初めての風魔術
一体どれほど時間が経っただろう。カウスピウスとの戦いはリソワとルドルフが激しい攻撃を繰り出している。二人の連携は見事としか言いようが無い。見ていて美しさすら感じられる。ルドルフが敵の正面に立ち太陽剣に炎を纏わせて強烈な一撃を放つ。その炎の中からリソワが出て来てさらに鋭い一撃をカウスピウスに与える。またはリソワが目にも止まらない美しい剣技を繰り出しその背後からルドルフが飛び上がり豪快が一撃を与えている。二人の動きは素早く常人には目で追う事すらままならないだろう。しかしカウスピウスも負けてはいない。二人の攻撃を巨大な鎌でいなしその衝撃波で二人を吹き飛ばしていく。さらには風魔術とも思える黒い風を巻き起こし二人を飲み込んで行く。それをルドルフが太陽剣で切り裂きリソワが飛び込んでいく。そしてさらに鋭い一撃を。
「・・・洋平殿?」
「なんですか?ランスさん。」
「洋平殿は戦いに参加しないのですか?」
「いや~二人の戦いが美しすぎて見とれていました。」
「洋平殿にはあの戦いが見えるのですか?私には速すぎて何もわかりません。」
「まぁ見るだけならな・・・。」
俺が最初に身体強化出来た場所は目だ。だからカウスピウスやリソワやルドルフの動きが見える。
「・・・ってもそろそろ行かないと怒られるか。十分目もならしたし体にも魔力が溢れて来る。勝手もわかってきたしな。」
俺は体から溢れ出て抑えきれない魔力を落ち着いて扱えるように体を慣らしていた。俺はその場から走り出し戦いに参戦する。足に魔力を集中させ一気に爆発させる事で一時的に物凄い速さを出しカウスピウスへと向かって行く。そしてそのままの勢いでリソワとルドルフを追い越しカウスピウスの顔面へパンチをする。カウスピウスは不意の一撃を食らって吹き飛んだ。
「洋平・・・」
「随分と待たせてくれたな。」
「中々力が体に馴染まなくて・・・。でも、こっからは俺のステージだ!」
カウスピウスが遠距離から黒い風の刃を放つ。
「その技は何度も見たんだよ!スラッシュ!」
同じように水の刃を作り出し風の刃と相殺させる。二つの刃が衝突し衝撃を周りに与えるがその隙にリソワとルドルフがカウスピウスに突っ込み二人共強烈な一撃を与える。
「流石だな!」
「見事だ。一気に畳みかけるぞ。」
「よし。あれやってみるか。二人共俺が隙を作るから準備してれくれ。」
俺は魔力を空間に広げていく。空間に魔力を充満させていく。
「アイスフィールドの空間版だからアイススペースか。ダサいな。・・・アイスガーデン!」
カウスピウスを中心に魔力の広がった空間をドーム状に作り出す。そして魔力の広がった地面一帯に氷の花が咲き乱れる。花は宙に小さな魔力のかたまりを吐き出している。その魔力のかたまりが徐々に雪のようなみぞれのような物になりカウスピウスの視界を奪っていく。
「行くぞ。ランス!」
足元の花達が急に姿を変え氷の槍となりカウスピウスを攻める。しかし急な魔力の変化を感じカウスピウスは宙に飛ぶ。
「まだまだ!バレット!」
花が生み出した魔力の塊が氷の礫となりカウスピウスに四方八方から向かって行く。カウスピウスはバレットの隙間を縫うように逃げ出す。
「ホーミング付きだぜ!」
避けたはずの礫が方向を変え背後からさらに襲い掛かる。カウスピウスは素早い動きで華麗に避けている。
「そこにはショットだ!」
足元の氷の槍が地面から離れカウスピウスへと向かって行く俺が作る魔力の空間に何千もの礫と何百もの槍が縦横無人に動き回っている。カウスピウスも空間から脱しようと逃げるが俺も逃がすまいと逃げ道に槍を飛び出させ逃がさないようにしている。カウスピウスは逃げながらも鎌を振るい少しばかり礫や槍を壊していくが逃げながらの攻撃では打開する威力には届かない。カウスピウスは一気に礫と槍を引き離し距離を取り俺に向かって振りかぶって鎌をおろそうとする。
「その行動は想定内だよ!」
俺は鎌の周りの魔力を圧縮させ凍らせその場に張り付ける。カウスピウスは動かない鎌に戸惑い一瞬反応が遅れた
「そこだ!」
俺は礫と槍をカウスピウスへ全てぶつけカウスピウスを吹き飛ばす。カウスピウスは瞬時に体勢を立て直せない程にダメージを受け吹き飛ぶ。その先にはリソワとルドルフが構えていた。
「流石だな。」
「うむ。見事だ。」
「しゃぁ!行くぜソル!その身を燃やせ!イリヨス・ケーオ!」
「アリエル!力を使うぞ!リコフォス・フォルトゥーナ!」
ルドルフが突っ込み太陽剣に炎を纏わせて十字に切り裂いていく。その後ろからリソワが続きルドルフの攻撃に合わせ斜め十字に切り裂いていく。その速度はルドルフを追い抜きカウスピウスをも突き抜けていく。カウスピウスは八等分に切り裂かれ光の粒となっていく。
「二人共すげーな・・・。息ピッタリじゃねぇか。・・・ん?」
カウスピウスが光の粒になり消えた後も目の前で凍り付いてる巨大な鎌は消えていなかった。それどころか少し震えているような気がする。光の粒が鎌に向かって徐々に入ってきている。
「まさかコイツが本体か!くそっ。拘束しきれん!」
今にも魔力の空間から飛び出しそうな圧力を感じる。リソワとルドルフが俺の隣に戻ってきた。
「洋平大丈夫か?」
「このままだと抑えられない。」
俺が必死に抑えているがこのままだといつ動き出すかわからない。いつ動き出すかわからない以上今の状況で攻撃を仕掛けるのは少しリスクが伴う。そこで空から声が聞こえて来る。
「リソワ。洋平の肩に手を置きなさい。」
「シルフィか・・・。わかった。」
空から風の精霊の声が聞こえ言われる通りにリソワは俺の肩に手を置いた。
「洋平。リソワの体を通じて一度だけ風魔術を使えるようにします。一撃で決めてください。」
置かれた手からリソワの優しい魔力が流れ込んでくる。これが他人の魔力なのか。自分の体を流れる魔力とは違う色合いがある。だがどこか自然と懐かしく感じる魔力だ。リソワはアイヴィのおばあちゃんなのだから・・・
「おい。今変な事考えただろう。」
「い、いいえ・・・」
「集中しろ。」
「はい・・・。」
リソワの魔力を自分の色に染め上げる。風・・・。一撃で決めるとなるとやはり風の刃で切る事か。体内にリソワの体を通して集まってくる風の魔力を自分の色に次々と変えていき手のひらに収束させていく。空気を圧縮すればするほど威力はあがる。まだだ・・・まだいける。
「くっ・・・。一体どこまで・・・。」
リソワが苦しそうな声をあげる。手のひらに集まった魔力はもう十分だ。今にも爆発しそうなほど圧縮されている。
「お待たせしました。行きます!風の刃よ!敵を斬り裂け!・・・。エアースラッシュ!」
急に風魔術が使えるようになり名前を考えていなかった。しかし手の平の集まった魔力はその場で解放され、風の刃となって巨大な鎌へと飛んでいく。その速度は俺の目でも追いきれていない。なんとなく魔力の残光で鎌を突き抜けたはずだが。
「やったか?」
一瞬の静寂が訪れ次に鎌がパリンという音を立てて真っ二つに割れる。俺のエアースラッシュは音を置き去りにした。鎌は光の粒となり宙へと還って行く。
「終わったか・・・。」
リソワがそう呟くと同時に俺の肩から手が離れ倒れ込む。それを地面すれすれでルドルフが受け止める。
「馬鹿みたいな魔力を使いよって・・・。」
そう言うとリソワは意識を手放した。ルドルフはリソワをお姫様抱っこしながら立ち上がる。
「洋平よくやってくれました。」
「シルフィか。」
「これでエルフの里の脅威は去りました。今日からまた新しい風がエルフの皆を包み込むでしょう。」
俺はようやく終わった事にホッと胸を撫で下ろす。
「さぁ行きなさい。洋平の目的の為に。私の力が洋平の未来の力になれる事を祈っています。」
お待たせしました。またちょくちょく書いていきます。




