「カーテンの向こう」
このお話は皆さん多分聞いたことがあると思います。
でも私はこの話が好きなので書きます。
カーテンの向こう
ここはある国の、とある病室の一室である。うす暗い室内には多くの重症患者がベットをならべて
横たわっている。
窓がたった一つしかなく、しかもそれは、分厚いカーテンによっていつも閉ざされている。
消毒薬のにおいが室内に重苦しさを、一層暗いものにしている。
患者たちは、眠っているのか起きているのか、うつろな目を天井に向け、ただ時の過ぎるのをじっと
待っている。
看護婦たちもあまりやってこない。まして医師の回診などめったにない。見舞いの客は今まで一人も
やってこない。なんの楽しみもない。
変化のないことがこんなにつらいとは・・・。
そん中で唯一の楽しみは、病室の閉ざされた窓に一番近いヤコブが、体をやっとの思いでねじまげながら
カーテンのほんのすきまに顔を突っ込んで、外の様子をながめ、それをみんなに話してくれることだった。
今日も、しんどそうに身をのり出して、すき間に顔を近づけ「ほら、向こうの方からいつもの花売り娘が
バラをいっぱいかごに入れてやってくるよ。とても可愛い娘だよ。」と教える。
みんなも顔をほころばせながら、
「バラの花は何色だい。きれいだろうね。」
「今日はどんな服を着ているかね。よくなったら一緒に話をしてみたいものだ・・・」
などとやりあう。
「ほら、今日は雨が強いから大変だ。でも子どもたちが水たまりをピチャピチャやって遊んでるよ。
子供は元気だなア。」
「ちっちゃな長靴だから、水が中に入っちゃうのに、あとでお母さんにしかられなきゃいいが・・・。」
「わしにも孫が二人いるが、大きくなっただろうな・・・。」
ヤコブが外の様子を話してくれるときだけは、暗い病室に、何か期待と夢が入り込んでくるのであった。
私は、数年前から足の骨が溶けていく奇病にとりつかれ、いくつかの病院をたらいまわしにされ、ここに運ばれたのだった。同室の患者たちも、何らかの重い病気にとりつかれた、身よりのないものばかりである
ここでも何人かの患者が入って来、何人かが出て行く。出ていくといっても退院するのではなく、
あの世からのおむかえである。
いつのまにか、私は、ヤコブに継いで二番目に古い患者になってしまった。ここに運ばれてくるものは、
ほとんど治る見こみのない病人なのだろう。
重苦しさの中でヤコブの話だけがせめてもの希望であった。
しかし、そのヤコブが眠ってしまうと、どんなに外の様子を知りたくても、そうしようもない。
動けぬ体をジリジリしながら、ヤコブの話を待つしかない。いや、ヤコブだけが外の世界を知っているのが
うらやましくもあった。しかし、みんなが行きたがっている窓ぎわのベットは、一番古くからこの病室に
いるヤコブの特権だった。
今日は朝から、ヤコブは機嫌よく道を通る人々の様子や木々の変化、みどりのあざやかさなど、
面白おかしく話してくれた。みんなもヤコブの話をききながら、それぞれ故郷や様子や家族のことを思い
浮かべていた。
そのうち、私は何となくヤコブがにくらしくなってきた。寝たきりでみんな苦しんでいるのに、ヤコブ
だけがなぜ外の様子を権利が与えられているのか。
みんなだって外の様子を知りたい。みんなだってあこがれている。ベットを変えてほしいと思っている
ものはたくさんいるのだ。しかし、ヤコブは、ガンとしてその場所をゆずろうとはしない。
あるとき、こんなことがあった。特に重病だった二コルが、
「ねぇ、ヤコブさん、どうやらおむかえがやってきたようだ。今日一日だけでいいからベットを変えて
くれないかね。少しでも外の息吹にふれて、あの世とやらへ旅立ちたいんだが・・・。」
しかし、ヤコブは、二コルの申し出を無視した。
翌朝、二コルは冷たくなっていた。病室はいつになく重く沈んでいた。
私だって外が見たい。ヤコブのベットへ行きたい。
そうだ、ヤコブが死ねばいい。ヤコブが死ねば、その次に古い私が、そのベットに行けるのだ。
その日から、私は心の中でヤコブの病気が重くなることを密かに願った。みんなといしょにヤコブの話に
笑っているときも、心の奥底ではニコリともしない自分がいた。
その年の冬は、例年になく寒かった。病室もしんしんと冷え込んだ。どうやらヤコブの様子がおかしい。
なんとなくかわいたせきをしている。みんなは、いつものように、外の様子を聞きたがった。しかし、
今日のヤコブは話がらなかった。
その晩、ヤコブは苦しい息の下で、やっとの思いで身を乗り出し、しぼり出すように外の様子をみんなに
伝えた。
「明日は、よい天気だよ。・・・星がいっぱいでている・・・きっと・・・いい日になる・・・」
そこまで言うと、ガックリと頭を落とし、そのまま一言もなかった。看護婦がやってきた。ヤコブはすでに
息が絶えていた。
みんなが悲しんだ。私もみんなと一緒に悲しい顔をしていた。けれど、どこかだ笑っている自分がいた。
これで外の様子がひとりじめできる。みんなに知らせてやるものか。オレひとりだけ楽しむんだ。
ニンマリ笑いがこみあげてくる。
いよいよ窓際のベットへ移ることになった。昨晩は気持ちが高まって眠れなかった。看護婦にだきかかえ
られてカーテンのそばに横になった。今になってがおそってきた。しかし、それに、あらがうように
カーテンのすきまをのぞき込んだ。
そこから見える外の景色、これこそ自分が求めているものだった。
期待に胸がうちふるえた。
そこから見えたもの。
カーテンの向こうは、茶色色のレンガであった。
_______________________END____________________
ここから下は、読まなくてもいいです。
この本を見て私はヤコブの気持ちがわかったような気がします。
ベットを移動したくなかったのはガッカリさせないようにしたんだと思います。
でも、そのことを知った私は、これれからどうなるんでしょうか?
と私は思いました。
正直に言うのか 嘘をついでヤコブみたいに言うのか
最後まで見ていただきありがとうございました。