新たな仲間
風の試練を終え四人はエルフの里まで戻ってきていた。リソワは未だに目を覚まさずルドルフが一緒に着いて看病をしている。風の試練が終わった事はリソワの代わりにランスから皆に説明され、皆安堵の表情を浮かべていた。俺も戦いの疲れからかその日は一日中ぐったりと倒れるように眠った。次の日になるとリソワも回復したのか起き上がり。里の重鎮と思われる人達を集めリソワから重要な話があるといい。屋敷の一室に集まった。
「皆。よく集まってくれた。そして今回は皆を不安にさせてしまい申し訳ない。」
リソワは開口一番に皆に謝り頭を下げる。今日は今までのようなゆったりとした服装では無く。いつでも戦闘出来るような薄い緑色の鎧を着ている。改めて見ると、体を隠す部分は多くは無いが動きやすさを重視しつつも防御力も低くなさそうだ。
「私は約束通りこの里から出ていく。後の事は大変だろうが皆で力を合わせて次の指導者を決めてくれ。決まるまではランス。頼んだぞ。」
「はっ!!」
ランスは正座のまま頭を畳につかんばかりに頭を下げる。
「・・・ふむ。何か質問があれば受け付けよう。」
リソワが周りに意見を求めるが誰一人リソワを見ようともしない。
「何も無いか・・・。まぁ当然と言えば当然だな。私は皆に好かれているとは思っていない。そんな私が自ら身を引こうと言っておるのだからそれを止める者などおらんだろう。」
リソワの一言で周りの人達の発言権を失わせる。
「最後に一仕事だけして別れるとしよう。洋平。ルドルフ。」
「「はい」」
「此度は二人の働きによってエルフの民の命が救われた。礼を言う。」
リソワは今度は頭を下げなかった。だが僅かばかり頷いた。そして俺の目を真っ直ぐに見つめて来る。
「その褒美として、今私が着ている。精霊の鎧をルドルフに授けよう。洋平にはこの七幻刀を授ける。」
リソワがどこからともなく鞘を取り出した。どうやら今まで見ていた剣は七幻刀と言うらしい。しかしそれ以上に周りの空気が凍りついていくのがわかる。その間もリソワは俺の目をじっと見つめている。
「・・・なるほど。そうゆうことか・・・。」
俺はスッと立ち上がりルドルフも立たせる。そして二人でリソワの前に行き跪き剣を受け取る。
「ありがたく頂戴します。」
俺が剣を受け取ったがルドルフはリソワが着ている鎧を授かるのでどうすればいいか戸惑っている。
「ルドルフ。リソワ様を抱き上げろ!そのまま持って行く!」
「えぇ!!」
「早く!!!」
ルドルフが素早くリソワを抱きかかえるとソレは同時に起こった。
「ならん・・・。ならん!なりませぬぞ!いくらまだ女王とは言え国の宝をそうやすやすと知らぬ旅人に授けるなど!」
ランスを除く全員が立ち上がり俺とリソワを抱きかかえているルドルフを睨みつける。
「アブソリュートゼロ!!」
俺は瞬時にその場に居るランス以外を氷漬けにする。かなり弱めて撃ったから持って数秒だろう。
「逃げるぞ!!」
「おぉう?」
俺とルドルフはすぐに振り返り走り出す。そしてすぐに氷が割れる音が聞こえ、怒号が迫って来る。俺は一瞬だけ後方の様子を確認する為だけに振り返ると、ランスが怒号に混じって聞こえない様な声で口を動かし頭を下げるのが見えた。
(リソワ様をお願いします。)
床に零れる一筋の雫が見えた気がした。一体どれほどの時間を共に過ごしたのだろう。二人は傍から見ていた俺でもわかるほどに信頼関係があった。お互いをお互いが信じ、お互いをお互いが理解する。特別な関係だ。それでも別れと言うのは突然で、それは辛いのだろうか。それともお互いの未来を見据えて嬉しいのだろうか。その雫の意味は・・・。
「リソワ様・・・。」
「なんだ?」
「ランスさんとのお別れはよろしいのですか?」
「・・・ふっ。ランスならわかってくれるさ。」
そう言い。ルドルフに抱かれながら天を見上げる。それはまるで涙を我慢しているかのようだった。
「んっと・・・。俺はいつまでこのままで走ればいいんだ?」
かなり走っただろうか。もう後ろからは追ってきている気配はしなくなりルドルフが質問する。
「なんだ?私を抱いてるのが嫌になったと言うのか?」
「い、いや。そうゆう訳じゃ・・・。」
「ならばもう少し我慢せよ。もう少しで森を抜ける。」
言われた通りに速度を落とさずに走り続ける。体感的にはそう長くは走っていないが、しばらくすると森に終わりが見え林のようになってくる。木々の間から光が差し込んでいる。俺は緩やかに速度を落とし立ち止まり、二人を振り返る。ルドルフは丁寧にリソワを降ろし、その場に腰を下ろす。リソワはこちらを向き俺の言葉を待っているように見える。走っている間に特に危険もなかった事もあり、考えを纏める時間は十分にあった。
「はぁ・・・。まぁそうなるか。」
俺はそう呟きリソワに七幻刀を返す。
「ふむ。なにやら残念そうだな。」
「い、いいえ。リソワ様と旅路をご一緒出来るのは至極光栄に存じます。」
「これから一緒に旅をする仲間ではないか。そう堅苦しい話し方は止せ。」
「でも~機嫌を損ねてスパッと斬られたりしないかなぁなんて・・・。」
「それは機嫌を損ねなければよいだけだろう。」
「まぁそれはそうなんだろうけど、俺はこんなんが普通だからある程度は広い心で許容してくれよ。」
「共に歩む仲間なのだから無下に扱う訳も無いだろう。それに洋平がリーダーだからな。私はそれに従うまでだ。」
「そりゃどーも。」
「ちょちょちょまってくれ!まさかリソワ様もこれから一緒の旅をするのか?」
俺とリソワが会話してるのを困惑した顔で聞いていたルドルフが会話を割る。
「どうした?私が一緒だと何か問題があるのか?」
「い、いや。そんな事は無いけど。ほら、男同士じゃないと語り合えない事とかあるじゃないか。」
「そんなもの私に聞こえない所で話せばいいだろう。」
「ルドルフ。諦めろ。これはもう決定事項だ。」
俺は走りながらこれまでの事を考えていた。なぜリソワが民の命を危険に晒してまで試練に挑んだのか。リソワの過去の話。アイヴィの話。一緒に着いてくる要因は複数ある。家族を助ける為に力になりたい。その想いが強いのだと思う。
「それに・・・。ルドルフが変な事を言わないか監視しないといけないからな。」
「やっぱり二人っきりで話せないじゃないですかー。」
一体二人の間に何があったのだろうか。確かに初日ルドルフがリソワに連れていかれ一晩を共にした事については言及しなければと思っていたが、どうやらそれは叶わないらしい。
「よし。次はドルドフスだな。さぁ私に続け。」
そう言ってリソワはゆっくりと歩き出す。
「あれリーダーって俺じゃないんだっけ?」
「洋平・・・。」
「まぁお先真っ暗って訳でもないだろう?勇者と呼ばれる一人が一緒に居るんだから戦力アップだ。素直に新しい仲間を喜ぼうぜ。」
「あの恐怖がこれからも続くと思うと・・・」
一体ルドルフとリソワの間に何があったのだろうか。果たしてそれを聞ける日は来るのだろうか。今は素直に試練をクリアした喜びを噛みしめよう。これからさらなる強敵も現れるだろう。正直二人では不安な所もあった。しかしリソワの加入により戦力大幅アップは間違いない。今は実力で先を行く二人だがいつか追い越せる日を思いつつ俺は歩きはじめる。新しい道へと。




