洋平VSセリーヌVSアイヴィ
それからの日々は至って順調だった。変化があったのは俺は晩御飯の料理を一品任される事になったくらいか。この世界の調味料は沢山あって味付けには苦労しないのだが、問題は色々ある。俺は片栗粉が欲しいのだ。というかから揚げが食べたい。素揚げとかは出てきたが、違うんだよ。衣なんだよ。卵とパン粉で代用したのだが、これもまた好評だった。でも違う。もっと興奮するのはあんかけだな。これが作れれば俺の料理のレパートリーの半分は出来る。自分で作る肉あんかけ炒飯が俺は大好きだ!絶対に作ってやる。パンがあるから重曹はあるな。重曹があればカルメ焼きが作れるな。理科の実験でやったやつだ。この家には重曹までしっかりあった。ということでカルメ焼きも好評だった。
アイヴィとの稽古はなかなかに面白い段階に入った。アイヴィはエルフの剣術の達人らしい。俺もエルフの剣術を教えてもらう。基本だけだ。上の技は魔術と混合で使うらしいから。俺には無用だ。基本と言っても沢山ある。技が沢山ある。型も色々あって大変だったが、技が楽しくて俺はかなり熱中していた。だって剣だぜ。熱中しないはずが無いさ!俺が得意とする技は3つ程出来た。一つ目は攻撃技の風の太刀その1だ。剣筋から風の刃と飛ばして相手を斬る遠距離攻撃技だ。ものすっごい速さで剣を振るうだけだ。そうすると剣先から風の刃が出るのだ。これには風魔術は必要としないが資質が無いと使えない。俺は風のペンダントを剣につけてそよ風を相手に与える。つまり攻撃力は無い。偽物だ。二つ目は防御技だ。相手の攻撃を受け流すと言うものだ。名前は無い。相手の攻撃の重心をずらすという感じだ。俺は今まで身体強化によって無理やり躱していたがこれを覚える事によって攻撃を避ける事はうまくなった。これは実践でも使える。実際にアイヴィ相手にもそこそこ戦えている。たぶん手加減をしていると思うのだが、前に比べると厳しい手が増えてきた。セリーヌには相変わらず蹂躙される。お前は手加減を知れ。三つ目は小手返しという技だ。カウンター技で相手が攻撃してきた手を切り落とすというなんとも物騒な技だ。俺はそんな事はしたくないので、相手の武器を弾いたりする感じで使っている。相手の攻撃をしっかり見てその攻撃に合わせて攻撃するという後の先だ。これは奥義に近いレベルだそうだ。俺は相手の攻撃が見えるので問題は無い。アイヴィやセリーヌ相手だとなかなか戦闘中にやることは出来ないが、ライラ位なら出来る気がする。
読書も結構な本を読破した。アイヴィから4勇者物語や、セリーヌからDランクになると色々な魔物との戦闘になるからと魔物辞典。その他にも色々だ。元の世界に帰る方法はなんとなく検討がついて来た。だが俺は別に元の世界に今すぐ戻りたい訳では無い。今の生活は充実しているし。とても楽しい。元の世界に帰れないとしても、これが俺の人生だと受け入れる準備は出来ている。だがこの世界は平和だ。魔物はいて日本と比べると危険だが平和だ。生きていく上での目標が無い人が多そうだ。日本に居た頃の俺は特に目標が無かった。大学を卒業してどっかそこそこの会社に入り結婚して終わりだ。企業したいとか金持ちになりたいとかは思わない。ネトゲやアニメ見たりプラモ作れれば俺は満足だ。不自由なく平和に暮らしたい。と言うのが目標な感じだった。だが、今は違う。この世界には魔法があり魔物が居て、俺の興味を引く物が多々ありすぎる。ワクワクが止まらない。目標として元の世界に帰る。これは大事だ。本を読んで俺は気づいてしまった。元の世界に帰れるならこの世界にも帰って来れるのでは無いか。
「よーへー準備は出来たかにゃ?」
「いつでも大丈夫です!さぁ早く行きましょう。ピリオドの向こうへ!」
「行くのはウィンストハムにゃ。三人で競争するのにゃ。」
「おーって俺負けるの確定じゃないか!」
「だからハンデをやるのにゃ。30分待ってやるにゃ。」
「ん~ポータル禁止っすよ?」
「むしろよーへーが使わないか心配なのにゃ。」
「んな高価な物もってねーよ」
また三週間の時が流れて俺はギルドに行くことになった。今回は三人で行く。競争だ。二時間もあればつくとは思うが。30分は長くないか。俺マジで勝っちゃうぜ。
「ではよーへーからスタートするのにゃ。30分したらアイヴィと一緒にスタートするから安心するのにゃ。」
「一つ提案なんですが、負けた二人は勝った人の言う事を一つ聞くというのはどうっすかね?」
「随分自信があるのにゃな。じゃあ本気を出してやるのにゃ。その変わり僕が勝ったらシルバーを思いっきり弄るのにゃ!」
「じゃあ俺が勝ったらゼブンスネークを貰う!」
「にゃに!じゃあシルバーを貰う!!」
「吠え面かくなよ!バカ猫め!」
アイヴィは黙っているが目には力強い火が灯っている。
「アイヴィもそれでいいかにゃ?」
「はい。私も全力を出させて頂きます。お二人には悪いですが、私は負けません。」
「アイヴィもよーへーが来てから変わったのにゃ。いい事なのにゃ。よーへーには感謝するが勝負となれば手加減は出来ないのにゃ!」
よし。話がいい方向に向かっているな。セリーヌからはセブンスネークを貰ってアイヴィからは体を貰うとしよう。ぐへへ。
「では行きますよ。ちゃんと30分待って下さいね。」
「わかったからさっさと行くといいのにゃ。」
「あ、ちょっと荷物が多いから軽くします。」
俺は今回は結構な大荷物だ。ロイさんへのお土産が沢山入っている鞄をセリーヌの前に置く。ガチャガチャも沢山入ってる。大事なリューターとかを小さいリュックに詰め替え大分軽装になった。
「それ持ちきれないんで持って来てください。」
「これもハンデかにゃ~」
「いや別に無くてもいいっすけど。創造したのが沢山入ってるんで競争すると壊れそうなんですよね。」
「まぁあとでポータルで送ってやるから気にしないで行くといいのにゃ。」
「では行きます!!」
俺はそう言って頭上に思いっきりカプセルを投げる。そして走り出す。風よりも早く。投げたカプセルはまきびし入りのやつだ。これで出鼻はくじける。と信じたい。俺は途中にもまきびしをガンガン巻く。セブンスネークの為だ。帰りの事なんて考えてられん。
そろそろ30分たったかな。今で半分は来てない位か。でも森の半分は来たな。もっとスピードを上げないと。森を抜けたら草原だ。そこからは15分もすればウィンストハイムに着ける。森で追いつかれたら正直やばい。だが俺の倍のスピードが出せないければ追いつけないはずだ。
そろそろ森が終わるな。後ろを振り返るのが怖い。振り返ったらダメだ。もう少しなんだ。頑張れ俺!後ろで木がバキバキと倒れている音がするが気のせいだきっと!!
森を抜けた!まだ一位だ。このまままっすぐいけばアイヴィは俺の物だ!
「洋平!」
その声に思わず振り向く!アイヴィはえーよ。てかセリーヌよりもはえーのかよ。と思ってたらその後ろからセリーヌも走ってくる。よーへーと叫んでる。まきびし効きすぎたか。てかこのままじゃまずい。俺が勝てないじゃないか。何か考えろ!
「洋平!」
「アイヴィ!」
「このままじゃセリーヌ様が勝ってしまいます。森の中は洋平の罠でなんとかスピードが落ちてましたがこの草原ではセリーヌ様は止まりません。」
「なんとかしましょう!」
「洋平悪いようにはしないので私を勝たせて下さい!」
「なに!?」
「ここでいい合いをしてる時間はありません。お願いします。」
「わかった!ここは任せろ!アイヴィは全力で走れ!!」
「はい!!」
くそう。セブンスネークは手に入らないじゃないか。でもアイヴィに任せればシルバーは失われないな。このままだと負けるのは確実だから仕方ない。俺はセリーヌの進行方向にカプセルを投げる。胡椒入りのやつだ。これだけのスピードなら避けれないだろう。
「ふぎゅあ!」
セリーヌが正面から胡椒の中に突っ込んでいった。これでよし。セリーヌが目をつむってそれでも尚走っている。しかしちょっと方向が違う。もう城門が見えている。これでアイヴィの勝ちだな。というか二人ともどんだけ早いんだよ。もうアイヴィ見えないじゃないか。俺も二着で城門にゴールする。肩から息をする。超しんど。アイヴィは涼しい顔をしてる。流石っす。
「洋平ありがとうございます。」
「全く。俺を使うとは。アイヴィもなかなかやるな。」
二人で笑っているとセリーヌが凄い形相で走って来た。もう胡椒は大丈夫なのか。
「よーへーーーーーーー」
そのままのスピードでセリーヌは俺を蹴り飛ばした。俺は城門を突き破り通りを30メートル位吹っ飛ばされた。
「洋平大丈夫ですか?」
「アイヴィ助けてくれ。」
アイヴィとセリーヌが走って来た。アイヴィは俺に回復魔術を使いながらセリーヌを抑えている。セリーヌはようやく落ち着きを取り戻した。
「よーへーはひどいやつなのにゃ」
「シルバーを失うよりはマシです」
「アイヴィにあれを使えばよーへーが勝てたんじゃないのかにゃ?」
「あ・・・」
「相変わらずバカなのにゃ」
まだ胡椒カプセルはあったからな。まぁいいさ、アイヴィの為なら俺は悪魔にでもなってやろう。
「それでアイヴィは何を希望するのにゃ?」
「それはまた洋平が帰って来た時までに考えておきます。」
「わかったのにゃ。まぁ約束だからなんでもするのにゃ。」
と言って三人は別れた。俺はギルドへ、アイヴィは買い物へ、セリーヌは城へ用事があるらしい。また城門前で集合だそうだ。俺はギルドへと向かう。




