が出来てないな・・・」
アルキュリオスは自らの体を確かめるように手の平を開いたり閉じたりしている。俺とリンセはゆっくりと地上に降り立つ。
「今の一撃で力の差はわかったであろう。お主は賢き者だからな。」
「リンセ。やれるか?」
「よっへといっしょなら。」
「よし。俺も覚悟を決めるか。」
「我とやり合う気か。それもまた一興。」
俺とリンセは警戒しつつ徐々に間合いを詰める。俺は右から、リンセは左から。いくら吸血王だからと言って目が三つもある訳じゃない。二手から攻められれば、必ずどちらかに注意は取られるはずだ。火力で言ったらリンセのが上だろう。だとすれば俺は得意分野だ。
「アイスランス!二刀二式!」
両手の人差し指と中指を合わせ二式を両手で打つ。だがこれでは巨木を5本程しか貫ける威力しか無い。そんなもので倒せるはずもないだろう。俺はすかさず次の魔術の準備にかかる。
「ほう。無詠唱かつ同時詠唱か。美しい。美しいぞ!」
左から来る二本の氷の槍を左手で受け止める。リンセも同時に古代兵器の力を十分に発揮した全力の爪による一撃を繰り出す。だがそれも右手にいつのまにか持っていた美しい直剣で防ぐ。しかし両手が塞がった隙を逃さず次の魔術を当てる。
「今だ!アイスカッター!乱!」
左後方へ移動し放った魔術は完全な死角からの攻撃であるにも関わらず、アルキュリオスはアイスランスを防いだ左手でカッターを弾き飛ばそうとする。さすがに時間差で受けきれず弾き飛ばそうとしたのだが、
「そこだ!乱れろ!」
カッターがアルキュリオスに触れた瞬間に分裂し無数の刃となりアルキュリオスを襲う。一撃の威力は低いがそれでも俺の中で高威力を持つカッターだ。振動回転すれば少しくらいはダメージは与えれるはずだ。
「リンセ!」
カッターが弾け飛び少し怯んだのか、リンセに対する注意が散漫になっていた。その隙を逃さずリンセのベウの空爪による一撃を腹部に与えアルキュリオスを吹き飛ばす。
「おまけだ!こいつももってけ!」
弾け飛んだカッターの残りを吹き飛んだ方向に向けて投げつける
「まだだ!気を抜くな!畳みかけるぞ!」
「にゃ!」
俺とリンセは吹き飛んだアルキュリオス目がけて走り出す。リンセはアンダの激爪による一撃を、俺は至近距離からのカッターで攻撃しようと準備をしつつ走る。アルキュリオスをはっきりと確認し魔術を発動し当てようとする。
「はぁっ!」
アルキュリオスが自らの魔力を解き放つ。その衝撃で俺とリンセは吹き飛び追撃は失敗に終わる。
「美しい攻撃。美しい連携。どれもが我の欲する物だ。二人とも美しい。」
「全く効いてないのか?リンセの攻撃は完璧に入っただろ・・・」
「美しい攻撃であった!だが我はもっと美し・・・」
アルキュリオスが突然膝を付く。
「やっぱ効いてんじゃねーか!行くぞっ!」
再びリンセと走り出そうとするが、急に激しい頭の痛みを感じその場に膝を付いてしまう。
「よっへ!」
「あぁ・・・大丈夫・・・だ・・・」
意識が朦朧としてきた。激しい頭痛と眩暈が俺を襲う。
「我が膝を付くなど久しい感触だ。まだ魔力が足りん!お主の魔力を寄越せ!」
アルキュリオスから黒い影が伸びて来て俺を襲う。だがリンセが俺を掴み飛び上がる事でそれを回避した。あの黒い影に触れるとそのまま吸収されてしまいそうだ。
「はぁはぁはぁ・・・」
「よっへ!」
「なんだこれ・・・くそっ・・・いけそうだったのに・・・」
体が思うように動かない。意識を保つので精一杯だ。
「お主の戦いを先程から見ているが魔術に無駄が多すぎる。そんな戦いではすぐに魔力枯渇を起こしても無理はないだろう。」
「魔力・・・枯渇・・・」
「それに我が復活するに十分な魔力を頂いたしな。上出来だ。」
どうやら精神力を使いすぎたらしい。今までに無い経験だが、これで納得が行く。
「お主は脱落か。ならばもう一人では相手にならないであろうな。」
再びアルキュリオスから影が伸びて来て来る。
「リンセ・・・逃げろ・・・」
リンセは震えている。しかしリンセはスッと立ち上がり伸びてきている影に向かっていく。まさか俺の為に自分を犠牲にするつもりじゃ
「リンセ!やめろ!」
リンセの足元に影が伸びてきた。それをリンセは足を大きく上げて踏みつぶす。
「よっへ!守る!」
リンセの体が薄く青白い光を放ち始めた。
「くっ!まさかお主!加護者か!」
伸びてきた影は瞬時に消えていった。リンセは走り出した。真っ直ぐアルキュリオスだけ見つめて
「んーにゃ!」
リンセのアンダの激爪による一撃を剣で受け止めるが威力に負けて吹き飛ばされる。それを逃がすまいとリンセもまた飛びベウの空爪による一撃を与えようとするがアルキュリオスは飛び上がりそれを躱す。そして空中で制止する。
「まさか加護者だとは・・・ならば我も礼儀を尽くさねばなるまい。」
空中で魔力を貯め始めた。リンセは飛び上がり下から攻撃しようとするが蹴り落とされてしまう。
「我の美しい進化を邪魔するでない。はっ!」
アルキュリオスの背中から美しい漆黒の翼が生えた。
「この感触もまた懐かしく美しい。さぁここからが本番だ。」
リンセはすぐに体制を立て直し空中戦へと飛び立つ。リンセは手と足の爪を使い見事な連携技を繰り出しているが全て見切られている。攻撃と攻撃の間を逃さず剣で攻撃をしてくる。リンセの攻撃は悪くは無い。だが攻撃が正直すぎる。直線の攻撃しかない。もっと緩急をつけたり違う攻撃をしなければならない。それをアルキュリオスも感じたのか。徐々に顔に笑みが浮かんでくる。
「どうした?加護者はそんなものか。我が前に戦った加護者はもっと強かったぞ!」
リンセの右肩に直剣が突き刺さる。
「ん~~!!」
「ほら。今度はそっちだ!」
次は左肩に直剣が突き刺さる。リンセは両手をぶらぶらさせながらもまだ懸命に足の攻撃で戦っている。
「リンセ・・・もういい・・・やめてくれ・・・」
俺の目には涙が浮かんでいた。目の前で俺の為に戦ってくれているのに俺は何も出来ない。少しは痛みが治まってきた感じはするが。俺は痛む体にムチを打ち必死に立ち上がる。
「やめろ!俺の体なら好きにしていいから!もうリンセを苦しめないでくれ!!」
「ほう・・・」
俺の必死の声はどうやら届いたようだ。それでもリンセはまだ戦っている。
「邪魔だ。お主の攻撃はもう美しくない。」
アルキュリオスはリンセを蹴飛ばし地面へと叩き付ける。
「リンセ!!」
リンセの元へ行きたいが体が思うように動かない。
「仲間の為に自らの体を犠牲にするか。その行為は美しいとは我は思わん。しかしその判断は利口ではあると思うがな。」
「大切な人が黙ってやられているのを見ている位なら俺は馬鹿でいい!」
「美しい心がけだ。我の中で永遠に生き続けるがよい。」
アルキュリオスから黒い影が伸びて来る。遠目にリンセが瓦礫の中から姿を現し何かを言っているが俺にはもう聞こえない。目を閉じ、その時を待つ。
「安心しろ。痛みすら感じる間も無いだろう。」
アルキュリオスの言葉ももう聞こえない。今までの人生を振り返るには時間が足りなさすぎる。俺の心残りは・・・。やり残した事は・・・。
「いっぱいあるじゃねーか!」
目を開けアルキュリオスを見る。
「諦めるもんか!魔力が無くたって体が動かなくたって!諦めたらそこで試合終了ですよ!」
突然頭上が暗くなる。巨大な岩が落ちてきている。俺は転ぶように後ろへと倒れ込む。
「なんだなんだ!まさか・・・」
「別に諦めるのは悪い事ではないと思うにゃ。」
「ソレデコソマスターデス。」
そこには俺が思っても見なかった二人が居た。ルドルフでもクリストでも無い最強にして最高の頼もしい仲間が。
「ファング!!セリーヌ!!」
「僕の名前より先にファングの名前が出るのはどうかと思うのにゃ。」
「カラダノオオキサダトオモイマスセリーヌサマ。」
「誰がぺったんこにゃ!」
次回予告『無双』予定w




