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「たっ…たっ…谷沢くん…。」
家に匠が届け物にきて、顔を合わせ言葉少なく話す時には「たっくん」と呼んでいたけれど、今そう呼べる訳がない。
言葉に詰まりながらも、呼び方を変えた私は賢いはず。匠の動きが一瞬とまったけど、気が付かなかった事にした。
それにしても、こんなに背が高かったか?
切れ長の目にとうった鼻筋。無駄の無いスラリとした体型。足も長いのがますます気に入らない。
私なんて…今朝ニキビ発見したし、体重すぐに増えるのに身長は中々伸びずチビのままなのに…。
小さな頃には、仲良く遊んでた大好きで優しい一番の友達で初恋だった、たっくん。
自分も泣きそうになりながら、泣いてる私を慰めてくれてた。
たっくんだった、あの頃とは違うよな。
高校生まで成長してからの匠の大きな変わり様に少しの寂しさを覚えてしまう。
私との外見の整い様の差も改めて感じ、気持ちが沈みそうになる。
「あの…昨日の話しなんだけど…。」
そんな私からスッと下をに視線をそらして、匠が話しはじめたから言ってやってしまった。
「うん。賭けか罰ゲームでしょ?大丈夫。分かってるから。」
私だって女の子。言いながらチクリと胸が痛んだ。そんな風に遊びの駒に使われるのは、やっぱり傷ついてしまう。
「あ…。いや。ただ付き合って。」
「私じゃない人にしようよ…。」
また匠が言い始めたので嫌になってしまった。
そう言って、シュンとした匠を横目に見たあと一人歩き始めて思った。
罰ゲームじゃなくて、賭けなのかな?
そんなに負けるのが嫌なのかな…。
「まぁちゃん…。」
せっかく断って歩き始めたのに、後ろから聞こえた匠の情けない声に足を止めてしまう。
やばい…。
この呼び方に弱くて小さな頃よく私のオヤツを分けてあげていた。匠は先に食べてたのに。
匠に昔のように呼ばれて、思い出まで浮かんできてしまう。
「お試し期間つけるから。」
なんじゃそりゃ。
そうする意味が分からないよ。
「ねぇ…。まぁちゃん…。」
更に匠の情けない声が近くに聞こえた。
がんばれ真美。流されるな。
オヤツのおねだりじゃないんだ。
足を動かすんだ。
けれど立ち止まったままの私の横まで匠が来た。
「まぁちゃん…。」
チラリと視線を向けると最近の大きな匠ではなく、小さなたっくんみたいにクシュンと眉を下げた匠がいた。
あ~。見るんじゃなかった…。
「お試し期間どれだけ?」
「え?」
大大大好きなオヤツのおねだりを
「私の!」
と守っても結局このしゅるんっと眉を下げた情けない顔に負けて分けてあげていた私。
今回も負けた…。
こうして平凡な私にお試しの彼氏が出来てしまった。