愛戦士立つ
「アイヴィ・・・大丈夫か・・・」
「よう・・・へい・・・」
「血が・・・くそ、どうしたら・・・」
「洋平。セリーヌ様とカル兄を助けてあげてください・・・」
「なんで・・・あんなやつまで・・・。あいつはアイヴィに・・・」
「このままではカル兄はセリーヌ様に殺されてしまいます。」
「でも、俺はあいつが憎い・・・」
「それでも、お願いします・・・」
どうしたらいい。俺は一体何をしたらいい。俺はアイヴィの為ならなんでもしよう。だがなぜカルなんだ。
「アイヴィ。」
「はい。」
「俺の事が好きか?」
「こんな状況で何をいってるんですか・・・」
アイヴィの手がゆっくりと俺の頬に触れ引き寄せられる。
「これでいいですか。」
「わかった。じゃあちょっとだけここで待ってろ。そうだ。これ持ってて。前に作った自信作なんだ。ちょっと壊れちゃってるけど。」
辺りを見渡すと瓦礫の山だが見覚えのあるものばかりだ。ここは俺とアイヴィの部屋の瓦礫が混ざり合ってる。その中から壊れたフィギュアをアイヴィに渡す。そして近くに落ちてる水筒を拾い上げる。蓋を開け中の臭いを確認する。
「大事に持ってますね。」
「よーし。じゃあちょっと行って来るか~」
あえて明るく振る舞う。少しでも気を許すと涙が溢れて来る。
「洋平。」
アイヴィの目が訴えかけて来る。俺は何も言わずにアイヴィに近寄り、唇を合わせる。
「終わらせて来る。それまで・・・」
それ以上言葉が出てこなかった。死と言う言葉を出せなかった。出したら終わるような気がした。俺はアイヴィから離れ瓦礫の山を抜け一気に走り抜ける。もう振り返らない。全てをこの手で終わらせるんだ。走っている途中、セリーヌとファングの方を見た。セリーヌは光の衣を纏っているかのように光り輝いている。線の動きでは無く点の動きをしている。ファングはもう左足と右腕が無くなっているが、それでも必死に武器を振り回して戦っている。俺は走った。向かうは精霊が居る湖の上の小島。走り、飛び上がる。小島に着く。初めてここに来た時はアイヴィに抱えられて来たな。アイヴィとの思い出が蘇る。もう溢れる涙を止められない。俺はもう涙を堪えず、感情に任せる。小島の中心にある台座の上に聖杯が置かれている。そして水筒の蓋を開けその中に入れる。水筒の中身はガソリンだ。聖杯の中を見ると水の上に薄い膜が張っている。火のペンダントを握りしめ、聖杯の上に突き出す。
「もう。誰も悲しませたりしないって誓ったんだ!!頼む!!インスタントオン!!!」
ペンダントから火が出てそのまま聖杯の中に落ちる。聖杯の中に火が落ちると、その火は青い炎をあげてゆらゆらと燃え出した。すると辺りの景色が一瞬にして切り替わる。一度来たことがある。全てが真っ白の世界だ。
「お久しぶりですね。」
「あぁ。だが時間が惜しい。早く・・・」
「大丈夫。ここに居る間は、外の世界の時間は進みませんから。まずは気持ちを落ち着けましょう。」
「そうなのか・・・。だが俺は早く行きたい。試練はクリアしたと言う事でいいのか?」
「はい。もちろんです。あの聖杯の中の水はこの世界の物を吸収しますからね。貴方の世界にあのような液体があるとは驚きです。では・・・準備はいいですか?」
「あぁ。やってくれ。」
「水は恵み。全てを受け入れる穢れなき純水。佐々木洋平。貴方に水の祝福を授けましょう。その心にいつまでも愛がある限り、私は貴方の力となりましょう。」
体の中に何かが流れ込んでくる。これが水の力か。魔力操作で体内循環をしてみる。今までとは比べものにならないほど滑らかに流れる。
「では行きましょうか。最初から実践ですが、私もサポートしますので大丈夫ですよ。」
「わかった。頼む。」
また景色が小島に戻る。さっきまで流していた涙の跡が頬を冷たくする。自分でも驚くほど冷静だ。これも水の力なのか。俺はセリーヌとファングの方を向く。ファングはもう両足をもぎ取られている。セリーヌも先程までの光の衣が無くなっており膝をついている。もう時間は無い。俺は走る。湖の上も走る。この水の上は何故か走れるような気がした。走るスピードも今までとは比べものにならない。慣れるには時間がかかりそうだが、今はそんな事を言ってはいられない。目の前にカルを見据えると、怒りが湧き上って来るが、今の冷静さを欠くには至らない。
「っと・・・ウンディーネさん?」
「はい?」
「どうしたらいい?」
「思うがままに。」
湖の水を見据える。その水がゆっくりと空中に浮かび持ち上がり球体を成す。直径10メートル程だ。それをカルに向かって投げる。投げられた球は空中で球体を維持出来なくなりカル、セリーヌ、ファング、俺の4人に雨を降らせる。
「あれ?ウンディーネさん?出来ないんだけど?」
「魔術はイメージが大事です。セリーヌも言っていたでしょう。その為の詠唱はイメージを明確にします。完成形。どのような魔術にするのかをしっかりとしたイメージを持ってください。」
「わかった。」
「あとウンディーネさんじゃなくて、可愛くウェンディって呼んでね」
「え?」
「あ、ウェンディちゃんでもいいですよ。」
「今はそんな冗談を言ってる場合じゃないんだけどな。」
「参りましょう。」
「ウェンディ。力を貸してくれ。水よ。邪悪な心を持った者を洗い流せ。ダイダルウェイブ!!!」
後ろの湖の水が盛り上がり津波のように4人に襲い掛かる。だがしかし、俺とセリーヌとファングには当たらない様に見事に避けて6体の蛇とカルに襲い掛かる。俺は走り抜けてセリーヌとファングに合流し前に立つ。
「相変わらず。おっっっっっっっっっっっっっそい!!!!!!!のにゃ」
「マスターはキキカンがタリマセン」
「遅くなってすまない。後は任せてくれ。とりあえずファングを直すか。」
俺はポケットドラゴンで両手足を出しファングにつける。
「とりあえず全部交換しとけ。じゃあセリーヌとアイヴィを頼む・・・」
「リョウカイシマシタ。」
「よーへーさっさと終わらせるのにゃ!!!!」
「わかった。行って来る。」
俺は二人を後ろに走り出す。津波は木々を薙ぎ倒し、森の中に空間を作り出した。足元には水が残っているが、お互いに移動の邪魔になるほどではない。森の中からカルが出て来る。
「お前。魔術が使えないんじゃなかったのか。」
「あぁ使えなかった。さっきまではな。」
「どうゆうカラクリかしらんが、多少魔術が使えたくらいで調子の乗るな!!こっちには吸魔のリングがあるんだ!お前の魔力ももらうぞ!!!」
俺の体から緑の光が溢れ出し、吸魔のリングと繋がる。
「なんだ!!!そのバカげた魔力量は!!!」
「自分の物差しで他人を計れると思うなよ!!!」
俺は体内の魔力を解放して緑の光を強くする。吸魔のリングと繋がった時に底が見えた。許容量を超えれば心配は無い。壊れてしまえ。解放する魔力をあげてついに吸魔のリングは音を立てて割れた。
「くそ!!!お前は一体なんなんだ!!!ゴーレムを使役するといい。このばかげた魔力といい!!」
「俺は愛の戦士!!誰にも負けん!!!」
チート全開ふるぱわー。




