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お昼休みになると、匠に気が付かれないように、さりげなくお弁当を持ち、いつも一緒にお昼を食べている友達達の机にそそくさと向かう。
「まぁちゃん。今日は天気良いから外に行こう。」
そんな私も匠に腕を取られてしまう。匠に返事もせず、あと少しで手が届きそうだった私のオアシスに、すがるような目を向けた。
「まぁちゃん。行ってらっしゃい。」
けれど私のオアシスになる友達達は、にまにま笑いながら私に言って手を振るだけだった。
何がまぁちゃんだよ。今朝までは、真美ちゃんだったじゃんかよ。
「いつも一緒に食べてたのにごめんね。」
ふて腐れる私が何か言うより、友達達に匠が言葉をかける方が早かった。
「え~。匠なんで~。」
「一緒に食べようよ~。」
オマケにギャルの声も、大きく賑やかに聞こえる。
何ででしょうね…。変わって下さい。喜んで変わりますから。
「じゃあ、行こうか。」
「いや…、私は友達達と一緒に…。」
「じゃあ、俺もそこで一緒にいい?」
そんなの嫌だ。友達達と食べる意味ないじゃん。
匠と友達達と一緒だと、からかわれそうで嫌で首を横に振った。
「じゃあ、行こう。」
私は何も言えないまま、匠に手を繋がれ中庭に連れて来られた。
中庭の日当たりの良い場所に並んで座り、仕方なくお弁当を開ける。
隣の匠は、コンビニの袋からパンを出している。
「あれ?たっ…谷沢くんはコンビニ?」
「うん。今日はコンビニ。まぁちゃん。卵焼きちょうだい。」
言葉と共に私の手からフォークが奪われ、卵焼きは匠の口に入った。家族以外に食べられる機会がなかったので、少しドキドキしながら匠を見つめる。
「美味しい。」
ニッコリ笑顔の匠。
「私が作ったの。美味しくて良かった。」
匠の言葉に私も嬉しなりニッコリしてしまう。
昨日の帰り道のせいか、二人の時の昔の様な空気には少し慣れてきた。
私も食べようと卵焼きにフォークを刺して口に入れる。飲みこんだ所で匠が私の耳元で囁いてきた。
「まぁちゃん。間接キスだね。」
匠の言葉と近い顔に、慌てて耳を抑えて距離をとったけれど顔は赤いだろう。
「な、何を…。」
「俺、ちょっと自販機行ってくる。食べてて。」
そんな私を見て笑いながら匠は行ってしまう。
間接キスなんて言われたら、フォーク使いにくくなるじゃん。
昔は、よく一つのアイスを一本のスプーンで分けて食べたのに。
匠の後ろ姿を見送りながら思っていたら、ここでも聞こえてくる。
「あの人あの人。谷沢匠の彼女みたいよ。」
「うそぅ。あの人が?」
最近、聞こえる事が増えてきたこんな会話。
お試し期間とはいえ、私なんかでごめんなさい。
賭けに付き合っているだけなんです。
いつも心の中で言い訳していた。こうゆう事を予想していても、やっぱり耳に入ると傷付いてしまう。
続く会話は聞こえない振りをして、お弁当に目を戻しながら、さりげなく俯いた。
気持ちが落ちてきたせいか、お天気なのに陰までかかってきた…。
「まぁちゃん。一人?」
「匠は?」
「まぁちゃん。一緒してもいい?」
は?
「あ。匠の奴、自販機でミキにつかまってる。」
「ほっとけ。その内くる。」
「まぁちゃん。お弁当いいなぁ。」
え?えっと…同じクラスの青井くんに柳くんに松山くん?
「ミキしつこそぅ…。」
「まぁちゃん。食わないの?」
「じゃあ俺のパンとお弁当交換しようよ。」
戸惑う私の目の前の三人が座ると、かかっていた陰も無くなった。
ワイワイ話してモリモリ食べる三人の勢いに私もつられてしまった。
おかずを取られながら、お弁当を完食した頃には、落ちた気分も元に戻っている。
笑顔でお茶をのんびり口にしている時…
「まぁちゃん。そろそろ行くね。またね。」
「ありがとう。今度も弁当がいい。」
「まぁちゃん。おかず美味しかった。ごちそうさま。」
へ?
「じゃあね~。」
来るのも去るのも突然な三人をポカンと見ていると、隣に誰が座った。
しまった。完璧に忘れてた…。
「あの…先にお弁当食べちゃってごめんね?」
匠が、ムスッとパンにかじりついていたので、取り合えず私は謝っておいた。