旅立ち
「洋平殿、もう大丈夫なのかね?」
ユノ王が聞いてくる。
「アイヴィさんがよくしてくれたのでもう大丈夫です。先日は取り乱してしまい、すいませんでした」
「ワシも洋平殿の事をよく知らなんだ。まさか本当にこの世界とは別の世界から来たとは思いもせんかった」
「私も未だに信じられませんが、この現状を把握するとそのようです」
「とりあえず洋平殿にバイクを返そうでは無いか」
シルバーが城の兵士達によって運ばれてくる。随分と久しぶりな感じがする。毎日乗っていたのにもう三日も乗っていないとなると、俺も感動の再開に目を潤ませる。
「アイヴィ殿から話は聞いているが、洋平殿とも話合って今後の事を決めたいと思う。洋平殿は今後どのようにしたいのかね?」
「私は元の世界に戻りたいと思っています」
「ふむ。まぁそれは当然と言えば当然か。ではどのようにして戻るつもりか?」
「えっと・・・なにかそんな魔術があればいいのですが、ご存じではないでしょうか?」
「ワシも魔術の知識は人並み以上は持っていると思うが別の世界へ移動する事が出来る魔術などは聞いた事も無い。」
やはりそう簡単にはいかないようだ。しかし手がかりが無い状態ではこれからどうすればいいのか・・・全く知らない土地で知っている人も皆無な状態で、アイヴィと王しか頼る事が出来ない状態なのに・・・
「しかしワシも全く心当たりが無い訳では無い。アイヴィ殿の師匠が古代魔術師と言うのは聞いているな。古代魔術師というのは遺跡等に眠る今の文明では作れない用な特殊な力を持った魔道具を研究している人の事を言い、魔術に関して非常に詳しい知識を持っておる。アイヴィ殿の師匠のセリーヌ殿ならなにか知っているかもしれん。」
なるほど、魔術を専門に研究している人に聞くのが確かにいいだろう。というかこれしかないな。アイヴィの師匠にも会ってみたいし、とりあえずはその方向性でいいだろう。その人に詳しい事を聞けば今後の俺の行動も判断出来るはずだ。
「わかりました。ではアイヴィさんの師匠様に会ってみようと思います。」
「うむ。セリーヌ殿というか古代魔術師と呼ばれる人はほとんど変わってる人が多いからな。十分気を付けていかれよ。」
そう言って俺とアイヴィは王との謁見を無事に終えた。これからアイヴィの師匠に会いに行くのでアイヴィには道案内も兼ねて一緒に来てもらうことにしたが、どうやらアイヴィは師匠の事をあまりよく思っていないらしい。やはり変人なのか。天才には多いと聞くがな。
「ではアイヴィさん。またお世話になります。よろしくお願いします。」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
城を後にして城下町を歩きながら会話する。俺はシルバーを手押しながら歩いているので目立ちまくっている。
「とりあえずはそのバイクは目立つので隠すのと運ぶので馬車を調達しましょう」
「そうですね。これは盗まれたら一大事です」
どうやら王様から少しばかりお金をもらっていたらしい。実はシルバーのガソリンがもう心もとない。無駄に使う訳にはいかない。
アイヴィと俺は馬車を購入し、荷台にシルバーを乗せる。アイヴィ一人で。
「洋平殿は力が無いのですか?」
「いやアイヴィさんが力ありすぎなんですよ」
そんな細腕の一体どこに力があるのか疑問だが、その疑問はすぐに説けた
「魔力を体に纏えばこれくらい造作もない事です」
俺魔法つかえねーし・・・
「洋平殿が居た世界には魔術は無いのですか?」
「魔術は無いですね。科学が発達した文明です。」
「よくわかりませんが詳しくは師匠に会った時に説明した方が手間は省けるでしょう。
アイヴィは空気が読めるというか、気遣いが半端無く出来る人だ。いい嫁になるだろう。
「よし、では出発する前に洋平殿にはこれを。」
そういって荷物の中から一本の剣を取り出して俺に渡してくる
「基本的に私が洋平殿を守りますが、万が一と言う事もありますので。用心しておきましょう」
「結構重いっすね」
長さが60センチもある剣だ。実物を触るのは初めてなので緊張する
「とりあえず振り回せばどうにかなりますよ。まぁもし自分が危ないと感じたらそれを使って身を守ってください。」
「剣とか初めて持ったんですけど大丈夫ですかね」
「使わない事に越したことはありません。結構長旅になるから早く出発しましょう。」
「師匠のところにはどれくらいで着くんですか?」
「30日くらいですかねー」
遠いわ!!!!
「気長に行きますか・・・」
しかし他に当てもないのでそれに従うしか無い。うなだれて馬車の荷台に倒れこむ。
「では参ります。しっかり捕まっていてくださいね。バイクも押さえてないと倒れて爆発しますよ。ウフフ」
アイヴィが笑いながら馬車を走らせる。馬車はめっちゃ揺れる。そこらへんにあったロープでシルバーを固定するが、この振動ではシルバーにも俺にもマリコにも悪い。マリコはと言うと布の袋に包んでシルバーのポケットに入れておいた。もう二度と手放さないぞ。
荷台から顔を出してアイヴィに声をかける。
「今日って野宿するんですか?」
「毎日野宿です。」
荷台に引っ込む。なんかもう色々あって疲れた。ちょっと寝よう。
「疲れたんで、荷台で寝てていいですか?」
「寝れるものなら」
そういって馬車のスピードを速めるアイヴィ。なんかめっちゃ楽しそう。師匠の事を嫌っていてそこへ行くと言うのになぜそんなに嬉しいのか。
馬車の揺れが増してくる。これじゃ寝れない。
「もうちょっとゆっくりいけないですかね?」
ずうずうしいと思いながらもアイヴィの上機嫌がちょっとイラっとしたので言ってみる
「・・・スリープウィンド」
「はにゃ・・・」
アイヴィ許すまじ!