ぎゅ~っと
俺は医務室で目覚めた。ライラが手を握っている。
「・・・負けちまったかー。くそー」
「でもマスター相手にあそこまで出来るのは凄いですよ。マスターも褒めてましたよ。」
「でもこれでBランクは遠のいたな・・・くそう・・・」
「これ洋平様のプレートです。どうぞ」
「ありがとう。ん?おぉ!Cランクじゃねーか!!」
「マスターが洋平様の実力を認めて下さったんですよ。」
「親父いいとこあるじゃねぇか。」
「マスターからの伝言です。俺は忙しいからお前は一度セリーヌの所へ戻れ。だそうです」
「わかりました。ありがとうライラさん。」
「こちらこそありがとうございました。」
俺はギルドを後にしロイの所に向かう。
「すいません。負けました・・・」
「そうか、残念だったな。」
「みなさんの力のおかげで結構いい線まで行けました。ちょっともう師匠の所に帰らないといけないので、みなさんにお礼を言っておいてください。」
「おう、お疲れなようだな。まぁゆっくり休めよ。また挑戦すればいいさ。俺はしばらくこの町を拠点にしてるから、来たら顔でも出してくれよ。また飲みに行こうぜ。
「はい、ありがとうございます。」
そういって俺はロイと別れて家路へと向かった。
まだ5日しか経ってないがアイヴィを心配させない為にも早めに帰った方がいい。
だが疲れた。ゆっくり帰るとするか。今晩は止まって明日の朝一で帰るとしよう。
「ただいまーって誰も居ない・・・こうゆうときはアイヴィが玄関でおかえりって言って熱い抱擁とキスがあるんじゃないか。」
俺は宿で一泊し、朝一でウィンストハイムを出て昼過ぎには家に着いたのだ。ぶつぶつ言いながら二階へ上がりアイヴィの部屋に入る。
「ただいまーアイヴィ今かえっ・・・」
アイヴィ只今絶賛お着換え中である。お約束だな。俺はじっくりと目に焼き付けてから部屋を出る。
「ふぅ~。賢者タイムだな。」
「どうぞ」
中からアイヴィの声がした。
「先程は失礼を致しました。次から入る時にはノックを必ずすると誓います!」
「もう・・・気を付けて下さいね。それでランクは上がりましたか?」
「はははー、見て驚け!じゃじゃーんCランクだぞ!」
「凄いですね!いったい何をしたのですか?」
「セクターと戦いました」
「え?」
「それで実力を認められてCランクになった感じです。」
「相変わらずですね。」
「アイヴィさんお願いがあります。」
「なんでしょう?」
「ぎゅっとして下さい。」
「え?もう子供じゃないんですから・・・」
「ごほうびー」
そういいながらアイヴィは俺を抱きしめてくれた。優しく、懐かしいアイヴィの香りがする。これは正直安心する。
「そういえばセクターってセリーヌの弟なんですか?」
「そうですね。でもセリーヌ様にはあんまり言わない方がいいですよ。怒られますから。」
「なんとなくそんな気がします。あと町で4勇者とか聞いたんですけど?」
「あぁまだお話していませんでしたね。昔魔族の大群がガルガンティアに侵略してきたんですよ。その時に各種族から立ち上がった人が居て、それが4勇者と呼ばれる人達ですね。」
「んでセリーヌが4勇者の一人だと?」
「そうですね。」
「セリーヌはガフ族ですよね?」
「ハーフらしいですけどね。私も詳しい事はわかりません。4勇者について書かれてる本を後で探しておきますね。」
「ありがとうございます。」
セリーヌには余り聞かない方がいいようだ。自分で言わないって事は、余り聞かれたくない事なんだろう。
「疲れてませんか?」
「アイヴィの顔を見ると疲れなんてどこかに飛んでいきますよ。」
「じゃあ何をしてきたのか洋平の話を聞きたいです。」
「俺の武勇伝が聞きたいと言うのか。よろしいならば話してあげよう。っと所でセリーヌは?」
「自分の部屋でお昼寝中ですよ。洋平が行ってから随分とシルバーを観察してましたよ。」
俺はアイヴィとアイヴィの部屋で何をしてきたのかを話した。バルに絡まれた事や、セクターの事、ライラの事ははぐらかしたが。あとはロイとその仲間と一緒にセクターを倒す方法を考えたこと等。
「洋平ちょっとそれ卑怯じゃないですか?」
「セクターと真面目にやっても勝てる訳無いじゃないですかー。勝ったら一気にBランクと言われたらそりゃあどんな手を使ってでも勝ちにいきますよ。」
「もっとゆっくりランクを上げてもいいのではないですか?」
「いや、早く元の世界に戻らないといけないですしね。」
「洋平はやっぱり元の世界に戻りたいんですか?」
確信をついた質問だ。俺は元の世界に戻りたい。この世界が嫌いな訳では無いが、むしろアイヴィが居るから好きなのだが、元の世界に残してきた物も多い。両親とか心配してるだろうし。こんなに長い時間居なくなったら、さすがに行方不明とか捜索願いとか出されてるんだろうな。ここで俺が元の世界に戻りたいと言えば当然アイヴィは嫌な顔をするだろう。だがこの世界にずっといる訳にもいかないし。
「洋平?」
「アイヴィ」
「はい。」
「俺と一緒に俺の世界に行かないか?」
「え?」
まぁ当然だろう。この世界を捨てていかないといけないんだからな。無理だろうな。
「そうなるとセリーヌ様に相談しないといけないですね。」
「え?アイヴィ俺と一緒に来てくれるのか?」
「セリーヌ様の許しが貰えればですね。私はもう20年以上もセリーヌ様も元でお世話になってますし、四大巡業が終わったらやる事がないのですよ。冒険者としてわざわざ危険な迷宮とかに入ってお金を稼ぎたいとかも思わないですしね。」
「アイヴィの親とかにも言わないといけないだろう?」
「両親は死にました。もう私の家族はセリーヌ様と洋平だけです。」
「ごめん・・・」
「いえ、いいのですよ。私は今が楽しいですからね。」
「俺もアイヴィと一緒に居るのは楽しいですよ」
「とりあえずBランクになって一緒に依頼をして、Aランクになって四大巡業を一緒にしながら元の世界へ帰る方法を見つける事が先決ですね。」
「どこまでも一緒についていきます。」
「それは私のセリフにしたいですね。」
アイヴィは特にやる事が無いみたいだ。色々あると思うんだがな。俺に気を使ってくれたのだろう。というか俺の世界にアイヴィが来てどうするんだ。俺が誘っておいてなんだがな。住民票とか色々あるじゃない。まぁ細かい事は気にしない事にしよう。アイヴィは俺と来る気がある。それだけでいいじゃないか。
「洋平の世界に行くとなると洋平の世界の事をもっと知りたいですね。」
「そうですね。何が聞きたいですか?」
「全部知りたいです。とりあえず洋平の身辺から広げていきましょう。」
「そうですねー。俺は大学って所に行ってて、大学ってのは勉強をする集まりみたいな感じです。この世界に学校ってありますか?」
「ありますよ。南の方にカサンドラという町があって、そこに魔術学校がありますね。魔術学校は沢山ありますが、カサンドラ魔術学校が一番規模が大きいですね。魔術から剣術まで色々教えてくれる所です。」
「なるほど、言ってみたいと思いますが、俺は魔術が使えないからな。」
「そうでしたね」
「んで大学ってのは学校みたいなものですね。俺が住んでるのは日本というところで・・・
と俺はアイヴィに自分の住んでる所など色々な情報を教えた。
「結構長く話していましたね。洋平も疲れてるでしょうから少しお休みになってください。私は晩御飯の準備をしてきますね。」
「いつもありがとうございます」
そう言って俺は自分の部屋に戻った。なんだか綺麗になってる。石を削った時のカスとかで汚かったんだと思うんだが、きっとアイヴィが掃除してくれたんだな。
夕食の時にはセリーヌも降りてきて一緒に食事を取った。
「「よーへーはEランクになったのかにゃ?」
「はい。師匠のおかげで無事Eランクになる事ができました。」
「よかったのにゃ。これくらいで躓いてたらダメなのにゃ。今はゆっくりと経験を積むといいのにゃ。」
「はい。これからもよろしくお願いします。」
「ではまた明日からいつもの授業に戻るのにゃ。三週間経ったらまた町に行ってDランクになるといいのにゃ。午前はアイヴィに任せるにゃ。午後はよーへーの授業にゃ!でも僕は三日程出かけてくるのにゃ。だから余り先に授業を進めないでほしいのにゃ。午後もアイヴィと稽古をするのもいいにゃ。もしくはそんなに大事じゃない授業でもしておくのにゃ。」
勇者様は三日程お出かけになるらしい。その間アイヴィと二人っきりという訳だな。何をしようか。俺の授業で保健体育か・・・
「僕が居ない間にアイヴィに変な事したらセブンスネークがよーへーを襲うから気を付けるのにゃ。」
さらっと怖い事をいうんじゃない。
次の日からいつものペースに戻った。午前は魔力操作や身体強化。剣術等をアイヴィに教えてもらう。剣術は実践形式が増えてきた。身体強化もアイヴィとおにごっこをしたりだとか色々やっている。午後は俺の授業だ。セリーヌが居ないこのチャンスを逃す訳にはいかない。変な事は出来ないが。




