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今日こそ一緒に帰ろうと桜ちゃんを捕まえた私も捕まった…。
いつもの様に三人で話しながら帰り、駅で桜ちゃんと別れると手を繋がれた。
「あの…。」
「手はこのまま。」
なんだ?昼より機嫌が悪そう…。
「まぁちゃん。最近、何かあった?」
私を見る匠の目がスゥと細まる。
密かに怒ってる顔だ…。
なんで?私、何かしたかな?
「どうして?」
「こっちが聞いてる。」
そんな事を言われても、匠と手を繋いで歩いてる今の状況も最近の何かだし…。
上手く答えも見つからず無言のまま家に着いた。
さぁ、気まずい時間の終わりの言葉。
「ありがとう。じゃあ、気をつけて帰ってね。」
手を離してくれない…。
匠が私を見る…。
「たっくんと呼ばないから?
けど学校で出そうになるから…。」
子供じゃないから、それは流石にそれはないよね。
「それもあるけど、トイレ貸して。」
更に上を行く子供らしい答え。
限界なの?いつから我慢してたんだよ。
「いいよ。」
けれど子供は私だった…。
匠はとっくに男らしくなっていた。
いつもの様に鍵を開けて玄関に入る。
「トイレ場所わかるよね?」
頷く匠に上がってもらった。
暗く寒いリビングに明かりを付けエアコンのスイッチを入れると、トイレに行くはずの匠が後をついてきていて
「まぁちゃん。おばさんは?」
聞かれたくない事を聞いてきた。
「今日も用事で出掛けてるみたい。」
へらりと笑いながら言う。
通じるか?ごまかされてくれ。
それか聞かれたくない事を察してくれ…。
「…まぁちゃん。」
スゥと匠の目が…。
だめか…。
やばい。鼻の奥がツンとしてきた。
「まぁちゃん学校でぼんやりしてる事増えただろ。俺と教室で話すようになる前から。」
そっと手を引かれソファに座らされた。
匠も少し距離をとり座り
「朝も帰りも玄関で鍵を使って誰もいないみたいだし…。おばさん日中のパートだろ?何があった。」
頭をなでるな。
自然と俯き涙がこぼれるじゃないの…。
「おばさん。家にいないのか?」
次々涙が溢れぽろぽろ止まらない。
そっと肩を抱かれて少し落ち着いたはずなのに、話し始めると言葉と一緒にまた涙がこぼれる。
「10日前から入院してるの。めまいと吐き気がきつくて…。」
熱も高く、めまいで立てない嘔吐も止まらない母。
なんとか病院に父と連れていき即入院になった。
検査の結果も悪い物ではなく、ちゃんと経過もよく回復してる事。
父が仕事の合間に病院に寄るので、いつも10時すぎの帰りになる事。
ちゃんと私も母の所に顔をだすが
母の心配や夜に家に一人でいると心細くて寂しくなる事。
自分がこんなだと思わなかった事。
桜ちゃんにも話せなかった事まで話して…
「まぁちゃん大変だっだね。」
そう胸に抱き寄せられ、また泣けてきてた。
「俺に少しは頼って話して。好きな子が一人で泣いてるのは辛い。」
耳に伝わる胸の音と、ゆっくりと背中さする手の温もりが心地好い。
気がついたら匠のシャツは濡れて冷たくなっていた。
グスグス鼻を鳴らしながらも、気持ちがスッキリ軽くなり、匠の胸から離れると無くなる温もりが少し寂しかった。
「たっくん。ありがとう。もう大丈夫。」
笑顔を向けても匠は、小さな頃のように泣きそうな顔をしていた。
また、抱き寄せられ頬に柔らかい感触がチュッと音をたてた。勢いよく離れても顔が熱くなる。
「寂しくなくなるおまじない。口が良かった?そっちの方が良くきくかもね。」
にんまり笑いまた私を引き寄せる匠。
いやいやいや。そんなおまじないあるかぁ!離れろ〜!
あたふた逃げる私。
元気はでたけど、刺激強すぎます。