王道的異世界到着!
「いやー、今日も風が気持ちいいぜ。無限に広がる草原、透き通る様な青い空。そして後ろから俺を追いかけてくる魔物・・・」
広大な草原を俺はバイクに乗って疾走していた。
「どうしてこうなった・・・」
そうぼやきながらバイクを飛ばす。俺の乗ってるバイクはいわゆる原付と呼ばれるものだ50CCでスピードも目いっぱいアクセルをふかしても40キロしか出ないがリミッターを解除しているので60キロは出るのである。だが60キロと言えば人間の足では出せるスピードでは無い。競走馬ならこのスピードと同程度の速度を出せるだろうが、この世界に競走馬がいるのか謎である。
「た~す~け~て~」
時間を少しさかのぼり、バイクに乗った俺は佐々木洋平と言う名前だ。私立の大学に通う三年生の21歳である。大学が夏休みに入ったので俺は実家に帰り、夏休みを満喫している。毎日趣味のオリジナルプラモ作りをしたり、アニメを飽きる程見たり、ゲームをして現実逃避したり、いわゆるオタクと分類される人種なのだろう。しかしそもそもオタクという表現で一括りにするのはいかがなものか、アイドルオタクやアニメオタクやゲームオタク、フィギュアオタクとかそうゆう人達はお互いに意見が合わない事が多いし、一言でオタクとまとめて言われるのは非常に不愉快である。しかしそれを美男美女がやるとオタクと言われなかったり、逆に好意を持って興味を示してくる例外も存在する。但しイケメンに限るというやつだ。残念ながら俺は顔に自信がある訳では無いし、周りからオタクと呼ばれ嫌われている存在なのは知っている。話が脱線したが、今日は昼過ぎに起きて、むせ返る様な暑さから逃げる為にコンビニにアイスを買いに行く所なのだ。
「今日も風が気持ちいいぜ。」
俺の口癖である。田園地帯を両側に見ながらコンビニへ向かう。コンビニについた俺はジーンズの後ろポケットからビニール袋を取り出し、中から木の棒を一本出しコンビニへと入る。
「あったってん」
変な関西弁が出るのは愛嬌である。周りに流されやすい性質の俺は大学で大阪出身の人と仲良くしているうちに関西弁がうつったのである。いわゆるエセだ。そういってアイスの当たり棒を女性定員に差し出す。持ち手を自分に向けて。
「い、いつも当たりますね」
と、愛想笑いをしながら当たり棒を受け取る女性定員。胸につけてるネームプレートにはマリコと書かれている。年齢は俺より一つ下の二十歳の専門学生、俺が毎日アイスの当たり棒を持っていき仕入れた情報だ。アイスの棒に当たりと彫る事なんて毎日プラモを作って、手先の器用さには自信のある俺には朝飯前であるが、それは俺の良心が許さない。だからちゃんと他のコンビニで同じアイスを山程買ってストックしてあるのだ。まぁ俺を気持ち悪がっているのは知っている。だがそれが。
「マリコさんが持ってくるのが全部当たるんすよ~。いや~マジ女神だわ」
冗談交じりの本気の言葉を口にしながら同じアイスを持ってくるマリコをまじまじと見つめる。平日の昼過ぎなので店内に他の客はおらず二人っきりである。
「お待たせ致しました」
営業スマイルを崩さないマリコが小さいビニール袋にアイスを入れて渡してくる。それを軽く手を接触させ無言で受け取り店を出る。
(はいよー、シルバー)
と、心の中で叫びつつ原付に乗ってコンビニを後にする。ハンドルにコンビニの袋をぶら下げながら。
「今日もマリコさん可愛いなー。早くあんな事やこんな事を・・・むふふ」
上機嫌な俺は知らない、マリコは洋平が帰った後に消毒スプレーをこれでもかとかけてる事を。
マリコの事を考えながら田園地帯を、鼻歌を歌い家路に向かう。俺の実家は田舎なのでコンビニまでシルバーで10分はかかる。すると急に空が陰り始める。
「雲行きが怪しいな、急いで帰らないと。マリコ(アイス)を濡らす訳にはイカン!」
リミッターを外している俺の愛車のシルバー(原付)はアクセルを全開にし猛スピードで道路を走る。すると道の左側に黒いフードをかぶった人が居たので俺はスピードを落とさず少し右によりながら家へと急ぐ。すると今度は目の前に雷が落ち、目の前が真っ白になる。
「うおっ、うおっ、うおぉぉぉぉ~」
バランスを取り切れずにシルバーが倒れるのを予感する。俺は体を丸めて衝撃に備えて目をつむる。
無音である。体のあちこちが痛むのを感じる。恐る恐る目を開けてみる
「ん?」
見たことの無い景色だ。確かバイクで転倒して~ってまでは覚えてるが
辺りを見渡すと。目の前には大きな森、先が見えない陽の光さえ拒むような何か怖さを覚える暗い森。後ろにはどこまでも広がる草原。地平線まで広がる草原。そして草原と森の間に立つ俺。その5メートル後ろに転がるシルバーとマリコ。
「シルバー!とアイ・・・マリコ!」
急いでシルバーとマリコに駆け寄る。体の痛みを抑えながらも懸命に走る。5メートルを。マリコの体調(溶け具合)を確認しシルバーを起こす。とりあえずマリコは無事なようだ。シルバーは動くのか?不安が込み上げる中エンジンをかけてみる。
「グルルルル・・・」
「よしかかった!あれ?」
なんか音が違う・・・、後ろの森から変な音が聞こえた。これは絶対に悪い予感しかしないが恐る恐る振り返ると、
「マジ勘弁」
森を見ていた時から予想はしていた。俺はゲームを現実逃避によくやるのだから、ゲームの世界に行ってみたいと思った事しかない位だ。だが現実に起こるとは夢にも見ていなかった。そうかこれは夢かなどと思いながらエンジンをかけようとする。
「グガァァァァ」
「ひぃっ」
声の主は身長150センチ程の緑色の体に角が生え棍棒を持って走ってきた。
「かかれって!マジで!ピーンチ!!」
焦るがかえってエンジンはそっぽを向く。
「クソ、シルバーを捨ててマリコだけでも助けるか。いやいや無理だ。どこまでも続く草原を徒歩とか無理だし、ましてや魔物のいる森なんて!」
魔物。そう認識した俺は今までの人生を振り返る。ゲームとかでよくある最初の敵、ゴブリンかスライム。だとすればこれはゴブリンだ!
「ブルルルルル」
「ハイヨーシルバー!」
颯爽と原付にまたがり、思わず声に出てしまった。迷わずゴブリンと認識した魔物と離れるようにアクセルを全開にする。壊れてブラブラしたサイドミラーで後方を確認する。
「ふぃ・・・」
どうやらもう追っては来ないようだ。こちらを見つめて何やら様子を見ている。
「ピーーーーー」
ゴブリンが指笛を鳴らす。すると後ろから大きな黒い犬がやって来た。
「まさか・・・ですよね~」
不安は的中した。ゴブリンは犬にまたがりこちらを追ってきた。
「た~す~け~て~」
と今に至る。ゴブリンの乗った犬は早い。シルバーも調子がよくは無さそうだ。追いつかれるかもしれない。
(降りて戦うとか無理だしなー。こっちは俺とシルバーとマリコ、あっちはゴブリンと犬。3対2か・・・数的有利!勝てる!・・・俺のアホ)
すると前方に何やら動くモノを発見。徐々に近づいてみるとあれは馬車だ。助けてくれるようにお願いしよう。
「助けて下さい!ゴブリンが!・・・ヘルプ!!」
近づいて馬車を引く人に必死に訴える。もしかしたら言葉が通じないかもしれないから英語を混ぜる。すると原付の音に驚いたのか馬が悲鳴を上げる。
「どうした!?ん?それはなんだ?」
シルバーを興味深く覗くのはぽっちゃりとしたいかにも商人といいそうなおっさん
「ゴブリンに追われて、助けて下さい!」
「なに?ゴブリンだと!アイヴィさんお願いします。」
商人が引いている馬車に向かって声をかける
「気配で察知しました。」
そう言ってアイヴィと呼ばれた人はいつの間にか馬車の荷台の屋根に登り、飛び降りて洋平の前に立つ。
「おもしろい物に乗ってますね。あれはゴブリンではなく、ダイヤウルフとそれに乗ったポグです。」
そう言って目の前に立ったのは白い鱗をあしらった鎧をつけ腰には細見の剣を差した女騎士風な人だ。身長は俺より少し低い位。160後半か。髪は小金色に輝き肩をまである長さだ。ちなみに相当な美人である。鎧の面積が少なくて目のやり場に困るが。
「見ていて下さいね、ポグは弱いですがダイヤウルフはちょっと強いですよ」
そういって10メートル程に迫って来たポグに向かって手をかざす。俺はバイクから降り商人も馬車から降りその様子を見つめる。
「火の精霊よ、敵を屠る赤き爆炎よ、我に力を。エクスプロージョン!」
その瞬間向かってきたポグ達の周りが爆発し、炎はポグを燃やしダイヤウルフも一瞬で燃やし尽くした。
「すげぇ・・・」
単純に凄いと思った。これは魔法というやつだな。ゲームとかでよくあるやつだ。となるとここはどこだ?ゲームはそこそこやった事はあるがこんなリアルなゲームなんてあるのか、いやもう認めざるを得ないな。これは現実だと。てかさっきの爆風がここまで来てマリコは無事か?やばい、もう溶けかかっている。早く食べないと。袋から取り出しマリコを頬張る。
「ふぅ、見てましたか?って何を食べているんですか?」
「しゅごいっしゅね」
「ちょっと質問に答えてください!」
「ふぁいしゅがふぉふぇふんふぇふぁふぇふぇふぁひゅ」
「あまり私を怒らせない方がいいですよ。」
と言ってアイヴィは洋平に剣を向ける
「すいません・・・マリ・・・アイスが溶けちゃうんで食べてます」
「何ですか?」
「あいしゅ」
「むぅ・・・」
そういってアイヴィは俺からマリコを奪い取った
「ほー?ひゃっ」
アイスが溶けて棒から滑り落ち手に触れ、それに驚いたのかアイヴィはアイスを手放した。それを見逃さす訳が無い。
「おかえりマリコ」
そう言って残ったマリコを奪われないように大口をあけて放り込む。
「なんなんですかそれは!答えてください!」
「ふぇふぃふぉふぁふぁふぁふぁふぁふぃ!!!!」
「仕方有りませんね」
アイヴィは洋平に向かって何か呪文を唱え始めた。
「風の精霊よ、優しき歌で眠りへと誘う調べを、我に力を、スリープウィンド」
「むにゃ・・・マリコぉ・・・」
意識が保てなくなってきたマリコだけは腹に収めなければと必死に呑み込み意識を手放す。商人の声が聞こえてきた。
「アイヴィさんに逆らうとは・・・」