桃山登山
「Dランクの昇段試験を受けに来たんですけど」
「洋平様ですね。では準備が出来たらお呼びしますので、それまで椅子にでも座って待っていて下さい。」
「わかりました」
そういって俺はバルの隣に座る。
「バル先輩こんにちは」
「うっ!おぉ、ここんにちは・・・」
「ちょっと聞きたい事があるんですけどいいですか?」
「え?あぁ・・・お俺が知ってる事でよければ・・・ううう嘘はつかねぇ!」
「今からDランクの昇段試験を受けるんですが、試験の内容ってなんなんですかね?」
「あぁ・・・いや、ちょっと俺にはわからねぇ。お前らはどうだ?」
取り巻きがおびえながら首を横に振っている。バルBランクじゃないっけか?
「バル先輩はBランクなんですよね?」
「おぉ・・・そそうだ。だが俺は貴族の出身で剣術過程を終えてるからCランンクから始めたんだです。」
「なるほど、貴族出で腕と後ろ盾もあるから初心者を虐めるんですね?」
「いいいいいいや、そんな事じゃねぇ・・・もうしねぇから・・・」
「ふむ・・・」
「だが、たぶんどの昇段試験も実力を見るモノだと思うぜです。Bランクの昇段試験も裏の訓練場で試験官と勝負して、実力を認められるか、勝つかするといいと思うです。」
「なるほど、わかりました。ありがとうございます。」
「いや、力になれてこちらこそ助かりました。」
「意味わかんねーよ。そうだ。これやるよ。今この町で話題のガチャガチャってやつだ。こうやって開けると中から何かが出てくるんだ。お前らこれ持ってガキ共に自慢してこい。ロイさんの露店で売ってるからな。しっかり宣伝するんだぞ!」
「わかりましたー!おめぇら行くぞ!ついてこい!」
こうして舎弟が5人出来ましたとさ。するとギルドの職員が呼びに来た。
「洋平様ですね。昇段試験の準備が出来ましたので裏の訓練場にお越しください。間もなく試験官が参ります。」
「わかりました。ありがとうございます」
俺はギルドを一回出て裏の訓練場に入る。ギルドと建物続きではあるが、職員しか直接行くことは出来ないそうだ。俺は訓練場に入り広さに驚く。
「うへぇ~広いな~。体育館って感じの広さだな。高さも十分あるし」
壁にはいろんな武器と盾が置いてある。ここにある武器を使って試験するときに使うんだろう。魔道具とかつかっちゃダメなのかな。
「すいませーん。お待たせしました。ちょっと道着がきつくて」
入って来たのはライラだ。弓道着みたいなのを着てる。コスプレだな。
「ライラさんこんにちは」
「って洋平様じゃないですかー。よかったー久しぶりでちょっと緊張してたんですよー」
「他の受験者は居ないんですか?」
「なんか急用が出来たそうで、帰っちゃいました。」
バルの取り巻きか。いやランク的に違うだろうな。あいつらは全員貴族出身でCランク以上っぽい。
「じゃあ二人っきりですね」
「そうなりますね。でも試験はちゃんとやりますから覚悟してくださいね。」
「はい。よろしくお願いします。」
「では試験の内容を説明致します。そこに置いてある武器は好きに使って構いません。魔道具も持参している物は使っても大丈夫です。実力を計るだけなので。私に勝つか、私に三回触れれば合格となります。」
「なるほど、わかりました。」
「私こう見えても元はBランクですからね。甘く見ると怪我しますよ」
「お手柔らかにお願いします。」
「では準備が出来たら教えてください。」
ライラは槍を掴み俺と距離を取っていった。なるほど。ライラは槍を使うのか。まぁどうせ攻撃は当たらないしな。というか三回触れるのか・・・三回も!!
俺はバッグからペンダントを取り出し手首に二重に巻いた。すでに石は両手に二つ出している。
「準備出来ました。」
「洋平様の武器は石ですか?」
「はい。これ投げるんで避けてくださいね」
「わかりました。いつでもどーぞ」
「大リーグボール一号だ!」
俺とライラの戦いは始まった。俺は左手の石をライラの足元に投げ土煙を上げる。その隙に右手の石を放物線を描くようにライラに優しく投げる。
ゴン!
「いたっ」
俺は一歩も動いていない。
「洋平様、これは何の真似ですか?」
「ちょっとした戯れですよ。思いっきり投げて綺麗な顔が傷ついたらダメじゃないですかー」
「随分と余裕ですね。では今度はこちらから行きますよ。久しぶりなんで手加減出来なかったらごめんなさいね。とりあえず石の分はお返しします!」
ライラが槍を持って走って来た。俺はその場から動かない。ライラの突きを全て躱していく。ちょっと後ろに下がったり横にずれたりしてライラが槍で横薙ぎにした時がチャンスだ。俺はその隙を待つ。
「ちょこまかとー。えぇい」
「ここだ!」
俺は横薙ぎをしゃがんで躱し、下から指で山を突いた。
「キャッ・・・」
俺は思わず笑みがこぼれる。
「今何を・・・?」
「触りましたよね?あと二回ですね」
「いいえ触ってません!!」
そういってまた槍を凄い速さで突いてくる。触ってないなんて。リプレイチャンス!俺はもう一度山を、今度は正面から突く。ライラが距離を取る。
「触ってませんね。」
と俺が言うとライラの顔がちょっと怒りに満ちてきた。ライラがまた突っ込んでくる。
「こっちは真剣にやってるんですよ!真面目にやってください!」
「だって触ればいいんですよね?別に攻撃する必要はないと思いますが」
「もう。怒りますよ?」
「もう怒ってるじゃないですかー。可愛い顔が台無しですよー。ぽちっとな」
「くぅ・・・水の精霊よ。敵を呑み込む大滝を。我に力を。ウォーターフォール!」
すると天井を突き破り大量の水が俺を襲って来た。俺は間髪で避ける。するとライラは次の詠唱を始めていた。
「水の精霊よ。敵を貫く槍を。我に力を。アイスランス!」
アイヴィの上に一本の氷柱が作り出され、俺に向かって来る。足元が水びたしでくるぶし辺りまで水があって動きづらい。てか氷も水なのか。まぁイメージだもんな。氷柱も転がりながらなんとか避ける。
「水の精霊よ。凍てつく世界を。我に力を!フロストノヴァ!」
部屋を埋めていた水が一瞬にして氷になる。俺はまだ立ち上がっておらず。膝立ちのまま下から5センチ程凍り、身動きが取れなくなる。すげー威力だな。さすがBランク。ライラが近づきながら詠唱をしている。
「もう許しませんよ。水の精霊よ。敵を呑み込む球を。我に力を。ウォータースフィア!」
ライラの前に直径3メートル程の球体が作り出され、俺に向かって来る。俺は身動き出来ずに球体に呑み込まれる。
ライラが怒りの表情で俺を見つめている。俺は身動き出来ず呼吸も出来ず、死を意識し始める
「ライラ!なにやってんだ!うぉ!洋平!ヒートプロテクション!サンドガーデン!」
セクターがやってきて状況を把握し魔術を使う。ぞろぞろとギルド関係者のギャラリーが集まり始めている。俺は温かい光に包まれ土の囲いに守られて、呼吸を取り戻した。
「げほっげほっ」
「洋平大丈夫か?ライラ説明しろ!」
ライラはセクターに怒られ小さくなってしまった。
「すい、ません。俺が悪いんです。ライラさんを責めないでやってください。」
「洋平・・・とりあえず医務室に運ぶか。誰か手伝ってくれ。」
ライラがやってきてセクターとライラに担がれて俺は医務室へやって来た。
「さぁライラ説明してくれるな?」
「調子に乗ってしまいました。申し訳ありません。」
ライラの声は聞き取れない位に小さい。俺はベットから上半身を起こした。少し水を飲んだ位で対して問題は無い。ちょっと気持ち悪い位だ。というか今回は俺が悪い。
「セクターさん、俺が悪いんです。ライラさんを挑発してしまって、魔術が見たかったんですよ。アイヴィもセリーヌも俺が魔術を使えないからって見せてくれなくて。」
「洋平はちょっと黙っててくれ。ライラわかってるな?」
「はい。申し訳ありませんでした。私はここを辞めさせて頂きます。」
「それだけじゃないだろ?全部自分の口から言うんだ。」
「はい。ギルド職員が冒険者の方に対して多大なる損害又は被害を起こした場合は、その職員は以後その冒険者の奴隷となり、一生を誓わねばなりません。もしくは冒険者が断った場合は極刑となります。」
はぁ?言ってる事がわかりません。つまりライラは俺の(性)奴隷になって一生尽くしてくれるのか。まぁそれも悪くは無い。だがしかし・・・
「セクターさん、それはこのギルドの決まりですか?」
「そうだ。全ギルド共通の決まり事だ。ギルドに損害を与えた時も同様だ。その場合は即極刑だ。個人情報や機密等を漏洩されたら、ギルドは多大な損害を被る事になる。冒険者ギルドが無くなる可能性だってあるんだ。ここの国でさえ金で解決することも可能なんだぞ。」
「俺とセクターさんが内緒にすればいいのでは?」
「それでは他の職員に見られている以上、俺の責任問題になり兼ねん。」
何か、何か突破口があるはずだ。考えろ考えろ!俺が悪いんだ!ライラの運命を俺が決めていいはずが無い!俺はこの世界の人間じゃないんだぞ。
「そうか。セクターさん。俺この世界の人間じゃないんでそのルール通用しないっすわ」
「なんだと!ふむぅ・・・正直俺もライラを手放したくはない。しかし洋平はもう冒険者になってるからギルドのルールは通用しなければらなん。」
「じゃあ俺冒険者辞めます。」
「それは今冒険者であるお前が辞めた所で関係の無い事だ。」
「じゃあどうすればいいんだよ!」
「知るか!自分で考えろ!」
俺もセクターも気持ちは一つだ。ライラを失いたくない。ライラはもう涙で綺麗な顔がぐしゃぐしゃだ。胸が痛まれる。変わってやれるなら変わりたい。ん?変わる?そうか。別に俺じゃなかったらいいんだ。
「セクターさん。訓練場で戦ってたの俺じゃないっす」
「なんだって!」
「つまりあそこで水に閉じ込められてたのは俺じゃないんすよ。暴漢がライラを襲ってライラが倒したんですよ。」
「他にも見ていた人が居るんだぞ!」
「見間違いじゃないっすか?俺は暴漢に気絶させられてここに居る訳ですから」
「じゃあ暴漢はどこにいったんだ。」
「今頃近所の子供を脅してますよ」
「逃げたと言うのか?」
「そうですね。セクターさんとライラが俺に気を取られている隙に逃げました。俺はこの目で見たんです!」
「お前は気絶してただろうが!」
「その時だけちらっと逃げる人が見えたんだよ!このハゲ!いい加減理解しろ!」
「・・・他の職員になんて言えばいいんだよ」
「言わない。見間違いだの一点張り。ライラを嫌ってる人なんてこのギルドに居ないでしょう。もしそれを他に伝えようとする人が居たらそいつが極刑です。」
「もしバレたら全員極刑だぞ」
「そんときは諦めて三人で死にましょう」
セクターが俺を抱きしめてくる。痛いが、嫌な気分にはならない。これでなんとかなればいいんだが。真実半分嘘半分だな。最悪バルを犯人にすればいいからなんとかなるはず。
「ライラわかったな?この事は他言無用だ。言っても誰も信じない。言ったらお前だけじゃなく俺と洋平も道連れだ。」
ライラは泣きじゃくりながら声にならない声を出して頷いている。
「まぁ別の犯人仕立て上げればまだ逃げ道はあるんで大丈夫っすよ」
「お前はどこまで最低なやつなんだ。」
「お褒めに預かり光栄に存じます」
その日ライラは帰った。俺は医務室でセクターと話を続けていたが、疲れたのでセクターの部屋に行ってまた話をすることにした。
「とりあえず礼を言おう。ありがとう。」
「俺が悪いんで、すいませんでした。」
「だがまぁこれでなんとかなるだろうギルドのルールを逆に使うとはな。」
「それで昇段試験なんすけど・・・」
「あぁもうDランクでいいだろう。プレートを貸してくれ」
俺はセクターにプレートを渡す。マスターなら自分の権限で変えられるのかもしれないな。
「一つお願いがあるんですけどいいですか?」
「ライラを救ってくれたお前の願いを聞かない訳がないだろう」
「Bランクにしてください」
「わかった・・・っておい!」
ノリ突っ込んだ。このままシリアス展開で行くはずだったのに。
「そいつはちょっと聞けねぇ相談だな。」
「いいじゃないですか。俺強いのわかりましたよね?」
「だがもしそれでBランクになったとしてAランクの依頼で命を落としてもらっても困る。」
「Bからはずっとアイヴィと一緒なんで大丈夫っすよ。」
「男なら背中を預られる位強くなきゃダメだろう。アイヴィが居ない時だってあるんだぞ?」
「アイヴィは居なくなりません。俺とずっと一緒です。」
「お前もしかしてアイヴィの事好きなのか?」
「否定はしません。むしろ好きです。声を大にして言いたい!アイヴィが好きだー!」
セクターの前だとなんか安心する。父親みたいな感じか。セクターにならなんでも話してもいいと俺は思った。
「Aランクの依頼からは遺跡の調査とかでまだ見たことのないモンスターがいる可能性だってあるんだ。お前は戦闘経験が浅い。もう少し経験を積んでからのがいいと思う」
「俺は早くアイヴィと一緒に依頼をこなして幸せな家庭を築きたいんだ!」
「実力が伴わないならアイヴィも失望するだろう?」
「なんでわかってくれないんだ!親父のバカ!あほ!はげ!」
「誰が親父だ!このバカ息子が!」
「表に出ろ!俺の実力を見せてやる!」
「じゃあ、今日はもう無理だから、明日の昼に俺と勝負だ!勝ったらBランクにしてやるよ!」
「男に二言はねぇな!」
「当たり前だ!元Sランクの実力を舐めるなよ!」
「明日の昼までせいぜい粋がってろ!」
俺はドアをセリーヌみたいに蹴破ろうと思って、思いっきり蹴ったら扉が堅かった。
「バカめ!セリーヌ対策はしてあるんだよ!」




