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牙の決意


窓から差し込む光で目が覚める。美味しそうな朝食の臭いがする。ベッドから身を起こす。リンセはすでに起きたのか隣には居ない。成長したというべきなのだろう。少しの感動を覚え俺は氷漬けになっているクリストを横目に下へ降りていく。


「オハヨウゴザイマス。マスター。」

「よっへ!おはよっ!」

「おう!おはよう!今日もいい天気だな!」

「おはようなのにゃ。ところでクリストは見当たらにゃいけど知ってるにゃ?」

「あぁ。俺の部屋で凍ってるよ。」

「居るならいいのにゃ。ではいただくのにゃ。」

「ちょっとまてぇーい!!俺はここに居るぞ!」

「全く朝から騒がしい奴だ。ほらさっさと座れ。」


俺、セリーヌ、リンセ、クリスト、ファングの五人でテーブルに着き食事を始める。


「昨日も思ったけど今日も飯美味いな。今日もリンセが作ったのか?」

「今日。ファング。一緒。に。作った!」

「おーそうか。ファングかー。ところでファングは?」

「ココにイマス。マスター。」

「ん!おぉ!久しぶりだな!小さいからわからなかったぞ!」

「オヒサシブリデス。」


なんとテーブルの上に手のひらサイズのファングが立ち。礼儀正しく俺に頭を下げている。最後に会った時は元の大きなサイズだったのでこの大きさになって部屋にいるとは思わなかった。


「元気だったか?」

「ハ、ハイ・・・。」

「どうした?なんかあったのか?」

「シルバーサマノコトデ・・・。」

「そっからは食事の後に話すにゃ。焦るのも考えるのもそれからなのにゃ。」


シルバーの事を気にしつつ食事を終えみんなで片づけを一通り終え、セリーヌに誘われるがまま家の裏手の小屋に向かう。以前はこのような建物は無かったはずだ。その小屋からはただならぬ魔力を感じ取れる。まさかシルバーの身に何かあったのではと俺は扉を思いっきり開ける。


「シルバー!!・・・。うっ・・・。なんだ・・・これは・・・。」


小屋の中には中央にシルバーがスタンドを立てて立っていた。だがシルバーを中心に床一面に描かれる魔法陣。魔力が通っているかのように淡く光っている。


「よく聞くのにゃ。シルバーはそのままの形では直すことは出来ないのにゃ。ガソリンと言う物がこの世界には無いのにゃ。似たような性質を持つ物も使ってみたのにゃが、どうしてもエンジンの動きがおかしくなってしまうのにゃ。そこでエンジンの動きを魔道具で代用する方法にしてみたのにゃ。机上の計算では問題にゃく動くはずにゃのにゃがにゃぜか上手くいかないのにゃ。」

「後半にゃーが多くてよくわかんねーけど、エンジンの代わりに魔道具を使ったら計算上は問題無いけどなぜかうまくいかねーって事か。そんでこの魔法陣は?」

「魔道具とシルバーを一つの存在にしようとするものにゃ。にゃが上手くいかにゃいのにゃ。」

「ふむぅ。魔法陣に関しては俺はさっぱりわからん。」

「にゃが・・・」

「にゃが?」

「ファングだけは、この魔法陣を介してシルバーと意思を共有しているのにゃ。」

「・・・。シルバーに意思が・・・。ファングと・・・。」


これがファングがシルバーを見ていたと言う理由か。だがなぜ・・・。シルバーとファングで共通する部分があるとでもいうのか。鉄と言うだけか。同じ素材なら適合するはずだ。詳しくはわからないがファングとシルバーが意思を共有・・・。一体どうゆうことだ。


「簡単にシルバーを直す方法もあるんだが、それにはやはり持ち主のお前の許可が必要だからな。」

「クリスト・・・。話してくれ。」

「エンジンの魔道具の核として古代兵器のポケットドラゴンを組み込む。俺も黙っていた訳じゃない。一度ファングをポケットドラゴンから出し、それを魔道具に組み込みシルバーに組み込んだ。結果は失敗だ。だがファングを中に入れたままだと今までが嘘のようにすんなりとシルバーがファングを受け入れたんだ。俺は慌ててファングを外した。ファングがシルバーに取り込まれるような感じがしたからだ。だからどうなるかはわからん。だがシルバーが元の様に動き回るにはファングを犠牲にするしかない。」

「ファングを犠牲にだと!ふざけるな!そんな事出来る訳ねぇだろ!俺だってシルバーとまた一緒に風を切って走りてぇよ!だけど!意思のある者の意思を無視して俺の欲望で無くしたりなんて・・・。」

「ワタシハカマイマセン。」

「ファング・・・。」

「シルバーサマハワタシヲウケイレテクレマス。」

「駄目だ駄目だ!いくらシルバーが復活するからってファングが居なくなるのはダメだ!ファングは俺の牙だ!俺の大事な仲間だ!家族だ!」


いくらシルバーを直すためとはいえファングを犠牲にすることは出来ない。人では無いがファングにも意思はある。人権を無視するような事は出来るはずが無い。それならいっそ直らずこのままでファングと過ごした方がいい。シルバーには意思がないのだから。俺は啖呵を切ってその場を飛び出したどうすればいいかわからずアイヴィの墓の前に座り込んだ。


「こんなんじゃ話にならんだろ・・・。」

「マスター・・・。」

「ファング・・・。」


一人で居ると隣にファングが座ってきた。


「駄目だからな。」

「マスター・・・。」

「・・・。」

「ワタシハシルバーサマとヒトツニナリタイデス。」

「・・・。」

「シルバーサマハワタシヲウケイレテクレマス。」

「お前の意思はどうなる?」

「ワタシノイシハシルバーサマトヒトツニナルコトデス。」

「そうじゃなくて!ファングはどうなる!?こうやってまた俺と話せるようになるのか!」

「ワカリマセン・・・。」

「それじゃあ話にならん!俺はファングを手放さないからな!」

「デスガコノママデハシルバーサマガカワイソウデス。」

「知るか!シルバーに意思は無い!だがファングには意思がある!俺は意思のある者を尊重する!」

「シルバーサマニモイシハアリマス。」

「あるわけねぇだろ!」

「ワタシガシルバーサマトヒトツニナリタイトイウイシハソンチョウサレナイノデスカ?」

「う、うるさい!もうこの話は終わりだ!ファングはこのままでいろ!これは命令だ!」

「・・・。」

「返事!」

「イエス。マイロード。」

「その言葉・・・。どこで覚えた?」

「シルバーサマニイシハアリマス。」

「だったら俺にも話をさせやがれ!」


俺はその場を立ち逃げるようにその場を後にした。家に戻り、自分の部屋で布団を被り丸くなる。


「くそっ!なんだこのモヤモヤした気持ちは・・・。明日もう一度シルバーに会いに行ってみるか。」


俺はそのまま食事もとらずに眠りについた。


「よーへーは?」

「部屋に閉じこもって出てきません。」


俺が部屋に引きこもり下の階では皆で夕食を食べている。


「そんにゃにシルバーの事を想っている証拠なのにゃ。」

「そうですが・・・。」

「セリーヌサマ。クリストサマ。ドウカヨロシクオネガイシマス。」

「わかったのにゃ。よーへーはきっと怒るけど覚悟しとくのにゃ。」

「まぁ自分の意思で決めたことにはあいつも文句は言わないだろう。」

「スミマセン。マスター。メイレイニハシタガウコトガデキマセン。」


その夜辺り一帯を不思議な魔法陣で埋め尽くしたことを洋平は知らない。



先週は忘れたのにゃ!ごめんなのにゃ!だからって二話連続投稿はしないのにゃ!w

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