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幼なじみ未満  作者: ねこ
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「一緒に帰ろう。」


匠の声にサッと辺りを見回した。


こちらを見て微妙な表情の桜ちゃんが、にまにま笑う友達達に腕を引っ張られながら教室の扉に向かっている。


大丈夫。


私にも何が大丈夫かわからないけど、桜ちゃんにニッコリ笑って手を振って送り出した。


教室に人はいるけれど、注目はされていないみたいだった。慌てて帰り支度を再開して鞄を閉じる。


「出来た?じゃあ、帰ろう。」


それを隣で見ていた匠は、言葉と共に机の上の鞄を持って歩き始める。

私は、慌ててもう一つの荷物を持ってついていった。


そうして、匠が自転車を押して私の隣を歩く言葉少ない帰り道。


「あの…私、買い物あるから。」


少し遠回りになるスーパーに一人で寄ると伝えると、当たり前のように匠が着いてくる。


「一人で行くからいいよ。」


「いや。俺も行く。」


また断っても着いてくる。


「本当にいいから先に帰って?」


「俺が先に帰ったら、ここでサヨナラだから嫌だ。」


本当に買い物があるので、私はきつめに断った。すると、匠は不機嫌に駄々っ子のような返信で着いてくる。


お兄さん。

私は、隣のドラッグストアでナプキンも買いたいんです。

来そうなのに残り少ないんだ。お兄さんが居たら買えないじゃないか。

頼む。帰れ。


言うに言えない乙女の心の叫びはもちろん届かず、スーパーにつくと匠はカゴを持ち隣を歩いた。

手早くと買い物を済ませると、匠が買い物袋を持ち自転車に乗せてくれる。


そして、また匠が自転車を押して私の隣を歩く。もう、ドラッグストアは諦める事にした。

けれど、二人無言は気まずいし、私に都合の悪い事は聞かれたくない。なので苦手な数学の話題を出してみる事にした。


「私ね、数学ってどうしても苦手で…。」


「まぁちゃんは、葱も嫌いだったろ?」


そこから思い出話が盛り上がり楽しい帰り道になった。

次々、昔が思い出されてきたり、私が忘れて匠が覚えている思い出でに照れ臭くなったりして二人で笑って歩いた。


こんなに匠と話をしたのは久しぶりだった。小学生以来だろう。じわじわ懐かしさが込み上げてきていた。


「たっくん。ありがとう。気をつけて帰ってね。」


久々に気持ちも軽くなり、門でニッコリさよならを告げ匠に見送られて家の中に入った。


訝かる視線にも気付かずに…。


短い時間だけなのに、自分の持つ荷物はいつもより重く感じる。暗く静かな家の中の空気に、寂しさが昨日より深くなった。

ため息をついて、寒い家のキッチンに向かった。



翌朝…


いつもの様に用意を済ませ、玄関の鍵をしめていた。


「おはよう。」


声の方を向くと、自転車に乗ってない笑顔の匠がいた。


もぅ…。だんだん驚きも小さくなってきたよ私は。


「おはよう。自転車は?」


「置いてきた。」


近付いた私にそう言いながら、匠は当たり前のように私の手を取り繋いだ。


「ちょっと手…。」


「チャリだったら手つなげないだろ?だから置いてきた。」


異性を意識し始めてから異性と手を繋いで歩くなんて、私にはなかった。一人であたふたして離そうとすると、匠に力を込められてしまう。


「いや…どうして手を…。」


繋がなくても良いじゃないですか。ドキッとしたじゃないですか。


「お試しだけど付き合ってるんだからいいよね?」


こうゆう事に慣れてるんだろうなぁ…。


ニッコリ笑う匠の笑顔と大きくなった手を感じながら思った。

繋いだ手が気になりながらも歩いていたら、もうすぐ桜ちゃんと待ち合わせの駅前だ。


「谷沢くん…。あの離して下さい。」


ピシリと言って不満気な匠から、手の自由を取り戻した。


お付き合いというけど賭けか罰ゲームのお試し期間。無理に目立つ事もない。


昨日の寂しさや不安が、何も知らない匠の手の温もりに少し慰められたのは内緒にした。



そして、昨日の様に三人で歩き始めた。


「真美ちゃん。今日も?」


「ごめんね。朝、外に出たらいたの。びっくりした。どうしよう…。」


こっそり聞いてきた桜ちゃんに、助けを求めるようにこっそり答えた。それが、隣の匠に聞こえてたようだ。


「桜ちゃん。俺達、付き合ってるんだ。これから毎朝、まぁちゃんを迎えに行くつもりなんだけど、俺も一緒に学校行っていいかな?」


いきなり何を言い出すんだ、こいつは。


桜ちゃんの制服の袖をクッと握る。


「あ…。いいよ?」


私の顔を見ながら桜ちゃんが匠に答えた。

私の気持ちが桜ちゃんに届いていて安心した。二人より三人の方が私は嬉しい。


学校が近くなるにつれて、登校する生徒も増えてきた。


あぁ。視線が痛い…。

なんかごめん。桜ちゃん。


ただ三人で言葉を交わし話が出来ている事が救いだった。


私達は同じクラスなので一緒に教室まで向かった。

閉まった教室の扉の前で、前を歩いていた匠が立ち止まり私に言う。


「じゃあ、お昼一緒に食べようね。」


その言葉に視線を合わせた私の頭をなでて、匠は扉を開けて入って行った。


何がじゃあだよ。

いきなりじゃないか…。


私は、髪を直す振りをしながら恥ずかしさを隠した。


「真美ちゃん?」


「ん?今日も着いてきちゃってごめんね。」


心配顔で桜ちゃんは首を横に振る。


大丈夫だよ。桜ちゃん。

あの態度が、賭けの勝ちを疑われない為の演技なのは分かってるから。


期間は一ヶ月。


私も、ちゃんとそのつもりでいるから。




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