アイスが食べたい
ウィンストハイムまでの道のりはもう慣れたものだ。道中にポグの群れを発見したので色々な魔術の実験台になってもらった。俺は創造師。魔術を創造する者だ。
「ダイダルウェイブ」
「メイルシュトローム」
「フロストノヴァ」
「アブソリュートゼロ」
これらが俺が使う範囲を攻撃する魔術だ。ダイダルウェイブは横方向の津波。メイルシュトロームは上方向の津波。フロストノヴァは対象を凍らせる。アブソリュートゼロは周囲を凍らせる。
「ウォーターバレット」
「アイスバレット」
「アイスランス」
「ウォーターフォール」
今度は単体攻撃魔術。バレット系は弾丸の様に飛ばす。初速は早いが威力は木を粉々にする位でしかない。対象に当たると弾けるのが特徴だ。アイスランスは氷の槍を打ち出す。速度はバレットに比べると遅いがその分、威力は申し分ない。調整によって槍の大きさや鋭さと調節できる。鋭くすると木を楽々貫通する威力だ。ウォーターフォールは水を落とす魔術。いわゆる滝だ。これを改良して雨を降らせてみたい。これ以外にも俺が創造したとっておきの魔術はあるが、それはその都度紹介していこう。
「やっぱこれだな氷造魔術」
アイスメイクはポケットドラゴンの代わりに石では無く氷で固体を作り上げる。しかもポケットドラゴンと違って細部まで表現できるのだ。これは自身の魔力を使い直接作り上げるので細部まで表現することが可能になった。しかし氷なので溶ける。だが魔術を丁寧に込めれば溶ける時間が伸びるのは実験済みだ。
「ん~ちょっと堅いか。でもこの感じは懐かしい。今は冬だが、まぁよしとしよう。」
アイスメイクでそこらへんに落ちていた木の棒を拾いアイスを創造した。今の時期は冬なのだが、久しぶりのアイスの感触に懐かしさを感じる。味は無いが。
「味をつけるとなるとやっぱり魔術だけじゃダメかぁ・・・。ん?そうか。この手があったか。よし。急ぐか。」
ウィンストハイム城下町に着いた俺は真っ先にカフェに向かった。カウンター席に座り綺麗なお姉さんが注文を聞いてくる。
「ご注文はお決まりですか?」
「おれんぢじゅーちゅをくだちい」
「はい?」
「オレンジジュースを下さい。」
「はい。かしこまりました。すぐお持ちしますので少々お待ちください。」
くそ。失敗した。あそこで可愛さをアピールして、お姉さんの笑顔を俺の物にしようとしたのだが。等とくだらない事を考えてるとすぐにオレンジジュースが目の前に置かれた。
「はい。お待たせしました。」
「ありがとうございます。」
しまった。ジュースに氷が入ってるじゃないか。このままだと薄くなってしまう。まぁ実験と言う事でやってみるか。俺はマジックバックから綺麗な木の棒を取り出しコップの中に入れる。
「凍れ。アイスメイク。」
するとみるみるコップの中のジュースが凍りついた。しかし勢い余ってコップまで凍らせてしまい。コップが割れてしまった。
「お客さん。なにやってるんですか!」
「すいません・・・弁償します。」
「お店の中で危険な魔術は使わないで下さい。」
怒られた~。しょんぼりしながらマジックバックを漁り銀貨一枚を渡す。
「これじゃ多すぎますけど・・・」
「すいません。迷惑料と言う事で。あとオレンジジュースを7つ下さい。あ、氷抜きでお願いします。外の席に移ってやりますので勘弁してください。」
そう言って銀貨をもう一枚渡す。
「え?う~ん。まぁ外でなら・・・。でも他のお客さんに迷惑をかけないで下さいね。」
「わかりました。」
俺は外の席に移動しながら手に出来たアイスを眺める
「出来た。出来たぞ。早速一口・・・。ん~うまい!これだ!」
オレンジのアイスを作る事に成功した。そこでまた7つ運ばれてきたので同じように木の棒を差し一つずつアイスを作る。今度はコップを割る事なく全部成功した。そしてコップが割れないように丁寧に取り出し指の間に挟める。
「うるヴぁりん・・・」
等と呟きながら店を後にする。両の指の間には計8本のオレンジ味のアイスだ。そしてギルドへと向かう。ギルドへ着くととりあえずアイスが邪魔なのでバル達5人に一本ずつアイスを手渡す。
「洋平様。これは一体なんですか?」
「いいから食え。こうやって食べるんだ。」
バルの目の前でアイスを食べて見せる。バル達は以前茶碗蒸しを食べさせていたので俺が渡す物を不思議に思いながらも頬張る。
「ん!これは口の中が・・・美味しいです。」
「あと、俺はしばらくこの町から離れる。今まで世話になったな。また会った時はよろしく頼む。」
「どこへいかれるのですか?」
「世界を見て来る。」
バル達はポカンとしながらもアイスを食べ続けている。まぁバル達には色々と世話になったからな。また今度ゆっくり食事でもしてみたいものだ。
続いてカウンターに目を向けるがライラの姿が見当たらない。そうか。まだ昼前だから出勤してないのか。他の人にセクターが居るか聞いて、無事に居るとの事なのでセクターの部屋を目指す。手にはまだ三本のアイスがある。一本は食べかけだが、セクターとライラで一本ずつの予定だったのだが困ったものである。余っても仕方が無いので赤熱の旅団のリーダーの熱血のハロルドに渡した。彼はAランクの冒険者である。この町で一番厚い信頼を受けている冒険者だ。フォレストラドゥン討伐の時には冒険者を纏め上げる程実績と信頼を兼ね備えている。これで少しは仲良くなれたと信じたいものだ。いざという時に頼れる人と言うのは居た方がいい。バル達は残念ながら却下だ。ハロルドと他愛も無い会話をしてセクターの部屋に向かう。ノックをし、返事も待たずに中に入る。
「宅配でーす。」
「おぉ。洋平じゃないか。よく来たな。」
「ほれ。やるよ。俺の世界のアイスって食べ物だ。」
「んん?食べれるのか。これは・・・!うまい!」
「これから四大巡業に行こうと思ってな。」
「この冷たさ。そして歯ごたえ。のどごし・・・」
「色々世話になった人もいるからな。まぁライラさんが来たら彼女にも挨拶をしないとな。」
「うめぇぇぇぇぇ!!」
「おい!人の話を聞けよ!」
セクターの頭を引っ叩く。
「おう。気を付けて行って来いよ。ライラはもうすぐで来ると思うから、それまで待って行けよ。彼女はお前に凄く感謝しているんだからな。一言位かけてやるのが男ってもんだぜ。」
「そうだな。じゃあライラさんが来るまでここで待っててもいいか?」
「いいけど、仕事の邪魔はするなよ。」
ライラが来るまでセクターの部屋で待つことにした。セクターはライラが来たら部屋に来るようにと他の職員に言いつけ仕事に戻る。と言っても俺と二人で談笑するだけだ。
しばらく談笑していると部屋をノックされライラが入って来る。
「失礼します。」
「おーよく来たな。ライラ。洋平が今日、ウィンストハイムを離れる事にしたそうだ。」
「そうなのですか・・・。寂しくなりますね。また帰ってきたら顔を見せてくださいね。きをつけて行って来てください。」
「わかりました。えっとライラさんにも何かあげたいんだけどアイスはもう無いしな。」
「気にしないで下さい。私こそ旅立ちに何もしてあげられなくて・・・」
「おう。そうか。忘れてたぞ。洋平に渡す物があったんだ。これを持って行け。」
セクターから封筒を貰う。
「これは?」
「それはギルドへの紹介状だ。それを見せれば色々と便宜を図ってもらえるだろう。」
「それは助かる。ありがとう。」
「えっと・・・私は何も・・・」
「ライラさんはその気持ちだけで十分ですよ。俺の帰りを待っていてくれる人が居れば俺は頑張れます。そうだ。思いついたぞ。二人共ちょっと時間あるか?」
「私は大丈夫です。洋平様が来てると聞いたので早めに来ましたから。」
「俺も大丈夫だ。ちょうど昼の鐘が鳴るから飯だ!」
「じゃあちょっとついてきてくれ。」
俺は二人を連れ出し、ギルドの外に出る。そこに広がる光景は俺が復興した街並みだ。その中心に広場があり噴水がある。この噴水は騎士団が造ったものだ。その噴水の前にライラを立たせる。セクターと俺は少し離れてライラを見つめる。
「ライラさん。そこから動かないで下さいね。」
「え?はい。」
俺は魔力を集めイメージを固める。魔術を使うのを感じたのかセクターが話しかけて来る。
「おい。危険な事はするなよ。」
「大丈夫だって。まぁ見てろ。」
自分の中でイメージが固まり、魔力を込める。決して溶ける事が無いように。
「アイスメイク!」
俺の叫びと共にライラの横の地面から氷が現れ徐々に形を形成する。その氷は徐々に大きくなり、高さ5メートルにはなりそうな。氷像を作り出した。
「ふぅ。どうだ!」
「お前・・・」
周りを見るといきなり現れた氷像に町の人も驚き集まって来た。その集まって来た人の中にロイさん5人衆が居た。
「これは洋平がやったのか!?」
「お久しぶりです。ロイさん。とみんな。」
纏めるなと言う声が聞こえたが、華麗にスルーする。
「おう。剣を直しておいたぜ。今までより頑丈に作ってある。石は今まで通り飛び出す仕組みだ。だが無理な働きをさせると壊れるから注意しろよ。」
「ありがとうございます。」
バーンからバーンソードを貰う。これで装備はばっちりだ。周りを見ると人が沢山集まり驚いたように氷像を見つめている。ライラを見ると氷像を見て震えている。
「これはライラさんをイメージして造ったんだ。どうかな?」
「・・・」
「おーいライラさーん」
「いやーーーーーーーーーーーーーー」
ライラが渾身の力を込めて氷像を殴りつけた。おいおい。せっかくライラさんの氷像を作ったのになんて事をするんだ。だが馬鹿め。俺の魔力をたっぷりと込めたんだ。そんなパンチで壊れるはずが無いだろう。
「ちょ。ライラさんやめて!」
すると氷像が徐々にひびが入る。
「まさか!そんな馬鹿な!」
そしてついに氷像は崩れ落ちた。
「洋平。」
「なんだ親父。」
「別れの時まで問題を起こすなよ。」
「えーよかれと思って・・・」
ライラがこっちに顔を向ける。あの顔はやばい顔だ。
「洋平。」
「なんだ親父。」
「逃げろ!」
「わかった!!じゃあなみんな世話になった!また帰って来たらよろしく!」
俺は走り出した。ライラはセクターに押さえられている。ロイさん達もみんな氷像が崩れた破片を持って手を振ってくれている。ギルドの中の人も外の騒ぎを聞いて出てきた。その中にバル達やハロルドや顔なじみの人達が沢山いて手を振ってくれた。
「さらば我が故郷か・・・。いざゆかん新天地へ。」
環境が直らないのですが明日も投稿予定です。




