これがチート
リンセとの交渉を終え、俺は早速部屋を常にキラキラさせる装置作りに入った。仕組みは簡単だ。球体のガラスに宝石を埋め込み、中心から光を出し、その球体を回転させる。つまりはミラーボールみたいなものだ。ミラーボールは外から光を当てて当てる光の色によって様々に光るのが一般的だ。それを全部内部にくっつけてしまおうと言うわけだ。頭の中でイメージは簡単に出来た。なぜなら宝物庫にミラーボールみたいな物があったのだから。直径50センチ程のガラスの球体に近い多面体。魔力を注ぐと中心が光る。だが問題はその光量だ。目を閉じても眩しいほどの光量を発するこの玉はサン・オブ・ザ・サンと言う古代兵器の一種である。ランクはB。少し魔力を注いだだけで3時間強烈な光を放つ。使い道の無い道具である。古代兵器を分解したりするのは怖いので、俺はその多面体にあうように宝石を削り張り付けていく。宝石を削る許可はリンセに頂いた。俺が使うのは色の濃い宝石である。純度の低い物もあれば純度が高すぎる物まである。だがそれらは総じて色が濃いのでリンセの好みでは無いようだ。快く、にゃ!といって承諾してくれたはいいものの、俺が作業している所をずっと側で見られては少しむずかゆい所がある。リンセは俺が作業しているのを楽しそうに見ている。ホントに可愛いなこんちくしょう。多面体の面に合わせてカットした宝石もそれぞれ乱反射する様に色々カットしている。これならキラキラするからリンセも満足だろう。純度の高いエメラルドは濃い緑。ルビーも濃い赤。純度の低いパールは深い灰色。様々な宝石を球体に張り付けていく。宝石を張り付け終わり試しに魔力を込めて発光させてみると、思いのほかいい具合に色とりどりの色が輝いた。それをクルクル回して反射具合を確かめてるとリンセが飛びかかって来たが、今度の俺はそれを制止させた。まだ完成してないんだ。しかも乱暴に扱うと宝石が傷つく可能性がある。丁寧に扱うように説明しリンセに手渡した時の彼女の表情は生涯忘れる事は出来ないであろう。彼女の笑顔はここにあるどんな綺麗な宝石よりも輝いていたのだから。リンセまだ完成はしてないが形にはなった輝くミラーボールを大事に抱きかかえクルクルと大事そうに回して遊んでいる。これならば一安心だと思い、俺はまた作業に戻る。問題はどのようにしてミラーボールを回転させるか。そして空中に設置するかの問題だ。俺はリンセを片目に魔道具が積み重なってる山に突っ込んだ。見たことも無いような魔道具や古代兵器が積み重なっている。俺は使えそうな物を一つ一つ物色していく。よく見るとその山はまさに宝の山だった。辞典で見たことがある古代兵器が転がっていた。それもランクSがゴロゴロと。使いそうな物を目星をつけて寄せていく。自分が欲しい物も確保していく。一応リンセの許可は取らないといけないからな。
「あーリンセ団長~。これもらっていいですかー?」
「にゃ!」
「あとこれも」
「にゃ!」
もう何を貰ってもいいような気がしてきたぞ。
「あーこれ折りますね」
「にゃ!」
「これ壊しますね」
「にゃ!」
珍しい槍を発見した。確かこれはオクトパススクライド。とある海の王とまで言われたキングオクトパスの足の一本から作り出された槍だ。使用者の意思によって柔軟性が変化する特殊な槍だ。この槍の柄が大きな吸盤になっておりそこにミラーボールを取り付ける。そしてこの槍は矛先が常に回転していると言う特徴もある。回転速度も使用者の意思で変化出来るのだが、意思に関係無く常に回転している。三又の槍だったので真ん中以外の矛先を折り真っ直ぐな槍を完成させる。その矛先をリンセの部屋の天井に突き刺す。すると上手い具合にゆっくりとミラーボールが回転を始める。
「よっしゃ!完成だ!」
「にゃにゃにゃ!」
「じゃあ光らせるぞ!それ!」
俺がミラーボールに魔力を込めると、リンセの部屋がキラキラと輝きだしたミラーボールから出た光が宝石に反射し様々な角度から光が放たれる。その光がまた壁に埋め込まれている宝石に反射し、美しい光景を作り出す。
「綺麗だな・・・」
「き・・・え・・・い・・・」
「ん?喋れるのか。」
「にゃ!」
リンセは一言呟いたと思ったらミラーボールから出ている光を追いかけまわして部屋を走り回った。
「おーい。これなら満足だろ。今度はこっちの約束を守ってくれ。」
「にゃっ!にゃっ!」
リンセは俺の言葉が聞こえない程、光を追うのに夢中になっている。
「おーい、リンセだんちょー?」
「にゃっ!にゃっ!」
「はぁ。ダメだこりゃ。」
俺は諦めて、宝の山から見つけてきた古い本を開いた。部屋がキラキラして読みにくいが仕方あるまい。3時間すればリンセも満足するだろうし、それまで我慢するか。
「海底から見つけてきた本にしてはボロボロになって無いな。これは魔術によるコーティング技術か。違うな。これは誰にも読ませないとする封印術か。一応冒頭の10ページ程は読めるようになってるのか。えーと、かつて魔帝エイドスと呼ばれた我の生涯をここに記そう。」
だがこの本を手に取っている貴公はこの本を読む資格があるのだろうか。貴公がその資格ある者かを見極める為の試練を用意した。心の準備はよいか。本に魔力を込め、心の中で叫べ。「ペル・ランタ・マギ・ロイス」
「ふむ。リンセはあの調子だし、ちょっと面白そうだからやってみるか。」
俺は目を閉じ、心の中で「ペル・ランタ・マギ・ロイス」と唱えた。その瞬間、体が歪み何か変な感触が俺を襲う。ポータルで飛ぶのとは似ているが違う感触だ。転移魔法陣に近いがもっと荒々しい感じだ。体に不安を覚えつつゆっくりと目を開けると、今まで居たリンセの部屋が無くなり、灰色の世界に来た。ウンディーネと会っていた真っ白な世界のような感じだが、5メートル程先に黒いローブを来た人物が居た。
「っと。なんともまぁ不思議な事が起こる物だな。でももう大抵の事には慣れたしな。これくらいじゃビクともしねーよ。」
俺は立ち上がりローブを着ている人に向かって歩き出した。
「おやおや、久しぶりに人が来たというのに、ヒューマンかね。これは期待出来そうに無いな。」
「初対面なのに随分な物言いだな。」
「ケッケッケ。ようこそ。賢者エイドスの夢へ。歓迎するぞ。まずは自己紹介をしてもらおうかね。」
「ふーん。夢か。じゃあ適当でいいな。俺は神だ。」
「ホッホッホ。それはそれは神さん。エイドスの知識が欲しければ私を倒す事ですね。」
「まぁそんなとこだろうと思ってたぜ。」
「ちなみにこの夢の世界では魔術は使えませんので悪しからず。」
俺が手始めにアイスランスでも打ってやろうと思い魔術を使おうとしたがまったく魔術が発動する気配が無かった。
「じゃあどうやって戦うというんだ?」
「ここは夢の中、あなたが思う物ならなんでも出せますよ。」
「ほう・・・」
俺は頭の回転をフルに上げる。俺が創造した物ならなんでも出せると言うのか。俺を舐めるなよ。伊達に創造師を名乗ってる訳じゃねぇ。俺が何を出すか考えていたらローブの人物が見る見る大きくなり、巨大な黒い獣になった。
「これは私が負けた相手でしてねぇ。幻獣エンペラーストゥムと言う魔物です。皮膚はどんな刃も通さず魔術も無効。口から吐くブレスはどんな獲物も一瞬にして蒸発させてしまうと言う伝説の生き物です。」
「なるほど。ほんじゃこっちも召喚!バハムート!」
俺の叫びと共に空中に魔法陣が出現し、そこから巨大な黒い龍が姿を現す。
「ほう。すでにこの世界に順応したと言う訳ですか。ヒューマンなのに聡いですな。これは期待できるかもしれません。では行きますよ。」
黒い獣と黒い龍の戦いが始まった。ローブの人物は獣になったので、俺は戦いを安全な所で見ているだけだ。もし負けてもバハムートが居なくなるだけだから、まだまだ勝負は終わらない。獣が飛び上がり、足元に魔法陣を作り、それを足場にしてまた跳躍。ブレスを吐きつつ前足の爪で引き裂こうとするが龍はそれを軽やかに回避し、灼熱にブレスを吐く。当たってはいるもののダメージは入ってないようだ。俺は今のうちに様々な物を創造しておく。
「妖刀村雨。っても肉弾戦はやばいな。ビッグブレードMK-2。でかい俺には使えん。だから近接じゃなくて遠距離を考えるか。拳銃。これじゃ有効なダメージは与えれそうにないな。ロケットランチャー。これでもまだ無理か。となるとあれか。となるとあれとあれとあれが必要になって。じゃああれとあれもか。」
俺は創造に胸を膨らませながら、双子の氷の精霊シヴァも召喚し、バハムートの援護に加えてやった。黒い獣は全くダメージを受けている感じがしないが、これで倒せると思って無いので十分な仕事をしてくれている。
「えっと盾はここに設置して、お前はここに寝かせて、後ろに町を作って停電させるんだっけか。」
「お前は何をしている?」
バハムートとシヴァを倒した獣が話しかけて来る。
「町を作ろう3位だっけか?」
「そんなもので勝てると思っているのか。」
「えーもうちょっと遊びたかったのに~。仕方ない。やるか。矢島作戦発動!総員第一種戦闘配置!ポジトロンスナイパーライフル!うてぇ~!」
「なっ!うわぁぁぁぁぁぁ!!」
目のくらむような光の銃弾が敵を貫く。さすがにこれを耐えきったら、ちょっと引くわ。それこそチートだろ。光が徐々に弱まるのを確認すると、またこの世界に来た時と同じような感触に襲われる。
「あー終わりか~。もっと遊びたかったのになぁ。」
目の前の景色がリンセの部屋に変わる。
「ふぅ。いい時間潰しになったな。っと・・・」
俺が目を開けると目の前にリンセが飛びかかって来た。
「どしたどした?」
リンセは俺の胸に顔を埋めて泣いているようだ。
「よ・・・へ・・・いな・・・い。」
「あー本に吸い込まれたって感じなのか。俺はここに居るよ。」
「しん・・・ぱい・・・した」
「あーそりゃ悪かった。ごめんごめん。」
俺はリンセの頭をやさしく撫でてやる。部屋はもうミラーボールの光が収まっており十分いい雰囲気を醸し出している。部屋には二人きり。このまま押し倒せばいけそうだが、俺には心に決めた人が居る。それにリンセはなんだか子供っぽすぎてこれでは・・・おまわりさんこっちです。
「もう大丈夫か。」
「だい・・・じょ・・・ぶ」
「よっし。んじゃ今度は俺の約束を守ってもらおうかな。」
「ん!」
リンセは泣きやみ、すぐさま部屋を出て行った。行動が早くてついていけそうに無いな。するとすぐに戻って来た。
「よっへ」
「ん?なんだ?」
「いなく・・・なら・・・ない?」
「大丈夫。俺はここで待ってるよ。」
「ん!」
不意にリンセが俺の頬にキスをしてきた。
「おいおい!ちょっと待て!こうゆうのは好きな人にしかしちゃダメなんだぞ!」
「よっへ。すき。」
うそーん。俺は頭が真っ白になった。
「にゃ!」
リンセはウキウキして部屋を飛び出していった。俺は本を開きながら茫然とするしかなかった。本のページが勝手に開き文字が浮かび上がって来る。
『次は中巻でお会いしましょう』
うそーん。




