絶望
ここらへんから書き直しまくりました。
「最悪な組み合わせだにゃ・・・」
水の流れを止めて、その中から出てきたカルを見てセリーヌが呟く。両手にSSランクの古代兵器。しかもその二つは、操虫鎧シリーズの二つである。セブンスネークは指先を蛇に変化させ。それを自由自在に操る。ポズの毒手は触れた物に毒を帯びさせる事が出来る。その毒は普通の毒では無く様々な毒の種類があり、それを生み出す毒蟲を操る事が出来る。毒の種類は自分の想像する限り無限に近い。既存の毒を生成することはもちろんの事。まだ見ぬ毒を作る事も可能なのだ。自分が毒と思えばそれは毒になる。しかしポズの毒手は毒を与える事だけでは無く、毒を奪う事も出来るのだ。前保有者の古代魔術師サイモンはポズの毒手を使い、様々な毒を体内から取り除いて居たと言う。どんな難病でもサイモンがそれを毒と認識する事によってポズの毒手がその毒を取り除いてくれるのである。
「セブンスネークと同じ操虫鎧シリーズですね。」
「あの二つは共鳴するのにゃ。簡単に言うと毒の蛇を6体相手にすると言う事なのにゃ。」
「一体は自身の魔力を吸うやつだから6体なのか。」
「触れるだけでもどんな毒が来るかわからにゃいから、十分気を付けるのにゃ。」
触る事すら危ないとなればやばいな。スピードで翻弄するしか無いが、セリーヌはともかくアイヴィを抱きかかえている俺や、アイアンゴーレムのファングはあまり早くは動けないのだ。
「そろそろ作戦は決まったかぁ?洋平・・・お前もセリーヌも俺の邪魔をすると言うならこの場で死ね。」
カルが左手のポズの毒手で右手のセブンスネークの手首を掴み魔力を込めはじめる。
「ククク・・・。セリーヌがどうやって復活したかは知らんが、セブンスネークさえあればこっちの物だ。セリーヌの魔力のおかげで十分操る事が出来そうだ。見るがいい。SSランクの共鳴を!!」
カルの叫びと共に、セブンスネークの6体の蛇が徐々に紫色を帯びて肥大化していく。それぞれの姿が一つとして同じ物は無い。太い、細い、凶暴、邪悪、溶解、鱗。そのようなイメージをした蛇が6体現れる。それぞれの体長は伸縮自在。各個に違った対処が求められる。なんとか蛇の攻撃を潜り抜けてカルに攻撃しなければならないが、四方から攻めようにも、こちらの手札は実質セリーヌとファングしか居ない。今の俺は玉避けになればいいくらいだろう。
「よーへーはアイヴィを守りながらファングと右に行くのにゃ。僕は左から行くにゃ。」
「わかりました。ファング行くぞ。あの蛇にはなるべく触らない様にしろ。浸食される可能性もあるからな。危険だと感じたら腕を犠牲にしてでも躱すんだ。ファングの腕ならいくらでも作ってやる!」
待てよ。腕を取り換える。換装出来る。夢がひろがりんぐ。俺は大きな盾と剣をポケットドラゴンで作り出し、ファングに渡す。
「それで戦ってみるんだ。壊れてもまた出してやるから、全力で振り回せ!」
セリーヌは邪悪、溶解、細いを相手に、こちらは太い、凶暴、鱗が相手になる。左右から同時に相手をするのだからカルの意識は忙しくなるだろう。その隙に俺が注意を逸らすことが出来れば勝機はありそうだ。いや、あるのではなく勝つのだ。そしてついに戦いが始まった。
「よーへーの魔力のおかげで、久しぶりに全力を出してもよさそうなのにゃ。カル・・・もう後戻りは出来ないにゃ。僕がこの手で終わらせてやるにゃ。」
「くそっ、ちょこまかと動きやがって!だが俺は守りに徹するだけでいいんだ。まだこちらには吸魔のリングがあるからな。時間が経つにつれて有利になるのは俺だ!!」
セリーヌは物凄い体術と魔術を併用して蛇と戦っている。巨大な火の玉を作り出し、その玉から無数の火の玉が打ち出される魔術を使ったり、迫りくる蛇を水の物量で押し返し、凍らせてみたり。だが、攻め切れていない。それは溶解の蛇のせいだ。蛇達は足場を必要としない。カルの手が最後尾である。そこから伸縮自在に伸びていくので自分の重さなど無いかのように、素早く動いている。その中で溶解は特別だ。自らの体から溶け出ている体液が地面を溶かし、紫色の煙をあげて、セリーヌの足場を徐々に奪っていくのである。セリーヌはある意味防戦一方だ。時折巨大な魔術を使うが、それは細い蛇によって相打ちとなるが、細い蛇はすぐに脱皮をし、前線に戻って来る。それをわかってかなかなか大技も出して行けていない。邪悪は口から毒の玉と思われるのを吐き出し、遠距離から攻撃している。細い蛇が近距離で体をしならせムチのように攻撃し、その口からさらに細い蛇が出て、無数の蛇のムチとなり、近距離を担当する。溶解が補助に回り、コンビネーションは抜群に取れている。
「おら!余所見してんじゃねーぞ!!お前もすぐに殺してやる!!」
こちらに来た、太い、凶暴、鱗の蛇もまた別の意味で厄介だ。ファングは俺が出す様々な武器でそれに対抗してはいるが、こちらも防ぐので精一杯の状況だ。太い蛇はその体を大きくしならせ薙ぎ払う広範囲近接攻撃。凶暴は常にこちらに向かって噛みついてくるが時折不可解な間合いを取る時間差攻撃。鱗の蛇は隙を伺いファングの腕や足に絡みつき、それをもぎ取る関節攻撃。つまり三匹が全部近距離なのだ。俺はファングの目となり、攻撃を見きれてはいるが、徐々にファングの動きも鈍り、二回も腕をもぎ取られている。足をやられればただでさえ低い機動力が落ち、一瞬でやられてしまうのは目に見えている。最初は剣と盾を持たせてはいたのだが、攻撃をする暇が無くなり、今では両手に大盾を持たせている。それも攻撃を受け止めれば毒が浸食してくるので使い捨てになる、なるべくは攻撃を受けずに避けたい所だが、この三体は全てが近接で避ける事すら難しい。盾の構造を二枚重ねにして二度までは防げるようにしているのだが、まともに攻撃を食らうと一度の攻撃ですら盾を粉砕される。こっちもセリーヌも防戦一方。吸魔のリングでセリーヌの魔力が尽きても負け。ファングの足が取られてもこちらの負け。不安要素が多すぎる。だが、なんとかしてこの状況を打開しなくてはならない。
「ファング!気をつけろ!!もう一匹だ!セリーヌ!?」
細い蛇がいつの間にかこちらに迫ってきていた。セリーヌの居る方の地面はほとんど毒に侵されており、足の踏み場も無い。その中でセリーヌは即座に地面を浄化し足場を作り体制を整えて戦っているが、足場の浄化と言う手が増えてしまい、攻め手が減ってしまった。セリーヌの目の前でアイヴィを殺すのが目的ならば先に倒すのはこちらと言う事か。
「左から来るぞ!気を付けろ!!」
両手に盾を持っているファングの左を狙い細い蛇が向かって行ってる。
「え・・・くそっ・・・」
ファングに攻撃をするかと思われた瞬間。細い蛇は方向を変え、後ろで援護していたアイヴィを担いでいる俺へと向かって来た。細い蛇は体を槍の様に鋭くし、俺を貫かんと向かって来る。俺は咄嗟に左に避けるが、細い蛇はこちらの動きを見極めており、寸での所で止まり口を大きく開け、そこから無数の蛇が俺へと向かって来た。
「しまった!やめろ!!!」
細い蛇は無数の数となり俺の手の自由を封じる。そしてついに俺の手からアイヴィを奪ってしまう。俺にはさらに蛇がまとわりつき、両手足を体にしばられぐるぐる巻きの状態にされ宙に浮かされる。
「アイヴィ!!!」
俺の叫びも虚しく、アイヴィは両手を左右に広げられ、まるで十字架に張り付けられたかのような状態で宙に浮いている。
「ふははははは!!セリーヌの魔力切れを待つまでも無かったな!!また邪魔されるのも癪だからさっさと殺すぞ!!お前ら!その目に焼き付けておけ!!目の前で大事な人を殺されるのを!!己の無力さを嘆くがいい!!」
残りの蛇が集まり宙で槍の形を形成していく。俺は体を動かそうともがくが抜け出せそうにない。セリーヌはこちらに向かって来ようとするが、二体の蛇がそれをさせまいと立ち塞がる。ファングも同じような状況だ。
「くそっ!!!!ファング!!!!!」
俺の叫びと共にファングは持っていた盾をこちらに向かってぶん投げる。しかしその隙が生まれ鱗の蛇がファングの足に絡みつく。ファングの投げた盾はブーメランの様に回転し、細い蛇の頭を撃ち抜く。同時に俺を縛っていた蛇の力が抜け、拘束から抜け出す。アイヴィの両手を支えている蛇も力をなくしアイヴィの体が徐々に傾き始める。だがもう既に蛇の槍は完成しておりアイヴィへと向かっている。俺は空中でポケットドラゴンで足場を作り出しアイヴィの元へと飛び向かう。
「アイヴィ!!!」
時間がゆっくりと流れる。俺はアイヴィへと向かって飛んでいる。手を伸ばすが届かない。蛇の槍がアイヴィへと向かっている。
あと少し・・・
もうすぐ・・・
アイヴィ・・・
伸ばした手はアイヴィに触れられない。目の前でアイヴィのみぞおちの辺りを蛇の槍が貫く。ゆっくりと流れる時間の中。俺はアイヴィを強く抱きしめる。しかしカルの攻撃の手は緩まない。細い蛇が再び姿を形成し、アイヴィを抱きしめた俺の背中を強く叩き付ける。俺はアイヴィを抱きしめたまま大きく飛ばされる。そのまま後ろの家が倒壊した瓦礫の山に突っ込む。ゆっくりとした時間の中、伝わる頬の滴。背中を走る痛み。様々な感情が押せ寄せる中、セリーヌの今まで聞いたことのないような叫び声が頭に響き渡る。
書きながら号泣してます。だって次の展開しってるんだもん。書きたくないじゃない。書く手より涙を拭く手の方が多い。




