幸せな一時
ツグミ「ところでお姉ちゃん。お母さんのトンカツのどこが好きだったの?」
ハツネ「どこって……お母さん、初めてトンカツを作ってくれた日のこと覚えてる?」
洋子「もちろん覚えてるわ。昔テレビでトンカツの特番があったの」
ハツネ「今思うとすごく変な番組だったわ」
洋子「それを見たハツネが、食べたい食べたいって言い出したのよね」
ハツネ「そうそう。それであんまりにもうるさかったから、「作ってやりなさい」ってお父さんが言って」
浩二「そ、そうだったか?」
洋子「ええ。わがままを言うハツネがまたかわいくて。お母さん頑張っちゃった」
ハツネ「本当は料理得意じゃないのにね」
ツグミ「も~、そんな話はいいから! ねえねえ、どこが好きなの?」
ハツネ「今のを聞いても分からない?」
ツグミ「え?」
ハツネ「私のために作ってくれたのよ? 好きにならないわけ無いじゃない。たとえそれがおいしく無かったとしても」
ツグミ「え?」
ハツネ「ふふふ。ツグミにはまだ早かったかな? いえ。遅かったのかしら?」
ツグミ「もー。もうちょっと分かりやすく教えてよ」
浩二「これ以上に分かりやすい説明は無いと思うんだが……」
洋子「浩二さん!? 今の話理解できたの!?」
浩二「え?」
進藤「つまり、料理は気持ちが大事だということだよ」
ツグミ「進藤さん! ……そうなの?」
ハツネ「ふふふ。まあそんなとことかな。うっ……」
ハツネ、頭を押さえて座り込む。
進藤「ハツネ!?」
ツグミ「お姉ちゃん!?」
ハツネ「あ、あははっ。そろそろ時間みたい」
ツグミ「時間って何!? どういうことなの!?」
浩二「もう、行ってしまうのか?」
ハツネ「うん。残念だけど……」
洋子「名残惜しいわね」
ハツネ「……うん」
ツグミ「そんな! 嫌だよ! 行かないでよ!」
ハツネ「私だって嫌だけど、こればっかりはどうしようもないのよ」
ツグミ「でも……でも!」
ハツネ「ツグミ。生きていればいつかまた会えるわ。大丈夫。一生懸命生きて、皺くちゃになった顔を私に見せて頂戴。それまでちゃんと待っててあげるから」
進藤「ハツネ……」
ハツネ「直弥さん、さっきは叩いたりしてごめんなさい。痛かったでしょう?」
進藤「なに、ぜんぜん平気さ。こう見えて僕、けっこう鍛えてるからね」
ハツネ「それでも一応謝らせて。あなたに触れるの二年ぶりだから、つい嬉しくて……。思いっきりやっちゃった」
進藤「かまわないよ。何ならもっとぶってくれてもいい」
ハツネ「直弥さん……」
ハツネ、進藤に抱きつく。
ハツネ「お願い。最後までこのままで……。直弥さん……」
進藤「ああ。ああ。ハツネ……」
ツグミ「お姉ちゃん……」
ハツネ「またね、みんな」
暗転。
ハツネ「きっとまた会えるから」
明かりが点く。
ハツネが立っていた場所には秀平が。
結果、秀平と進藤が抱き合っている。
野村「……はっ! って……なんなんだこの状況!」
進藤「ハツネ……ハツネ……」
秀平「ちょっ、進藤さん! は、離してください!」
ツグミ「……秀平?」
秀平「ツグミ! 頼む! 助けてくれ!」
進藤「ハツネ……ハツネ……ハツネ……」
秀平「うわああああ! おいツグミ! 見てないで何とかしてくれええぇぇ!」
ツグミ「これはこれで……アリだわ!」
秀平「ねえよ! うわああぁぁ!」
暗転




