いざ大空へ
リンセが部屋を飛び出してから一時間位経っただろうか。俺はタナスの部屋で今後の打ち合わせをしていると、ドアが蹴破られまたリンセが俺に飛びついて来た。
「おーよしよし。」
「よっへ。きた。」
「よっしゃ。作戦開始だ。」
リンセは俺の背中に捕まってぶらぶらと揺れている。俺はそこまで重さも感じず特に邪魔にも思わなかったのでそのままにしておく。洞窟の出入り口の水辺に来るとビショビショになっている男二人が居た。
「全くなんなんだ。リンセ団長が俺達を攫うなんて、今までに無かったぞ。」
「あぁ、俺もてっきり宝石でも奪いに来ただけだと思ったんだがな。」
最初に喋った男がガフ族の魔術師のロダントだ。赤いローブを着ており、光輝く杖を持っている。一目でSSランククラスの代物だとわかる。赤いローブは炎の羽衣ラーテンソール。杖は爆光杖カーテルサンだろう。次に喋った男はヒューマンの盗賊だ。腰には一際異色を放つ短剣を持っている。これが噂の伸縮自在のザザビルだろう。
「手荒な真似をして済まない。俺は新しくタナスの下についた洋平と言う。」
「お前が俺達を呼んだのか?」
「そうだ。」
「なぜリンセ団長はお前の言う事を聞く?」
「よっへ。すき!」
その一言で周りの空気が凍りついた。しばらくして水面が揺れそこから11人の人が現れた。その人達は4人はロダント。7人はカイネバルの元へ行き事情を説明してもらっている。
「それで俺達になんの用だ?」
「実はみんなに頼みたい事があってリンセ団長に呼んでもらったんだ。まずはこれを見てくれ。」
俺はマジックバックからライカンシャドウの魔石を取り出し、それをみんなに見せる。
「その大きさ、輝き、深い藍色、噂でしか聞いたことが無いがこれはライカンシャドウか。」
「正解だ。」
「それをどこで?」
「今回仕事を頼みたいってのがそれなんだが、これはミカトレアの闘技場の地中で発見した。」
「そんな近いとこになぜこんな物が・・・。金貨500枚じゃきかないだろ」
「待てよ。闘技場は結界が張ってあるな。強く巨大な結界なら魔石を媒体として結界を張ると聞いた事があるぞ。」
「その通りだ。俺は時間が無くこれしか見つけれなかったが、あと5つはこれと同じ規模の魔石があるはずだ。」
「なぜそれがわかる?」
「いや、結界にも種類があるが魔術を妨害する物に関しては六芒星の魔法陣が強力だ。だからあと5つなんだろう。」
全く盗賊と言うのは頭が良くて助かる。説明が省けるし、なにより俺が話すより信頼は得られる。俺が魔石を見せたらリンセが飛びかかっては来なかったが凄くキラキラした目で見つめられたのでリンセにあげてやった。
「俺も同じ考えだ。見つけたのが端の所だったからな。一つなら中心に置くはずだ。」
「なるほど。それで俺達にそれを手伝えって事か。」
「手伝うのは構わないが何故俺達に話をする?」
「俺はタナスの下についた。だから俺の持ち物や情報は全てタナスの物だ。タナスはこの仕事が成功したら、盗賊を辞めると言っている。俺はそれに従うだけだ。」
「タナスはいい部下を手に入れたって訳か。お前がまだ盗賊をやる気ならこの仕事が終わってから俺の所に来てもいいんだぞ。」
「もれなくリンセ団長も着いてきますがいいですか?」
「いや、それは遠慮しておこう。」
「それでいつ実行する?」
「闘技場の門番に話はつけてある。今夜一晩なら見張りは居ない事になってる。」
「準備万端って訳か。それじゃあ時間がねぇな。戦闘になるかもしれないから俺はちょっくら倉庫を漁って来るぜ。」
「あぁ俺も行こう。リンセ団長いいですか?」
「にゃ!」
ロダントとカイネバルとその手下達は宝物庫に行った。俺とタナスも使えそうな物を見つける振りをして一緒になって漁る。この場所では昼夜の感覚が無い。ロダントが言うには今は昼過ぎだから余り時間は無いようだ。走って行けば4時間あれば余裕で着くが、それにしても急いで行くのに変わりは無い。30分程倉庫を漁り、ロダントとタナスは使えそうな物は片っ端から持って行くようなつもりでいる。準備を終えた俺達は20人程の人数になって洞窟を出る。俺は背中にリンセを背負いながらだが。水中ではリンセが勝手に出口まで運んでくれたので特に問題は無かった。外に出ると太陽が眩しく輝いていた。少し傾いている位か。
「よし。みんな居るな!では出発!目指すはミカトレアの闘技場だ!」
全員で走りながら森を駆け抜ける。リンセはまだ俺の背中でぶら下がっているが、背中から声が聞こえてきた。
「よっへ。よっへ。」
「どした?」
「どこ、いく?」
「ミカトレア城下町の闘技場だよ。」
「にゃ~?」
「えーっと・・・真っ直ぐだ!」
「にゃ!!」
リンセが急におんぶの体制になり足のベウの空爪で俺の腰をがっちりガード。そして背中のリーリーの翼爪を広げ大きく羽ばたく。
「うぉ!まじか!」
「にゃ!にゃ!」
リンセは上機嫌で翼を羽ばたかせ空へと向かって行く。地上では走ってるタナス、ロダント、カイネバル、それと手下達が見える。
「悪い!先に行く!俺も制御できねぇ!森の出口で待っててくれ!」
眼下のみんなを見送り、大空へと飛び立つ。森を出ると空にはワイルドホークの群れが行く手を阻んでいた。ワイルドホークは凶暴な鷹である。ただ翼を広げると3メートルはある。
「あぶね!」
「にゃ!まっすぐ!」
リンセはワイルドホークの群れに真っ直ぐ突っ込んで行った。アンダの激爪を振り回しワイルドホークを一撃の元に葬って行く。一応Aランクなんすけど。その後も魔物の群れに対し常に真っ直ぐ突っ込み、一撃で魔物をガンガン倒していく。俺は振り落とされないようにリンセの足をしっかり掴み必死になっていた。
「にゃ!」
リンセの声で目を開けると視界の先にミカトレア城下町が見えていた。
「やっべ。忘れてた。コンパスで知らせるんだった。」
俺はコンパスに魔力を込めるとコンパスが震えてきた。これで二人に伝わるといいんだが。気づくと眼下に闘技場があった。だがこのまま一人で行っても問題があるだけだな。俺はリンセに城下町の一つの家を指差す。
「リンセ!あそこだ!あそこの家に行ってくれ!」
「にゃ!!」




